生化学 SEIKAGAKU
Journal of Japanese Biochemical Society

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Journal of Japanese Biochemical Society 87(3): 326-332 (2015)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2015.870326

特集「タンパク質・酵素の隠された機能について,探索とその技術」Special Review

L-ピペコリン酸およびL-プロリンの生成に関わる多機能性酵素A multifunctional enzyme involved in the formation of L-pipecolic acid and L-proline

立命館大学生命科学部College of Life Sciences, Ritsumeikan University ◇ 〒525-8577 滋賀県草津市野路東一丁目1番1号1-1-1 Noji-Higashi, Kusatsu-shi, Shiga 525-8577 Japan

発行日:2015年6月25日Published: June 25, 2015
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光学活性なアミノ酸およびそれらの誘導体は,医薬品工業や化学工業における合成中間体として有用である.酵素や微生物を用いたキラル化合物合成法の開発は低環境負荷型の技術として今後ますます重要になると思われる.また,生体における生理的な面からもキラル化合物およびその生合成に関与する酵素の果たす役割は興味深い.本稿では,α-ケト酸とメチルアミンからN-メチル-L-アミノ酸を立体選択的に生成する活性を持つとともに,Δ1-ピペリデイン-2-カルボン酸ならびにΔ1-ピロリン-2-カルボン酸の不斉還元を触媒し,L-ピペコリン酸およびL-プロリンを生じる多機能性酵素に関する研究を紹介する.

1. はじめに

次世代シーケンサーの登場によりデータベース上への配列情報の蓄積はさらに促進され,情報の扱い方が研究の鍵となることも多い.オーム解析やハイスループット解析のさまざまなツールも開発されており,個々のタンパク質や酵素の地道で泥臭い解析は学生や若い研究者からみるとややもすれば時代遅れととられるかもしれない.もちろん,インフォマティクスやハイスループット手法の活用はパワフルであり,多くの研究者にとってすでに日常的な手段の一つである.しかし,たとえば,アミノ酸配列からのタンパク質の機能推定は依然として困難な場合が多く,特に酵素の基質特異性については調べてみないとわからないというのが実情ではないだろうか.酵素の隠された機能や特徴を見いだすためには,やはり近道はなく,真正面からじっくりと酵素と向き合い,緻密かつ慎重な生化学的解析を通して機能を明らかにしていく必要がある.特に若い研究者にこの重要性を伝えるべく,本稿では,解析の過程でいくつかの意外性をもたらした二面性を持つ酵素であるN-メチル-L-アミノ酸デヒドロゲナーゼ/Δ1-ピペリデイン-2-カルボン酸レダクターゼについて,著者らの研究を軸に紹介したい.

