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公益社団法人日本生化学会 The Japanese Biochemical Society
Journal of Japanese Biochemical Society 87(1): 16-21 (2015)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2015.870016

特集「核‒細胞質間分子輸送システム:基本分子メカニズムの理解とその応用」Special Review

インポーティンαファミリーと高次生命機能Functional Dynamics of Importin α family

1独立行政法人医薬基盤研究所創薬基盤研究部細胞核輸送ダイナミクスプロジェクトLaboratory of Nuclear Transport Dynamics, Department of Fundamental Research, National Institute of Biomedical Innovation ◇ 〒567-0085 大阪府茨木市彩都あさぎ7-6-87-6-8 Saito-Asagi, Ibaraki-shi, Osaka 567-0085, Japan

2神戸大学大学院医学研究科生理学・細胞生物学講座膜動態学分野Dividion of Membrane Dynamics, Department of Physiology and Cell Biology, Graduate School of Medicine, Kobe University ◇ 〒650-0017 兵庫県神戸市中央区楠町7-5-17-5-1 Kusunoki-cho, Chuo-ku, Kobe-shi, Hyogo 650-0017, Japan

発行日:2015年2月25日Published: February 25, 2015
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核膜孔を介した核–細胞質間物質輸送機構は細胞活動の根幹であり,インポーティン分子群はその中心的役割を担う.核移行シグナル受容体として知られるインポーティンαは,マウスでは6種類,ヒトでは7種類存在してファミリーを形成し,それぞれが基質特異性を発揮することで多様な分子の輸送を可能にしている.最近,インポーティンαが遺伝子発現制御機能を持つなど多機能分子としての側面も明らかになり,その機能的多様性やサブタイプごとに異なる動態の解明が複雑な生体システム理解への道を開きつつある.本稿では,細胞分化やストレス応答,器官発生,がんやウイルス感染といったさまざまな生体制御機構に対して,これらインポーティンαファミリー分子の機能的特性がどのように関わっているかを最新の知見を交えて紹介する.

1. 核移行シグナルと核タンパク質輸送メカニズム

核で機能する分子の多くは,その分子内に核移行シグナル(nuclear localization signal: NLS)を有している.最もよく研究されているNLSは,塩基性アミノ酸であるリシン(K,アミノ酸1文字表記)やアルギニン(R)が4~6個連なった古典的NLS(classical NLS: cNLS)と呼ばれるもので,構成上の特性から大きく二つに分けることができる1).一つはSimian virus 40 large T antigenのNLS(SV40T-NLS: PKKKRKV)にみられる塩基性アミノ酸クラスターが一つだけで構成されたMonopartite型.もう一つはヌクレオプラスミンのNLS(NP-NLS: KRPAATKKAGQAKKKK)にみられる二つの塩基性アミノ酸クラスターが10~12個のアミノ酸をはさんだ形で構成されるBipartite型である.

このようなcNLSを持つ核タンパク質は,細胞質で受容体であるインポーティンαに認識され,輸送担体であるインポーティンβ1と三者複合体を構成してインポーティンβ1の活性によって核膜孔複合体を通過する(図1).その後,核内に存在する低分子量Gタンパク質RanのGTP結合型(RanGTP)とインポーティンβ1との結合が契機となって三者複合体が解離し,輸送は完了する.インポーティンβ1はRanGTPと,インポーティンαは核外輸送因子であるCAS/CSE1LとRanGTPの複合体の形でそれぞれ細胞質に輸送され,細胞質に存在するRanGAP1とRanBP1によりRanGTPがGDP型(RanGDP)に変化することで複合体から離脱し,次の輸送サイクルへ向かうと考えられている.

