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公益社団法人日本生化学会 The Japanese Biochemical Society
Journal of Japanese Biochemical Society 91(2): 224-227 (2019)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2019.910224

みにれびゅうMini Review

リン酸化が制御する出芽酵母のマイトファジーThe budding yeast mitophagy regulated by phosphorylation

新潟大学大学院医歯学総合研究科・機能制御学分野Department of Cellular Physiology, Niigata University Graduate School of Medical and Dental Sciences ◇ 〒951–8510 新潟市中央区旭町通一番町757 ◇ 1–757 Asahimachi-dori, Chuo-ku, Niigata 951–8510

発行日:2019年4月25日Published: April 25, 2019
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1. はじめに

オートファジーは,細胞質成分をオートファゴソームと呼ばれる脂質二重膜で包み込み,内容物をリソソーム(酵母や植物では液胞)に運び込み分解する現象であり,栄養飢餓などのさまざまなストレスによって誘導される1).近年,オートファジーには特定のタンパク質やオルガネラを選択的に分解する機構があることが明らかになってきた2).ミトコンドリアを選択的に分解するオートファジーはミトコンドリアオートファジー(以下,マイトファジー)と称され,余剰に存在する,あるいは機能低下に陥ったミトコンドリアを選択的に分解することでミトコンドリアの品質管理に関わっていると考えられている3).高等生物においては,マイトファジーの機能が破綻し,細胞内に不良ミトコンドリアが蓄積すると,神経変性疾患や老化現象などの要因となることが示唆されている4).マイトファジーを人為的に制御することは,ミトコンドリア関連疾患治療につながると期待され,酵母からヒトまで多岐にわたるマイトファジーの分子機構と生理的意義の全容解明は急務となっている.本稿では,マイトファジー研究の優れたモデル生物である酵母Saccharomyces cerevisiaeにおけるマイトファジー受容体Atg32の同定からそのリン酸化によるマイトファジー誘導機構について述べた後,最近我々が見いだしたAtg32の脱リン酸化を介したマイトファジーの抑制機構について紹介する.

2. 選択的オートファジーとしてのマイトファジー

酵母におけるオートファジー研究の初期段階において,窒素源飢餓後に液胞内にミトコンドリアが多数存在することが電子顕微鏡を用いて観察されているが,これはミトコンドリアがオートファジーで分解されることを示す最初の報告である5).当時は,オートファジーが選択的にミトコンドリアを分解しているかどうかや,その分子機構についてはまったく不明であった.その後,ミトコンドリア局在タンパク質にGFPを融合させることによってミトコンドリアを可視化し,GFPが液胞内に蓄積することを指標にマイトファジーを容易に観察する手法が考案された.既知のオートファジー遺伝子がマイトファジーに関与するかどうか調べたところ,そのほとんどがマイトファジーに必須であった6).このことは,マイトファジーは基本的にオートファジーと同じ分子機構を利用してミトコンドリアを分解していることを意味する.一方,選択的オートファジーとして知られていたCvt経路(特定のペプチダーゼの細胞質から液胞内への輸送経路)やペキソファジー(ペルオキシソームの選択的分解)に必須だが,非選択的オートファジーには不要であるAtg11, Atg20, Atg24などの因子がマイトファジーにも必須であったことから,マイトファジーも選択的オートファジーの一つであると考えられた.

3. マイトファジー受容体Atg32の同定

Cvt経路やペキソファジーでは,基質選択に関わる受容体タンパク質が知られており,マイトファジーにも特異的な受容体タンパク質が存在すると予想された.そこで,岡本らと我々によって,酵母遺伝子破壊株ライブラリーを用いたマイトファジー不能株の網羅的スクリーニングが行われた7, 8).既知のオートファジー関連遺伝子を含む多数の遺伝子が見いだされたが,この中に共通して機能未知遺伝子であるATG32が含まれていた.ATG32がコードするAtg32は,529アミノ酸残基からなり,1か所の膜貫通ドメインを持つミトコンドリア外膜タンパク質である.Atg32は,非選択的オートファジーやCvt経路やペキソファジーには関与せず,マイトファジー特異的な因子であった.また,Atg32はマイトファジー誘導条件下で選択的オートファジーのアダプタータンパク質Atg11と結合することが免疫沈降法や酵母ツーハイブリッド法で示され,Atg32がミトコンドリア上の受容体としてAtg11と結合することでオートファジーの積荷としてのミトコンドリアを選択していると考えられた.

