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公益社団法人日本生化学会 The Japanese Biochemical Society
Journal of Japanese Biochemical Society 87(3): 337-341 (2015)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2015.870337

総説Review

糖鎖相同性による自己免疫疾患の発症機序The mechanism of autoimmune disease by glycotope mimicry

1Department of Medicine, Yong Loo Lin School of Medicine, National University of Singapore ◇ 1E Kent Ridge Road, Singapore 119228, Republic of Singapore

2Department of Physiology, Yong Loo Lin School of Medicine, National University of Singapore ◇ 1E Kent Ridge Road, Singapore 119228, Republic of Singapore

発行日:2015年6月25日Published: June 25, 2015
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これまで自己免疫病発症における分子相同性の研究は,ペプチドに対する自己反応性T細胞に主として目が向けられていたため,分子相同性仮説の立証には至らなかった.筆者は,Campylobacter jejuni腸炎後に発症する自己免疫性末梢神経疾患(ギラン・バレー症候群やフィッシャー症候群)の発症機序を解明すべく研究に取り組んできた.そして,糖脂質の糖鎖に対する自己抗体という別の着眼点から切り込むことにより,分子相同性仮説を完全に証明し,糖鎖相同性によって自己免疫病が発症しうることを示した.そうした研究の経緯,医学研究の大切さ,面白さを伝えたい.

1. はじめに

ギラン・バレー症候群(GBS)は,急速に筋力低下を来す神経・筋疾患のなかで最も頻度が高い病気で,日本では年間2千人の発症が推定されている.半世紀前にポリオが猛威をふるっていた当時のポリオ患者が年間5千人であったこと踏まえれば,発症数は決して少なくない.洋の東西を問わず救急医療の現場では最初は脳卒中と診断されることが多いため,その病態をよく理解しておく必要があり,医師国家試験でも数年ごとに出題されている.筆者は1989年にGBS患者を初めて受け持った.患者は発症後半年経った時点でも足首が上がらず,装具をはめてようやく歩ける状態であった.当時の教科書には予後良好と書かれていたが,血漿交換を受けても機能的転帰が必ずしも良くないことを知り,発症機序を解明して新しい治療法を開発しようと心に誓い取り組んできた.四半世紀にわたる病態解明,類縁疾患体系化に関する研究業績が評価されたのか,New England Journal of Medicine誌から総説執筆を依頼され,上梓するに至った1).GBSの教科書的な記述はその総説に譲り,本稿では病態解明の道のりを述べ,眼前の患者に立脚した医学研究の大切さ,面白さを伝えたい.

2. GBSにおける自己抗体

筆者は1989年に新潟大学神経内科学教室に大学院生として入り,GBS症例を初めて受け持った.当時はGBSイコール脱髄性疾患とかたくなに信じられており,軸索型GBSの存在を主張する論文が1986年に報告されていたものの無視されていた.血漿交換が有効であるにも関わらず自己抗体が絡んだ病気であると考える研究者は少なく,髄鞘タンパク質をラットに感作して発症する自己免疫性神経炎がT細胞依存性であったので細胞性免疫の絡んだ病気であると信じる研究者が多かった.また,病原体と末梢神経とに交差する抗原があることが推定されていたが,その標的分子すらわかっていなかった.

GBSの半数以上が手袋・靴下型の感覚障害を伴うが,その患者は感覚障害を伴っておらず,電気生理学検査の検討会で「運動神経伝導検査の記録用紙だけみると筋萎縮性側索硬化症(ALS)だ」というコメントをもらい,卒後間もない内科研修医時代にALS症例を受け持った際に読んだ論文を思い出した.その論文には「ALSと診断されていた患者の血中で,GM1ガングリオシドに強く結合するIgMクラスの自己抗体が見つかり,血漿交換により筋力が回復した」と書かれていた.同様に抗GM1抗体が検出されるかもしれないと予測し,吉野英先生からELISAと薄層クロマトグラム免疫染色を習って患者の血清IgGがGM1に結合することを見いだした.患者の前駆症状は,水様性下痢であった.その後,IgG抗GM1抗体を有する患者をさらに1例見つけたが,その患者の先行感染症状も水様性下痢であった.当時Campylobacter jejuniはGBSの先行感染因子としてほとんど知られていなかったが,抗C. jejuni抗体価の推移を調べてその感染を血清学的に証明した.IgG抗GM1抗体は,時間経過とともに低下,消失し,C. jejuni腸炎だけでその後神経症状を呈さなかった患者や他の免疫性神経疾患では陰性であった.これによってC. jejuni腸炎後にIgG抗GM1抗体が上昇する軸索型GBSが存在することを明らかにした2).筆者の受け持ち患者が本邦初の軸索型GBS報告例となったが,現在ではGBSのうち軸索型が半数を占めることがわかった.筆者らの研究成果によりC. jejuniが一躍脚光を浴び,イギリスで行われた前向きの症例対照研究によりGBSとC. jejuni感染との疫学的な関係が確立された.

