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公益社団法人日本生化学会 The Japanese Biochemical Society
Journal of Japanese Biochemical Society 87(2): 258-261 (2015)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2015.870258

みにれびゅうMini Review

転写抑制補因子の複合体形成におけるCK2によるリン酸化の分子スイッチとしての役割Phosphorylation of the transcriptional co-repressor complex by CK2 as a molecular switch

首都大学東京大学院理工学研究科Graduate School of Science and Engineering, Tokyo Metropolitan University ◇ 〒192-0397 東京都八王子市南大沢1-11-1 Minami-Osawa, Hachioji-shi, Tokyo 192-0397, Japan

発行日:2015年4月25日Published: April 25, 2015
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1. はじめに

CK2(casein kinase 2)は酵母,植物,ヒトなど真核細胞において高度に保存されているセリン・トレオニンキナーゼである.一般にキナーゼは,その活性のオン・オフが厳密に制御されることでシグナル伝達に関与していることが多いが,興味深いことに,CK2は恒常的に活性型であり,またその活性の「強さ」が細胞周期間で変化する.このCK2の活性の調節については未解明な点が多い.さらに,CK2は細胞質に一様に分布しており,そのリン酸化を受ける標的タンパク質は,転写因子を中心に300を超える1).したがってそれぞれのCK2の標的タンパク質のリン酸化の意義,役割はこれまであまり明確になっていない.しかしCK2をノックアウトしたマウスは妊娠中期までに致死性を示すことから2),CK2によるリン酸化が生命にとって重要な意味を持っていることは疑う余地がない.

本稿では,未解明な点の多いCK2によるリン酸化の意義について,筆者らの立体構造解析,相互作用解析による研究から明らかになった,転写抑制補因子の分子間相互作用を制御する分子スイッチとしての役割について紹介する.また,近年の研究から徐々に明らかになりつつあるCK2によるリン酸化がもたらすタンパク質の機能制御の個々の研究について,簡単に紹介したい.

2. 転写抑制補因子SMRTとSHARP

転写抑制補因子SMRT(silencing mediator of retinoid and thyroid receptors)はヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)複合体の構成成分で,核内受容体や多くの転写因子と相互作用する足場タンパク質である.一方,SHARP(SMRT/HDAC1-associated repressor protein)は発生段階におけるNotchシグナルによる遺伝子発現制御や,ステロイドホルモン応答に関わる転写抑制補因子として同定された3,4).SHARPはN末端側に存在するRNA結合モチーフで,長鎖ノンコーディングRNAであるSRA(steroid hormone receptor activator)と結合するとされている3).また,そのC末端に存在するSPOCドメイン(spen paralog and ortholog C-terminal domain)でSMRTに結合することで,HDACをリクルートし,転写を抑制すると考えられている(図13)

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図1 SHARPとSMRTの構造

(a)SHARPとSMRT全長のドメイン構造を示す.SHARPは,RRM(RNA認識モチーフ),RID(核内受容体相互作用ドメイン),RBPID(RBP相互作用ドメイン),SPOC(Spen paralogue and orthologue C-terminalドメイン)を持つ.SMRTはGPS2(GPS2相互作用領域),TBL1(TBL1相互作用領域),SANT(SANT様ドメイン),ID(IDモチーフ),LSD(LSDモチーフ)を持つ.(b)SMRTのC末端のアライメントとCK1,CK2によるリン酸化部位を示す.

3. SMRTのリン酸化部位

SHARPのSPOCドメインとSMRTの結合には,SMRTのC末端の2521~2523番目のアミノ酸からなる領域(LSDモチーフ)が重要であると報告されていたが3,5),我々はLSDモチーフに含まれるS2522が,細胞内においてCK2によってリン酸化されるという報告に注目し6),また,データベース検索から,近傍のS2524がCK1によってリン酸化を受けるモチーフに含まれていることも考慮して,SMRTのこれらの残基のリン酸化がSPOCドメインとの相互作用に対して影響するか否かを検討した.