2. N-メチル-L-アミノ酸デヒドロゲナーゼ

N-アルキル-L-アミノ酸は,さまざまな天然の生理活性物質に含まれる光学活性なアミノ酸誘導体であり,新規生理活性物質合成における重要なビルディングブロックである1,2)N-アルキル-L-アミノ酸の合成法としては,種々の有機化学的手法がある中で,酵素法による合成報告例はなかった.天然の遊離N-メチルアミノ酸は二枚貝3),ある種の植物4)および細菌5,6)に見いだされており,特にAminobacter aminovoransにおいては,N-メチルグルタミン酸シンターゼ(EC 2.1.1.21)の作用によりメチルアミンのメチル基がグルタミン酸に移されN-メチルグルタミン酸とアンモニアを生じることが古くから知られていた7).なお,本N-メチルグルタミン酸シンターゼの遺伝子は最近やっと同定され,メチロトローフ(C1化合物資化性菌)のメチルアミン資化経路に関与することが示された8).一方,A. aminovoransの別菌株においては,NADPH依存性N-メチルアラニンデヒドロゲナーゼ(EC 1.4.1.17)によりメチルアミンとピルビン酸からN-メチルアラニンが生じることが報告されていたが9),本酵素の遺伝子は未同定であった.N-メチルアラニンデヒドロゲナーゼと類似の反応を触媒する酵素としてはNAD(P)依存性のアミノ酸デヒドロゲナーゼ(EC 1.4.1.1)が古くから知られる10).アミノ酸デヒドロゲナーゼは,メチルアミンではなくアンモニアを基質とするが,メチルアミンとアンモニアを厳密に区別するか否かについてはよくわかっていない.一方,N-メチルアミノ酸はN-置換アミノ酸であるので,構造的にはノパリン,オクトピン,リソピンのようなオピン類と類似性がある.オピンの代謝に関与するD-オクトピンデヒドロゲナーゼ(EC 1.5.1.11)11),アラノピンデヒドロゲナーゼ(EC 1.5.1.11)12)D-ノパリンデヒドロゲナーゼ(EC 1.5.1.11)13)はNAD(P)依存性アミノ酸デヒドロゲナーゼと一次構造上の類似性を示す.したがって,アミノ酸デヒドロゲナーゼやオピンデヒドロゲナーゼの類縁酵素の中で,アンモニアではなくメチルアミンを基質とするものがN-メチルアラニンデヒドロゲナーゼではないかと予想された.実際に,N-メチルアラニンデヒドロゲナーゼはアンモニアに対してメチルアミンの2%の活性を示すと報告されている9)

このような背景の元,著者らは,応用微生物学的観点から,さまざまなN-アルキル-L-アミノ酸の合成に活用できる酵素の探索を開始した.幅広い基質に作用するものが得られることを期待して,かさ高いα-ケト酸であるフェニルピルビン酸を基質に選び,フェニルピルビン酸とメチルアミンからN-メチル-L-フェニルアラニンを合成する活性を有する微生物をスクリーニグした14).その結果,Pseudomonas putidaBacillus alveiBrevibacterium sacchrolyticumBrevibacterium lines, Agrobacterium viscosumAerobacter aerogenesP. fluorescens等の菌株に目的の活性があることがわかった.そのうち,最も活性が高い株であるP. putida ATC C12633株より酵素の精製を試みた.本酵素の含量の低さが一因となり精製は難航した.200 Lのジャーファーメンター培養から得られた湿重量2.5 kgの菌体から出発し,最終的にSDS-PAGE上で数本のバンドまで目的酵素タンパク質候補を絞り込んだ.得られた目的酵素候補のN末端配列を元に配列データベース検索を行った.上述したように,反応の様式とNADPHを要求することなどから推察して,目的酵素はアミノ酸デヒドロゲナーゼに類縁であろうと考えていた.ところが,相同性検索により高いスコアで検出されたのは推定リンゴ酸/L-乳酸デヒドロゲナーゼ(EC 1.1.1.37)とアノテーションされたタンパク質群であった.著者らが得たN末端アミノ酸配列は,ゲノム解析が進行中のP. putida KT2440株のゲノム15)にコードされる機能未知タンパク質PP3591の配列とよい一致を示した.PP3591は341アミノ酸残基からなる分子質量36 kDaのタンパク質と推定された.PP3591遺伝子に相当するP. putida ATC C12633株の遺伝子をクローン化して大腸菌を宿主とした発現系を構築し,活性の有無を調べた結果,本タンパク質が実際にフェニルピルビン酸とメチルアミンからNADPH依存的にN-メチル-L-フェニルアラニンを合成する活性を示すことがわかった(図1).そこで,均一に精製した本酵素を用いて詳細な機能解析を行った14).本酵素はフェニルピルビン酸よりもピルビン酸に高い活性を示し,他のいくつかのα-ケト酸にも作用することが明らかとなった(図2).一方,β位に分岐を持つα-ケトイソカプロン酸やα-ケト-β-メチル吉草酸にはまったく活性を示さなかった.アミン基質としては,メチルアミンにほぼ特異的であり,エチルアミンおよびn-プロピルアミン,ジメチルアミンなどさまざまなアミン類にわずかな活性を示した(図3).興味深いことに,本酵素はさまざまなアミン類を基質とするにも関わらず,それらよりサイズの小さなアンモニアにはまったく作用しなかった.また,リシンおよびオルニチンをアミン基質としなかったことから,オピンデヒドロゲナーゼ活性も検出されなかった.したがって,本酵素は既知のアラニンデヒドロゲナーゼはもちろんのこと,上述のN-メチルアラニンデヒドロゲナーゼとも一線を画す酵素であることが明らかとなった.さらに,配列の類似性から示唆されたリンゴ酸デヒドロゲナーゼおよび乳酸デヒドロゲナーゼ活性はまったく検出されなかった.

