生化学 SEIKAGAKU
Journal of Japanese Biochemical Society

Online ISSN: 2189-0544 Print ISSN: 0037-1017
公益社団法人日本生化学会 The Japanese Biochemical Society
〒113-0033 東京都文京区本郷5-25-16 石川ビル3階 Ishikawa Building 3F, 5-25-26 Hongo, Bunkyo-ku Tokyo 113-0033, Japan
Journal of Japanese Biochemical Society 87(4): 450-453 (2015)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2015.870450

みにれびゅうMini Review

細菌外膜の生合成および維持機構Biogenesis and quality control of the outer membrane of gram-negative bacteria

盛岡大学栄養科学部Faculty of Nutritional Sciences, Morioka University ◇ 〒020-0694 岩手県滝沢市砂込808番地808 Sunakomi, Takizawa-shi, Iwate 020-0694, Japan

発行日:2015年8月25日Published: August 25, 2015
HTMLPDFEPUB3

1. はじめに

細菌はグラム陽性とグラム陰性に大別される.グラム陽性細菌が細胞質膜の外側に分厚いペプチドグリカン層からなる細胞壁を持つのに対し,大腸菌などのグラム陰性細菌は薄い細胞壁の外側にもう一つの膜構造,外膜を持つ.グラム陰性細菌の細胞質膜(内膜)と外膜は親水的なペリプラズム空間によって隔てられており,この点において,外膜は細胞小器官のような独立した構造体と捉えることができる.外膜の構成は一般的な生体膜とは異なり,内側にリン脂質,外側に複合脂質であるリポ多糖(lipopolysaccharide: LPS)が配向した非対称な脂質二重層となっている.外膜は抗生物質や界面活性剤などの異物に対して効果的な透過障壁として働き,グラム陰性細菌の生育に必須である.このような外膜の透過障壁としての機能は,LPSの性質に負うところが大きいと考えられている1).外膜に局在しているタンパク質もまた,外膜の機能に重要であり,これらも特徴的な構造を持っている.一般に,膜タンパク質は疎水性のαヘリックスによって膜を貫通するが,グラム陰性細菌の外膜に存在するタンパク質は,βバレル構造をとって外膜を貫通している(これと同じ構造のタンパク質はミトコンドリアや葉緑体の外膜にもみられる)か,アミノ末端のシステインに付加した脂質を介して膜に結合している.前者は外膜タンパク質,後者はリポタンパク質と呼ばれる.以上述べたような外膜の主要構成因子(リン脂質,LPS,外膜タンパク質,リポタンパク質)は,細胞質または内膜で合成され,外膜まで運ばれる.疎水的な外膜因子を親水的なペリプラズム空間を越えて輸送するという熱力学的に不利な反応を実現するために,グラム陰性細菌はそれぞれの外膜因子の輸送に特化した専用の装置を備えている(図1).本稿では外膜構成因子の局在化と品質管理に関する最近の知見に言及するとともに,外膜でLPSの輸送に働くLptD/E複合体の新奇な生合成機構を紹介する.

Journal of Japanese Biochemical Society 87(4): 450-453 (2015)

図1 グラム陰性細菌における外膜構成因子の局在化機構

外膜タンパク質,LPS,リポタンパク質は細胞質で合成され,内膜,ペリプラズム空間を越えて外膜まで輸送される.Sec膜透過装置の働きで内膜を透過した外膜タンパク質はDegP,SurA,SkpなどのペリプラズムシャペロンとBAM複合体(BamA~E)の作用で外膜に挿入される.LPSはLpt因子によって形成される疎水性チャネルを通ってペリプラズム空間をバイパスすると考えられるのに対し,リポタンパク質の輸送では親水的なリポタンパク質-LolA複合体がペリプラズム空間を横断する.

2. 外膜構成因子の局在化機構

外膜の主要構成因子のうち,内膜から外膜への局在化機構が最初に解明されたのがリポタンパク質である.リポタンパク質はSec膜透過装置の作用で内膜を透過した後,内膜の外側で脂質修飾を受ける.その後,Lol因子と呼ばれる5種類のタンパク質の働きで外膜まで輸送される2).LolAはペリプラズム空間に存在する,リポタンパク質のキャリアータンパク質であり,分子内の疎水性キャビティにリポタンパク質の脂質部分を収納してリポタンパク質と1 : 1の親水性の複合体を形成し,リポタンパク質を内膜から外膜へと輸送する.この親水性の輸送中間体を調製し,それを用いてin vitroで輸送反応を再構成することが可能である.このin vitro実験系は,リポタンパク質の輸送機構を研究する上での推進力となっている2)

外膜タンパク質は両親媒性のβ構造をとることでペリプラズム空間を通過し,外膜に組み込まれる.外膜タンパク質の輸送にはDegP,SurA,Skpなどのペリプラズムシャペロンと,外膜に存在するBAM複合体が関与する.大腸菌のBAM複合体はOmp85ファミリーに属する外膜タンパク質BamAと,4種のリポタンパク質BamB~Eからなる3).Omp85ファミリーにはBamAホモログだけでなく,ミトコンドリアのSam50や葉緑体のToc75も含まれており,βバレル型タンパク質の生合成機構が進化の過程で保存されていることを暗示している.

