生化学 SEIKAGAKU
Journal of Japanese Biochemical Society

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Journal of Japanese Biochemical Society 87(2): 176-182 (2015)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2015.870176

総説Review

各臓器におけるFOXO1の代謝作用The roles of FOXO1 in various metabolic organs

1群馬大学生体調節研究所代謝シグナル研究展開センターMetabolic Signal Research Center, Institute for Molecular and Cellular Regulation, Gunma University ◇ 〒371-8512 群馬県前橋市昭和町3-39-153-39-15 Showa-machi, Maebashi-shi, Gunma 371-8512, Japan

2藤沢湘南台病院Fujisawa Shounandai Hospital ◇ 〒252-0802 神奈川県藤沢市高倉23452345 Takakura, Fujisawa-shi, Kanagawa 252-0802, Japan

発行日:2015年4月25日Published: April 25, 2015
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FOXO1は肝臓では糖新生酵素の調節を介して全身の糖代謝を制御している.膵臓ではPDX1やNeurogenin3の制御を介して,β細胞の新生,増殖,分化,脱分化を調節している.視床下部においても食欲やエネルギー消費を制御している.また,骨格筋においては筋細胞の分化や筋萎縮の制御を介して運動持久力や骨格筋での糖代謝を調節している.血管内皮細胞でもiNOSやeNOSを調節することで,動脈硬化の進展とも関わっている.白色脂肪細胞や脂肪組織内マクロファージにおいても細胞分化や炎症の制御に関与している.また,腸管内分泌細胞でFOXO1を抑制すると膵β細胞が作製できるという報告もあり,再生医療につながる可能性がある.今後,FOXO1阻害薬が糖尿病治療に応用できるか大いに期待されている.

1. はじめに

FOXOタンパク質はforkheadドメインを有する転写因子群のOサブファミリーに属する転写因子であり(forkhead box-containing protein, O sub-family),哺乳類の細胞にはFOXO1,FOXO3a,FOXO4の三つのアイソフォームが発現している.重要なことに,全身でFOXO1を欠損したマウスが胎生致死になるのに対し,FOXO3a欠損マウスは,メスに卵巣機能不全による不妊が認められるが,オスは正常で,FOXO4欠損マウスに至っては,オス,メスともに正常であることから,生体にとってはFOXO1が最も重要なアイソフォームと考えられる1).FOXO1の転写活性はインスリンシグナルの下流でAKTによるリン酸化と,それによって惹起される核から細胞質への移行により調節されている.つまり,インスリンによりAKTが活性化されると,FOXO1は核内でリン酸化され,細胞質へ移行して不活性型となる.FOXO1は広く種々の臓器の細胞に発現しており,細胞の分化,増殖,アポトーシス,老化,DNA修復など基本的な細胞機能を調節している2).さらに,FOXO1は種々の代謝関連臓器において,さまざまな代謝作用を担っている3–5)図1).これらの種々の臓器におけるFOXO1の代謝作用は主に臓器特異的FOXO1遺伝子改変マウスを用いて解析されてきた.したがって,本稿では肝臓,膵臓,腸管,視床下部,骨格筋,脂肪組織,血管内皮細胞,マクロファージにおけるFOXO1の代謝作用をFOXO1遺伝子改変マウスの表現型を呈示しながら概説する.

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図1 各種臓器におけるFOXO1の代謝作用

FOXO1は種々の臓器において,インスリンの代謝作用に重要な役割を担っている.肝臓においては,FOXO1は糖新生に関わるホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ(PEPCK)やグルコース6-ホスファターゼ(G6Pase),解糖に関わるグルコキナーゼや脂肪合成に関わるSREBP1c(sterol regulatory element binding protein 1c)とChREBP(carbohydrate-responsive-element-binding protein)を調節することで,糖代謝と脂質代謝の両方を制御している.視床下部においては,FOXO1は摂食調節神経ペプチドアグーチ関連タンパク質(AGRP)とプロオピオメラノコルチン(POMC)やプロホルモン変換酵素カルボキシペプチダーゼE(CPE),Gタンパク質共役受容体GPR17などの制御を介して,摂食やエネルギー消費をコントロールしている.膵臓においては,PDX1やNeurogenin3の転写調節を介してβ細胞の増殖,分化,新生に関わっており,さらにNeuroDやMafAを調節することで,β細胞の酸化ストレス抵抗性に対しても重要な役割を果たしている.また,血管内皮においては,NOの産生調節や,内皮細胞の分化,単球の血管内皮への接着を調節することで,動脈硬化の進展にも関わっている.脂肪組織においては,白色脂肪細胞の分化調節に加えて,褐色脂肪細胞におけるエネルギー代謝も調節している.さらに骨格筋細胞の分化調節や骨格筋萎縮,マクロファージの移動や活性化にもFOXO1は深く関与している.