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図1 N-メチル-L-アミノ酸デヒドロゲナーゼが触媒する反応

フェニルピルビン酸とメチルアミンからNADPH依存的にN-メチル-L-フェニルアラニンを生成する反応.

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図2 N-メチル-L-アミノ酸デヒドロゲナーゼのα-ケト酸に対する基質特異性

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図3 N-メチル-L-アミノ酸デヒドロゲナーゼのアミンに対する基質特異性

3. 新たなリンゴ酸/L-乳酸デヒドロゲナーゼファミリータンパク質

著者らが同定したN-メチル-L-アミノ酸デヒドロゲナーゼと20~30%の配列相同性を示すリンゴ酸/L-乳酸デヒドロゲナーゼとアノテーションされている一群のタンパク質について詳細に調べた.これらのタンパク質はPfamドメインデータベース(http://pfam.xfam.org)のLdh_2ドメインからなり,2600を超えるタンパク質が含まれる大きなファミリーを形成している.アノテーションの元になっているのは,Honkaらによる1990年の発見16)とそれに続くJendrossekらによる1993年の発見17)であった.Honkaらは超好熱性メタン生成アーキアであるMethanothermus fervidusのリンゴ酸デヒドロゲナーゼを同定し,本酵素がNAD+とNADP+に同等に作用し,真核生物と真正細菌由来のリンゴ酸デヒドロゲナーゼや乳酸デヒドロゲナーゼにあまり配列相同性を示さない新規なタンパク質であることを見いだした.これにより,超好熱性メタン生成アーキアのリンゴ酸デヒドロゲナーゼは独特の進化をしたものと考えられた16).次いで,Jendrossekらは,グラム陰性細菌Alcaligenes eutrophusの乳酸デヒドロゲナーゼのアミノ酸配列がM. fervidusの新規リンゴ酸デヒドロゲナーゼに最も類似していることを示した17).その後,ゲノム解析の進展に伴ってこれらのホモログが次々とデータベースに蓄積されていったが,アノテーションは上記二つの報告に基づきリンゴ酸/L-乳酸デヒドロゲナーゼとなされた.しかし,生化学的解析から,このファミリーに属するタンパク質の中に,メタン生成アーキアにおいてcoenzyme Mの生合成に関与するL-スルホ乳酸デヒドロゲナーゼ18)をはじめ,ウレイドグリコール酸デヒドロゲナーゼ19),2,3-ジケト-L-グロン酸レダクターゼ20),そして,著者らが解析したN-メチル-L-アミノ酸デヒドロゲナーゼも含まれることが明らかとなったのである14).本酵素を除いて,Ldh_2ドメインを有する既知酵素はすべて,NADPHではなくNADHを好んで用い,基質の2位のカルボニル基を還元し,水酸基を生じる反応を触媒する.著者らは,これらの知見に基づいて,Ldh_2ドメインを有するファミリータンパク質が主に八つのクレードに分類可能であることを報告している21,22)

