生化学 SEIKAGAKU
Journal of Japanese Biochemical Society

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Journal of Japanese Biochemical Society 87(1): 75-81 (2015)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2015.870075

特集「核‒細胞質間分子輸送システム:基本分子メカニズムの理解とその応用」Special Review

mRNA核外輸送複合体の形成機構Formation and nuclear export of messenger ribonucleoprotein complexes

1大阪大学大学院生命機能研究科細胞ネットワーク講座Biomolecular Networks Laboratories, Graduate School of Frontier Biosciences, Osaka University ◇ 〒565-0871 大阪府吹田市山田丘1-31-3 Yamadaoka, Suita-shi, Osaka 565-0871, Japan

2大阪大学大学院医学系研究科生化学講座Department of Biochemistry, Graduate School of Medicine, Osaka University ◇ 〒565-0871 大阪府吹田市山田丘1-31-3 Yamadaoka, Suita-shi, Osaka 565-0871, Japan

発行日:2015年2月25日Published: February 25, 2015
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メッセンジャーRNA(mRNA)の核外輸送は,真核生物の遺伝子発現における必須のプロセスである.mRNAは,特異的な核外輸送受容体により,核膜孔を介して細胞質へ輸送される.mRNA核外輸送受容体は,転写やプロセシング反応に伴ってmRNAに結合するアダプタータンパク質群とのタンパク質–タンパク質相互作用を介して,“積み荷”であるmRNAを認識する.そのため,mRNAの核外輸送は,核内におけるmRNAの成熟過程とも緊密に共役する.成熟過程と共役したmRNA核外輸送機構は,機能的なmRNAのみを細胞質の翻訳装置に供給し,遺伝子発現の正確性を保証する分子機構の一つとしても重要である.本稿では,mRNA核外輸送の分子機構,中でも,転写やプロセシング過程と共役したmRNA核外輸送複合体形成機構について,現在までの知見を紹介する.

1. はじめに

真核生物では,メッセンジャーRNA(messenger RNA: mRNA)の転写とタンパク質翻訳が,それぞれ核と細胞質という物理的に隔てられた細胞内区画で行われる.したがって,mRNAの核外輸送は,遺伝子発現における必須の過程である.核内で転写されたmRNA前駆体は,キャップ付加,スプライシング,3′末端の切断とポリ(A)鎖付加(cleavage and polyadenylation: CPA)といった,真核生物に特有の一連の複雑なプロセシングを経て成熟する.成熟したmRNAは,核外輸送受容体により認識され,核膜孔複合体(nuclear pore complex: NPC)と呼ばれる核膜に開口したチャネルを通って細胞質へ輸送され,タンパク質翻訳に供される(図1).

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図1 mRNP形成と核外輸送の概観

mRNAは,転写開始直後からさまざまなタンパク質と結合し,mRNA–タンパク質複合体(messenger ribonucleoprotein: mRNP)を形成する.最近行われたプロテオーム解析の結果から,転写伸長,スプライシングやCPAといったmRNAプロセシング過程において機能する800種類を超える多様なタンパク質群が,mRNPに含まれていることが報告されている1).このような数多くのタンパク質群のmRNAへの結合は,転写やプロセシング反応に共役して秩序正しく制御されている.たとえば,あるタンパク質因子が転写装置との相互作用を介して転写伸長反応を促進すると同時に,スプライシング因子をmRNPへリクルートすることで,転写伸長とスプライシング反応が共役するのである.また,多くのタンパク質のmRNAへの結合は一過的であるため,最終的に成熟体として細胞質に輸送されるまで,mRNPは常に質的,構造的な変化を遂げることになる.

mRNA核外輸送受容体は,mRNP構成因子群のうちアダプタータンパク質と呼ばれるRNA結合タンパク質群と相互作用することで,mRNAを輸送すべき積み荷として認識する.アダプタータンパク質のリクルートの過程が転写やプロセシングと共役することにより,転写途中のmRNA断片,スプライシングやCPAを受けていないmRNA前駆体といった未成熟なmRNA前駆体と成熟mRNAが,核外輸送受容体による積み荷認識の段階で選別されることになる.そのため,mRNA核外輸送の過程は,mRNAの品質チェックポイントの一つとしても重要な役割を果たすことになる.本稿では,mRNA核外輸送の分子機構,中でも転写,プロセシングと共役したmRNA核外輸送複合体形成機構を中心に解説する.

