成熟脳のペリニューロナルECMの形成と機能について
1 岡山大学大学院医歯薬学総合研究科 ◇ 〒700-8558 岡山県岡山市北区鹿田町二丁目5番1号
2 Neuroscience Institute, School of Medicine, New York University ◇ 450 East 29th Street, 9th Floor, New York, NY 10016, United States of America
© 2015 公益社団法人日本生化学会
中枢神経系の細胞外マトリックス(ECM)はその存在が1970年代以降にやっと一般的に認知されるようになり,中でもコンドロイチン硫酸プロテオグリカン(CSPG)やヒアルロン酸(HA)などが豊富に含まれるという特徴を有していた.1990年代にCSPGのコアタンパク質遺伝子や関連ECMタンパク質の発見が進むにつれ,プロテオグリカン(PG)は単に細胞間のスペースを埋める基質としての静的概念から,より積極的に細胞機能を制御するという動的概念をもって認識されるようになってきた.たとえばPGは脳の発達期の神経回路形成,特に神経可塑性の制御,また中枢神経損傷後の修復過程に関与する1).また近年,PGによる細胞機能の制御には,PGに結合した硫酸化グリコサミノグリカン(GAG)鎖の硫酸化パターンが「糖鎖コード」として重要であることが注目されている2).
本稿では,むしろECMコアタンパク質とさまざまなタンパク質間の相互作用の観点から,特に古くはCamillo Golgiらに遡り発見されているものの,機能についていまだに解明がなされていないHA結合型ペリニューロナルECMの成熟脳における形成と機能について,筆者らが見いだした最近の知見を中心に概説する.
成熟脳におけるCSPGの主要分子に,HA結合性を示すレクティカンファミリーの分子が存在する.このレクティカンファミリーはアグリカン,バーシカン,ニューロカン,ブレビカンの4分子からなる.これら分子をコードする遺伝子は,無脊椎動物には存在せず,脊椎動物に特有の遺伝子である.また,4遺伝子とも中枢神経系で特に発現が多いことは,高等動物の中で最も複雑な神経回路形成や高次脳機能に重要な役割を果たしていることを予想させる1).レクティカンファミリーCSPGのコアタンパク質はいずれもN末端とC末端にホモロジーの高い球状ドメインを持つ.これらはG1,G3ドメインと呼ばれ,両ドメインの間には多数のGAG鎖(主にCS鎖)が結合しているCS結合領域が存在する.レクティカンファミリーと命名された所以はG3ドメイン中のレクチン様サブドメインを持つことに由来する3).
GolgiやCajarらによって発見されたペリニューロナルネット(PNN)構造は,特定の神経細胞の細胞体および樹状突起にみられる網目状の構造であるが,細胞膜表面に高度に凝縮した構造である(図1A).HAに結合するレクティカンがさらにC末端ではテネイシンR(TN-R)の三量体により,タンパク質分子間で架橋された超分子会合体を形成している構造を持つというHLT(Hyaluronan,Lectican,TN-Rの頭文字をとって命名した)モデル(図1B)がYamaguchiにより提唱された3).本モデルは,PNNの構造だけでなく,後述する中枢神経ランビエ絞輪(NOR)のマトリックスの形成にも共通するモデルであることが判明したことからも(図1C),先見性の高いモデルとなった.
筆者らのグループは2000年ごろまでにPNNにみられるHA結合ECMの多様性を組織化学的手法により見いだしており,それを説明することができる新しい分子の存在を想定し,HA結合タンパク質が含むリンクモジュール配列を手がかりに新分子を探索した.そして,新規脳特異的ヒアルロン酸プロテオグリカンリンクプロテイン(HAPLN)遺伝子Hapln2/Bral1,Hapln4/Bral2をクローニングした4,5)
.Hapln4/Bral2は脳幹部・小脳のPNNのマトリックスに特異的に発現する分子であり,Hapnl1/Crtl1の発現比較から,PNNに関する脳部位別機能的特異性が示唆された5).Hapln2/Bral1の局在は中枢神経のNORに限局するものであり,新しいECMの存在を示唆するものであった6).
Haplnの機能については,Hapln1/Crtl1が軟骨基質としてアグリカンのHA結合を非常に安定化させることから,HLTモデルでも重要なものと考えられた.一方,脳HA結合マトリックスと軟骨HA結合マトリックスとの違いは,TN-Rの有無である.Haplnの発現はいずれもマウスの生後10日以降増加し,中でもHapln2/Bral1,Hapln4/Bral2は成熟脳で発現がさらに増加する4,7)
.PG,TN-R等の発現は,Hapln発現開始より先行しているが,Haplnの発現開始とPNNおよびNORマトリックスの凝縮が組織学的にもリンクしていることから,これらペリニューロナルマトリックス形成のトリガーと考えられた.PNN形成のトリガーとしてのHaplnの機能はin vitroのモデル実験において実証された8)
.事実,三つのHapln遺伝子を個別にノックアウトすると,関与するPNNあるいはNORのECM集積(図1)が障害された7,9,10)
.一方,いずれの場合も,PGの全体の発現レベルに大きな影響を及ぼさずに集積パターンに影響を与えた.さらに,Hapln1/Crtl1欠損マウスは,成体においても眼優位可塑性を維持した.以上の結果は,HaplnがPNNの形成とその機能に非常に重要な役割を果たすことを示している.