2. 肝臓におけるFOXO1の代謝作用

1)肝臓特異的FOXO1トランスジェニックマウス

FOXO1のAKTによるリン酸化部位であるSer253をAlaに置換したFOXO1-S253A変異体をトランスチレチンプロモーターの下流に挿入したトランスジーンを用いて作製したトランスジェニックマウスは,肝臓と膵β細胞特異的に恒常的活性型FOXO1を発現する.これらのマウスでは肝臓で糖新生系酵素グルコース6-ホスファターゼ(G6Pase)の発現が増加しており(G6PaseはFOXO1の転写標的),耐糖能の悪化と高血糖を示した.また,膵β細胞におけるPDX1(pancreas duodenum homebox 1)の発現減少からβ細胞数の減少,インスリン分泌低下も伴っており,肝糖産生の亢進とインスリン分泌低下の両方の影響が確認された6).一方,別のグループからはAKTによる3か所のリン酸化部位をすべてAlaに置換したFOXO1-3A変異体をα1アンチトリプシンプロモーターの下流に挿入したトランスジーンを用いて作製したトランスジェニックマウスも報告された.これらのマウスも肝臓で特異的に恒常的活性型FOXO1を発現する.これらのマウスは肝臓でG6Paseとホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ(PEPCK)の発現が増加しており(PEPCKもFOXO1の転写標的),耐糖能の悪化と高血糖を示した.さらに,解糖系酵素であるグルコキナーゼや脂肪合成系酵素SREBP1cの発現は減少しており,血中トリグリセリドとコレステロール濃度は低下していた7).したがって,肝臓においてFOXO1は糖新生を促進し,解糖や脂肪合成を抑制していると考えられる.

2)肝臓特異的FOXO1ノックアウトマウス

α1アンチトリプシン-CreマウスとFoxo1-floxマウスを交配し,肝臓で特異的にFOXO1を欠損するマウスが作製された.これらのマウスでは肝臓における糖新生とグリコーゲン分解が抑制されており,血糖値は低下していた.興味深いことに,これらのマウスと交配すると,インスリン受容体欠損マウスの糖尿病が部分的に改善された8).また,これらのマウスにストレプトゾトシン投与による高血糖を誘発すると,血中トリグリセリド,コレステロール,遊離脂肪酸濃度が上昇し,その後の遺伝子解析で,脂質合成に関わるSREBP1cやFGF21,SREBP2遺伝子の発現増加が認められた.FOXO1は高血糖時には過剰な肝脂質合成を抑制している可能性がある9)

3. 膵臓におけるFOXO1の代謝作用

1)膵臓特異的FOXO1トランスジェニックマウス

恒常的活性型FOXO1-ADA変異体[AKTによる3か所のリン酸化部位をアラニン(A)とアスパラギン酸(D)に置換した変異体]をPdx1プロモーターの下流に挿入したトランスジーンを用いて作製したトランスジェニックマウスは,膵臓で特異的に恒常的活性型FOXO1を発現する.これらのマウスは出生,成長ともに野生型マウスとの差を認めなかったが,膵臓の腺房細胞の減少,β細胞の減少,α細胞の増加,膵管細胞の増加とそれに伴う多発性膵嚢胞の形成,およびランゲルハンス島内微小血管の増加を認めた.さらに,単離したランゲルハンス島からのグルコース刺激依存性インスリン分泌は低下しており,一部のマウスは顕性の糖尿病を発症した10).メカニズムとしては膵細胞の分化,増殖に重要であるPDX1のFOXO1による転写抑制が考えられる.したがって,FOXO1は膵細胞の分化や膵細胞型の決定に重要な役割を担っていることが示唆された.