よく観てじっくり考えることにより,研修医であろうとも病態解明に近づけるのである.日本でも海外でも,講演ではそのことを強調して若い医師に夢を託している.研究で作業仮説を立てて検証することと,臨床で病歴から暫定的に診断してそれを補うために身体的所見や検査を加えることと思考過程は同じで,よき臨床医になるための訓練として研究は多いに役立つこともわかった.こうした研究を行えたのは,新潟大学神経内科の伝統である,臨床で患者をよく観て実証する姿勢にふれていたからであり,そうした場を他で作りあげて後進の育成に励みたいと思った.

3. 分子相同性

筆者はC. jejuniがGM1エピトープを有すると考えて細菌細胞壁の構造解析の専門家に相談したが,「細菌とヒトとの間に似たような構造があるわけない」と一笑に付された.ウシ脳から抽出されたガングリオシドはin vitroでは神経栄養因子として働くことから,西ヨーロッパや南アメリカでは各種神経疾患の治療薬として盛んに使用されていた.本邦でも糖尿病性末梢神経障害に対する治験が行われていたが,ガングリオシド注射後にALS様の症状を呈した患者が発生した.1990年山形大学の先生から「副作用の可能性がないか」問い合わせがあり,血清を分析してみたところ,高力価のIgM抗ガングリオシド抗体が検出された.そこで新潟から山形に車で向かい診察後,主治医と相談し血漿交換を行ったところ,患者は自力で歩けるようになった.製薬会社に副作用報告をしたが,因果関係なしと判断された.しかし筆者は疑わしきは副作用と考えるべきだと正義感に基づいてLancet誌に投稿した3).その反響は大きく,ガングリオシド注射後にGBSが多数発生していたことが明るみになり,製剤は市場から撤収された.一方,そうした副作用症例の存在から,やはりC. jejuniがGM1エピトープを有するに違いないと考えた.

そこで,グラム陰性桿菌C. jejuniの菌体外膜を構成するリポ多糖(LPS)がGM1様構造を持っているという作業仮説を立てた.一方,LPS分析の泰斗Aspinall教授が,日本のGBS分離株を入手し,分析をかなり進めているという情報を得た.素人が後から始めてもかなわないとあきらめかけたが,宮武正教授に励まされ,1992年東京医科歯科大学へ移り実験に取り組んだ.LPSのエピトープを検索する手段としてはウエスタンブロット法が一般的だが,「薄層クロマトグラム上で免疫染色できると便利でしょう」という助言を飯田静夫教授から受けた.数十種類の溶媒系を試してわずかに移動する系を見つけ,それを改良して,抗GM1抗体やコレラ毒素が患者分離株LPSに結合することを薄層クロマトグラム免疫染色により示すことができた.

LPSそのものは水にも有機溶媒にも溶けにくく扱いにくい物質なので,化学的に糖鎖部分と脂質部分(リピドA)とに分けて解析するのが常道であった.しかし,その段階でシアル酸もはずれてしまうことが懸念されたため,丸ごと分析できる新しい方法を模索した.「薄層クロマトグラムはシリカゲルでコートされているので,薄層クロマトグラフィーで展開できればシリカビーズカラムにかけて分けられるはず」という助言を瀧孝雄助教授から受け,下痢を前駆症状としたGBS患者から分離されたC. jejuniを大量に培養し,LPS画分を得た.カラムクロマトグラフィーによりGM1の特異的リガンドとしてよく用いられるコレラ毒素Bサブユニットが結合する画分を得て精製した.また,ガスクロマトグラフィーを習い,GM1と共通する,ガラクトース,N-アセチルガラクトサミン,シアル酸の存在を確認した.さらにNMRで,ガラクトース,N-アセチルガラクトサミン,ガラクトースの結合様式もGM1と同じであることを明らかにした.GM1と似た構造があることを願ってはいたが,まったく同じ糖鎖構造を有しているとは予想していなかったので驚いた.発見当時はLPSと呼んでいたが,糖鎖が短いので今はリポオリゴ糖(LOS)と呼んでいる.GM1とC. jejuniのLOSとの末端4糖の糖鎖構造が完全に一致していることが示され(図1A4),分子相同性の証明に至った.このことから筆者は専門家の意見を鵜呑みにせずに自ら確かめようとする姿勢の重要性を学んだ.この経験を生かし,獨協医科大学では若手医師に対して,筆者の診断を鵜呑みにせず,むしろ疑って自分たちで診断し直すよう指導していた.

