リゾリン脂質”はリン脂質生合成系,代謝系の中間産物として考えられてきたが,近年,生体はさまざまな経路でリゾリン脂質を産生,運搬し,最終的に脂質メディエーターとしてGタンパク質共役型受容体を刺激することで,種々の生体の恒常性維持に寄与することが判明してきている.この脂質メディエーター“リゾリン脂質”の機能解明研究には,受容体・産生酵素・トランスポーターの同定・性状解析,リゾリン脂質の分析といった生化学,分析化学的手法を用いた解析から,これら分子の遺伝子改変動物,遺伝病の原因究明,創薬・診断等の応用も含めた生物学・医学・薬学的見地からの解析が含まれる.また,この分野における,日本生化学会に所属する研究者の貢献はきわめて大きい.本特集では,“リゾリン脂質メディエーター”研究で世界的に顕著な業績を残した研究者もご協力いただき,これまでの“リゾリン脂質メディエーター”研究と現時点での最新の話題を提供していただくこととした.
脂質メディエーターS1Pの2型受容体S1P2は血管内皮,平滑筋,単球・マクロファージやリンパ球などに発現し,血管バリア機能破綻の阻止,血管形成の抑制,動脈硬化促進,リンパ組織におけるリンパ球の局在,増殖抑制およびリンパ腫の発症抑制などの役割を持つ。
脂質メディエーターであるスフィンゴシン1-リン酸(S1P)は,産生分解酵素,輸送体および受容体の時空間制御により生物活性が制御されている。S1P輸送体であるSpns2を中心にS1Pの生理機能を紹介する。
赤血球から供給されるS1Pは血漿中S1P濃度の維持に重要な働きをしている。赤血球の新規S1P輸送体MFSD2Bの同定により哺乳動物の主要なS1P輸送体が明らかとなり,今後のS1Pシグナリングの全容解明とS1P輸送体の基質輸送における普遍的分子機構の解明が可能となった。
S1PはHDLに結合して血中を流れる生理活性脂質であり,HDLが持つ抗炎症作用などを担う因子の一つである。HDL上のS1Pの生理活性は,特異的結合タンパク質ApoMにより調節される。本稿では,S1PシャペロンとしてのApoMの機能をまとめる。
リゾホスファチジン酸(LPA)は6種類のGタンパク質共役型受容体(LPA1~LPA6)を介して,多彩な生理作用を発揮する脂質メディエーターである。本稿ではNon-EDG型LPA受容体に分類されるLPA4~LPA6の研究について議論する。
リゾホスファチジン酸(LPA)は複数の特異的受容体に認識されることで多岐にわたる生理・病理機能を発揮する。本稿では,初期に同定された3種類のEdg型LPA受容体について,ここ20年間あまりで蓄積した知見について紹介する。
リゾホスファチジルセリン(LysoPS)はLPAやS1Pに続くリゾリン脂質メディエーターとして着目を集めている。本稿では近年明らかになってきたLysoPSの産生系と受容体の生理的・病理的意義,LysoPS の体内分布について概説する。
GPR55は新規のカンナビノイド受容体として報告された。我々は内在性リガンドの探索を行い,リゾホスファチジルイノシトール(LPI)にアゴニスト活性があることを見いだした。本稿はLPI-GPR55の生理機能やLPI の産生機構などを紹介する。
中枢神経系でのグリア−神経細胞間の情報伝達を担う新たなリゾリン脂質(LysoPtd-Glc)を紹介し,受容体GPR55を介するLysoPtdGlc による回路構築メカニズムを概説するとともに,神経生物学におけるリゾリン脂質研究の展望を述べる。
リゾリン脂質メディエーターは,主に基礎研究よりさまざまな疾患病態における重要性が提議されてきた。近年の質量分析計の進歩・普及により,さまざまな分野のヒトの疾患においてリゾリン脂質メディエーターの関与がヒト臨床研究から証明されつつある。
糖鎖修飾は代表的な翻訳後修飾の一つであり,多彩な生理機能を担っている。糖鎖は生物種や細胞の種類・状態の違いによって多様であり,情報をコードする分子として適している。本稿では糖鎖情報がいかにしてレクチンに読み解かれるかを論じたい。
Syntaxin 17(Stx17)は,オートファジーに重要な役割を担うタンパク質である。我々は,Stx17が栄養状態において小胞体−ミトコンドリアの接触部位において多彩な機能を発揮していることを見いだしたので,本稿において概説する。
分泌タンパク質は小胞体で合成されたのち,小胞によって細胞内を輸送され,分泌される。しかし,コラーゲンやキロミクロンなどは小胞体で巨大な複合体を形成し,小胞に入りきらない。これら巨大タンパク質の分泌機構が最近明らかになってきたので概説する。
脳回は大脳の高機能化の鍵となる重要な構造と考えられていることから,発達期の脳回形成機構およびその異常による疾患病態の解明は注目されている。本稿ではフェレットを用いた研究を中心に,大脳皮質の脳回形成の分子機構について最近の知見を概説する。
非自己である病原体由来分子の自然免疫受容体の活性化は免疫応答の開始に必須である。一方,自己由来の核酸やタンパク質も自然免疫受容体を活性化する。本稿では細胞死に焦点を置き,自己由来の成分がどのように放出され,免疫応答を誘導するのかを概説する。
一酸化窒素(NO)は,さまざまな生物種において多様な生命現象に関わるシグナル分子であるが,酵母においては知見が乏しい。本稿では,酵母に見いだしたNOの合成機構とその制御,およびNOの生理機能について,筆者らの最新の知見を織り交ぜながら解説する。
プリン作動性化学伝達は慢性疼痛をはじめとするさまざまな疾患の発症に関与する。本稿では,プリン作動性化学伝達の必須因子である小胞型ヌクレオチドトランスポーターの特異的阻害剤の同定と新たな治療戦略について紹介する。
プロスタグランジンD2(PGD2)は,シクロペンテノン構造を有するJ2型PG類へと変換され,親電子性メディエーターとしてユニークな生理作用を有することが知られている。本稿では,PGD2代謝物や類縁化合物の生成とその生理機能について,最近の知見を紹介したい。
ワールブルグ効果は好気的解糖にシフトするがん細胞の特性であり,腫瘍組織ではがん細胞の生存を助長するといわれている。しかし,がん変異細胞が上皮層に産生された初期段階では,細胞競合の観点から,この代謝変化はむしろ変異細胞の排除に必要であることを示した。
健康寿命の延伸が求められている現代の高齢化社会において,老化と病態との関わりから疾患発症に至るメカニズムの解明が必要である。糖鎖の視点からの老化研究が,老化関連疾患の予防から治療にまで役立つ可能性について,著者らの最近の成果から探りたい。
心筋梗塞時においては,梗塞した血管によって酸素や栄養が供給されていた心筋細胞が壊死する。壊死した細胞は,貪食細胞によって速やかに貪食される。本稿では,近年明らかになってきた心筋梗塞時における死細胞貪食の分子メカニズムについて紹介する。
分子ロボット(人工分子システム)の研究開発に関わる近年の研究動向について紹介する.著者らの開発した,信号分子に応じて変形の開始/停止を制御するアメーバ型分子ロボットについて解説するとともに,分子ロボティクスと周辺分野の動向についても紹介する.
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