2)膵臓特異的FOXO1ノックアウトマウス

Pdx1-CreマウスとFoxo1-floxマウスを交配し,膵臓特異的にFOXO1を欠損するマウスを作製した.これらのマウスではランゲルハンス島の数とβ細胞の量が増加しており,実際に血中インスリン濃度も上昇していた.また,インスリン陽性の膵管細胞の数が増加しており,前駆細胞を含んでいる膵管からβ細胞の分化,新生が誘発されている可能性が示唆された.さらに,これらのマウスを高脂肪食で飼育すると,糖負荷試験で耐糖能の改善が認められた11).筆者らは以前に骨格筋細胞の分化モデルを用いてFOXO1とNotchシグナルのクロストークを報告している12)図2に模式図を示すが,Notchシグナル下流の転写因子CSL(Rbp-jkとも呼ばれる)は転写抑制因子Hes1遺伝子のプロモーター上に恒常的に結合している.Notchリガンドが細胞膜上のNotch受容体と結合すると,Notch受容体の細胞内ドメイン(Notch-ICと呼ぶ)が切断されて核内に移行し,CSLと結合することでHes1遺伝子の転写が活性化される.FOXO1は核内でCSLと直接結合し,そのことが引き金となって転写共役抑制因子のNCoRやSMRTがHes1プロモーターから解離し,逆に転写活性化共役因子であるMaMがリクルートされてきてHes1遺伝子の転写が活性化される.つまり,FOXO1はNotchシグナルと協調的に作用してHes1の転写制御に関わっている.骨格筋細胞においてはHes1の標的遺伝子は骨格筋細胞の分化に重要な転写因子MyoDであり,Hes1によるMyoDの発現抑制を介して,FOXO1は骨格筋細胞の分化を抑制している12).一方,膵細胞においては,Hes1の標的遺伝子はNeurogenin3であり,同様のメカニズムを介してFOXO1が膵細胞の分化を抑制していると考えられる.

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図2 FOXO1とNotchシグナルが協調してHes1転写を活性化するメカニズム

Notchリガンドが細胞膜上のNotch受容体と結合すると,Notch受容体の細胞内ドメイン(Notch-ICと呼ぶ)が切断されて核内に移行し,CSLと結合することでHes1遺伝子の転写が活性化される.FOXO1は核内でCSLと直接結合し,そのことが引き金となって転写共役抑制因子のNCoRやSMRTがHes1プロモーターから解離し,逆に転写活性化共役因子であるMaMがリクルートしてきてHes1遺伝子の転写が活性化される.Hes1は膵臓ではNeurogenin3,骨格筋ではMyoDの転写抑制因子であることから,結果としてFOXO1はNeurogenin3やMyoDの発現を抑制し,膵細胞や骨格筋細胞の分化を制御している.

3)膵β細胞特異的FOXO1ノックアウトマウス

Rip (rat insulin promoter)-CreマウスとFoxo1-floxマウスを交配し,膵β細胞特異的にFOXO1を欠損するマウスを作製した.これらのマウスでは上述の膵臓特異的FOXO1ノックアウトマウスのようにβ細胞やランゲルハンス島の増加やインスリン濃度の上昇は認められなかった.Pdx1-Creを使ったシステムではβ細胞以外に膵臓の前駆細胞でもFoxo1が欠損し,それによる前駆細胞からのβ細胞分化,新生が起こるが,Rip-Creのシステムではβ細胞のみでFoxo1が欠損し,前駆細胞では欠損しないため,β細胞の分化,新生が起こらないと考えられる.したがって,Pdx1-Creの方は血中インスリン濃度が上昇したが,Rip-Creの方は上昇しない.しかしながら,高度の糖尿病モデルであるdb/dbマウスと交配すると,コントロールのdb/dbマウスよりも重度のインスリン分泌障害が出現し,耐糖能は著明に悪化した11).詳細なメカニズムは不明であるが,これらのマウスでは成熟インスリン分泌顆粒が減少していることから,高血糖状態ではFOXO1にはβ細胞機能の保護作用(ストレス抵抗性)があると考えられる.