Journal of Japanese Biochemical Society 87(3): 337-341 (2015)

図1 Campylobacter jejuni腸炎後Guillain–Barré症候群(GBS)の発症機序

(A)軸索型GBS患者から分離されたC. jejuniのリポオリゴ糖とGM1やGD1aとの非還元末端の組成および結合様式は完全に一致する.(B)ランビエ絞輪部軸索膜上には電位依存性ナトリウムチャネル(Nav)が局在し,GM1やGD1aを豊富に発現している.また,傍絞部には軸索–グリア接着結合に必要なコンタクチン関連タンパク質(Caspr)が,傍絞輪近接部には電位依存性カリウムチャネル(Kv)が局在する.急性期にはランビエ絞輪部にIgG抗GM1抗体が沈着し,補体が活性化して活性化補体産物を形成する.そして,絞輪部Navの消失と傍絞輪接着部の離開が起こり,神経伝導が障害されて運動麻痺を呈する.Bae, J.S., et al. (2013) J. Neurol. Neurosurg. Psychiatry, 85, 907–913より引用,改変.

4. 軸索型GBSモデル樹立

ガングリオシド注射後に神経障害が発症したり,C. jejuniがガングリオシド様構造を有したりすることから,抗ガングリオシド抗体が病的意義を有することが示唆された.しかしながら,動物モデルが樹立されていなかったこともあり,抗ガングリオシド抗体は神経障害後に生ずる二次的な産物であり,病的意義などない,という手厳しい批判も受けていた.1996年獨協医科大学に移って大学の枠を越えて若者が集う研究室を設立し,1998年ウサギを使った動物モデル作製に着手した.GBS発症が報告されていたウシ脳ガングリオシド注射薬を感作原として用いた.初回感作後IgM抗GM1抗体が誘導され,2回感作後IgGへクラススイッチし,体重が減り始め,後肢に続いて前肢の運動麻痺が生じ,首も上がらなくなった.最初の1羽が発症した日には研究室の皆で小躍りして喜んだ.急速に進行して呼吸筋も冒されて死にそうになった第4病日のウサギを抱えて,新潟大学脳研究所へ行き山田光則先生から解剖の仕方を教わった.最終的には全例発症し,発症後2週,4週経って解剖したウサギで軸索変性像を捉えることができた.脱髄やリンパ球浸潤はみられなかった.

ウシ脳由来GM1注射薬感作後に発症したGBSも報告されていたので,ウシ脳ガングリオシド感作後ウサギが続々発症し始めた時点で(ウシ脳ガングリオシドから精製された)GM1感作を開始した.急性発症の弛緩性四肢麻痺を呈し,病理で脱髄を伴わない軸索変性像が捉えられ,GM1が感作原であることを確認した.また,ランビエ絞輪部にIgGが沈着していることを示し,生化学的分析など補足的な実験を加えて論文にまとめた5)

その後,軸索型GBSに特徴的な,マクロファージが軸索を直接傷害しているかのようにみえる病理像も見つかった.電子顕微鏡で病変を確定し,電気生理学的,免疫組織学的所見を加えて論文にまとめた6).こうしてヒトの病気と一致する疾患モデルを樹立することに成功し,発症機序を詳細に解明し新しい治療法の開発に役立てることができるようになった.

GM1感作とほぼ同時に,GM1様LOSを含むC. jejuni LOSをウサギに感作し始めた.LOSの脂質部分は種々の生物活性を有するリピドAからなるため,ガングリオシドそのものよりもC. jejuni LOSによる感作の方がうまくいくと予想した.しかし,ガングリオシド感作よりも抗GM1抗体価は低く,発症までの時間を要して発症率も低く,軽症であった.そこで,C. jejuni LOSを増量したところ全例発症し,軸索型GBSに典型的な病理所見が得られた.C. jejuni LOS感作によるモノクローナル抗GM1抗体作製,マウス神経・筋共培養系への抗GM1抗体添加などの実験を追加して論文をまとめた7)

5. 分子相同性仮説の立証

微生物とヒト標的臓器の分子相同性が示されており,自己免疫病の発症を説明するにあたり魅力的であったが,仮説の域を出ていなかった.仮説を証明するためには,次に掲げる4原則すべてを満たさなければならない.(1)微生物感染と自己免疫病発症との間に疫学的な関係が確立している.(2)自己反応性T細胞や自己抗体が同定される.(3)微生物とヒト標的抗原との間に分子相同性が存在する.(4)微生物,標的分子を感作することにより動物モデルが樹立される.しかしながら,これまでそうした自己免疫病は存在しなかった.