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図1 核タンパク質の核内輸送メカニズムとインポーティンのリサイクルシステム

古典的NLSを持つ核タンパク質(cNLSで示す)は,細胞質でインポーティンα(αで示す)に認識され,インポーティンβ1(βで示す)と三者複合体を形成して核膜孔を通過する.核内には低分子量Gタンパク質RanがGTP型(RanGTP)で多く存在し,インポーティンβ1とRanGTPの結合を契機に複合体は解離して核タンパク質が核内に放出される.インポーティンβ1はRanGTPと,インポーティンαは核外輸送担体CAS/CSE1LとRanGTP複合体の形で細胞質へと移行する.細胞質にはRanGAP1とRanBP1が存在して,RanのGTPase活性を亢進することでGTP型からGDP型(RanGDP)への変化を促す.RanがGDP型になることでそれぞれの複合体は解離し,インポーティン分子は次の輸送へ向かうと考えられている.Miyamoto, Y., et al. (2012) Biochim. Biophys. Acta., 1819, 616–630を一部改変.

2. インポーティンαの遺伝子名

インポーティンαは別名カリオフェリンα(karyopherin α: KPNA)とも呼ばれ,出芽酵母では1種類,線虫やハエでは3種類,マウスでは6種類,ヒトでは7種類のサブタイプが存在する2,3).マウスとヒトではサブタイプごとに略称表記が異なりしばしば混乱を招くことから,遺伝子名を表1にリストアップしたので参考にされたい.本稿では,各サブタイプを分けて表す際は“KPNA”を使い,分子を総称して表す際は“インポーティンα”を使う.

表1 インポーティンαサブタイプの遺伝子名
ヒトマウスその他の名前サブファミリー
カリオフェリンαインポーティンαアクセッション番号インポーティンαアクセッション番号
KPNA1IMPα5NM_002264Impα1NM_008465NPI-1, SRP1, IPOA5, S1α1
KPNA2IMPα1NM_002266Impα2NM_010655RCH1, SRP1alpha, IPOA1, P1α2
KPNA3IMPα4NM_002267Impα3NM_008466SRP1gamma, IPOA4, Q2α3
KPNA4IMPα3NM_002268Impα4NM_008467QIP1, IPOA3, Q1α3
KPNA5IMPα6NM_002269NonIPOA6α1
KPNA6IMPα7NM_012316Impα6NM_008468NPI-2, IPOA7, S2α1
KPNA7IMPα8NM_001145715Impα8NM_001013774α2

3. インポーティンαの分子構造

インポーティンαの分子構造は大きく三つに分けることができる(図2A).N末端領域に位置するインポーティンβ1結合(Importin β binding: IBB)ドメイン,分子の大半を占めcNLSの認識領域を含むアルマジロリピート(Armadillo repeat: ARM),核外輸送因子CAS/CSE1Lとの結合領域として知られるC末端領域である2).アルマジロリピートは10個連なった形で存在し,ARM2~4を一次結合領域(major-binding site),ARM6~8を二次結合領域(minor-binding site)と呼ぶ1).たとえばSV40T-NLSは主に一次結合領域に,NP-NLSは両方の結合領域にまたがるように結合する(図2A).IBBドメインは,自身のcNLS結合部位と相互作用することでcNLS結合を抑制する自己阻害をかけている1).また,C末端領域は核膜孔複合体構成因子Npap60/Nup50との相互作用領域でもあり,この分子の結合はインポーティンαからcNLSを解離する反応を促進することが知られている4)

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図2 インポーティンαの一次構造とヒトサブタイプの分類

(A)ヒトインポーティンα1(KPNA2)の一次構造.IBBドメイン:インポーティンβ1結合ドメイン.アルマジロリピートの2~4番を一次結合領域,6~8番を二次結合領域と呼ぶ.9~10番とそれに続く酸性アミノ酸クラスターを合わせてC末端酸性領域と呼ぶ.(B)七つのヒトインポーティンαファミリーの分類.アミノ酸の相同性をパーセント表記した.