一方,β細胞特異的FOXO1ノックアウトマウスのメスに妊娠出産を繰り返し,さらに高齢化させて強い代謝性ストレスを与えると,β細胞にNeurogenin3の発現が誘導され,β細胞は脱分化して,インスリンを分泌しなくなることが報告された13).さらに興味深いことに,これらの脱分化したβ細胞は,その後α細胞に再分化することが確認された.このFOXO1を介したβ細胞の脱分化,再分化仮説をまとめると,図3のようになる.通常,FOXO1はβ細胞の細胞質に発現しているが,高血糖になると酸化ストレスからFOXO1は核に移行する(核移行したFOXO1は抗酸化酵素の遺伝子転写を介してβ細胞のストレス抵抗性に寄与している).しかしながら,高血糖に加齢や妊娠出産という代謝性負荷が重なると,FOXO1はタンパク質分解を受けて消失する.すると,FOXO1によって抑制されていたNeurogenin3の発現が亢進し,それが引き金となってβ細胞は脱分化を起こし,より未分化な前駆細胞様の細胞に変化する.その後,これらの細胞の一部は再分化してα細胞になる.これまで2型糖尿病に伴ってβ細胞量が減少する理由として,アポトーシスが考えられてきたが,このような脱分化という新しい概念が提唱された13).さらに最近,この現象はヒトにおいても確認された14).実際に2型糖尿病患者の剖検例でβ細胞の減少とα細胞の増加がしばしば観察されてきたが,その理由をこのメカニズムは見事に説明している.

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図3 代謝性ストレス下でのβ細胞におけるFOXO1の動態と,それに伴うβ細胞の脱分化,再分化メカニズム

通常,FOXO1はβ細胞の細胞質に発現しているが,高血糖になると酸化ストレスからFOXO1はアセチル化を受けて核に移行する.しかしながら,高血糖に加齢や妊娠出産という生理的負荷が重なると,FOXO1はタンパク質分解を受けて消失する.すると,FOXO1によって抑制されていたNeurogenin3の発現が亢進し,それが引き金となってβ細胞は脱分化を起こし,より未分化な前駆細胞様の細胞に変化する.その後,これらの細胞の一部は再分化してα細胞になる.

4. 腸内分泌細胞におけるFOXO1の代謝作用

1)腸管内分泌細胞特異的FOXO1ノックアウトマウス

Neurogenin3は膵臓と腸管の内分泌細胞の前駆細胞に共通して発現している.Neurogenin3-CreマウスとFOXO1-floxマウスを交配し,腸管内分泌細胞特異的にFOXO1を欠損するマウスが作製された.これらのマウスではNeurogenin3陽性細胞が10倍以上に増加しており,同様に内分泌細胞のマーカーであるクロモグラニンA陽性細胞も増えていたことから,FOXO1の欠損が腸管内分泌細胞の前駆細胞を増やすと考えられた15).また,これらのマウスの腸管に多数のインスリン陽性細胞の出現を認め,それらはC-ペプチドによる染色でも確認された.さらに,これらのマウスにストレプトゾトシンを投与すると,コントロールのマウスでは投与後,速やかに血糖値が上昇したのに対し,これらのマウスでは投与直後には高血糖を呈したが,その後は次第に(投与9日目以降)血糖値が低下を始め,最終的には軽度の高血糖に落ち着いた15).したがって,FOXO1の欠損により腸管細胞の一部がインスリン分泌細胞になり,糖尿病を改善したと考えられた.

2)ヒトiPS細胞由来腸管オルガノイドにおけるFOXO1ノックダウン

将来の糖尿病に対する再生医療を考える上で,大変興味深い報告がなされた16).ヒトiPS細胞由来の腸管オルガノイドに対し,FOXO1の優位抑制型変異体,あるいはsmall hairpin RNAを導入すると,インスリン陽性細胞が形成され,これらの細胞は成熟β細胞のマーカーをすべて発現していた.これらの細胞を移植することで糖尿病が改善できるか,in vivoでの検証に期待がかかる.

5. 視床下部におけるFOXO1の代謝作用

視床下部におけるFOXO1の役割については,ラットの視床下部に恒常的活性型FOXO1を発現するアデノウイルスをマイクロインジェクションする系で最初に検討された17).その結果,FOXO1がSTAT3と競合的に作用し,摂食調節ペプチドであるアグーチ関連タンパク質(AGRP)やプロオピオメラノコルチン(POMC)の発現レベルを調節することで,摂食量を制御していることが明らかとなった.その後,以下に示す種々のFOXO1遺伝子改変マウスが作製されて,さらに詳細なメカニズムが明らかとなった.