2. mRNA核外輸送受容体とアダプタータンパク質群

細胞内で発現するさまざまなRNAは,それぞれに特異的な核外輸送受容体により,生合成の場である核から細胞質へ輸送される.転移RNA(transfer RNA: tRNA),マイクロRNA,ウリジンに富んだ核内低分子量RNA(uridine-rich small nuclear RNA: UsnRNA)といった比較的サイズの小さな非翻訳RNAは,インポーティンβファミリーに属する特異的な輸送受容体により,低分子量GTPase Ranに依存したメカニズムで核から細胞質へ輸送される2).一方,mRNAの核外輸送は,インポーティンβファミリー輸送受容体ではなく,Nxf1:Nxt1(出芽酵母ではMex67:Mtr2,ヒトでは,Tap:p15とも呼ばれる)ヘテロ二量体と呼ばれる特有の核外輸送受容体に依存するという点でユニークである3).Nxf1:Nxt1ヘテロ二量体は,図2のようなドメイン構造を示す.RNA認識モチーフ(RNA recognition motif: RRM)およびロイシンリッチリピート(leucine-rich repeat: LRR)からなるNxf1のアミノ末端側の領域は,RNAに対する結合活性を示す.一方,NTF2様ドメイン(nuclear transport factor 2-like domain: NTF2L)とNxt1とのヘテロ二量体形成により構築されるNTF2様構造,さらにカルボキシ末端側に存在するユビキチン結合様ドメイン(ubiquitin-associated-like domain: UBAL)は,NPCを構成するヌクレオポリンのフェニルアラニン–グリシン(FG)リピート配列への結合能を示す.Nxf1:Nxt1ヘテロ二量体は,それぞれのドメインを介して積み荷およびNPCと相互作用することで,mRNAのNPC通過を促進する4)

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図2 mRNA核外輸送受容体Nxf1:Nxt1の構造

インポーティンβファミリー核外輸送受容体であるエクスポーティンt,エクスポーティン5はRan-GTPの存在下で,それぞれの積み荷であるtRNA,マイクロRNAと直接結合する.結晶構造解析の結果から,エクスポーティンtおよびエクスポーティン5とRan-GTPとの複合体は,tRNAおよびマイクロRNAに特有の構造を識別して結合することが明らかにされている5,6).一方,発見当初の研究から,Nxf1:Nxt1やMex67:Mtr2は,明らかな特異性なしにRNAに結合することが知られていた7,8).また,mRNAは塩基配列上最も多様性に富んだRNAであり,tRNAやマイクロRNAのようにRNA種を規定するような構造上の特徴を持たない.これらのことから,mRNA核外輸送受容体は,mRNAに特有の構造や配列を見分けて結合しているのではないということが予想されていた.実際,細胞内では,Nxf1:Nxt1,Mex67:Mtr2は,mRNA結合アダプタータンパク質群(表1)とのタンパク質–タンパク質相互作用を介してmRNAを輸送すべき積み荷として認識すると考えられている2,3)

表1 アダプタータンパク質群
出芽酵母多細胞生物
Yra1AlyREF
Nab2
Npl3
SRSF3 (SRp20)
SRSF7 (9G8)
ZC3H3
Thoc5
CPSF6

出芽酵母では,Yra1,Npl3,Nab2という3種類の主要なアダプタータンパク質がこれまでに同定されている.PAR-CLIP(photoactivatable-ribonucleoside-enhanced protein-RNA crosslinking and immunoprecipitation)法を用いたトランスクリプトーム規模での輸送受容体およびアダプタータンパク質の標的mRNAの同定が最近行われ,3種のアダプタータンパク質は,それぞれが異なる標的mRNAに選択的に結合すること,一方で,Mex67:Mtr2は,それぞれのアダプタータンパク質が標的とするmRNAに,偏りなく結合することが報告されている9).これらのことから,輸送受容体は多様なアダプタータンパク質と相互作用することで,さまざまなmRNAを認識しているということが推察される.一方,多細胞生物では,Yra1のオルソログであるAlyREF,SRタンパク質SRSF3(SRp20),SRSF7(9G8)をはじめとし,数多くのアダプタータンパク質がこれまでに同定されている10)表1).これらのアダプタータンパク質の発現を個別に抑制しても,Nxf1:Nxt1の発現を抑制したときにみられるようなはっきりとしたmRNA核外輸送の阻害が認められないことから,それぞれのアダプタータンパク質が異なるmRNAの核外輸送に関与していると考えられている.しかしながら,個々のアダプタータンパク質の標的となるmRNAの同定は行われておらず,それぞれが,細胞内でどのように使い分けられているのかについては,現在まで結論が得られていない.

