生化学 SEIKAGAKU
Journal of Japanese Biochemical Society

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Journal of Japanese Biochemical Society 87(1): 125-128 (2015)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2015.870125

みにれびゅうMini Review

古くて新しい脂質メディエーター・12-HHTの同定と皮膚創傷治癒における役割Identification of the old and new lipid mediator, 12-HHT and the role in skin wound healing

順天堂大学大学院医学研究科生化学第一講座Department of Biochemistry, Graduate School of Medicine, Juntendo University ◇ 〒113-8421 東京都文京区本郷2-1-12-1-1 Hongo, Bunkyo-ku, Tokyo 113-8421, Japan

発行日:2015年2月25日Published: February 25, 2015
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1. はじめに

12(S)-hydroxyheptadecatrienoic acid(12-HHT,図1)は,アラキドン酸のシクロオキシゲナーゼ(COX)代謝物であるプロスタグランジンH2(PGH2)から生合成される不飽和脂肪酸である1).12-HHTと同じアラキドン酸代謝物であるプロスタグランジン(PG)やロイコトリエン(LT)は,1970年から1980年代に分子同定され,その後1990年代に各々の細胞膜受容体が遺伝子同定されている.その後,PGやLTの受容体や産生酵素の遺伝子欠損マウスの解析などから,PGやLTなどのエイコサノイドの多彩な生理機能が明らかにされている.一方,12-HHTはトロンボキサン(Tx)A2が産生されるときに同時に産生される単なる副産物とされ,長い間生理活性を有さない脂肪酸であると考えられてきた.我々は,12-HHTがBLT2と称されるGタンパク質共役型受容体(GPCR)の生体内リガンドであることを明らかにし2),さらにBLT2遺伝子欠損マウスの解析などから,12-HHTとBLT2が腸管上皮のバリア機能の維持や強化に関わること3),皮膚創傷治癒に促進的に作用すること4)を明らかにした.本稿では,BLT2の内在性リガンドが12-HHTであること2),12-HHTの生合成機構5),およびBLT2がケラチノサイトの遊走を促進することで皮膚創傷治癒に促進的に働くこと4)を明らかにした最近の知見について述べる.

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図1 12-HHTの生合成と代謝経路

12-HHTは,アラキドン酸のCOX代謝物であるPGH2から,マロンジアルデヒド(MDA)が開裂することで産生される.アスピリンなどの非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)は,COXを阻害することで12-HHT,PG,Txなどの生合成を阻害する.12-HHTはTxAS依存的にTxA2が生合成されるときに同時に産生されるが,非酵素的にも産生される.TxA2は大部分が非酵素的にTxB2に代謝されると考えられるが,一部12-HHTへと分解される可能性も考えられる.またin vitroにおいて15-ヒドロキシプロスタグランジン脱水素酵素(15-PGDH)依存的な12-HHTから12-KHTへの代謝が報告されている.

2. 12-HHTはBLT2の内在性リガンドである

BLT2は,ロイコトリエンB4(LTB4)の低親和性受容体として遺伝子同定された6).しかし,BLT2のLTB4に対する親和性は非常に低く,生体内に存在するLTB4の濃度では十分に活性化されないため,ほかの内在性リガンドの存在が想定された.我々は内在性の脂質リガンドを同定するため,ラットのさまざまな臓器の脂質抽出物のBLT2アゴニスト活性を検討し,特に小腸から抽出した脂質のアセトン可溶性画分がBLT2を特異的に活性化することを見いだした.さらに高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いて脂質を分画し,各フラクションのBLT2アゴニスト活性を解析した.BLT2に対する高いアゴニスト活性を有する画分を質量分析計で解析したところ,質量数279の不飽和脂肪酸12-HHTがBLT2のリガンド候補分子として浮上した.合成12-HHTと粗精製した質量数279のリガンド候補分子は,MS/MS解析で同じフラグメントパターンを示し,HPLC上で同じ保持時間を示した.さらにBLT2過剰発現細胞を用いて,詳細にアゴニスト活性を検討したところ,12-HHTはLTB4よりも10倍以上低い濃度でBLT2を活性化することがわかった.シクロオキシゲナーゼ1(COX-1)の遺伝子欠損マウスの小腸から抽出した脂質では,野生型マウス由来の脂質に比べてBLT2に対するアゴニスト活性が大きく減弱したことから,COX代謝物の一つである12-HHTがBLT2の内在性リガンドであることが強く示唆された2).さらに我々は,BLT2が魚類まで保存されていること,またゼブラフィッシュに2種類のBLT2が存在し,いずれも12-HHTによって活性化される受容体であることを明らかにしている(奥野ら,PLoS ONE受理済).