4. サブタイプの基質特異性と組織・細胞特異的発現

マウスやヒトなど哺乳類由来の細胞中に存在するインポーティンαは,アミノ酸配列の相同性から三つのサブファミリーに分けることができる(図2B).サブファミリー間は約50%の相同性を示し,サブファミリー内のサブタイプは約80%の相同性を示す(KPNA2とKPNA7の相同性は約55%と例外的に低い).各サブタイプはそれぞれ異なる基質特異性を示すが,基本的に同じサブファミリーに属するサブタイプ(KPNA3とKPNA4など)は似通った基質特異性を示す.基質特異性を示す代表的な例としては,たとえばKPNA1やKPNA5は転写因子STAT15)やヒト免疫不全ウイルスタイプ1(HIV-1)のVpr6)と特異的に相互作用する.また,KPNA3やKPNA4はNF-κBの構成因子であるp50/p657),がん抑制遺伝子産物p538),RanのGDP/GTP交換因子RCC19)といった分子を特異的に輸送する.

さらに,各サブタイプは組織や細胞種依存的な発現を示すことも知られている.成体マウスの組織におけるインポーティンαタンパク質の存在を検討した結果を図3に示す.この結果からKPNA1,KPNA3,KPNA4はほぼすべての組織で発現しているのに対して,KPNA2は胸腺と精巣で,KPNA6は主に精巣で高い発現を示すことがわかる.KPNA7に至っては,卵巣で特異的に発現しているとの報告がある10).さらに,精子細胞形成過程3,11)や胚性幹細胞(ES細胞)から神経細胞への分化過程12),筋細胞分化13),中枢神経系14)などさまざまな細胞,組織の分化過程においてもサブタイプの発現が異なることが報告されている.

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図3 成体マウスのさまざまな組織におけるインポーティンαサブタイプの発現様式

それぞれのサブタイプに対し,特異抗体を用いてウエスタンブロットで解析した.各サブタイプの分子量に相当する位置を矢頭で示す.Moriyama, T., et al. (2011) FEBS J., 278, 1561–1572を一部改変.

このようにインポーティンα分子ファミリーは,それぞれが基質特異性を持ち,組織や細胞種特異的に発現することで,核タンパク質の多様な輸送制御を行っていると考えられている.

5. importin α C-terminal binding segment

筆者らは最近,ラットの精巣よりプロテオミクスの手法を用いて三つのサブタイプ(KPNA2, KPNA3, KPNA4)に結合する分子を合計100個同定した15).これら結合候補分子のcNLSの存在を予測プログラムcNLS Mapper16)を用いて検索したところ,3割ほどがその分子内にcNLSを有していない可能性が示唆された.このことは結合分子の中にcNLSとは異なる結合様式を介してインポーティンαと相互作用するものが存在することを意味する.そこで我々は,ARM9~10とそれに続く酸性アミノ酸クラスター(アミノ酸409~529領域:C末端酸性領域と呼ぶ,図2A)に結合する分子群に着目した.たとえば,核膜孔複合体構成分子Nup153はKPNA2のC末端453~529アミノ酸領域を介して結合する17).最近,両者の結合がインポーティンα/β1/NLS複合体の核膜孔通過効率促進に寄与することが証明された18).C末端酸性領域にはほかに,上述したVpr6),カルシウム/カルモジュリン依存性キナーゼⅣ型CaMKIV19),転写因子Oct620),エボラウイルスタンパク質VP2421)などさまざまな分子が相互作用することがわかっている.

筆者らは,C末端酸性領域に結合する配列をimportin α C-terminal binding segment(iCBS)と名づけ,その配列を予測するパターン解析の構築を試みた15).解析の足がかりとしてNup153とNpap60/Nup50の相互作用配列を参考にした.まず,リシンもしくはアルギニンが4個以上連なった配列に着目し,そのクラスターより上下流域に存在するリシンもしくはアルギニンまでの間に最大3個までのアミノ酸が存在する配列を選び出した.次に,Nup153のインポーティンα結合配列(1452GTSVSGRKIKTAVRRKK1468)との相同解析を行い,塩基性アミノ酸の数やクラスターの長さをもとにさらに絞り込んだ.この方法により,ラット精巣より同定した100個の分子のうち24個の候補分子を選び出すことに成功した.そして,最終的にSenataxinとSmarca4/Brg1の配列にiCBSとしての活性があることを見いだした15)

以上のように,C末端酸性領域は3番目の新たな基質認識領域として機能していることが明らかとなった.