3. mRNPのパッケージング

転写,プロセシングに伴うmRNPの形成と構造変化,つまりmRNPのパッケージングのようすは,形態的な解析によってもとらえられている.カロリンスカ研究所のDaneholtらは,ユスリカの細胞内におけるバルビアニ環遺伝子mRNPの形態解析を行い,クロマチン周囲に線維状の構造物として存在するmRNA前駆体(perichromatin fibrils)が,クロマチン間顆粒(perichromatin granules)として遺伝子から遊離し,NPCを通って細胞質へ輸送されるようすを観察している11).また,ハイデルベルグ大学のHurtらのグループは,精製したmRNP粒子の電子顕微鏡解析から,出芽酵母のmRNPの長さは,mRNAそのものの長さから予想されるよりもかなり短いことを見いだしている12).最近のmRNPの細胞内動態の一分子解析からは,mRNAの長さと細胞内におけるmRNPの粒子サイズには強い相関がないということも明らかにされている13).これらのことから,細胞内ではサイズの大きなmRNAもプロセシングを経ることで,NPCを通過可能な一定の粒子サイズを持ったmRNPにパッケージングされることが推察される.

mRNAプロセシングに関わるmRNP構成タンパク質の多くは,RNAポリメラーゼⅡ(RNAPII)との直接,間接の相互作用を介して,転写中の新生mRNAにアクセスする.したがって,mRNAプロセシング反応の多くは転写と共役し,遺伝子の近傍で行われると考えられている14).一方,転写中の新生mRNAが“裸”の状態で遺伝子近傍にとどまると,DNAの鋳型鎖との間でのヘテロ二本鎖が形成され,非鋳型鎖が一本鎖の状態にとどまり,R-loop構造が形成される.新生mRNAが,mRNA結合タンパク質と速やかに会合し,mRNPにパッケージングされることにより,ヘテロ二本鎖形成は阻害され,転写に伴うR-loop構造は,速やかに解消する.したがって,mRNPパッケージングは,転写活性化に伴うDNA障害や組換えなどのゲノム不安定化に対する防御の側面も併せ持っていることになる15)

核内のmRNPに豊富に含まれるのが,hnRNP(heterogenous nuclear ribonucleoprotein)と呼ばれる一群のmRNA結合タンパク質である.哺乳動物では,AからUまでのアルファベットがそれぞれの名前として冠された20種類ほどのhnRNPが知られている16).hnRNPは,種々の細胞種で広範に発現がみられ,その多くは核内において一過的にmRNA前駆体と相互作用する.hnRNP Cは,中でも豊富に存在するhnRNPであり,hnRNP C1:C2ヘテロ四量体として200塩基長ほどのRNAと結合することにより,ちょうどヒストンがヌクレオソーム構造を安定化させるように,mRNAをコンパクトに折りたたむ働きを持つと考えられていた17).しかし,このようなhnRNPの機能がmRNAの核外輸送に直接的に関わっていることを示す実験データは,これまで得られていなかった.京都大学の大野睦人らのグループは,hnRNP C1:C2ヘテロ四量体が,RNAPIIによる転写のごく初期に,長さの違いをもとにUsnRNAとmRNAとを区別する“分子定規”として機能し,それぞれのRNAに特有のプロセシング経路,さらには,それぞれに特有の核外輸送受容体による輸送経路に導く上で非常に重要な役割を果たすことを明らかにした(図1, 詳しくは谷口氏,大野氏の項を参照)18).mRNAの核外輸送経路の選択は,転写開始後のmRNPパッケージングの過程のかなり早い段階になされるようである.

