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公益社団法人日本生化学会 The Japanese Biochemical Society
Journal of Japanese Biochemical Society 89(6): 856-860 (2017)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2017.890856

みにれびゅうMini Review

神経伝達物質のシナプス小胞内輸送機構Mechanism of vesicular neurotransmitter transport into the synaptic vesicles

1大阪医科大学医学部生命科学講座生理学教室Osaka Medical College, Faculty of Medicine, Division of Life Sciences, Department of Physiology ◇ 〒569–8686 大阪府高槻市大学町2–7 ◇ 2–7, Daigaku-machi, Takatsuki, Osaka, 569–8686, Japan

2同志社大学大学院脳科学研究科神経膜分子機能部門Doshisha University, Graduate school of Brain Science, Laboratory of Neural Membrane Biology ◇ 〒610–0394 京都府京田辺市多田羅都谷1–3 ◇ 1–3, Tatara-Miyakodani, Kyotanabe, Kyoto, 610–0394, Japan

発行日:2017年12月25日Published: December 25, 2017
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1. はじめに

化学シナプスを介した神経伝達は,シナプス小胞内に貯蔵された神経伝達物質がエキソサイトーシスによってシナプス間隙に放出されることで喚起される.持続的な神経伝達のためには,膜融合後の小胞がエンドサイトーシスによって回収され,再利用されることが欠かせない.この過程で,神経伝達物質はそれぞれに特異的なトランスポーターを介して再度小胞内に取り込まれる.古典的神経伝達物質の小胞内への輸送は,液胞型H-ATPase(V-ATPase)により小胞内外に形成されるHの電気化学的勾配を駆動力とする二次輸送であるが,多くの教科書ではHとの対向輸送とするモデルが記述されている.しかしながら,対向輸送モデルに十分なコンセンサスが得られているのは,アセチルコリンやモノアミンなどの陽イオンの伝達物質だけであり,哺乳類中枢神経系で主要な興奮性伝達を担うグルタミン酸(陰イオン)や抑制性伝達を担うGABA(双性イオン)については,依然として議論が続いている1, 2)図1).本稿では,これらの伝達物質の小胞内再充填機構について,従来の生化学的研究とともに,培養細胞下の小胞内pHライブイメージングによって明らかとなった最新の知見を紹介する.

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図1 グルタミン酸とGABAの小胞再充填機構のモデル

いずれの神経伝達物質についても,輸送様式として複数のモデルが提唱されている.

2. 小胞充填の生化学的研究

シナプス小胞の再充填機構の研究は,主に単離精製したシナプス小胞を用いた生化学的解析により進められてきた.この系の利点は,Hの電気化学的勾配を構成するH濃度勾配(ΔpH)と膜電位(Δψ)を蛍光色素により簡便に測定できること,さらにそれらのバランスを溶液のイオン組成等の調整により容易に変更できる点にある.したがって,ΔpHおよびΔψがどの程度小胞充填へ寄与するのかを検討することが可能となる.小胞型トランスポーターであるVGLUT(vesicular glutamate transporter)やVGAT(vesicular GABA transporter)の遺伝子が同定されるよりも先に,グルタミン酸の取込みが主としてΔψに依存するのに対し,GABAの取込みはΔpHとΔψのいずれにも同程度依存することが示されていた.これらの結果から,グルタミン酸の輸送はHの動きと共役しないが,GABAの輸送はHとの交換と共役しているモデルが示された3, 4).しかし,このモデルに必ずしも一致しない結果も蓄積されてきている.特に,トランスポーター遺伝子の同定に伴い,組換えタンパク質を精製し再構成したプロテオリポソームでの解析が行われるようになると,グルタミン酸の取込みについてはΔpHの寄与を明確に示す結果が得られ5),Hとの共役があるかどうかが最近では焦点となっている.逆にGABAについては,Δψのみが駆動するClとの共輸送モデルが提唱され6),それまでいわれてきたHとの対向輸送について再考を迫られることとなった(図1).