6. ストレスに応答したインポーティンαの核集積と輸送の制御

インポーティンαは核と細胞質をシャトルする分子であり,通常細胞質に多く存在する.しかしながら,細胞が紫外線照射や酸化ストレス,熱ショックといったストレスにさらされると,速やかに(数分以内に)核へと集積する22–24).インポーティンαの核集積は,それによって運ばれる核タンパク質の核内移行を効果的に抑制する.一方,MAPキナーゼ(mitogen-activated protein kinase)の一つであるERK225)のように,インポーティンαに依存せずに核移行する分子には影響を及ぼさない(図4).また,熱ショックタンパク質HSP70もインポーティンαの核集積に関係なくストレス依存的に核に移行することできる.近年,新規輸送分子HikeshiがHSP70の核内輸送を担っていることが明らかとなった26).このように,あるストレス下ではインポーティンαを一時的に核にとどめることによりそれによって運ばれる分子の核内移行を抑制し,一方で独自の経路を持つストレス応答分子の核内移行を亢進するという「ストレス応答的核–細胞質間輸送制御機構」が存在することが明らかとなった.

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図4 過酸化水素処理した細胞では,cNLSの核移行は抑制される

HeLa細胞を200 µM過酸化水素で15分処理した後,グルタチオンS-トランスフェラーゼ(GST)と赤色蛍光色素タンパク質(RFP)を融合したSV40T抗原NLS(GST-SV40T-NLS-RFP)と緑色蛍光色素タンパク質(GFP)を融合したERK2(GFP-ERK2)を同時に細胞質にマイクロインジェクションし,30分間インキュベートした.未処理の細胞ではどちらも核に移行する.一方,過酸化水素処理細胞では,GST-SV40T-NLS-RFPの核内移行が顕著に抑制されているが,GFP-ERK2は影響なく核へ移行していることがわかる.安田善也博士(大阪大学大学院生命機能研究科)撮影.

インポーティンαがストレス応答的に核内集積する原因の一つとして,筆者らは細胞内ATP量の減少によるRanの局在変化(核内RanGTPの減少)が関与していると考えている27).Ranは通常GTP結合型として核内に多く存在しており,インポーティンαの核外輸送にはCAS/CSE1LとともにこのRanGTPが必須である.したがって,核内RanGTPの減少はインポーティンαの核外輸送を抑制し,結果としてインポーティンαを核に集積させることになる.一方で,Stochajらのグループは,マレイン酸ジエチル(diethyl maleate: DEM)誘導型の酸化ストレスではRanの局在変化は起こらず,核膜孔構成因子Nup153やNup88によるインポーティンαの積極的な核内保持がその核局在化に関わっていると報告している28).熱ショックストレスにおいても,核内分子との相互作用がインポーティンαの核集積の要因の一つとする報告がある22,29).別に,浸透圧ストレスにおいてはRanの局在変化はp38の活性化に依存し,細胞内ATP/GTP量の変動はRanの変化の要因になりえないとする報告もある30)

以上,いまだ議論の分かれる点は多くあるものの,インポーティンαやRanといった輸送を担う分子の変化が,ストレス応答に強く関わっていることは興味深い.核膜孔複合体の変化も含め,核–細胞質間輸送とストレス応答との関連性を探る研究はさらなる進展が期待される.

