近年,肥満症や2型糖尿病などの代謝性疾患の治療標的として,腸内細菌が注目されている.一部の腸内細菌は,食物繊維様の物質である菌体外多糖を産生し,これがプレバイオティクス成分として腸内環境を改善し,宿主の糖代謝に重要な役割を果たしている.
イヌリンやレバンなどのフルクタンは水溶性食物繊維として大腸に到達し,腸内細菌によって分解・利用される.本稿では,ビフィズス菌およびバクテロイデス属細菌のフルクタンの分解代謝機構を概説する.
ヒト病原性糸状菌Aspergillus fumigatusの細胞壁を構成する真菌型ガラクトマンナンとO-マンノース型ガラクトマンナンの構造と生合成機構や抗真菌薬開発への応用可能性について概説する.
甲状腺ホルモンによる鳥類孵化時の一過的な脳内作用により,刷り込み記憶が可能になり,その後の認知的柔軟性が強化されることが明らかになった.脊椎動物の環境変化に呼応した認知機能の高度化が,内分泌の脳内作用により達成された可能性について考察する.
両親媒性αヘリックスは,膜結合時にαヘリックス構造を形成し,親水面と疎水面の両方を有する両親媒性の膜結合モジュールである.本稿では,その研究の歴史とともに最新知見を交えながら,両親媒性αヘリックスの多様な構造や生理機能を概説する.
浸透圧の変動は細胞にとって根本的なストレスである.近年,液–液相分離の視点が浸透圧ストレス感知機構を体系的に理解する上でブレイクスルーになりつつある.本稿では,本分野の既存知見を概説し,具体例として生化学と数理科学の融合研究を紹介する.
再生芽は切断端に形成される未分化細胞の塊である.その形成過程は,器官再生の重要な初期イベントであるが,未解明な点が多く残されている.再生能の高い環形動物ヤマトヒメミミズをモデルに,再生芽形成の細胞・分子基盤に迫る筆者らの研究成果を紹介する.
核膜直下には,さまざまなタンパク質やクロマチンが局在して,核ラミナを形成している.その足場は,ラミンという中間径フィラメントの均一な網目構造である.網目構造の均一性が核の機能に果たす役割は不明だったが,我々の研究からその重要性が垣間みえてきた.
マウス着床後胚まるごとの長時間ライブイメージングに成功し,新たな生物現象を発見した背景には,ライトシート顕微鏡と培養装置の両性能を高いままで融合させ,光毒性を低減する手法の開発があった.
超硫黄分子は化学反応性の高い硫黄代謝物であり,エネルギー代謝をはじめさまざまな生命現象に関与する.本稿では,筆者らが近年明らかにした心臓の頑健性構築における超硫黄分子の異化同化バランス(超硫黄代謝)の役割について概説する.
致死的な病態である脳浮腫は,外傷性脳損傷の急性期に頻発する.しかし現在,脳浮腫の有効な薬物治療は確立していない.本著では,アストロサイトに発現する脳浮腫関連分子と,それらを標的とした脳浮腫治療薬の可能性について紹介する.
本稿では,腸内細菌叢の「株」レベル解析により,Tyzzerella nexilis B株がSPMS進行に関与する可能性を示した.SCFA産生菌の減少や炎症性Th17細胞の誘導を通じた病態への影響と,治療標的としての可能性について概説する.
必須微量元素のセレンは,推奨量がきわめて微量であり毒性も高いため,厳密な恒常性維持機構が存在する.セレンの代謝に働く2種類のメチルトランスフェラーゼINMT とTPMTに着目し,その基質認識機構と基質特異性について,分子レベルで考察した.
糖鎖は生体機能を担う「第三のコード」として注目され,近年の解析技術の進展により機能解明が進んでいる.がんや免疫など応用分野への展開が進む中,糖鎖ケミカルバイオロジーの最新動向と今後の展望について述べる.
発生過程において,細胞はどうやって多細胞組織を正確に作り出すのだろうか? 本稿ではモルフォゲンと呼ばれるシグナル分子に着目し,モルフォゲンによる多細胞パターン形成過程を培養皿上で再現してその原理の理解を目指す「つくる」アプローチを紹介する.
本稿では,S-パルミトイル化がオートファジー関連因子の機能や膜局在を制御する意義を概説し,特にオートファゴソーム形成初期を駆動する新たな分子機構について,最新知見を紹介する.
ホスホリパーゼA2群は,基質特異性や局在性に応じて細胞内外のリン脂質を分解し,生理活性脂質から微生物叢制御に至る多様な経路を介してマスト細胞機能を調節する.この脂質ネットワークは,アレルギーや慢性炎症性病態の解明と制御に新たな展望を開く.
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