4. 転写と共役したアダプタータンパク質のリクルート機構

RNAPIIは,12のサブユニットからなるタンパク質複合体である.サブユニット中最大のRPB1(ヒトの遺伝子の名称はPOLR2A)のカルボキシ末端領域(carboxy-terminal domain: CTD)には,ヒトで52,出芽酵母で26の繰り返し配列YSPTSPSが存在し,転写伸長,スプライシング,CPAに関与するタンパク質因子群が結合するプラットフォームとして機能する19).さまざまな因子のCTDへの結合は,1位のチロシン,2,5,7位のセリン(S2, S5, S7),4位のトレオニン残基のリン酸化により制御されている.転写開始直後にプロモーター近傍に存在するRNAPIIでは,S5が高度にリン酸化され(S5P)ているが,転写伸長に伴って遺伝子の3′側に移動するにつれて,徐々にそのリン酸化の度合いは低下する.mRNAにキャップ構造を付加するキャッピング酵素は,S5P修飾されたCTDに特異的に結合する.そのため,キャップ付加反応は転写のごく初期,つまり,新生RNAの5′末端がRNAPIIのexit channelから出た直後に起こると考えられている19)図3).S2は,プロモーター領域ではリン酸化されておらず,転写伸長が進むにつれリン酸化され,転写終結部位近傍でリン酸化の度合いがピークに達する.転写伸長因子,スプライシング因子,CPA因子など,mRNA生合成過程のより後期に機能する因子群は,S2PあるいはS2P/S5P修飾されたCTDに結合することでmRNAにリクルートされる19)図3).

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図3 転写と共役したアダプタータンパク質のリクルート機構

図上のグラフは,遺伝子の5′側,3′側におけるRNAPII CTDのS5およびS2のリン酸化の度合いを示す.

転写–核外輸送(transcription-export complex: TREX)複合体は,出芽酵母からヒトまで広く真核生物種間に保存されたタンパク質複合体である.TREX複合体には,転写伸長因子複合体として知られるTHO複合体,DEADボックス型RNAヘリカーゼSub2(ヒトではUap56),アダプタータンパク質Yra1(ヒトではAlyREF)が含まれる3)図3).その名前の由来のとおり,TREX複合体は,転写伸長に必要であるばかりでなく,Yra1を介してmRNA核外輸送受容体Mex67:Mtr2をmRNAにリクルートすることにより,転写伸長の過程とmRNA核外輸送の過程をリンクさせる機能を果たす3).これまで,TREX複合体とRNAPIIとの直接の相互作用は知られておらず,TREX複合体がどのような機構でmRNAにリクルートされているのかは知られていなかった.最近,ミュンヘン大学(現ギーセン大学)のSträßerらのグループは,TREX複合体の遺伝子上での局在,リン酸化CTDペプチドとの結合を詳しく解析し,THO複合体とS2P/S5P修飾CTDとの直接の結合を介して,TREX複合体がmRNAにリクルートされることを明らかにした20).多くの遺伝子がイントロンを含んでいない出芽酵母では,アダプタータンパク質を含んだTREX複合体のリクルートの過程は,リン酸化CTDとの相互作用を介して転写伸長過程と共役し,mRNA核外輸送複合体が形成されていると考えられる.ヒトのTHO複合体の遺伝子上での局在は詳しく解析されていないが,筆者らがヒトHSP70遺伝子におけるTHO複合体の局在をクロマチン免疫沈降法で調べたところ,ヒトTHO複合体も転写単位全体に分布し,遺伝子の3′側により多く結合するという出芽酵母のTHO複合体の分布と類似したパターンを示すことを見いだした(片平ら,未発表).ヒトTHO複合体がS2P/S5P修飾CTDと結合するかどうかは明らかではないが,イントロンを含まないヒトHSP70遺伝子においても,酵母と同様に転写と共役したアダプター分子のリクルートメント機構が機能していることが推察される.