筆者らは,(1)C. jejuni感染とGBSとの間には疫学的な関係が確立している,(2)患者血中にGM1に対するIgGクラスの自己抗体を検出した2),(3)C. jejuni LOSとGM1との間に分子相同性が存在する4),(4)GM1,GM1様LOSをウサギに感作することにより,臨床的,病理学的にヒト軸索型GBSと同一のモデル動物を樹立した5–7)C. jejuni感染後のGBS症例はこの4原則すべてを満たし,自己免疫疾患発症における「分子相同性」仮説を立証する最初の病気となった.

自己免疫病発症における分子相同性の研究は,ペプチドに対する自己反応性T細胞に主として目が向けられていたためか分子相同性仮説の証明には至っていなかった.糖鎖と自己抗体という別の観点から取り組んだのが結果としてはよかったのであろうが,2004年に研究をまとめるまで,自己免疫病の発症機序に関する未解決の大問題に取り組んでいたことは意識していなかった.免疫学の一節を書き変える仕事ができ,研究者として非常に幸福である.また,糖鎖相同性により自己免疫病が発症しうるという新しい概念を提出するに至り,(過小評価されている)糖鎖(研究)への恩返しができた.

6. 新しい治療

健常人から献血で得られた免疫グロブリンが,各種自己免疫病の治療に用いられている.GBSにおける有効性は,90年代に確立された.同等の有効性が示されている血漿交換よりも高額であるが,特別な設備を必要としないので治療の第一選択となっている.しかしながら,その薬理作用はわかっていなかった.抗GM1抗体と結合する抗イディオタイプ抗体は存在するが,どの程度重要かはわからない.しかし,GBSウサギにおける検討で,抗GM1抗体の産生やクリアランスには影響を及ぼさないことがわかった.また,免疫グロブリン製剤が(補体の活性化を阻害し)軸索変性の程度を抑えて回復が早まることが判明した8)

筆者らは,IgGがランビエ絞輪部に豊富に局在するGM1に結合し,補体が活性化されて軸索膜を傷害し,ナトリウムチャンネルがなくなり電気伝導が行われなくなって運動麻痺を呈することを示した(図1B9)C. jejuni腸炎後軸索型GBSの発症機序をまとめると,GM1様LOSを発現しているC. jejuniに感染して誘導,産生されたIgG抗GM1抗体が,脊髄運動神経のランビエ絞輪部に豊富に局在するGM1に結合し,引き寄せられた補体が軸索膜を傷害し,ナトリウムチャンネルが消失し電気伝導が行われなくなって運動麻痺を呈して,GBS発症に至る,ということなる.なお,この仕事はハリソンの内科学書にも引用されている.

2006年に大阪大学微生物病研究所でセミナーをした際,木下タロウ教授から「補体が活性化されて発症するのであれば,GBSにはフサン™(鳥居薬品)が効くはずだ」という助言を受けた.補体系は,C1r,C1s,C3/C5転換酵素などセリンプロテアーゼにより活性化されるが,播種性血管内凝固症候群,急性膵炎,血液透析,血漿浄化療法に対して長年使用されているフサンは,セリンプロテアーゼの阻害薬として開発された.そこで,GBSウサギに投与したところ,補体の沈着やナトリウムチャンネルの破壊が阻害され,なかには急速に回復するウサギもいた10).免疫グロブリン製剤に比べて安価で(血液製剤による)ウイルス感染の心配のないフサンの臨床試験を実施したい.フサンは,補体が関与した他の自己免疫疾患(全身性エリテマトーデス,重症筋無力症,皮膚筋炎など)へも臨床応用できるであろう.

7. ワクチン接種後GBS

1976年米国で,ブタインフルエンザワクチン接種後にGBS患者が約500人発症して30人以上の方が亡くなり社会問題となった(そのために現職のフォード大統領が無名のカーター氏に破れたという説もある).そうした歴史的経緯もあり,新型インフルエンザワクチンがGBSを引き起こす可能性について懸念されていた.2009年3月末スイスのジュネーブで講演をした際に,世界保健機関のワクチン安全性委員会の前委員長から「GBSを引き起こす危険性を事前に調べられないか」相談を受けた.その矢先,メキシコでブタインフルエンザの流行が始まった.