有髄神経にみられるNORは,神経軸索を覆うミエリン鞘とミエリン鞘の間に存在し,細胞外環境にさらされている.NORには電位作動型ナトリウムチャンネルが集積しており,活動電位が発生する場となっている.我々は,中枢神経NORにおけるHapln2/Bral1の局在が,レクティカンのバーシカンV2アイソフォームの局在と一致することを見いだしたが,その機能は不明であった6).続いて,ブレビカン,ニューロカンが,すべてのNORではないが多くの中枢神経NORに局在することを示した11,12).特に,ブレビカンは軸索直径の太いランビエ絞輪にのみ局在し,その局在にTN-R,ホスファカンが共局在することを,視神経を使った免疫染色,免疫沈降実験,ブレビカン欠損マウスの結果から示した11).TN-RのFNIIIリピートはブレビカンのG3ドメインと高い結合親和性を持つことにより,この現象は説明できる.軸索直径の太いNORほど,CS鎖などの強い陰性荷電糖鎖を含み,より複雑なECM会合体を集積していることとなり,これは太い有髄神経ほど跳躍伝導速度が速いことと何らかの関連性があることが考えられた.
そこで,筆者らはNORのECM集積が障害されているHapln2/Bral1欠損マウスで組織学的検証を行った9).このマウスは組織学的に特に異常はみられず,跳躍伝導に必須のナトリウムチャンネルや他チャンネルの局在にも変化はみられなかった.NORの軸索側に存在する接着分子neurofascin (NF) 186にも変化はみられず,NORに投射するグリア細胞にも異常はみられなかった.以上のように活動電位の発生に関与している構造や分子に異常が認められないのにも関わらず,Hapln2/Bral1欠損マウスの視神経における伝導速度は野生型に比べて有意に遅くなっていた.そこで,筆者らはNORのECM会合体が,活動電位発生に必要なナトリウムイオンなどのイオンをNOR外周囲にプールするバリアーとして機能しているという仮説を立て,検証のために細胞外スペース(ECS)のイオンの拡散性を解析した.テトラメチルアンモニウム(TMA+)の拡散速度を白質である脳梁および灰白質である大脳皮質で測定したところ,NORが多く存在する脳梁においてHapln2/Bral1欠損マウスでは有意に拡散しやすくなっていた.この結果はさらに,拡散性を解析するもう一つの方法である拡散強調MRIでも確認された9).すなわちHapln2/Bral1を中心として形成されるNORのECM会合体がNOR外の微小環境でイオンを拡散させにくいバリアーとして機能していることを強く示唆している.
有髄線維における跳躍伝導では,NORに電位作動型ナトリウムチャンネルが高度に集積することが必須条件である.NORにはイオンチャンネルの他にNF186などの細胞接着分子が含まれ,さらにアンキリンG(AnkG)やβIVスペクトリンなどの細胞内骨格タンパク質が連結している.NOR装置の構築には,神経細胞–グリア細胞(中枢神経では軸索とオリゴデンドロサイト,末梢神経では軸索とシュワン細胞)の相互作用が重要である.どちらの系においても,NF186とAnkG結合を契機としたナトリウムチャンネルの集積がみられる.また,末梢神経ではNOR外のシュワン細胞微絨毛に発現するグリオメディンの細胞外ドメインが切断を受けた後NORに密集し,NF186等の集積に寄与している.このように,末梢神経NORの形成機構が明らかになりつつある一方で中枢神経NORの形成機構は不明であった13).大きな違いとして末梢神経NORの細胞外成分として重要なグリオメディンは中枢神経系では発現していないものの,ブレビカンがNF186と結合することから,中枢神経NORのECM分子がその役割を担うのではないかと推測されていた.これまでの研究結果からは,中枢神経NORのECM成分の単独分子を欠損させてもNOR形成の異常はみられないが,末梢神経NOR形成機構から考えると他の分子相互作用メカニズムと協同してNOR形成に寄与する可能性が考えられた.筆者らと国際共同研究グループは,協同メカニズムとして(1)NF186とECM結合,(2)パラノード形成によるNORのドメインの領域化,(3)細胞骨格分子によるナトリウムチャンネルの安定化の3メカニズムを考えた.そして,この3メカニズムを代表する欠損マウスのうち二つを交配させたダブルノックアウトマウス(DKO)の系を作り,それぞれのメカニズムの相互依存を確認する実験を行った14).まず,ブレビカンやバーシカンはNOR形成初期過程にG3ドメインを介してNF186と相互作用することが示された.結果として,程度の差はあれどもどの組合わせのDKOもナトリウムチャンネルの集積低下を認め,それに伴う運動機能異常,神経性の症状を呈した.一方,パラノードと細胞骨格の2メカニズムのDKOの場合,末梢神経NOR形成への影響が比較的軽微であったことは,末梢神経ECMがより強い関与をしていることを示す.以上の結果は,末梢神経NORとは異なるものの,中枢神経NOR形成にはECMとNF186相互作用を含む重複するメカニズムが関与することを示した(図2).