5. スプライシングと共役したアダプタータンパク質のリクルート機構

出芽酵母とは異なり,ほとんどの遺伝子がイントロンを含んでいる多細胞生物では,スプライシングがmRNA核外輸送の促進に重要な役割を果たすといわれてきた21).スプライシング反応に伴い,イントロンが除去されるとともに,mRNAのエキソン境界部のおよそ20塩基ほど上流の部位に,eIF4AIIIと呼ばれるRNA結合タンパク質をコアとした複数のタンパク質が結合し,エキソンジャンクション複合体(exon-junction complex: EJC)が形成される22)図4).また,EJCとともにmRNAに結合したSRSF3,SRSF7といったSRタンパク質は,スプライシングに伴う脱リン酸化を受けることによりNxf1:Nxt1と相互作用して,アダプタータンパク質として機能することが報告されている23).Mooreらのグループは,内在性のEJCのmRNA上での分布,内在性のEJCと相互作用するタンパク質因子の網羅的な解析を行い,スプライシングに伴うEJCおよびアダプタータンパク質群のリクルートメントのようすを明らかにしている24).彼女らの報告によれば,細胞内で発現しているmRNAのほとんどのエキソン境界部にはEJCが形成されており,また,SRタンパク質はEJCと相互作用する主要なタンパク質であった.さらに,非常に興味深いことに,EJCどうしが相互作用することにより,多量体化しうることが見いだされた.このことは,一つのmRNA分子上に複数存在するEJCの多量体化が,mRNPのパッケージングに関与している可能性を示唆している.一方,多細胞生物では,主としてスプライシングに共役してmRNAにリクルートされるといわれていたTREX複合体は,この一連の解析から,EJCとはほとんど相互作用していないことが明らかにされた.in vitroの再構成実験では,TREX複合体は,キャップ結合複合体(cap binding complex: CBC)と相互作用することでmRNAの5′末端に最も近いEJCに結合することが報告されている25).内在性タンパク質の結合部位の解析から得られたこれらのデータは,細胞内でもTREX複合体が,mRNAの最も5′末端側の領域に限定的に結合していることを示しているのかもしれない(図4).

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図4 スプライシングと共役したアダプタータンパク質のリクルート機構

6. mRNA 3′末端形成過程と共役したアダプタータンパク質のリクルート機構

mRNA生合成の最終段階である転写終結に伴うCPAによるmRNAの3′末端形成は,成熟したmRNPの遺伝子からの解離と核外輸送に必須の過程である.CPAに関わる因子群は,S2P修飾されたCTDとの相互作用を介して転写に伴ってmRNA前駆体のポリ(A)シグナル付近にリクルートされる19)図3).CPAに同調してアダプタータンパク質がリクルートされることにより,転写終結とともに遺伝子から離脱した成熟mRNPが遅滞なく細胞質へ輸送される.

出芽酵母のCPA因子のうちCF1A複合体は,Pcf11,Clp1,Rna14およびRna15の4因子からなるタンパク質複合体である26).CF1A複合体は,Rna15の持つRNA結合活性により,ポリアデニル化シグナルの下流に存在するウリジンに富んだ配列に結合し,mRNA前駆体の3′末端切断部位の決定に重要な役割を果たす9).CF1A構成因子のPcf11は,それぞれ異なるドメインを介してS2P修飾されたCTDおよびClp1と相互作用することが知られていたが,転写伸長に伴うmRNAへのリクルートのメカニズムの詳細は明らかではなかった.コロラド大学のBentleyのグループは,アダプタータンパク質Yra1がPcf11と結合することを見いだした.in vitro結合実験の結果,Yra1とClp1はいずれもPcf11のカルボキシ末端側の領域に結合し,それぞれのPcf11への結合は相互排他的であった.彼らは,CTDとの相互作用を介して転写伸長に伴いポリ(A)付加部位近傍にリクルートされたPcf11/Yra1複合体にClp1が作用することで,Pcf11–Yra1の間の結合が解除されCF1A複合体の形成が促進されると同時に,mRNAにYra1が結合するというCPA因子の形成とアダプタータンパク質のリクルートメントの同期モデルを提唱している27)図5).ヒトのPcf11のカルボキシ末端領域も構造的に保存されており,また,ヒトPcf11とAlyREFとの結合がみられることから,このCPA反応と共役したアダプタータンパク質のリクルート機構は,種を超えて保存されたメカニズムであることが示唆されている27)

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図5 mRNA 3′末端形成過程と共役したアダプタータンパク質のリクルート機構

ZC3H3は,ショウジョウバエ細胞を用いたmRNA核外輸送因子のスクリーニングで得られたCCCHタイプのジンクフィンガーモチーフを含んだタンパク質である.ZC3H3は,ポリ(A)結合タンパク質のPABPN1[poly(A) RNA binding protein nuclear 1]および,輸送受容体Nxf1:Nxt1と結合し,これらの相互作用を介してアダプタータンパク質として機能する.ZC3H3の発現を抑制することにより,mRNAの核外輸送の阻害が起こるばかりでなく,ポリ(A)鎖伸長の異常が認められることから,ZC3H3はポリ(A)ポリメラーゼによるポリ(A)鎖伸長過程とmRNA核外輸送を共役させる因子であると考えられている28)図5).