4. 生理的機能:Δ1-ピペリデイン-2-カルボン酸レダクターゼ

N-メチル-L-アミノ酸デヒドロゲナーゼの一次構造および諸性質などはある程度明らかになったが,P. putidaの代謝経路上での本酵素の位置づけはなされておらず,その生理的な役割について興味が持たれた.しかし,本酵素の由来するP. putidaは,メチルアミンあるいはN-メチル-L-アラニンを単一の炭素源や窒素源とした培地では生育できないことがわかり,はたして本活性が細胞内で意味を持つのか疑問が生じた.さまざまな思索を巡らす中,α-ケト酸とメチルアミンからN-メチルアミノ酸が生成する反応機構について検討していたときに,本酵素反応過程で活性中心において生成すると考えられるケチミン中間体の化学構造がΔ1-ピペリデイン-2-カルボン酸(Pip2C)の骨格の一部と共通であることに気づき,これに着目した(図4).Pip2Cは,P. putidaなどのある種の細菌において,D-リシンの資化経路に含まれることがすでに知られていた23).Pip2Cを立体選択的に還元してL-ピペコリン酸を生成する酵素は,NADPH依存性のPip2Cレダクターゼ(EC 1.5.1.21)として報告されていたが24),これも対応する遺伝子が未同定な酵素であった.Pip2Cレダクターゼの反応産物であるL-ピペコリン酸の化学構造も,N-メチル-L-アミノ酸と部分的に共通である(図4).著者らは,Pip2Cおよび炭素数が一つ少ないΔ1-ピロリン-2-カルボン酸(Pyr2C)(図4)に対して,N-メチル-L-アミノ酸デヒドロゲナーゼが還元活性を持つのではないかと考え,活性測定を行った.その結果,Pip2CとPyr2Cに対する還元活性は,N-メチル-L-アミノ酸生成活性よりもかなり高いことが判明した22).さらに,本酵素遺伝子を破壊したP. putida株を作製し調べたところ,D-リシンおよびD-プロリンを唯一の炭素源として含む培地上で,本酵素遺伝子欠損株に著しい生育阻害が認められた.一方で,L-ピペコリン酸を唯一の炭素源とする培地で本欠損株は野生株と同様に生育することができた.したがって,生理的には,本酵素はD-リシンおよびD-プロリンの資化代謝に関与するPip2C/Pyr2Cレダクターゼであることが明らかとなった22).最初N-メチル-L-アミノ酸デヒドロゲナーゼとして特徴づけた本酵素であったが,Pip2C/Pyr2Cレダクターゼとしてあらためて基質特異性などの諸性質を検討しなおした.その結果,本酵素はPip2CとPyr2Cといった環状イミノ酸の立体選択的還元を触媒する他,逆反応である環状アミノ酸の酸化反応も触媒することがわかり,L-プロリン,L-ピペコリン酸に加え,活性は非常に低いがcis-4-ヒドロキシ-L-プロリンやL-チオプロリンにも作用した.なお,Pyr2Cレダクターゼ(EC 1.5.1.1)もコードする遺伝子が報告されていない酵素であり,Pip2Cレダクターゼと異なる酵素と考えられていた25).しかし上記のように,少なくともP. putidaにおいては,N-メチル-L-アミノ酸デヒドロゲナーゼ,Pip2Cレダクターゼ,Pyr2Cレダクターゼは同一酵素であることが明らかとなった.

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図4 N-メチル-L-アミノ酸生成反応におけるケチミン中間体とΔ1-ピペリデイン-2-カルボン酸,Δ1-ピロリン-2-カルボン酸の構造

ケチミン中間体とΔ1-ピペリデイン-2-カルボン酸およびΔ1-ピロリン-2-カルボン酸の構造は部分的に共通である.N-メチル-L-アミノ酸とL-ピペコリン酸およびL-プロリンも部分的に共通の構造を持つアナログとみなすことができる.