まず,SPOCドメインと,LSDモチーフを含む24残基の非リン酸化SMRTのC末端領域のペプチドとのNMRによる結合実験を行った.NMRは,タンパク質とそのリガント(ペプチドや低分子など)との相互作用を解析する上で優れた手法であり,解離定数がmMオーダー程度の弱い相互作用を検出可能であるばかりでなく,その相互作用部位も同定できるといった利点を持つ.

同位体標識したSPOCドメインのNMR信号をモニターしつつ,非リン酸化状態のSMRTを添加していったところ,非結合状態から複合体型への化学シフトの変化がみられた.しかしその様式は,弱い結合で典型的にみられるfast exchangeと呼ばれるものであった(図2a).一方,SMRTのS2522とS2524の両方がリン酸化されたSMRTを用いた場合では,強い結合において典型的にみられるslow exchangeが観測された(図2a).この結果から,SMRTのS2522とS2524のリン酸化修飾はSMRTとSPOCドメインとの親和性を顕著に増加させることが示唆された7,8)

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図2 SPOCドメインとSMRTの相互作用

(a)SPOCドメインの1H-15N NMRスペクトル.(左)非リン酸化SMRTペプチドを添加したとき.(右)リン酸化SMRTペプチドを添加したとき.(b)(左)NMRによって決定されたSPOCドメインとリン酸化SMRT複合体の立体構造.シアンがSPOCドメイン,緑がリン酸化SMRT.(右)拡大図.SMRTのアミノ酸を斜体で表す.構造解析では収束していないが,おおよそ囲み(点線)で示される部位に,CK1によるリン酸化サイトS2524が位置する.

次に,SPOCドメインと複合体を形成するために必要なSMRTの最小領域をNMRによって調べた.SPOCドメインに対して,リン酸化されたLSDモチーフを含むSMRTのC末端5残基[L(pS)D(pS)E]を過剰量加えたときでは,SPOCドメイン単独の化学シフトと比べて変化が起こらなかった.しかし8残基[YETL(pS)D(pS)E]のSMRTを用いたところ,SMRT 24残基を加えたときと同様のスペクトルが得られた.したがって,当初提唱されていたLSDモチーフを含んでいても5残基では複合体形成は不可能であり,それよりN末端側にYETが付加した8残基のSMRTではSPOCドメインと複合体形成可能であることが明らかになった8)

4. SHARP/SMRT複合体の構造決定

SMRTのリン酸化修飾をいかにSHARPのSPOCドメインが認識し,結合するのか明らかにするため,我々はリン酸化されたSMRTのC末端8残基とSPOCドメインとの複合体の立体構造をNMRにより決定した8)図2b).

決定した複合体の立体構造から,分子認識に関与するアミノ酸残基を同定した.SMRTのY2518はSPOCドメインのM3553,I3611が,SMRTのL2521はSPOCドメインのL3515,I3549,Y3602が疎水的相互作用をしていた.さらに,SMRTのE2519はSPOCドメインのR3552,R3554,K3606と静電的相互作用をしていると考えられた.CK2によってリン酸化されるSMRTのS2522のリン酸基はSPOCドメインのK3516,R3552が水素結合を形成していた(図2b).

5. 相互作用解析

さらに,SMRT 8残基のペプチドとの表面プラズモン共鳴法(SPR)の実験を行った(図3a).リン酸化されていないペプチドではおおよそ解離定数KDがサブmMオーダーの親和性であったが,S2522, S2524の両リン酸化サイトがリン酸化されていると,劇的に親和性が増加する(KD=7.4×10−7)ことが定量的に示された.大変興味深いことにS2522(CK2サイト)の1か所のみがリン酸化されたときでも,両サイトがリン酸化されたときと同様の親和性(KD=7.3×10−7)を示した.このことからSPOCドメインとSMRTの複合体形成にはCK2によるS2522のリン酸化が重要であると考えられた(図3a).

