これまでのオートファジー研究は,オートファゴソーム形成を伴うマクロオートファジーに集中してきた.しかしながら,実際には多数のオートファジー経路が存在する.たとえば,液胞膜・リソソーム膜が陥入あるいは伸長することにより細胞質成分を取り囲むミクロオートファジー,基質が直接にリソソーム膜を透過する膜透過型オートファジー,リガンド刺激依存的に展開されるエンドサイトーシスを介した細胞膜分解(広義にオートファジーの範疇に入る),そしてオルガネラが直接リソソームと融合する直接融合型オートファジーなどである.さらに,オートファジーは一般に非選択的な分解経路であると考えられてきたが,マクロオートファジーのみならずすべてのオートファジー経路が選択性を有し,可溶性タンパク質,液−液相分離した顆粒,凝集体,核酸,さらにはミトコンドリアや小胞体といったオルガネラを選択的に認識,隔離,分解することも明らかになってきた.しかしながら,多様なオートファジーとそれらによる選択的基質分解を統合した自己成分分解系(“マルチモードオートファジー”と定義)の理解はなされていない.オートファジー研究のさらなる発展のためにはマルチモードオートファジーの分子メカニズムおよび生理機能を解明するとともに,各オートファジーの連携,誘導の時系列,分解寄与度,機能進化を明らかにしていく必要がある.本特集ではマルチモードオートファジー研究の最前線と今後の課題について紹介する.
本稿では,マクロオートファジーによる選択的基質分解による細胞機能,特にp62/SQSTM1の選択的分解を介したストレス応答とNCoR1の選択的分解による脂肪酸分解制御について紹介する.
マクロオートファジーでは,小さな膜小胞が分解対象を飲み込むように大きく伸展し,閉じ,二重膜小胞であるオートファゴソームが形成される.本稿では,前駆体膜の形成から膜の伸張,そして閉鎖まで,オートファゴソーム形成機構の最新像を紹介する.
オートファジーの構造生物学的研究は,長らくAtg結合反応系の研究に限定されてきた.しかしこの5年間で,構造生物学の対象はオートファジー始動複合体やオートファゴソーム膜の伸長を担うAtg2など,メカニズムの核心に迫るものへと急速に発展した.
マルチモードオートファジーの膜透過型オートファジーのうち,筆者らが発見した経路であるRNautophagy,DNautophagyについて,分子メカニズムを中心にこれまでの研究を紹介する.
Parkin はPINK1と協調してミトコンドリアのオートファジー(マイトファジー)を誘導するが,正常なミトコンドリアを分解しないように,普段は厳重に不活性化されている.本稿では,ごく最近に解明された「Parkin活性化のメカニズム」を解説する.
ミクロオートファジーの多様性,さらに分子基盤と機能に基づいた新しい分類法を紹介し,これまで統一的な見解が得られていないミクロオートファジーの分子機構についてこれまでの知見から概観したい.
動物の初期胚ではオートファジーやエンドサイトーシスといったリソソーム分解系が活性化し,特定のタンパク質やオルガネラを分解することで,母性−胚性転移に向けて細胞内成分の再構成を促進していることがわかってきた.
固着性の独立栄養生物であるがゆえに,植物は他の生物とは異なるオートファジー誘導メカニズムや多彩な経路,そしてそれら独自の生理機能を発達させてきたと考えられる.本稿では,植物栄養学の視点で植物の必須栄養素から植物オートファジーを考える.
ゲノムに直接コードされていない糖鎖修飾に,タンパク質への特異性が認められている.本稿では,こうしたタンパク質特異的な糖鎖修飾機構について筆者らのこれまでの知見を含めて紹介する.
小胞体アミノペプチダーゼ(ERAP)は主に小胞体に局在する酵素であり,抗原提示機構における抗原ペプチドの最終プロセシング酵素である.その多機能性や遺伝子の多型性から自己免疫疾患/炎症性疾患等の多くの疾患に関与するとされている.
受容体型チロシンキナーゼEphB2はさまざまながん細胞で高発現している.我々はSOCSボックスタンパク質SPSB4がEphB2を認識するユビキチンリガーゼであることを見いだしたので紹介したい.
血漿セレン含有タンパク質セレノプロテインP(SeP)は,2型糖尿病などの疾患に深く関与することが明らかになってきた.本稿では,SePの構造と機能,疾患との関わりについて解説し,疾患バイオマーカーとしての可能性について議論する.
免疫学的恒常性を保つためには,正の免疫応答のみならず負の免疫応答も重要である.ここでは,免疫を抑制・制御するヘルパーT細胞サブセット(Treg,Tr1)の分化における,脂質リン酸化酵素PI3Kの役割を紹介する.
新たな生理活性ペプチドの発見により,多くの生体調節機構が明らかにされてきた.本稿では,生理活性ペプチドの探索法を概説し,新たに同定したneuromedin Uprecursor-related peptide(NURP)を紹介する.
中枢神経系の複雑かつ精巧な神経機能制御において,神経細胞のみならず,グリア細胞も多様性を有することがわかってきた.本稿では,髄鞘形成グリア細胞であるオリゴデンドロサイトの多様性について,歴史的発見から最新の知見までをレビューする.
近年,細胞質性のDNAが異物として認識されて,自然免疫応答を誘導することが明らかになった.この応答の要が小胞体局在性膜タンパク質STINGである.本稿では,STING研究に関する最新の進展を,特に脂質修飾依存的なSTINGの活性化機構を中心にして概説する.
2型炎症応答は寄生虫に対する生体防御やアレルギー性疾患をもたらす.2型炎症応答には自然免疫細胞である2型自然リンパ球が関与しており,本稿では神経伝達物質受容体であるアドレナリンβ2受容体による2型自然リンパ球の抑制性制御について紹介する.
哺乳類細胞における遺伝子発現を高い時空間解像度で人工的に制御するためのツールとして,光操作技術の開発が進んでいる.本稿では,遺伝子発現の光操作ツールについて最新の知見を紹介するとともに,将来的な展望についても議論する.
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