1)POMCニューロン特異的FOXO1ノックインマウス

Rosa26遺伝子座にloxPにはさまれたstopカセットと恒常的活性型FoxO1-3AのcDNAを挿入したRosa26-CA-FOXO1ノックインマウスが作製された18).次に,このノックインマウスとPomc-Creマウスを交配することで,POMCニューロンでのみ活性型FOXO1が発現するマウスが作製された.これらのマウスはメスで過食を伴った体重増加を呈した.活動量や酸素消費量に変化は認めなかった.また,視床下部でPomc遺伝子の発現量が低下しており,クロマチン免疫沈降(ChIP)アッセイの結果から,Pomcプロモーターに結合するリン酸化STAT3の減少が確認された.

2)視床下部・膵臓特異的FOXO1ノックインマウス

Pdx1-Creマウスでは膵臓のほかに,脳の視床下部でも特異的にCreが発現している19).したがって,Pdx1-Creマウスと先述のRosa26-CA-FOXO1ノックインマウスを交配し,視床下部と膵臓の両方で恒常的活性型FOXO1を発現するマウスが作製された.これらのマウスでは,POMCニューロンとAGRPニューロンを含めた視床下部ニューロン全体で活性型FOXO1が発現している.これらのマウスは摂食量の増加と酸素消費量の減少を伴って肥満を呈した.また,そのメカニズムとして視床下部のAGRPとニューロペプチドY(NPY)の発現量の増加と,脂肪組織,骨格筋における脱共役タンパク質1(UCP1)とPGC1α(PPARγ co-activator-1α)の発現量の減少が確認された20)

3)POMCニューロン特異的FOXO1ノックアウトマウス

Pomc-CreマウスとFoxo1-floxマウスを交配し,POMCニューロン特異的FOXO1欠損マウスが作製された.これらのマウスは酸素消費量の変化は伴わず,摂食量が減少することで体重減少を呈した.そのメカニズムとして,FOXO1が転写共役抑制因子として作用し,POMCからαMSH(α-melanocyte stimulating hormone)の産生に関わるプロホルモン変換酵素であるカルボキシペプチダーゼE(CPE)の発現を抑制することが明らかとなった21)

4)AGRPニューロン特異的FOXO1ノックアウトマウス

Agrp-ires-CreマウスとFoxo1-floxマウスを交配し,AGRPニューロン特異的FOXO1欠損マウスが作製された.これらのマウスは摂食量の減少を伴って体重が低下した.また,耐糖能の改善やレプチンやインスリンの感受性が亢進していた.そのメカニズムとして,AGRPニューロンの神経活性を制御しているGタンパク質共役受容体GPR17の発現が減少していることが確認された.また,ChIPアッセイ等を用いて,GPR17がFOXO1の転写標的であることも示された22)

6. 骨格筋におけるFOXO1の代謝作用

1)骨格筋特異的FOXO1トランスジェニックマウス

αアクチンプロモーターの下流にFOXO1を挿入したトランスジーンを用いて骨格筋特異的FOXO1トランスジェニックマウスが作製された.これらのマウスでは1型筋繊維を主体に筋量が減少しており,運動持久力も低下していた.さらに糖負荷試験,インスリン負荷試験では耐糖能とインスリン感受性の低下が確認された.そのメカニズムとして,タンパク質分解酵素であるカテプシンLがFOXO1の転写標的となっており,このマウスでは骨格筋でカテプシンLの発現が増加するために,骨格筋萎縮が起こることが推定された23)

2)骨格筋特異的FOXO1ノックアウトマウス

ミオゲニン-CreマウスとFoxo1-floxマウスを交配し,骨格筋特異的にFOXO1が欠損するマウスが作製された.これらのマウスでは骨格筋における1型筋繊維の2型筋繊維に対する比率が低下しており,運動持久力の低下も伴った.これらのマウスの骨格筋を解析すると,骨格筋細胞の分化を制御しているMyoDの発現増加とミオゲニンの発現減少が認められた.そのメカニズムとしては,先述したFOXO1とNotchシグナルによる協調作用が考えられた12).なお,これらのマウスでは上記のカテプシンLは発現が減少しており24),持久力の低下は骨格筋萎縮が原因ではないと思われる.