筆者らのグループは,ヒトTREX複合体の構成因子の一つであるThoc5というRNA結合タンパク質が,ポリ(A)鎖付加部位選択の過程に関与していることを見いだした.Thoc5は,哺乳動物に特有のCPA因子であるCPSF6タンパク質と相互作用する.培養細胞でThoc5の発現をノックダウンすると,CPSF6の発現をノックダウンした場合と同様に,多くの遺伝子でより近位のポリ(A)鎖付加部位が選択され,3′非翻訳領域の短いmRNAばかりが発現するようになった.さらに,CPSF6の遺伝子への結合は,Thoc5をノックダウンすることにより有意に低下した.これらのことから,Thoc5は,遠位部のポリ(A)鎖付加部位へのCPSF6のリクルートを制御していることが推察された29).Thoc5およびCPSF6は,いずれも輸送受容体Nxf1:Nxt1に結合することが知られているアダプタータンパク質である30,31).遠位のポリ(A)鎖付加部位では,これらの因子が協調的に機能し,核外輸送受容体のリクルートに関与している可能性もある.

7. おわりに

出芽酵母を用いた,遺伝学的,生化学的な解析から,核内におけるmRNA核外輸送複合体形成のフレームワークが明らかにされてきた.多くの遺伝子がイントロンを含まない出芽酵母では,mRNAの核外輸送は,転写とポリ(A)鎖付加の過程にリンクしているようである.筆者の知る限り,多細胞生物ではSRタンパク質やAlyREFといったアダプタータンパク質の発現を個々に抑制しても,核外輸送受容体Nxf1:Nxt1の発現を抑制したときと同程度にmRNAの核外輸送が阻害されたという報告はない.一方で,一群のSRタンパク質を認識する抗体により,mRNAの核外輸送が阻害されることが報告されている32).これらのことから,アダプタータンパク質群には冗長性があり,個々のアダプタータンパク質は,mRNAの核外輸送に必要であるものの十分ではないということが考えられる.アダプタータンパク質群の標的mRNAの同定やそれぞれのmRNA上での結合部位の解析などが行われれば,多細胞真核生物におけるmRNA核外輸送機構について,さらなる理解が進むものと期待される.

mRNAの核外輸送は,生物の遺伝子発現に必須の過程である.その一方で,核内で複製するウイルスも宿主側のmRNA核外輸送装置を利用して遺伝子発現を行う.詳しいメカニズムに関しては明らかではないが,ある種の脂質代謝産物は,宿主のmRNAの核外輸送にはほとんど影響を与えず,インフルエンザウイルスmRNAと核外輸送受容体Nxf1:Nxt1の結合を選択的に阻害することが見いだされている33).このことは,インフルエンザウイルスが,自身のmRNAを核外輸送するために特有の機構を利用していることを示唆している.多細胞生物におけるmRNA核外輸送複合体形成の分子機構の全貌を明らかできれば,病原ウイルスが利用するmRNA核外輸送経路の同定,さらにはそれを特異的に阻害する抗ウイルス薬創薬など,応用的な研究の進歩にも貢献できるかもしれない.

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著者寸描

片平 じゅん(かたひら じゅん)

大阪大学大学院生命機能研究科(同医学系研究科兼任)准教授.農学博士(獣医学専攻).

略歴

新潟県長岡市生まれ,神奈川県茅ケ崎市育ち.1994年大阪府立大学農学研究科博士後期課程修了.大阪大学微生物病研究所助手,ハイデルベルグ大学生化学センター博士研究員,大阪大学細胞生体工学センター助手などを経て,2009年より現職.

研究テーマと抱負

mRNAほか,種々のRNAの生合成機構,核‒細胞質間輸送機構に関する研究.

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