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公益社団法人日本生化学会 The Japanese Biochemical Society
Journal of Japanese Biochemical Society 96(2): 127 (2024)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2024.960127

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希少難病に対する国内アカデミア創薬への期待

徳島大学名誉教授,自治医科大学医学部小児科学講座客員教授

発行日:2024年4月25日Published: April 25, 2024
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近年,世界の希少疾患(本邦では患者数5万人未満の疾病)は7000種を超えるが,その患者数の少なさと病因が不明の疾患もあることから,個々の疾患に対する新規治療法開発の障壁は依然として高い.一方,希少疾患の約80%が遺伝性疾患であるため,病因または関連遺伝子が同定されている疾患に対しては,責任正常遺伝子を用いる遺伝子治療法,再生医療や核酸医薬などの新規モダリティを活用する治療法開発が進展しつつある.国内でもアカデミア発の基礎研究に基づく新規治療法開発や医師主導治験の実施への,患者家族の会,行政および製薬企業など様々なステークホールダーからの期待が高まっている.また欧米では多くの製薬企業による希少難病治療薬の研究開発が先行し,Breakthrough Therapy指定やFast Track指定を受けた革新的な治療薬が承認されつつある.しかし既に海外で臨床応用されている治療薬が本邦では使用できないという,いわゆる「ドラッグ・ラグ」から,2016年以降は,海外で承認・販売されている治療薬が日本では開発されていないという「ドラッグ・ロス」の問題が深刻化しつつある.わが国での希少疾患・難病に対する創薬力の強化に向けた「経済財政運営と改革の基本方針2023」(骨太方針2023)の推進,また改定難病法(2022年12月制定)に基づき,製薬企業等による難病患者データベースの,薬事申請における利活用を可能にするなどの取り組みや体制が整備されつつある.さらに,国内競争倍率は高いものの,希少難病に対する治療法開発を目的としたAMEDや厚労省の研究開発事業によるアカデミアへの支援も継続されている.国内アカデミア発の基礎研究や臨床研究に基づく創薬を推進する上では,国際競争に勝ち残るための極めて高いオリジナリティと技術革新への対応力をもち,できるだけ臨床応用に近いモダリティを活用する治療薬シーズの考案と研究開発が必要と考えられる.希少難病に対するアカデミア創薬を目指す基礎・臨床研究者には,現在,研究開発を進めている治療薬シーズに対する選球眼を養うとともに,社会実装に向けた不断の努力を期待したい.

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