7. 脂肪細胞におけるFOXO1の代謝作用

aP2プロモーターの下流にトランス活性化ドメインを欠失した優位抑制型FOXO1を挿入したトランスジーンを用いて,脂肪細胞特異的に優位抑制型のFOXO1を発現するトランスジェニックマウスが作製された.これらのマウスでは白色脂肪のサイズが小型化し,体重が減少していた.また,耐糖能やインスリン感受性の亢進も認められた.これらのマウスの白色脂肪組織におけるアディポネクチン,glucose transporter 4(GLUT4)の発現は増加しており,逆に腫瘍壊死因子α(TNFα)とchemokine receptor 2(CCR2)の発現は減少していた.一方,褐色脂肪組織ではPGC1α,UCP1,UCP2,β3アドレナリン受容体の発現が増加しており,実際にこれらのマウスの酸素消費量は増加していた25)

8. 血管内皮細胞におけるFOXO1の代謝作用

Tie2-CreマウスとFoxo1/Foxo3a/Foxo4-floxマウスを交配し,血管内皮細胞特異的にFOXO1/FOXO3a/FOXO4の三つのアイソフォームすべてが欠損するマウスが作製された26).これらのマウスの大動脈の血管内皮細胞では内皮型一酸化窒素合成酵素(endothelial nitric oxide synthase: eNOS)のmRNAが増加し,NOの産生も亢進していた.一方,誘導型一酸化窒素合成酵素(inducible NOS: iNOS)の遺伝子転写調節にFOXO1が関わっていることは以前より報告されていたが27),これらのマウスの血管内皮ではiNOSの発現減少と,炎症性サイトカインであるMCP1,IL-1β,IL-6の発現レベルも低下していた.さらに,これらのマウスを動脈硬化モデルであるLDL受容体欠損マウスと交配させると,動脈硬化巣の有意な減少が確認された26)

9. マクロファージにおけるFOXO1の代謝作用

リゾチームM(LysM)-Creマウスと先述のRosa26-CA-FoxO1ノックインマウスを交配し,マクロファージで特異的に活性型FOXO1を発現するマウスが作製された.これらのマウスの脂肪組織マクロファージでCCR2の発現が亢進しており,脂肪組織中のM1マクロファージの数も増加していた.プロモーター解析,ChIPアッセイを用いて,CCR2がFOXO1の転写標的であることが確認された.さらに,これらのマウスを高脂肪食で飼育すると,体重に変化は認めないものの,脂肪細胞サイズが増加し,インスリン抵抗性が増悪した28)

10. FOXO1阻害薬の臨床応用への期待

肝臓特異的なFOXO1遺伝子改変マウスの成績から,FOXO1は肝臓において糖新生を促進していることが明らかとなった.したがって,FOXO1阻害薬は糖新生を抑制し,糖尿病病態での血糖値を低下させる可能性が期待できる.実際に,質量分析を用いたFOXO1結合低分子化合物のスクリーニングから,いくつかのFOXO1阻害薬が開発されている.たとえば,AS1708727をdb/dbマウスに投与すると,4日後には肝臓においてG6PaseとPEPCKの発現が減少し,血糖値も改善している29).さらにAS1842856は野生型マウスに投与しても血糖値に影響しない(低血糖は起こらない)が,db/dbマウスに投与すると,やはり肝糖産生の低下から血糖値が有意に改善している30).さらに興味深いことに,AS1842856をマウスに投与すると1週間後には膵臓でδ細胞(ソマトスタチンを分泌する)からβ細胞への変換が確認できたとする報告もある31).これらのFOXO1阻害薬が肝臓や膵臓以外の臓器でどのような影響をするかは今後慎重に検討する必要はあるが,4-2)項で述べた再生医療への応用とともに,将来の新しい糖尿病治療戦略にFOXO1が応用される可能性が高い.

11. おわりに

これまでの遺伝子改変マウスを用いた解析から,FOXO1の各臓器における代謝作用が明らかとなってきた.今後,FOXO1を軸にした臓器間の代謝ネットワークをさらに解明し,その異常を改善することで,糖尿病やメタボリック症候群などの代謝性疾患に対する新しい治療戦略につながることを期待している.

謝辞Acknowledgments

FOXO1研究を推進するにあたり,ご指導いただいた米コロンビア大学のDomenico Accili先生,慶応大学の中江淳先生,神戸大学の木戸良明先生,さらに現在の研究室で熱心に研究を続けているスタッフ全員に感謝申し上げます.

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19) Wicksteed, B., Brissova, M., Yan, W., Opland, D.M., Plank, J.L., Reinert, R.B., Dickson, L.M., Tamarina, N.A., Philipson, L.H., Shostak, A., Bernal-Mizrachi, E., Elghazi, L., Roe, M.W., Labosky, P.A., Myers, M.G. Jr., Gannon, M., Powers, A.C., & Dempsey, P.J. (2010) Diabetes, 59, 3090–3098.