3. 12-HHTはどのようにして代謝されるのか

12-HHTは,PGやTxと同様にCOX代謝物のPGH2を前駆体として生合成される(図1).12-HHTは,シトクロムP450ファミリーに属するTx合成酵素(TxAS)依存的にTxA2が生合成されるときに同時に産生される7).TxASは血小板に多く発現しており,血小板凝集時に細胞質型ホスホリパーゼA2α(cPLA2α),COX-1,TxAS依存的にTxA2や12-HHTが生合成される.また血小板には12-リポキシゲナーゼも多く発現しているため,アスピリンなどでCOXを阻害した場合は12(S)-hydroxyeicosatetraenoic acid(12-HETE)が多量に産生する2).高濃度の12-HETEもBLT2を活性化しうる8)が,その生理的意義は明らかでない.また12-HHTはTxAS非依存的にも産生される.PGH2は水溶液中で不安定であり,非酵素的に12-HHT,PGE2,PGD2,PGF2αなどに代謝される.またヘムやグルタチオン存在下で,12-HHTが非酵素的に合成されることも報告されている9).TxAS依存的にPGH2から生合成されるTxA2は,水溶液中で非常に不安定な化合物であり,大部分は速やかにTxB2に加水分解されると考えられるが,一部,12-HHTとマロンジアルデヒド(MDA)に開裂する反応経路も考えられる(図1).またマクロファージにおいて,12-HHTがシトクロムP450 2S1依存的に生合成されることが報告されている10,11)が,生体内での関与は明らかでない.また15-ヒドロキシプロスタグランジン脱水素酵素(15-PGDH)依存的に12-HHTの12位の水酸基がケト基に酸化され,12-keto-heptadecatrienoic acid(12-KHT)に代謝されることが報告されている12–14).我々は,化学合成した12-KHTを用いてMRM(Multiple reaction monitoring)条件を設定し,質量分析計で測定を行ったが,生体組織中の12-KHTの量は少なく,12-KHTが12-HHTの主要な代謝物であるかどうかは定かでない(奥野ら,未発表).

4. 皮膚創傷治癒におけるBLT2の役割

マウスにおいてBLT2は,腸管上皮細胞や皮膚ケラチノサイトに発現しており,外界と接する上皮系の細胞で何らかの役割を果たしていることが考えられた.腸管上皮におけるBLT2の役割を明らかにするため,BLT2欠損マウスを用いてデキストラン硫酸ナトリウム(DSS)誘導性の炎症性腸疾患モデルを作製・解析した.その結果,BLT2欠損マウスの大腸炎は野生型マウスより重篤化し,その原因がBLT2欠損による腸管上皮のバリア機能の低下である可能性が明らかになった3)

次に皮膚におけるBLT2の役割を明らかにするために,マウスの背中の毛をそり,皮膚パンチを行った後の創傷治癒を観察するスキンパンチの実験を行った.野生型マウスに比べて,BLT2遺伝子欠損マウスは皮膚創傷治癒が遅延した.またアスピリンを投与したマウスでも創傷治癒が遅延し,その遅延はBLT2欠損マウスで消失した.またTxAS欠損マウスが野生型マウスに比べて治癒が遅延し,TxA2/PGH2受容体(TP)欠損マウスでは創傷治癒が遅延しなかったことから,12-HHT-BLT2軸が皮膚創傷治癒において促進的に働くことが示唆された.