4. マイトファジーの誘導スイッチとなるAtg32のリン酸化

Atg32特異的抗体を用いたウェスタンブロットによるAtg32のバンドパターンの解析から,Atg32はマイトファジー誘導時にリン酸化されること,さらにそのリン酸化部位がSer114とSer119の2か所であることが明らかとなった9).特に,Ser114をAlaに置換した変異体は,Atg11との結合能がなく,マイトファジーをまったく誘導することができなかった.さらに,メタノール資化性酵母Pichia pastorisのPpAtg32(Atg32オルソログ)もSer114に相当するSer159残基を有しており,この変異体においてもマイトファジーの誘導はみられなかったことから10),Atg32のリン酸化は酵母において保存されたマイトファジーの重要な誘導スイッチであると考えられた.その後,酵母のプロテインキナーゼの遺伝子破壊株を用いたスクリーニングによって,カゼインキナーゼ2(CK2)がAtg32のリン酸化に必須であることが見いだされた11).CK2変異株やCK2阻害剤を用いた解析およびin vitroアッセイによって,CK2はマイトファジーおよびAtg32–Atg11の相互作用に必須であること,Atg32はCK2によって直接リン酸化されることが明らかとなった.Cvt経路やペキソファジーでも類似の機構が解明されており,前者はCvt経路受容体Atg19のリン酸化が,後者はペキソファジー受容体Atg36のリン酸化が重要であることが知られている12).しかしながら,そのリン酸化に関わるキナーゼはCK2ではなく,カゼインキナーゼ1(Hrr25)であることから,選択的オートファジーの受容体は,目的に応じてキナーゼを使い分けていると考えられる.

5. Ppg1はマイトファジーの抑制因子である

CK2は常に活性を持った状態で細胞内に大量に存在するにもかかわらず,Atg32のリン酸化はマイトファジー誘導時のみ起こる現象であることから,Atg32のリン酸化を抑制する機構の存在が示唆された.我々は,Atg32のリン酸化を抑制する因子をハイスループットかつ高感度に探索する方法として,マイトファジー誘導の初期段階においてAtg32がリン酸化依存的にミトコンドリア上にドット状に集積(GFP融合Atg32を用いて検出)する現象に着目した.マイトファジー非誘導条件下においてもGFP-Atg32の集積を示す変異株を網羅的に探索したところ,プロテインホスファターゼPpg1が同定された13).Ppg1を欠損させると,CK2依存的にAtg32の恒常的なリン酸化が起こり,その結果としてマイトファジーの亢進がみられた.興味深いことに,Ppg1欠損によるAtg32のリン酸化だけではマイトファジーは進行せず,オートファジーの誘導起点となるAtg1複合体の活性化が同時に起こる必要があることが明らかとなった.また,Ppg1はCvt経路やペキソファジーのAtg19およびAtg36のリン酸化制御には関与せず,マイトファジーに特異的に関与していた.

6. Ppg1はFar複合体と協調してマイトファジーを抑制する

Ppg1が属するPP2A(protein phosphatase 2A)ファミリーのホスファターゼは,特定の活性調節因子と結合して機能を発揮することが知られている14).具体的には,Pph21およびPph22はTpd3, Cdc55, Rts1と結合し,Sit4はSap4, Sap155, Sap185, Sap190と結合する.しかしながら,Atg32のリン酸化抑制にはこうした活性調節因子およびPpg1と相互作用すると報告されている因子は不要であったことから,未知の因子がPpg1の活性調節に関与すると推測された.そこで,Ppg1の免疫沈降による共沈産物を質量分析により解析したところ,Far複合体(Far3, 7, 8, 9, 10, 11の6タンパク質からなる)が同定された13).Far複合体を欠損させると,Ppg1欠損と同様にAtg32の恒常的なリン酸化,Atg32のミトコンドリア上での集積,マイトファジーの亢進がみられた.この結果から,Ppg1とFar複合体は協調してAtg32を脱リン酸化することによってマイトファジーを抑制していることが示唆された.