5. Pip2C/Pyr2Cレダクターゼの立体構造および反応機構

Pip2C/Pyr2Cレダクターゼの立体構造と反応機構を明らかにすることを目的として,P. syringae由来本酵素のX線結晶構造解析を行った.P. syringae由来の本酵素は,P. putida由来酵素と71%のアミノ酸配列一致を示し,精製酵素の性質はP. putida由来酵素とほぼ同様であった26).リガンドなしの状態,NADPHとの二元複合体状態,NADPHおよび基質アナログであるピロール-2-カルボン酸との三元複合体状態の3種類の結晶構造が得られた26).本酵素は二量体を形成し,各サブユニットは三つのドメインからなっていた.興味深いことに,NADPH結合ドメインは主に7本のストランドからなる逆平行βシート構造であり,これは従来の一般的なNAD依存型デヒドロゲナーゼにみられるRossmannフォールドとはまったく異なっていた.著者らは,Pip2C/Pyr2Cレダクターゼを含む新たなファミリー酵素に共通してみられるこのNAD(P)結合フォールドをSESAS(the seven-stranded antiparallel β-sheet)フォールドと名づけた(図5A).SESASフォールドを持つ本酵素においては,NADPHがRossmannフォールドの場合に比べて比較的まっすぐに伸びた状態で結合することがわかった.本酵素がNADHよりもNADPHに対して高い活性を示す理由は,NADPHの2′位のリン酸基を認識する三つのアルギニン残基(Arg309, Arg314, Arg315)からなるアルギニンクラスターが存在するためであることが示唆された.実際に,本酵素と同ファミリーに属するがNADPHではなくNADHを好むL-スルホ乳酸デヒドロゲナーゼやウレイドグリコール酸デヒドロゲナーゼはアルギニンクラスターを持たないことがわかった.

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図5 P. syringae由来Pip2C/Pyr2Cレダクターゼのサブユニット構造および推定反応機構

(A)NADPHと本酵素の複合体のX線結晶構造(PDB ID: 2CWF)を示している.NAPDH分子を空間充填モデルで示す.本酵素のNADPH結合には,Rossmannフォールドとは異なるフォールドであるSESASフォールドが関与する.(B)His54は本酵素反応における一般酸触媒として機能すると推定される.His54,Ser53,Asp194は電荷リレートライアドを形成し,His54の一般酸触媒機能を高めていると考えられる.

3状態のX線結晶構造解析と反応速度論解析の結果に基づいて,本酵素の反応は次のように進行すると考えられた(図5B).まず,NADPHが酵素のドメイン境界にあるSESASフォールド近傍に結合し,そのニコチンアミド部分が周辺残基(His54,Arg58,Thr166など)とともに基質結合部位を形作る.基質の活性部位クレフトへの接近に伴い,酵素のコンホメーションはオープン/クローズド型から活性型に変化する.これにより,環状イミン基質のピペリデイン環もしくはピロリン環がNADPHのニコチンアミド環と平行に面と面で重なり合うように活性中心に閉じ込められ,NADPHのpro-4S水素が基質の2位の炭素上のre面側にヒドリドとして転位しやすくなる.Asp194–Ser53–His54は電荷リレートライアドを形成しており,His54のイミダゾール環窒素はピペリデイン環/ピロリン環の窒素原子と水素結合する(図5B).その後,NADPHからのヒドリド転位に伴い,His54からプロトンが供与され,反応産物(L-ピペコリン酸/L-プロリン)とNADP+が生成する.

上述したように,本酵素はN-メチル-L-アミノ酸デヒドロゲナーゼとして,フェニルピルビン酸のようなかさ高いケト酸にも作用するが,このような疎水性でかさ高いケト酸基質は,活性中心のPhe127,Met151,Pro272からなる疎水性ポケットにうまく収まるものと考えられた.