一般に創傷治癒は,炎症期,増殖期,修復期の三つのステップに分けられる.炎症期には好中球やマクロファージが創傷部位に集まり,細菌や壊死組織を貪食する.増殖期には,線維芽細胞からコラーゲンを中心とした細胞外マトリックスの産生,新生血管の侵入,および表皮細胞(ケラチノサイト)の遊走による創傷部位の閉鎖が生じる.修復期には,線維芽細胞がコラーゲンマトリックスを再編成し,最終的に筋線維芽細胞が結合織や創を収縮させる.皮膚においてBLT2はケラチノサイトに高発現し,線維芽細胞や炎症細胞にはほとんど発現していなかった.またBLT2欠損やアスピリン投与は,炎症期に遊走してくる炎症細胞の数や割合には影響を与えなかった.増殖期の皮膚切片を組織学的に検討したところ,筋線維芽細胞の関与が大きい傷の幅(wound length)はBLT2欠損マウスで変わらなかったが,ケラチノサイトの遊走によってもたらされる再上皮化(re-epithelialization)がBLT2欠損マウスで減弱していた.またBLT2欠損はケラチノサイトの細胞増殖には影響しなかった.したがって,BLT2がケラチノサイトの遊走を促進することによって創傷治癒を促進することが強く示唆された.またアスピリンを投与することによって,12-HHTの産生を抑制したマウスでも創傷治癒が遅延し,また皮膚切片の組織学的検討によって,アスピリン投与マウスでもBLT2欠損マウスと同様にケラチノサイトの遊走のみが減弱していることがわかった.以上の結果は,非ステロイド性抗炎症薬(NSAIDs)などのアスピリン投与による創傷治癒の遅延が,12-HHTの産生抑制によるものであることを示唆している.

さらに詳細な分子機序を明らかにする目的で,初代培養ケラチノサイトを用いたin vitroのスクラッチアッセイを行った.その結果,in vitroにおいても,12-HHTおよびBLT2依存的に創傷治癒が促進した.さらにRT-PCR解析,抗TNFα(腫瘍壊死因子α)中和抗体を用いたスクラッチアッセイ,ザイモグラフィーアッセイなどにより,ケラチノサイトがTNFαを産生し,TNFαがタンパク質分解酵素matrix metallopeptidase 9(MMP9)の発現上昇を促すことで,細胞遊走を促進することがわかった(図2).

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図2 皮膚創傷治癒における12-HHTとBLT2の役割のモデル図

ケラチノサイトに発現するBLT2は,凝固した血小板が産生する12-HHTによって活性化され,TNFα,IL-1β,MMP(メタロプロテアーゼ)などを産生することでケラチノサイトの遊走を促進し,創傷治癒に促進的に働く.

さらに我々は,創傷治癒におけるBLT2アゴニストの治療的効果を検討した.マウスの創傷部位にBLT2の合成アゴニストを塗布することによって,皮膚の創傷治癒が促進された.現在,臨床医学の現場では糖尿病性の皮膚潰瘍が重要な問題となっている.そこで糖尿病のモデルマウスであるdb/dbマウスを用いて,糖尿病性皮膚潰瘍におけるBLT2アゴニストの治療的効果を検討したところ,db/dbマウスにおいてもBLT2アゴニストは創傷治癒を促進した.皮膚切片を作製し,組織学的に検討したところ,BLT2アゴニストがケラチノサイトの遊走を促進していることがわかった4)

以上の結果は,BLT2アゴニストが新しい皮膚潰瘍の治療薬になりうることを示唆している.現在,ケラチノサイトに直接作用して創傷治癒を促進する薬剤は上市されておらず,BLT2アゴニストは新しい切り口の新規皮膚潰瘍治療薬になりうるのではないかと期待している.

5. おわりに

近年,自己多血小板血漿(platelet rich plasma: PRP)を用いた皮膚再生が注目されている.PRP注入療法は自然治癒システムを最大限に利用する再生医療の一つである.これまでPRP注入治療において,血小板由来のPDGF(血小板由来増殖因子),FGF(線維芽細胞増殖因子),EGF(表皮増殖因子),VEGF(血管内皮細胞増殖因子)およびTGFβ(トランスフォーミング増殖因子)などによって,血管新生や修復,コラーゲン産生,上皮細胞の増殖などが促進されることが明らかにされている.我々は,これらの増殖因子に加えて,12-HHTがPRP注入療法の治療効果に関わっている可能性があるのではないかと考えている.

引用文献References

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著者寸描

奥野 利明(おくの としあき)

順天堂大学大学院医学研究科生化学第一講座准教授.医学博士.

略歴

1972年大阪府に生る.96年慶応大学理工学部化学科卒業.98年同大学院修士課程修了.02年東京大学大学院医学系研究科博士課程満期退学.03年同大学メタボローム講座助手.06年九州大学大学院医学研究院医化学分野助手,07年同助教を経て,12年より現職.

研究テーマと抱負

新規脂質メディエーターの同定と受容体を介した生理機能の解明.最近は質量分析計を用いたリピドミクス研究に精力を注いでいます.現在の研究環境を生かした臨床に役立つ基礎研究を目指しています.

ウェブサイト

http://plaza.umin.ac.jp/j_bio/Biochem1/Top.html

趣味

旅行,音楽鑑賞.

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