本稿では,古くより知られ近年では神経可塑性制御などの機能について注目されているペリニューロナルECMの形成に焦点をあてた我々の研究を紹介させていただいた.その中でも,中枢神経NORのECM会合体の存在を明らかにし,さらにその形成と機能について理解を深めることに成功した.依然として,PNNの機能にはまだ解明すべき点が多く残っているが,日本では「神経糖鎖生物学」(shinkei-tosa.net)という研究領域が立ち上げられ,いくつかの興味深い作用機序が提案・追求されている.硫酸化GAG鎖の「糖鎖コード」がさまざまな因子の結合や受容体に作用するという作動原理追求がされているのも一例である15).それらのさまざまなシグナルが交錯する「場」をCSPGが主体である会合体が作っていると考えられる.今後,我々はHapln分子を手がかりに,脳部位特異的PNN形成と機能について検討を行っていきたい.
1) Zimmermann, D.R. & Dours-Zimmermann, M.T. (2008) Histochem. Cell Biol., 130, 635–653.
2) Mikami, T. & Kitagawa, H. (2013) Biochim. Biophys. Acta, 1830, 4719–4733.
3) Yamaguchi, Y. (2000) Cell. Mol. Life Sci., 57, 276–289.
4) Hirakawa, S., Oohashi, T., Su, W.-D., Yoshioka, H., Murakami, T., Arata, J., & Ninomiya, Y. (2000) Biochem. Biophys. Res. Commun., 276, 982–989.
5) Bekku, Y., Su, W.-D., Hirakawa, S., Fässler, R., Ohtsuka, A., Kang, J.S., Sanders, J., Murakami, T., Ninomiya, Y., & Oohashi, T. (2003) Mol. Cell. Neurosci., 24, 148–159.
6) Oohashi, T., Hirakawa, S., Bekku, Y., Rauch, U., Zimmermann, D.R., Su, W.-D., Ohtsuka, A., Murakami, T., & Ninomiya, Y. (2002) Mol. Cell. Neurosci., 19, 43–57.
7) Carulli, D., Pizzorusso, T., Kwok, J.C., Putignano, E., Poli, A., Forostyak, S., Andrews, M.R., Deepa, S.S., Glant, T.T., & Fawcett, J.W. (2010) Brain, 133, 2331–2347.
8) Kwok, J.C., Carulli, D., & Fawcett, J.W. (2010) J. Neurochem., 114, 1447–1459.
9) Bekku, Y., Vargová, L., Goto, Y., Vorísek, I., Dmytrenko, L., Narasaki, M., Ohtsuka, A., Fässler, R., Ninomiya, Y., Syková, E., & Oohashi, T. (2010) J. Neurosci., 30, 3113–3123.
10) Bekku, Y., Saito, M., Moser, M., Fuchigami, M., Maehara, A., Nakayama, M., Kusachi, S., Ninomiya, Y., & Oohashi, T. (2012) J. Comp. Neurol., 520, 1721–1736.
11) Bekku, Y., Rauch, U., Ninomiya, Y., & Oohashi, T. (2009) J. Neurochem., 108, 1266–1276.
12) Bekku, Y. & Oohashi, T. (2010) Arch. Histol. Cytol., 73, 95–102.
13) Eshed-Eisenbach, Y. & Peles, E. (2013) Curr. Opin. Neurobiol., 23, 1049–1056.
14) Susuki, K., Chang, K.J., Zollinger, D.R., Liu, Y., Ogawa, Y., Eshed-Eisenbach, Y., Dours-Zimmermann, M.T., Oses-Prieto, J.A., Burlingame, A.L., Seidenbecher, C.I., Zimmermann, D.R., Oohashi, T., Peles, E., & Rasband, M.N. (2013) Neuron, 78, 469–482.
15) Miyata, S., Komatsu, Y., Yoshimura, Y., Taya, C., & Kitagawa, H. (2012) Nat. Neurosci., 15, 414–422, S1–S2.
This page was created on 2015-04-30T18:48:18.996+09:00
This page was last modified on 2015-06-22T14:09:41.922+09:00
このサイトは(株)国際文献社によって運用されています。