7. 遺伝子発現制御機能の発見

筆者らは,ストレス依存的に核に集積したインポーティンαが核内構造体と結合する可能性を探索する過程で,直接もしくは間接的にクロマチンに結合することを発見した31).クロマチンとの結合は遺伝子発現の制御に影響を及ぼす可能性が考えられたため,ストレスによる核集積を疑似的に再現する目的で,インポーティンαのCAS/CSE1L結合領域に変異を入れた核外移行不全変異体を作製し,HeLa細胞で過剰発現して発現に変化のある遺伝子をマイクロアレイ法により探索した.この結果,基質未知のキナーゼserine threonine kinase 35STK35)の発現が上昇することを発見した.そして,インポーティンαサブタイプのうち,KPNA2とKPNA4がSTK35のプロモーター制御領域に結合して転写を亢進することを明らかにした31).STK35は過酸化水素処理による細胞死を亢進する活性があることから,ストレス依存的に核局在したインポーティンαがSTK35の発現を上昇させ,その機能を通して細胞の運命決定に寄与している可能性があることが明らかとなった32)

8. ノックアウトマウスの解析からわかること

6種類あるマウスのサブタイプのうち,ノックアウト(KO)マウスの報告があるのはKPNA1,KPNA3,KPNA6,KPNA7である3).特徴的な表現型としては,KPNA1 KOでは雌の生殖器発生に異常がみられること33),KPNA6 KOとKPNA7 KOでは初期胚の発生に異常が出るなどがある10,34).ここでは,我々が作製したKPNA1 KOマウスの解析の結果について紹介する33)

KPNA1欠損雄マウスは異常はみられず正常に成育していたが,雌マウスでは卵巣の顕著な低形成(成熟段階の卵胞数の減少,間質の未成熟),子宮の間質と子宮腺の未発達,膣の角質層の剥離・消失が認められ,粘膜上皮が野生型マウスと比べて薄く未発達であった(図5).このような雌性生殖器の低形成を引き起こす要因を知るため,代表的な性ホルモンであるエストラジオールとプロゲステロンの血中濃度を測定した結果,KOマウスではプロゲステロンの血中濃度が約2分の1に低下していた.さらに,エストロゲン受容体を介して働く下流遺伝子の発現をリアルタイムPCRによって調べた結果,KOマウスではプロゲステロン受容体の発現が半分以下になっていることがわかった.以上の結果は,KPNA1がエストロゲン受容体の遺伝子制御に密接に関与していることを示している.

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図5 KPNA1ノックアウトマウスの雌生殖器のヘマトキシリン・エオジン染色

KPNA1欠損雌マウス(KO)では,野生型マウス(WT)と比べて卵巣の低形成がみられた.また,子宮でも上皮層や間質細胞層,子宮腺が未発達であった.Moriyama, T., et al.(2011)FEBS J., 278, 1561–1572を一部改変.

KO雌マウスの中には出産後,膣に重度の損傷がみられたり,仔マウスが膣の部分でひっかかり出産途中に死亡した例がみられた.このようなKO母親マウスの死亡は,子宮筋層の未発達による出産不全,もしくは,プロゲステロンの働きである子宮頸部の軟化抑制により,仔マウスが出産されにくい状態になっている可能性が考えられる.

以上のように,KPNA1は雌性生殖器発生に密接に関与している.今後,より詳細な解析を進めていくことで,異常分娩のメカニズムをひも解く糸口となればと考えている.

9. 疾患への関与

近年,乳がんや前立腺がん,肺がんなどさまざまながん組織でKPNA2の発現が上昇し,その発現量と悪性度とに相関関係がある例が多数報告されている35).また,これらのがん組織ではKPNA2が顕著な核局在を示すという特徴がある.この核局在化の生理的意義はいまだ不明であるが,インポーティンαが転写制御機能を持つことを考え合わせると,がん特異的な遺伝子発現に関与している可能性が考えられる.KPNA2と同じサブファミリーに属するKPNA7は,すい臓がんで高発現することが報告されている36).また,KPNA7については,自然変異によるアミノ酸変異がてんかんを含む神経発達疾患に関与している可能性が示唆されている37).別に,KPNA3は統合失調症への関与が指摘されていたり38),KPNA4は潰瘍性大腸炎で発現が変化することが報告されている39).また,KPNA6は糖尿病ラットの腎臓において発現上昇する40).インフルエンザウイルス粒子構成因子PB2とヌクレオプロテインの核移行についての興味深い知見は,インポーティンαサブタイプの要求性がトリと哺乳類で異なることである41).この異種間でみられる違いは,感染の適合にインポーティンαが関与している可能性を強く示唆している.エボラウイルスの構成分子VP24は,KPNA1やKPNA5のC末端領域に結合するが,この領域はインターフェロン依存的なSTAT1の結合領域でもある5).VP24のKPNA5への結合は,STAT1の核内移行を抑制し,感染により生じる生体防御反応を自発的に押さえているようである21)