7. Atg32のマイトファジー抑制に関与する領域の同定

一般的に,ホスファターゼと基質の一過性の相互作用を検出することは困難であると考えられており,Ppg1とAtg32の相互作用も通常の免疫沈降法や酵母ツーハイブリッド法では検出することはできなかった.そこで,マイトファジーの抑制にAtg32のどの領域が重要なのかについて,Atg32の細胞質領域をN末端側から50アミノ酸ごとに欠失させた変異体を用いて解析した.Atg32のアミノ酸配列151~200番目の領域を欠失させると,Ppg1欠損とほぼ同様の結果(マイトファジー誘導条件非依存的なAtg32–Atg11の相互作用とAtg32の集積およびマイトファジーレベルの亢進)となったことから,Ppg1はこの領域を介してAtg32を脱リン酸化していると推測された13)

8. まとめと今後の展望

こうした報告をもとに,我々はCK2とPpg1–Far複合体の競合によるAtg32のリン酸化制御を介したマイトファジーの制御機構を提唱する(図113).マイトファジー誘導条件下において,Ppg1とFar複合体は未解明のシグナルによって不活性化され,Atg32を脱リン酸化することができなくなり,結果的にAtg32はCK2によるリン酸化を受けることがマイトファジーの最初のステップとなる.次に解明すべき課題は,Ppg1とFar複合体を制御するシグナルの正体は何なのか,そのシグナルは傷害を受けたミトコンドリアから発信されるものなのか,そのシグナルはマイトファジーとオートファジーのコアな制御機構を同時あるいはまったく独立して活性化するものなのか,などである.今後は,これらの課題を明らかにすることでマイトファジーの制御機構の全容解明を目指したい.

Journal of Japanese Biochemical Society 91(2): 224-227 (2019)

図1 酵母におけるマイトファジーの制御機構モデル

①通常条件下ではPpg1–Far複合体の作用によってAtg32のリン酸化は抑制されている.②マイトファジーの誘導条件下では,Ppg1–Far複合体よりもCK2が優位に働き,Atg32のリン酸化が起こる.③Atg32のリン酸化およびアダプタータンパク質Atg11依存的にAtg32はミトコンドリア上に集積する.④オートファジーのコア因子依存的にマイトファジーが進行する.

また,哺乳類細胞においては,プロテインキナーゼPINK1とE3ユビキチンキナーゼParkinが仲介するマイトファジーと,Nix, BNIP3, FKBP8, FUNDC1, Bcl2-L-13などの受容体が仲介するマイトファジーが知られている3).マイトファジーは真核生物において保存された現象であるものの,高等生物においては明確なAtg32やPpg1のホモログは認められないが,Far複合体はホモログとしてSTRIPAK(striatin-interacting phosphatase and kinase)複合体が存在する15).したがって,これら複合体のマイトファジーにおける役割と分子機構を解析することによって,酵母からヒトまで保存されたマイトファジーの制御機構が明らかとなるかもしれない.

謝辞Acknowledgments

本稿は新潟大学大学院医歯学総合研究科・機能制御学分野,九州大学病院検査部,米国ミシガン大学Daniel J Klionskyラボで行った研究をもとに執筆しました.本稿で紹介した論文の共著者の皆様に感謝申し上げます.

引用文献References

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著者紹介Author Profile

古川 健太郎(ふるかわ けんたろう)

新潟大学大学院医歯学総合研究科機能制御学分野特任助教.博士(農学).

略歴

1977年福島県に生る.2000年東北大学農学部応用生物化学科卒業.05年同大学院農学研究科応用生命科学専攻博士課程修了.日本学術振興会特別研究員,スウェーデンヨーテボリ大学研究員などを経て,15年より現職.

研究テーマと抱負

酵母におけるマイトファジーの制御機構に関する研究.今後は,システム生物学や合成生物学的手法を用いたマイトファジー(オートファジー)研究を進めたい.

ウェブサイト

https://www.med.niigata-u.ac.jp/mit/

趣味

旅行.

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