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図3 SPOCドメインの変異体を用いた結合実験

(a)表面プラズモン共鳴法(SPR)によるSPOCドメインの変異体と化学合成SMRTペプチドの親和性の解析(CK2とCK1の両サイトをリン酸化:黄,CK2サイトのみをリン酸化:赤,CK1サイトのみをリン酸化:青,リン酸化なし:紫).縦軸は解離定数KDの対数.(b)SPOCドメインの変異体についてCV-1細胞によるレポーター遺伝子を用いた転写抑制能の解析.

また,複合体の立体構造からCK2によるリン酸化部位と水素結合をしていると判断された残基K3516,R3552のアラニン変異体において,SPRを用いた実験で親和性が著しく低下した(図3a).このことからもSMRTのCK2によるリン酸化と,リン酸基に対する水素結合の形成が複合体形成にとって非常に重要であることが示された.

さらに哺乳類細胞CV-1によるレポーター遺伝子とSPOCドメインの変異体を用いた解析を行い,細胞内での相互作用を確認した.その結果,K3516A,R3552Aの変異体では,野生型に比べて転写抑制活性がみられなかった(図3b).したがって,細胞内においてもこれらの残基が重要であることが示された.これは細胞内でもK3516,R3552が構造解析の結果と同様SMRTのリン酸化を認識し機能することを示唆する.一方,複合体構造中でSMRTのCK1によるリン酸化サイト近傍に存在し(図2b),このリン酸化を構造的には認識可能であるR3548をアラニンに置換した変異体では,野生型と同程度の転写抑制活性を保持していたことから(図3b),CK1によるリン酸化は重要でないことが示唆された.

以上の立体構造解析や相互作用解析に基づいて考察すると,SPOCドメインが認識しているのはLSDのみではなく,S2522のCK2によるリン酸化とその直前のアミノ酸を含んだYExL(pS)Dであると結論できた.実際にSMRTのY2518A,Y2518A,E2519A変異体を用いたSPR法による結合実験においても,SPOCドメインとの親和性が低くなることも確認している.

6. おわりに

以上のように,SMRTのCK2によるリン酸化を特異的に認識してSPOCドメインが結合し,転写を抑制することが明らかとなった.このSHARP/SMRTのように,CK2によるリン酸化が,ある特定の機能制御における分子スイッチとなるケースとして,遺伝子修復に関与するRad51のCK2によるリン酸化がNbs1との分子間相互作用における親和性を調節することが生化学的にはっきりと示されている9).またヘテロクロマチンに結合するHP1(heterochromatin protein 1)のCK2によるリン酸化がヒストンH3のK9のメチル化に対する結合特異性に関与するという報告もなされた10).すべては紹介しきれないがCK2によるリン酸化が特定の機能の調節に関与していることを示す報告は他にも多数ある11–13).我々のSHARP/SMRT複合体の解析は,CK2のリン酸化が相互作用を制御する分子スイッチとなることを立体構造解析によって分子認識メカニズムの観点から明確に示した最初の例と思われる.今後,さらに構造解析や詳細な生化学的な解析に基づいた,個々のCK2標的タンパク質におけるリン酸化制御に関する知見のよりいっそうの蓄積を期待したい.近年CK2の構造と機能の研究も進んでおり,CK2自身の会合によってその活性レベルが調節されうることを示した構造研究も報告され14),CK2の活性レベルをチューニングしている上流の分子機構の研究の発展にも大変興味が持たれる.

引用文献References

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著者紹介Author Profile

三島 正規(みしま まさき)

首都大学東京大学院理工学研究科准教授.博士(バイオサイエンス).

略歴

1996年名古屋市立大学薬学部製薬学科卒業.2001年奈良先端科学技術大学院大学博士後期課程修了.博士(バイオサイエンス).同年同助手.06年より現職.07年EMBL訪問研究員(JSPS海外特別研究員).

研究テーマと抱負

専門は構造生物学,生体系NMR. 分子レベルで「視る」ことで生命現象の理解に貢献したい.

趣味

スキー,釣り,カメラ,自転車,キャンプ,天体観測(長いブランク).

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