以上のようなサブタイプごとの機能の違いと疾患との関連性は,ノックアウトマウスやトランスジェニックマウスを用いることにより,今後より詳細に解析されていくことが予想される.医療や創薬のターゲットとして核–細胞質間輸送を考える場合に,インポーティンαは一つの候補となる可能性を秘めている.

10. おわりに

今回,インポーティンαの機能的側面を中心に,ストレス応答や生殖器発生,疾患などさまざまな生体制御機構への関与を紹介した.いつ,どの基質を,どのタイミングで核へ輸送するかといった核–細胞質間輸送制御の大命題に対して,筆者らはインポーティンαファミリー分子の多様性に着目することで解明の糸口をつかみたいと考えている.また,本稿ではふれなかったが,インポーティンαはさまざまな「核–細胞質間輸送とは異なる機能」を発揮することも報告されていることから2),この分子ファミリーが持つ多様な機能の解明が,多くの細胞活動,その延長線上にある複雑な高次生命機能のへ理解の道を開くものと信じる.

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38) Zhang, H., Ju, G., Wei, J., Hu, Y., Liu, L., Xu, Q., Chen, Y., Sun, Z., Liu, S., Yu, Y., Guo, Y., & Shen, Y. (2006) Neurosci. Lett., 402, 173175.

39) Burakoff, R., Chao, S., Perencevich, M., Ying, J., Friedman, S., Makrauer, F., Odze, R., Khurana, H., & Liew, C.C. (2011) Inflamm. Bowel Dis., 17, 17191725.

40) Kohler, M., Buchwalow, I.B., Alexander, G., Christiansen, M., Shagdarsuren, E., Samoilova, V., Hartmann, E., Mervaala, E.M., & Haller, H. (2001) Kidney Int., 60, 22632273.

41) Resa-Infante, P.G. & Gabriel, G. (2013) BioEssays, 35, 2327.

著者寸描

宮本 洋一(みやもと よういち)

(独)医薬基盤研究所・細胞核輸送ダイナミクスプロジェクト・
サブプロジェクトリーダー.博士(医学).

略歴

1995年宮崎大学農学部卒業.2001年大阪大学大学院医学系研究科博士課程修了(米田悦啓教授).04年大阪大学大学院生命機能研究科助手.06年JSPS海外特別研究員(豪州Monash大学,Prof. Kate Loveland).08年Australian Research Fellow(Monash大学)を経て,14年5月より現職.

研究テーマと抱負

インポーティンαファミリー分子の機能的多様性に着目した包括的機能解析とその生理的意義の解明.核‒細胞質間輸送の視点から,がんやウイルス感染などさまざまな疾患の分子機構解明を目指している.

ウェブサイト

http://www.nibio.go.jp/part/project/nuclear_transport/

趣味

剣道.

盛山 哲嗣(もりやま てつじ)

神戸大学大学院医学研究科助教.博士(理学).

略歴

2005年大阪市立大学工学部生物応用化学科(現:化学バイオ工学科)卒業.11年大阪大学大学院生命機能研究科で,当時米田悦啓教授のもと理学博士号を取得し,その後同研究室でポスドクとして従事.14年より現職.

研究テーマと抱負

核‒細胞質間輸送関連因子の減少がおよぼす精神・神経疾患機構の解明を研究の中心にしている.おもろい研究をすることを心がけて,新たな仮説や方法を導くブレイクスルーを生み出すことを目標としている.

趣味

サイクリング.

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