いずれの実験系で得られた結果も,それぞれの実験条件下では再現可能な結果に違いない.大切なのは生理的な条件下での現象を再現しているかどうかであるが,残念なことに,その小ささゆえに小胞内の生理的イオン環境については不明な点が多く,判断材料に乏しいのが実情である.したがって,実際のシナプスで起きている小胞再充填過程を理解するためには,生化学的解析の蓄積だけでなく,生きた細胞の小胞内部環境を明らかにしなくてはならない.特に駆動力であるHの電気化学的勾配は重要であろう.そこで著者らは,培養細胞の機能的シナプスにおいて,小胞内のH動態を定量的に測定することに取り組んできた.

3. 小胞内pHのライブイメージング

シナプス小胞内のH濃度つまりpHをモニターする手法は,主な目的は異なるものの実は培養細胞等で広く利用されてきた.シナプス小胞のエキソ・エンドサイトーシスを追跡する目的で,pHluorinと呼ばれるpH感受性のGFP変異体蛍光タンパク質が利用されている7).VGLUT1やsynaptophysinなどのシナプス小胞膜タンパク質の内腔側にpHluorinを融合したキメラタンパク質を作製し,ウイルスベクター等によって神経細胞に発現させることで,大部分のpHluorin分子をシナプス小胞内腔に局在させることができる.静止状態ではシナプス小胞内が約pH 5.8と酸性のため,pHluorinはほとんど蛍光を持たないが,エキソサイトーシスによって中性pHの細胞外液にさらされると,その蛍光は数十倍明るくなる.その後エンドサイトーシスおよび再酸性化を経ることで再び消光するため,シナプス小胞の一連の動きをpHluorinの蛍光の増減という形でライブイメージングできる(図2).

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図2 シナプス小胞内に局在させたpH感受性蛍光タンパク質のイメージング

(A)シナプス小胞のリサイクリング過程とそれに伴うpHluorinの蛍光変化の模式図.(B)pHluorinとmOrange2の蛍光のpH滴定曲線.(C)マウス海馬培養神経細胞でのシナプス小胞内のpHluorinとmOrange2の蛍光画像.静止状態ではpHluorinの蛍光はほとんどみえないがmOrange2の蛍光は検出されている.電気刺激をすると,いずれのプローブでも蛍光の増大がみられる.スケールバーは5 µm.グラフおよび写真は文献10)より改変.

当然のことながら,このpHluorinのシステムを用いてシナプス小胞の再酸性化のみを評価する試みもすでになされている.たとえば,ラット海馬の培養神経細胞に室温で頻回刺激を行ったあとでは,グルタミン酸を取り込む興奮性シナプス小胞において,再酸性化に伴うpHluorinの消光が時定数4~5秒で生じることが報告されている8).この数字はグルタミン酸の取込みの時定数(15秒9))よりもかなり速いが,直径40 nmの小胞内に存在しうる遊離Hの少なさを考えると(1個でpH 4になる計算なので1個未満である),妥当な結果として受け入れられてきた.しかし,pHluorinの蛍光測定によって,本当に小胞内のpH動態を定量したことになるだろうか? pH滴定曲線をとると,pHluorinのpKaは7.1であり,pH 6.2付近以下ではほぼ蛍光を発しない,つまり応答性を持たないことがわかる(図2).pHluorinがエキソ・エンドサイトーシスのレポーターとして最適なのはこの性質のためであり,小胞内pHの定量性とは両立できないといえる.そうはいっても検出できないのは後半の0.3 pH単位くらいではないかと思われるかもしれないが,これがまったく無視できない.H濃度で考えると,酸性化過程におけるH濃度変化の半分に相当しており,したがって,pHluorinを使う限り小胞内pH変化の半分を無視してしまうことになる.

そこでシナプス小胞内のpH全域にわたって定量性を確保するために,著者らはpKa=6.5のmOrange2をpHプローブとして選択した10).pHluorinと同様に低pHで消光するが,mOrange2はpH 5.8でもまだ応答性を保っており,synaptophysinとの融合タンパク質を海馬培養細胞に発現させると,確かに静止状態でも蛍光を確認できる(図2).このプローブを用いて頻回刺激後の小胞の再酸性化の速度をあらためて調べると,蛍光の減衰の時定数はpHluorinを用いた場合より2倍程度遅い値が得られた.しかし,この結果もあくまで蛍光変化のものであり,pH変化と直線的な関係ではない.そこで,mOrange2のイメージングからpHを算出することを行い,最終的に室温での再酸性化(pH変化)の時定数として15秒が得られた.