LPSは内膜の細胞質側で合成され,ABCトランスポーターMsbAの作用で内膜のペリプラズム側にフリップされた後,一群のLpt因子の働きで外膜外葉まで運ばれる2).リポタンパク質と異なり,LPSを含む親水的な輸送中間体は観察されていないため,Lpt因子によって形成される内膜–外膜間の架橋を介してLPSが運ばれる輸送モデルが有力である.実際,外膜タンパク質であるLptDのN末端ドメイン,ペリプラズムタンパク質のLptA,および内膜タンパク質のLptCは互いによく似たゼリーロール構造をとっており,LPSを内膜から外膜まで運ぶための連続した疎水性チャネルの存在が示唆されている4,5)

リン脂質も外膜まで輸送されなければならないが,その輸送機構については不明な点が多く,本稿では言及しない.

3. σE依存的表層ストレス応答機構

細胞表層の重要性を反映するように,細菌は幾重もの表層ストレス応答機構を備えている.大腸菌における主要な表層ストレス応答経路として,σE,Cpx,Psp,Bae,Rcsの5経路が知られている.これらはさまざまな表層ストレスに応答して遺伝子の発現を制御し,外的環境の変化に順応して細菌が生体内部の恒常性を維持することに貢献している6).中でもσE経路は大腸菌の生育に必須の表層ストレス応答経路であり,その重要性が注目されている.熱ストレスなどによって外膜タンパク質がミスフォールドしたり,LPSや外膜タンパク質の外膜へのアセンブリーが阻害されたりすると,DegS,RsePといった内膜プロテアーゼによるアンチσタンパク質RseAの連続的な切断を介したシグナル伝達を経てσEが活性化される6,7).σEはRNAポリメラーゼの置換型サブユニットとして働き,ペリプラズム空間で働くシャペロンやプロテアーゼ,BAM因子,LPS合成酵素などをコードする遺伝子の転写を誘導する.また,σEによって転写誘導されるノンコーディングRNAは,外膜タンパク質やリポタンパク質の翻訳を抑制する.これらの応答により,σEは外膜タンパク質がミスフォールディングする可能性を低減する7).余談ながら,σEは大腸菌の生育に必須であるにも関わらず,hicB遺伝子を欠失する変異株はσEがなくても生育できることが知られている8)hicBはトキシン–アンチトキシン(TA)システムのアンチトキシンをコードし,トキシンをコードするhicAとオペロンを構成する9).TAシステムは原核生物に広く保存された遺伝子対で,通常の生育条件ではアンチトキシンが結合することでトキシンを不活化しているが,細胞が栄養飢餓などストレスにさらされるとトキシンが活性化し,自身の細胞機能を阻害する.筆者らは大腸菌がσEがなくても生育できるようになるためにはトキシンのRNA切断活性が必要であることを明らかにした10).この知見は表層ストレス応答にTAシステムが関与していることを示唆している.

大腸菌では114の遺伝子がσEレギュロンのメンバーとして同定されているが,中には機能が解明されていない遺伝子も含まれる11).筆者らはこれらの一つ,ペリプラズムのプロテアーゼをコードすると予想されるbepAに注目して機能解析を進めてきた.BepAはメタロプロテアーゼの活性部位モチーフ(HEXXH)を含むN末端ドメインと,TPR(tetratricopeptide repeat)モチーフを含むC末端ドメインからなる.通常,外膜はエリスロマイシンやバンコマイシンなどの分子量の大きな抗生物質を透過させないが,bepAを欠失すると大腸菌がこれらの抗生物質に対して感受性を示すようになることから,BepAは外膜の生合成や品質管理に関与していることが示唆されていた.筆者らはbepA欠失株のエリスロマイシン感受性を抑制するマルチコピーサプレッサーを探索し,LptEを過剰発現するとbepA欠失株の抗生物質感受性が抑制されることを見いだした.この発見をきっかけに,以下に述べるLptD/E複合体生合成におけるBepAの役割が明らかとなった.