6. 酵素の物質生産への活用

光学活性なアミノ酸やヒドロキシ酸およびそれらの誘導体は,さまざまな工業における合成中間体として有用である.そのようなキラル化合物の酵素や微生物を用いた合成は低環境負荷型の技術として今後ますます重要になると思われる.上述したように,N-メチル-L-アミノ酸デヒドロゲナーゼは,N-メチル-L-フェニルアラニンおよびその類縁体の合成への応用を目的として研究を始めた酵素である.著者らは,本酵素遺伝子を導入したリコンビナント大腸菌を用いて,菌体反応によるN-メチル-L-フェニルアラニン合成系について検討した27).本酵素反応によって消費されるNADPHは高価なため,生成するNADP+をNADPHに再生させることを目的として,Bacillus subtilis由来のグルコースデヒドロゲナーゼの遺伝子を本酵素遺伝子とともに大腸菌内で共発現するようにした.この共発現大腸菌株を用いて,100 mMフェニルピルビン酸,700 mMメチルアミン,100 mMグルコース,0.2 mM NADP+を含む溶液中で反応を行ったところ,7時間で91 mM(16 g/L)のN-メチル-L-フェニルアラニンが収率98%,光学純度99%以上で得られた27)

本酵素の生理的な触媒活性であるPip2C/Pyr2Cレダクターゼ反応にも注目し,L-ピペコリン酸およびその類縁体である環状アミノ酸の酵素的合成について検討した.L-ピペコリン酸は免疫抑制剤タクロリムス(FK506)28)や抗がん剤VX71029)などの構成要素であり,類似の環状アミノ酸もさまざまな生理活性物質のビルディングブロックになりうるため,これらの酵素的合成法の開発は産業上重要である.Pip2C/Pyr2Cレダクターゼが本来機能するD-リシン異化代謝経路では,D-リシンの酸化的脱アミノ反応を触媒する酵素によってα-ケト-ε-アミノカプロン酸が生じ,これが非酵素的に自己環化することによりPip2Cが生成する.これを物質生産の観点から一般化すると,α,ω-ジアミノ酸の酸化的脱アミノ反応を触媒する酵素によってα,ω-ジアミノ酸からα-ケト-ω-アミノ酸が生じ,続く自発的環化により環状イミノ酸が生成し,これがPip2C/Pyr2Cレダクターゼによる不斉還元反応の基質となる(図6A).出発物質がL体のα,ω-ジアミノ酸の場合はL-アミノ酸オキシダーゼやL-リシンオキシダーゼを用いればよく,D体の場合はD-アミノ酸オキシダーゼが利用できる.また,D-アミノ酸オキシダーゼはD体の環状アミノ酸に作用して環状イミノ酸を生成することから,Pip2C/Pyr2Cレダクターゼと併用することにより,D体環状アミノ酸を対応するL体環状アミノ酸に変換することも可能である.このようなスキームに基づいた反応系の構築により,著者らは図6Bに示すような種々の化合物の酵素的合成が可能であることを示した30).これら化合物のうち,1,4-チアゼパン-3-カルボン酸は新規化合物であったことから,本酵素的物質生産系の有効性が示唆された.

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図6 α,ω-ジアミノ酸を出発物質とするL-環状アミノ酸の酵素的合成

(A)α,ω-ジアミノ酸の酸化的脱アミノ反応はアミノ酸オキシダーゼ,アミノ酸デヒドロゲナーゼ,アミノ酸アミノトランスフェラーゼによって触媒される.α-ケト-ω-アミノ酸は非酵素的に環化し環状イミノ酸が生じる.Pip2C/Pyr2Cレダクターゼによる不斉還元反応によりL-環状アミノ酸が立体選択的に得られる.(B)種々のα,ω-ジアミノ酸を出発物質として,ここに示すL-環状アミノ酸が得られた.