この値は遊離のH濃度変化を示しているが,先にも述べたようにシナプス小胞内の遊離のHは1個未満であり,つまりV-ATPaseによって輸送されるHの大部分は小胞内腔でバッファーされた状態にあると考えられる.ではバッファーされるHはどの程度あるだろうか? 実はバッファーされたHはΔpHには寄与しなくてもΔψには寄与しうるため,伝達物質(この場合はグルタミン酸)の小胞充填を理解する上で重要な要素となる.そこで次に,mOrange2のイメージングを利用してバッファリングキャパシティを測定した.バッファリングキャパシティは1 pHの変化を起こすのに必要な酸または塩基の濃度であり,興奮性シナプス小胞ではpHによらず約60 mM/pHであった.

以上の結果から明らかとなった興奮性シナプス小胞でのH動態をまとめると,酸性化過程では正味の総量にして100 mM(約1200分子)のHが時定数15秒(生理的温度では7秒)で蓄積していることになる.これはpHluorinによって見積もられた従来の想定とは大きく異なるもので,特にグルタミン酸の再充填過程と,速度においても量においても類似している点が興味深い.つまり,グルタミン酸の取込みとHの動きとの間に時間的な共役があることを示唆している.そしてこの研究のさらに重要な点は,もし両者に共役があるならば,その様式を小胞内pHライブイメージングによって明らかにできる可能性があるということである.

4. 抑制性神経伝達物質GABAのシナプス小胞再充填機構

興奮性シナプス小胞の再酸性化におけるH動態がグルタミン酸の再充填と関連しているとすれば,充填機構が異なる可能性のあるGABAを取り込む抑制性シナプス小胞では,その再酸性化の様相がそもそも異なるかもしれない.もしそうであれば,それらの違いから,グルタミン酸とGABAの小胞充填機構,特にHとの共役様式について知見が得られるだろう.そこで,興奮性と抑制性のシナプス終末を区別して,同様のmOrange2による小胞内pHライブイメージングを適用することにした11)

抑制性神経細胞特異的に黄色蛍光タンパク質のVenusを発現するVGAT-Venusトランスジェニックマウスの培養海馬神経細胞を用いることで,同一視野内の興奮性・抑制性両シナプスで同時に小胞内pHイメージングを行ったところ,二つのシナプスでmOrange2の蛍光強度に明らかな違いがみられた(図3A).静止状態の小胞内pHを算出すると,グルタミン酸性シナプス小胞が約pH 5.8であったの対し,GABA性シナプス小胞は約pH 6.4と有意に高かった.この違いはかなり明確なものであったが,pKaの高いpHluorinの蛍光でみると顕著な違いとしては現れないため,これまで見過ごされてきたと思われる.つまり,mOrange2をプローブとして用いたことで初めて示された事実である.では,GABAあるいはグルタミン酸を取り込んでいるときの小胞内pH動態に違いはあるだろうか? この点を調べるために,電気刺激によってエキソ・エンドサイトーシスを起こしたときのmOrange2の蛍光変化をイメージングした.興奮性のシナプス小胞では,エンドサイトーシス後,その静止状態のpHに向かって酸性化が起きるだけであるが,驚いたことに,抑制性シナプス小胞では,その静止状態のpHよりも低いpH(約pH 6)まで酸性化が進行し,そのあとでゆっくりとしたアルカリ化が生じていることが明らかとなった.つまりGABAを取り込む小胞は,酸性化とアルカリ化の合わさった二相性のpH変化を示す.

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図3 抑制性シナプスの小胞内pH動態

(A)VGAT-Venusトランスジェニックマウス由来の海馬培養神経細胞とそのシナプス小胞内に発現させたmOrange2の蛍光画像.mOrange2の蛍光強度の強いシナプス終末はVenusの蛍光を持つ軸索上にあり,抑制性シナプス終末であることがわかる.スケールバーは5 µm.(B)シナプス小胞内のpH変化とGABAの再充填過程を模式的に示す.文献11)より改変.