4. LPSの輸送に働くLptD/E複合体の生合成機構

外膜タンパク質LptDとリポタンパク質LptEはともに大腸菌の生育に必須であり,LPSを外膜外葉に局在化させるために必要である.LptDとLptEは外膜で複合体を形成していることが知られていたが,興味深いことにLptEはLptDのβバレルの中に存在していることが明らかになった12).この複合体は,LptDとLptEがそれぞれ別個の経路で外膜まで運ばれ,外膜上で相互作用することによってアセンブリーが始まるという点でも特徴的である13).外膜タンパク質の多くは膜を貫通するβバレルと比較的短い膜外ループからなるが,LptDはN末端側に上述のゼリーロールドメインを持ち,この領域がペリプラズム空間に露出している4).LptDのもう一つの構造的特徴として,N末端ドメインとC末端のβバレルドメインの間に存在する2組のジスルフィド結合があげられる.LptDはN末端ドメインに二つ(C31, C173),βバレルドメインに二つ(C724, C725)の合計四つのシステイン残基を持つが,ジスルフィド結合は連続しない二つのシステイン残基間(C31~C724およびC173~C725)で形成される.Kahneのグループはこれら2組の非連続なジスルフィド結合がはじめから形成されるのではなく,連続したシステイン残基間(C31~C173およびC724~C725)で形成されたジスルフィド結合が異性化されて形成されること,およびこの過程にはLptEが必要であることを示した13)

BepAを欠く株の抗生物質感受性がLptEの過剰発現によって抑制されるという筆者らの実験結果は,BepAがLptD/E複合体の生合成に関与していることを暗示していた.イムノブロッティング解析では,LptDの量に対するBepAの有無による差はみられなかった.しかし,非還元的条件でSDS-PAGEを行うと,BepAを欠く株では,正常なジスルフィド結合を持つLptD(これをLptDNCと記す)よりも移動度の大きなバンドが蓄積していることがわかった.LptDの四つのシステイン残基を一つずつセリン残基に置換した変異体を発現させてSDS-PAGEでの移動度を調べたところ,BepAを欠く株で蓄積する移動度の大きなバンドは,連続したシステイン残基間で架橋された分子種(LptDC)のものであることがわかった.パルスチェイス実験を行うと,Kahneらの報告と同様,LptDにおいてはまず連続したジスルフィド結合が形成され,それが30°Cでは40分程度をかけて正しいジスルフィド結合に組み換わることがわかった.これに対して,BepAを欠く株ではこのジスルフィド結合の組換えが遅く,チェイス後80分を経過しても約半数がLptDCのままであった14).野生株でBepAを過剰発現するとLptDCからLptDNCへの変換が促進されることから,BepAによるLptDのジスルフィド結合の異性化はLptD生合成の律速段階になっていると考えられる.また,このLptDCからLptDNCへの変換は,BepAのプロテアーゼ活性部位の変異体によっても促進された14).LptDがBAM複合体依存的に外膜に挿入されること3),細胞内のBepAの少なくとも一部がBAM複合体と近接していること14)を考慮すると,BepAはシャペロン様の活性をもってLptDのBAM複合体からの解離,あるいはLptEとの相互作用を促進することにより,LptD/E複合体のアセンブリーを促進していると考えられる(図2).

Journal of Japanese Biochemical Society 87(4): 450-453 (2015)

図2 LptD/E複合体の生合成

LptDは連続するシステイン残基間に形成されたジスルフィド結合を持つ状態(LptDC)で外膜に挿入され,LptEと相互作用することによりジスルフィド結合の組換えを行い成熟体(LptDNC)となる.BepAはLptDのBAM複合体からの解離あるいはLptEとの相互作用を促進することで,LptD/E複合体のアセンブリーに働いていると考えられる.コの字はジスルフィド結合を表す.

LptDが外膜でアセンブルするにはLptEが必要であるが,筆者らはLptEを枯渇させるとLptDCが分解されることを見いだした.このLptDCの分解にはBepAが関与しており,BepAのプロテアーゼ活性を欠損させると分解が抑制された14).したがってBepAは,LptDの生合成を促進するが,LptDがフォールディングに失敗した場合はこれを分解除去することにより,外膜の品質を保証していると考えられる.BepAを欠く株が薬剤感受性を示す原因としては,ミスフォールドしたLptDが外膜に蓄積することのほか,機能的なLptD/E複合体の不足によりLPSの輸送が阻害され,外膜脂質の配向性に異常が生じることによって,外膜の透過障壁としての機能が低下することが考えられる.

BepAのシャペロン活性とプロテアーゼ活性が,LptDのフォールディング状態に応じてどのように制御されているかは不明である.BepAはプロテアーゼドメインとTPRドメインからなるが,後者は一般にタンパク質間相互作用に働くことが知られており,BepAもこの領域で基質と相互作用する可能性がある.結合した基質が正常にアセンブルすることが見込めない状態であれば,BepAのプロテアーゼとしての機能が活性化されるのかもしれない.今後,その機構を解明するためには,生化学的解析だけでなく,BepA全長あるいはTPRドメインの立体構造の決定が重要であろう.