7. 哺乳類のPip2C/Pyr2Cレダクターゼ

水溶液中で不安定なイミン化合物を立体選択的に還元する酵素についての研究例は多くなかったが,つい最近になって,Pip2C/Pyr2Cレダクターゼと類似した反応を触媒する酵素であるエナンチオ選択的なイミンレダクターゼが次々と新たに見いだされている.哺乳類成体の脳においてL-リシンはPip2CおよびL-ピペコリン酸を経由して代謝されることから,Pip2Cならびに硫黄を含む環状イミンの神経伝達物質としての機能とその代謝制御による生理作用に注目が集まりつつある31,32).著者らは,P. putidaのPip2C/Pyr2Cレダクターゼ遺伝子のホモログが哺乳類ゲノムに見いだせなかったことから,動物25)や植物およびカビ25)に検出される同活性は,著者らが解析した細菌酵素と異なるファミリーに属する酵素に起因するのであろうという予測をたてた.この予測は後に正しかったことが示された.哺乳類脳でPip2C/Pyr2Cレダクターゼ活性を持つケチミンレダクターゼとして初めて同定されたのは,意外にもμ-crystallin(NADP制御型甲状腺ホルモン結合タンパク質としても知られる)であった33).その後,Azospirillum brasilenseにおけるヒドロキシ-L-プロリン異化代謝に関与する酵素(LhpI)およびそのホモログとして,Colwellia psychrerythraeaPseudomonas aeruginosaならびにアーキアThermococcus litoralisよりPyr2Cレダクターゼが同定されている34,35).異なるStreptomyces属菌株からは,2-メチルピロリンに作用しR体またはS体のみの2-メチルピロリジンを選択的に生じるイミンレダクターゼが見つけられた36–38).興味深いことに,μ-crystallinおよびLhpIは,触媒反応上では著者らのPip2C/Pyr2Cレダクターゼと類似する酵素であるが,前者二つと後者にアミノ酸配列の相同性はない.μ-crystallinとLhpIはRossmannフォールドを有し,オルニチンシクロデアミナーゼスーパーファミリーに属す酵素である34).また,Streptomyces属由来酵素はRossmannフォールドを有するが,オルニチンシクロデアミナーゼスーパーファミリーには属さない36).したがって,これらのイミンレダクターゼ酵素は収斂進化によってPip2C/Pyr2Cレダクターゼ活性を持つようになったと考えられる.

8. おわりに

個々の研究にはそれぞれ,大なり小なり思いがけない発見や紆余曲折,あるいは先のみえない苦悩の時期があると思われるが,きれいに整えられた論文からはそのようなドラマのほんの一部しか垣間みることができないであろう.特に若い時期には,さまざまな経験をし,たとえ小さなことであっても自分なりの発見や意外性がもたらす驚きを楽しみながら研究に没頭することが大事ではないだろうか.本稿を通じて,時に思いもよらぬ方向に進みながらも,楽しんで研究を行っている著者らの姿が若い読者に少しでも伝われば幸いである.

謝辞Acknowledgments

本稿で紹介した研究は,著者が京都大学化学研究所分子微生物科学研究室(江崎信芳教授)所属時に行ったものである.本研究に関わった多くの共同研究者に深く御礼申し上げます.

引用文献References

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著者紹介Author Profile

三原 久明(みはら ひさあき)

立命館大学生命科学部生物工学科教授.博士(農学).

略歴

1970年大阪府に生る.93年京都府立大学農学部卒業,95年京都大学大学院農学研究科修士課程修了,97~99年日本学術振興会特別研究員,99年同大学院博士後期課程研究指導認定退学,同年京都大学化学研究所非常勤研究員,同年博士(農学)取得,2000年京都大学化学研究所助手,07年より同助教,09年立命館大学生命科学部准教授,14年より現職.

研究テーマと抱負

補酵素・補因子の生合成機構やセレンタンパク質の生合成機構を中心に,酵素の構造と機能に関する研究を行っている.今後は従来のテーマを軸に据えながら,金属代謝に関わる新しい因子の発見や構造—機能解明も行っていきたい.

ウェブサイト

http://www.ritsumei.ac.jp/lifescience/skbiot/mihara/Top.html

趣味

ドライブ,旅行,温泉巡り,料理,学生らとの語らい.

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