GABA小胞でみられるこの特徴的なpH動態は,GABAの取込みに関連しているだろうか? この可能性を検証するために,VGATをコンディショナルノックアウトした培養細胞で同様のpHイメージングを行った.VGATを欠損した抑制性神経細胞は当然ながらGABAによる抑制性の応答を引き起こさない.VGAT−/−のGABAシナプスで静止状態の小胞内pHを測定すると約pH 6とより酸性になっていることがわかった.VGATの発現をレスキューしてやると,もとの約pH 6.4に戻ることから,GABAの取込みが小胞内をアルカリ化していると考えられる.このことを裏づけるように,VGAT−/−では電気刺激後の二相性の蛍光変化が消失して興奮性シナプスと似たような応答を示した.

以上の結果を図3Bに要約した.GABAの小胞再充填機構について第一にいえることは,GABAの流入がHの流出と共役しているということである.プロテオリポソームを用いた研究からVGATがGABA/Clの共輸送体とする説が提唱されているが6),今回の結果は,生きた神経細胞内においてはHとの対向輸送が行われていることを強く支持している.また,小胞内の一定以上の酸性化がVGATの機能に必要なことや,定常状態でも小胞からのGABAは漏出し,小胞内GABA量の維持には継続したGABA輸送が必要であることを示唆されるが,これらのことも過去の報告とよく一致している4)

また我々は,mOrange2の持つpH定量性を活かして,VGAT+/+とVGAT−/−の小胞内pH動態の比較からGABAの取込みに依存したアルカリ化成分の抽出を行った.その結果,シナプス終末にある全小胞の約半分を動員するような刺激の後で,生理的温度において,時定数25秒で小胞のアルカリ化が起きていることがわかった.この速度はGABAの充填速度そのものであると考えられるが,グルタミン酸の取込み速度(生理的温度では7秒9))と比べると大変遅い.このことから,高頻度発火時の抑制性シナプスでは,GABAの再充填過程が持続的シナプス伝達の維持にとって律速となる可能性も示唆された.

5. おわりに

GABAの小胞充填がHとの対向輸送であることを支持する結果は,単一シナプス小胞レベルの解析を行ったごく最近の研究でも報告されている12).では,グルタミン酸の取込みみについてはどうであろうか? 我々のpHライブイメージングの結果では,興奮性シナプスでは一見してアルカリ化の成分がみられないが,やはり同様の戦略として,VGLUTを欠損した状態との比較をしなくてはならないだろう.しかしながら,VGLUTに関しては,ノックアウトとの単純な比較だけではすまない事情がある.複雑さを避けるため,本稿ではここまで言及してこなかったが,小胞内のH勾配と伝達物質の充填に影響する重要な因子として膜のCl透過性やK/H交換能がある5, 13).最近の報告で,VGLUT自身がグルタミン酸の輸送だけでなくこれらの性質も合わせ持つことが示された5, 14, 15).今後,グルタミン酸の充填機構についても,生きた機能的シナプス小胞での解析が求められるが,クリアすべき課題は多いだろう.pHだけではなく,培養下のシナプス小胞での膜電位やClのイメージングが実用化されることが期待される.

著者紹介Author Profile

江頭 良明(えがしら よしひろ)

大阪医科大学医学部助教.博士(理学).

略歴

1983年長崎県に生る.2005年大阪大学理学部卒業.同大学院生命機能研究科にて学位取得.生理学研究所研究員,同志社大学特定任用研究員を経て17年より現職.

研究テーマと抱負

シナプスの機能を電気生理学的手法や蛍光イメージングにより解析しています.

ウェブサイト

http://www.osaka-med.ac.jp/deps/ph2/index.html

趣味

写真.

高森 茂雄(たかもり しげお)

同志社大学大学院脳科学研究科教授.博士(獣医学).

略歴

1993年東京大学農学部獣医学科卒業.97年同大学院農学生命科学研究科博士課程獣医学専攻にて学位取得.独マックスプランク生物物理化学研究所・研究員,東京医科歯科大学医歯薬総合研究科・教員を経て,2009年同志社大学生命医科学部教授として赴任.12年より現職.

研究テーマと抱負

神経伝達物質放出を支える分子機構の解明.

ウェブサイト

http://takamorilab.wixsite.com/takamori-lab

趣味

ゴルフ,カメラ,スポーツ観戦.

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