20) Kim, H.J., Kobayashi, M., Sasaki, T., Kikuchi, O., Amano, K., Kitazumi, T., Lee, Y.S., Yokota-Hashimoto, H., Susanti, V.Y., Kitamura, Y.I., & Kitamura, T. (2012) Endocrinology, 153, 659–671.

21) Plum, L., Lin, H.V., Dutia, R., Tanaka, J., Aizawa, K.S., Matsumoto, M., Kim, A.J., Cawley, N.X., Paik, J.H., Loh, Y.P., DePinho, R.A., Wardlaw, S.L., & Accili, D. (2009) Nat. Med., 15, 1195–1201.

22) Ren, H., Orozco, I.J., Su, Y., Suyama, S., Gutierrez-Juarez, R., Horvath, T.L., Wardlaw, S.L., Plum, L., Arancio, O., & Accili, D. (2012) Cell, 149, 1314–1326.

23) Kamei, Y., Miura, S., Suzuki, M., Kai, Y., Mizukami, J., Taniguchi, T., Mochida, K., Hata, T., Matsuda, J., Aburatani, H., Nishino, I., & Ezaki, O. (2004) J. Biol. Chem., 279, 41114–41123.

24) Yamazaki, Y., Kamei, Y., Sugita, S., Akaike, F., Kanai, S., Miura, S., Hirata, Y., Troen, B.R., Kitamura, T., Nishino, I., Suganami, T., Ezaki, O., & Ogawa, Y. (2010) Biochem. J., 427, 171–178.

25) Nakae, J., Cao, Y., Oki, M., Orba, Y., Sawa, H., Kiyonari, H., Iskandar, K., Suga, K., Lombes, M., & Hayashi, Y. (2008) Diabetes, 57, 563–576.

26) Tsuchiya, K., Tanaka, J., Shuiqing, Y., Welch, C.L., DePinho, R.A., Tabas, I., Tall, A.R., Goldberg, I.J., & Accili, D. (2012) Cell Metab., 15, 372–381.

27) Tanaka, J., Qiang, L., Banks, A.S., Welch, C.L., Matsumoto, M., Kitamura, T., Ido-Kitamura, Y., DePinho, R.A., & Accili, D. (2009) Diabetes, 58, 2344–2354.

28) Kawano, Y., Nakae, J., Watanabe, N., Fujisaka, S., Iskandar, K., Sekioka, R., Hayashi, Y., Tobe, K., Kasuga, M., Noda, T., Yoshimura, A., Onodera, M., & Itoh, H. (2012) Diabetes, 61, 1935–1948.

29) Tanaka, H., Nagashima, T., Shimaya, A., Urano, Y., Shimokawa, T., & Shibasaki, M. (2010) Eur. J. Pharmacol., 645, 185–191.

30) Nagashima, T., Shigematsu, N., Maruki, R., Urano, Y., Tanaka, H., Shimaya, A., Shimokawa, T., & Shibasaki, M. (2010) Mol. Pharmacol., 78, 961–970.

31) Chera, S., Baronnier, D., Ghila, L., Cigliola, V., Jensen, J.N., Gu, G., Furuyama, K., Thorel, F., Gribble, F.M., Reimann, F., & Herrera, P.L. (2014) Nature, 514, 503–507.

著者紹介Author Profile

北村 忠弘(きたむら ただひろ)

群馬大学生体調節研究所教授.医学博士.

略歴

1964年兵庫県西宮市に生る.89年神戸大学医学部卒業後,神戸大学医学部第2内科,兵庫県立加古川病院にて研修医.96年に神戸大学大学院医学系研究科博士課程修了.99年から米国コロンビア大学糖尿病センターに留学.2006年帰国と同時に群馬大学生体調節研究所教授.09年同大学代謝シグナル研究展開センター長兼任.13年同大学生活習慣病解析センター長兼任.

研究テーマと抱負

現在は膵臓(特にラ氏島α細胞とβ細胞)と視床下部に注目し,主に遺伝子改変マウスを用いた糖尿病,肥満の研究を行っている.将来の新しい作用機序の抗糖尿病薬,抗肥満薬の開発に少しでも貢献できればと考えている.

ウェブサイト

http://taisha.imcr.gunma-u.ac.jp/index.html

趣味

釣り(渓流,海釣).

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