新型ブタインフルエンザワクチンにはガングリオシドが含まれておらず,マウスに接種しても抗ガングリオシド抗体は誘導されなかった.国立病院機構で新型ブタインフルエンザワクチン接種の安全性確認試験が行われたので,接種前後の血清を入手し抗ガングリオシド抗体が上昇しないことを確認し,少なくとも軸索型GBSは引き起こしにくいことを予測した11).今までの疫学的報告を総合すると,新型ブタインフルエンザワクチンによりGBSの発症率は上昇しなかったようである.

従来狂犬病のワクチンとしては,動物の脳を用いて狂犬病ウイルスを培養して作製した動物脳由来ワクチンが使用され,ワクチン接種後7千人に1人と高率にGBSが発症していた.世界保健機関の勧告により多くの国では現在,培養組織を用いて狂犬病ウイルスを培養して作製した組織培養ワクチンが使用されるようになり,狂犬病ワクチンGBSの発症はほとんどなくなったが,第三世界ではいまだに使用されている.そこで,バングラデシュで使用されている動物脳由来ワクチンを入手して分析し,ガングリオシドを多く含んでいることをシンガポールに移ってから明らかにした12).筆者らの報告を受けて,バングラデシュでは動物脳由来ワクチンは製造されなくなった.

8. おわりに

本稿ではGBSの病態解明に限って述べたが,類縁疾患の体系化を含めた他の研究内容については日本学士院紀要をご覧いただきたい13).そこでも記した共同研究者をはじめとする多くの方々にお世話になった.

引用文献References

1) Yuki, N. & Hartung, H.P. (2012) N. Engl. J. Med., 366, 2294–2304.

2) Yuki, N., Yoshino, H., Sato, S., & Miyatake, T. (1990) Neurology, 40, 1900–1902.

3) Yuki, N., Sato, S., Miyatake, T., Sugiyama, K., Katagiri, T., & Sasaki, H. (1991) Lancet, 337, 1109–1110.

4) Yuki, N., Taki, T., Inagaki, F., Kasama, T., Takahashi, M., Saito, K., Handa, S., & Miyatake, T. (1993) J. Exp. Med., 178, 1771–1775.

5) Yuki, N., Yamada, M., Koga, M., Odaka, M., Susuki, K., Tagawa, Y., Ueda, S., Kasama, T., Ohnishi, A., Hayashi, S., Takahashi, H., Kamijyo, M., & Hirata, K. (2001) Ann. Neurol., 49, 712–720.

6) Susuki, K., Odaka, M., Mori, M., Hirata, K., & Yuki, N. (2004) Neurology, 62, 949–956.

7) Yuki, N., Susuki, K., Koga, M., Nishimoto, Y., Odaka, M., Hirata, K., Taguchi, K., Miyatake, T., Furukawa, K., Kobata, T., & Yamada, M. (2004) Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 101, 11404–11409.

8) Nishimoto, Y., Koga, M., Kamijo, M., Hirata, K., & Yuki, N. (2004) Neurology, 62, 1939–1944.

9) Susuki, K., Rasband, M.N., Tohyama, K., Koibuchi, K., Okamoto, S., Funakoshi, K., Hirata, K., Baba, H., & Yuki, N. (2007) J. Neurosci., 27, 3956–3967.

10) Phongsisay, V., Susuki, K., Matsuno, K., Yamahashi, T., Okamoto, S., Funakoshi, K., Hirata, K., Shinoda, M., & Yuki, N. (2008) J. Neuroimmunol., 205, 101–104.

11) Yuki, N., Takahashi, Y., Ihara, T., Ito, S., Nakajima, T., Funakoshi, K., Furukawa, K., Kobayashi, K., & Odaka, M. (2012) J. Neurol. Neurosurg. Psychiatry, 83, 116–117.

12) Sakai, H., Harun, F.M., Yamamoto, N., & Yuki, N. (2012) J. Neurol. Neurosurg. Psychiatry, 83, 467–469.

13) Yuki, N. (2012) Proc. Jpn. Acad., Ser. B, Phys. Biol. Sci., 88, 299–326.

著者紹介Author Profile

結城 伸泰(ゆうき のぶひろ)

前職シンガポール国立大学医学部内科学,生理学・教授.医学博士.

略歴

1962年千葉県松戸市に生る.新潟県長岡市で育つ.87年新潟大学医学部卒業.93年東京医科歯科大学医学部大学院修了.96年獨協医科大学神経内科講師.2001年同助教授.08年国立病院機構新潟病院神経内科医長.10年4月より15年4月まで前職.7月シドニー大学教授就任予定.

研究テーマと抱負

免疫性神経疾患の発症機構の解明と治療法の開発.“research for patients and clinicians in the world”を合言葉に,神経疾患特に自己免疫病の基礎研究を通し,世界の医療に貢献できるよう日々邁進している.

趣味

読書,映画鑑賞.

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