5. おわりに

LPSが外膜外葉まで正常に輸送されるためには,LptD/E複合体が外膜で正常にアセンブルする必要があり,そのためにはLptDを輸送するBAM経路とLptEを輸送するLol経路がともに正常に機能していることが前提となる.また,BAM複合体を構成する因子のうち,外膜タンパク質であるBamAを除く四つのタンパク質がリポタンパク質である.リポタンパク質の輸送活性はRcs表層ストレス応答経路で働くリポタンパク質RcsFがモニターしており,RcsFの外膜輸送が阻害されるとリン酸リレーシグナル伝達系が活性化され,lolAの転写が誘導される15).さらにRcsFはOmpAなどの外膜タンパク質のβバレル内腔に入って外膜外葉に達することによって,BAM経路の活性もモニターしていることが報告されている16).これらの知見は,外膜構成因子が協調して働くことによって外膜の頑健性を維持していることを示している.今後は外膜構成因子の輸送活性が統合的に制御される機構を解明することが重要になると考えられる.

謝辞Acknowledgments

BepAに関する研究は京都大学ウイルス研究所・秋山芳展教授の研究室において行われました.この場をお借りして御礼申し上げます.

引用文献References

1) Nikaido, H. (2003) Microbiol. Mol. Biol. Rev., 67, 593–656.

2) Narita, S. (2011) Biosci. Biotechnol. Biochem., 75, 1044–1054.

3) Ricci, D.P. & Silhavy, T.J. (2012) Biochim. Biophys. Acta, 1818, 1067–1084.

4) Qiao, S., Luo, Q., Zhao, Y., Zhang, X.C., & Huang, Y. (2014) Nature, 511, 108–111.

5) Freinkman, E., Okuda, S., Ruiz, N., & Kahne, D. (2012) Biochemistry, 51, 4800–4806.

6) Rowley, G., Spector, M., Kormanec, J., & Roberts, M. (2006) Nat. Rev. Microbiol., 4, 383–394.

7) Lima, S., Guo, M.S., Chaba, R., Gross, C.A., & Sauer, R.T. (2013) Science, 340, 837–841.

8) Button, J.E., Silhavy, T.J., & Ruiz, N. (2007) J. Bacteriol., 189, 1523–1530.

9) Jørgensen, M.G., Pandey, D.P., Jaskolska, M., & Gerdes, K. (2009) J. Bacteriol., 191, 1191–1199.

10) Daimon, Y., Narita, S., & Akiyama, Y. (2015) J. Bacteriol., 197, 2316–2324.

11) Bury-Moné, S., Nomane, Y., Reymond, N., Barbet, R., Jacquet, E., Imbeaud, S., Jacq, A., & Bouloc, P. (2009) PLoS Genet., 5, e1000651.

12) Freinkman, E., Chng, S.S., & Kahne, D. (2011) Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 108, 2486–2491.

13) Chng, S.S., Xue, M., Garner, R.A., Kadokura, H., Boyd, D., Beckwith, J., & Kahne, D. (2012) Science, 337, 1665–1668.

14) Narita, S., Masui, C., Suzuki, T., Dohmae, N., & Akiyama, Y. (2013) Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 110, E3612–E3621.

15) Tao, K., Narita, S., & Tokuda, H. (2012) J. Bacteriol., 194, 3643–3650.

16) Cho, S.H., Szewczyk, J., Pesavento, C., Zietek, M., Banzhaf, M., Roszczenko, P., Asmar, A., Laloux, G., Hov, A.K., Leverrier, P., van der Henst, C., Vertommen, D., Typas, A., & Collet, J.F. (2014) Cell, 159, 1652–1664.

著者紹介Author Profile

成田 新一郎(なりた しんいちろう)

盛岡大学栄養科学部准教授.博士(理学).

略歴

1999年京都大学大学院理学研究科修了.CREST研究員,東海大学医学部助手,東京大学分子細胞生物学研究所助手,同助教,京都大学ウイルス研究所特定助教,盛岡大学栄養科学部助教を経て2013年より現職.

研究テーマと抱負

グラム陰性細菌の細胞表層形成機構と品質管理機構,およびその生物学的意義の解明.願わくは誰が聞いても面白く,かつ誰も調べたことがない研究を.

趣味

研究(仕事が趣味という意味ではなく).

ウェブサイト

http://www.morioka-u.ac.jp/kyoin/narita_shinichiro.php

This page was created on 2015-06-22T15:00:56.672+09:00
This page was last modified on 2015-08-17T10:58:27.810+09:00


このサイトは(株)国際文献社によって運用されています。