生化学 SEIKAGAKU
Journal of Japanese Biochemical Society

Online ISSN: 2189-0544 Print ISSN: 0037-1017
公益社団法人日本生化学会 The Japanese Biochemical Society
〒113-0033 東京都文京区本郷5-25-16 石川ビル3階 Ishikawa Building 3F, 5-25-26 Hongo, Bunkyo-ku Tokyo 113-0033, Japan
Journal of Japanese Biochemical Society 87(4): 463-466 (2015)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2015.870463

みにれびゅうMini Review

人工核酸を用いたDNA内電荷移動とDNA光損傷DNA-mediated charge transfer and DNA photodamage by artificial nucleic acids

筑波大学生命領域学際研究センター小宮山プロジェクトKomiyama Project, Life Science Center of Tsukuba Advanced Research Alliance, University of Tsukuba ◇ 〒305-8577 茨城県つくば市天王台一丁目1番1号1-1-1 Tennodai, Tsukuba-shi, Ibaraki 305-8577, Japan

発行日:2015年8月25日Published: August 25, 2015
HTMLPDFEPUB3

1. はじめに

DNAの損傷を引き起こす主な要因として,化学物質や放射線照射,光照射などがあげられる.このうち光照射については,DNAに対する紫外線照射がピリミジン塩基連続部位で二量体形成を引き起こすなどの損傷を与えるだけでなく,より長波長のUVA領域や可視領域の光も,フラビンやNADHなど生体内の発色団を励起することによってDNAに損傷を与える.このようなDNA光損傷は主に,発色団の励起状態がDNAの核酸塩基と電子移動などにより直接反応するものと,酸素へのエネルギー移動を介した活性酸素種の発生によるものに分類される.DNAの直接酸化の場合,DNAに生じたホール(正電荷)は最終的にグアニン(G)に局在し,その後水や酸素と反応することで8−オキソグアニン(8-oxoG)などに代表される酸化損傷物を生成することとなる.また一方で発色団によりDNAが還元される,つまりDNAに電子が注入される反応ではピリミジン二量体の還元による修復が起こることなどが知られている.酸化によってDNAに生じたホールがDNA内を移動し,核酸塩基Gで損傷に至るまでの過程の詳細については,DNA内の長距離電子移動の可能性1)の探求と相まって,化学合成されたDNAを用いて多数の研究がなされてきた.また一方でDNAへ電子が注入された場合の電子の振る舞いについては研究が遅れていたが,近年では適切に設計された人工核酸塩基をDNA内の電子ドナー・アクセプター,ひいてはDNA内の電子の通り道として用いることにより,DNA内の過剰電子移動のさまざまな特性が明らかになり,またその電子移動特性の改変も可能になった.さらにDNAとは骨格の異なる人工核酸を用いることでDNA中の任意のターゲット位置にのみ損傷を与えられるなどDNAを自在に操作できるような化学ツールの開発も進んできた.本稿では人工核酸を用いて検討したDNA内電荷移動特性およびDNA光損傷について,筆者らの最近の研究結果を中心に概説する.

2. DNA内電荷移動

DNAが直接酸化を受けた場合には四つの核酸塩基のうち酸化電位の低いG,特にGGやGGGなどの連続配列が最も酸化されやすく,DNA中に注入されたホールによる最終的な酸化損傷のターゲットとなる2).このDNA内に生じたホールがGに至る過程であるDNA内ホール移動の特性のうち,特に距離依存性を調べるためには光酸化剤とホールトラップの位置を固定することが必須となる.このコンセプトによって,現在までにDNAの光酸化剤(電子アクセプター)として金属錯体や有機分子を結合させたさまざまなDNAコンジュゲートが開発されるに至った.前節のDNAに光損傷を与える生体内発色団の代わりに,化学合成的に扱いやすい発色団が位置を固定されてDNAに修飾されているという状態である.このようなDNAコンジュゲートによってDNA内のホール移動特性についてはこれまでに多くの知見が得られている3)

1)DNA内過剰電子移動

一方で発色団からDNAへの電子の注入による過剰電子移動(図1A)の特性についても,2000年代初期にはさまざまな合成DNAを用いて調べられ始めた.たとえばCarellらはDNA修復を行う光回復酵素を模してフラビンの還元体をDNAに修飾し,チミン二量体の単量体への光開裂を観測している4).LewisとWasielewskiは過渡吸収測定法により過剰電子のDNAへの注入速度について検討を行っている5).ItoとRokitaによっては新規の光還元剤を用いる系が開発されている6).しかしそれでもこのようなDNAへの電子の注入による過剰電子移動特性についての研究が広く手がけられてこなかった理由の一つには,DNA内で機能する適切な電子ドナーの開発の難しさがあげられる.なぜなら,DNA中でよい光還元剤として機能するには,基底状態で安定でありながらその光還元力は強く,一方でDNA自体を励起しない波長での選択的光励起が可能であることが必要不可欠なためである.また,その導入がDNA二重らせんの本来の構造を崩さないことも重要である.以上の点をふまえ,筆者らは励起状態が長寿命で,かつ低い酸化電位を持つナフタレンをエチニルリンカーで連結した新規の人工核酸塩基NU(図1B-1)をDNA中の電子ドナーとして用いる系の開発を行った7).このときDNA中の電子捕捉剤としては,一電子還元によって速やかに分解するブロモウラシルBrU(図1B-1)を用いた.本来ナフタレンは,光電子供与能は高いもののUVA領域に吸収バンドを持たないため,DNAを直接励起することなしに光還元剤として用いることは困難であるが,エチニルリンカーによりDNAに連結されたナフタレン部位の吸収バンドは大きなレッドシフトを示すため,選択的光励起が可能となる.またピリミジン塩基の5位に連結された修飾分子は二本鎖DNAの主溝に位置することとなるため,DNA全体の安定性にほとんど影響を及ぼさない.NUとBrUを含む種々の配列のDNAについて照射波長340 nmで光照射実験を行い,そのそれぞれについてBrUの分解をHPLCによる分析で定量的に調べることで,同一鎖内での過剰電子移動は相補鎖間のものよりも明らかに効率よく起こること,また3´末端から5´末端方向が効率よく起こることがわかった.図1B-2にはBrUがNUから2塩基対分離れた場合のBrUの分解速度を示している.さらにDNA中のホール移動と同様,過剰電子移動でも距離依存性が小さく,その電子移動効率はDNAの構造のわずかな違いに大きく依存することが明らかとなった.DNA内電子ドナーとして従来のインターカレーター型ではなく機能性の人工核酸塩基を用いたこの系では,電子ドナーと相補鎖の塩基との軌道のオーバーラップはほぼないため,このようなDNA鎖内と鎖間の電子移動が明らかに区別されて観測されたといえる.

Journal of Japanese Biochemical Society 87(4): 463-466 (2015)

図1 DNA内過剰電子移動特性

(A)DNA内ホール移動と過剰電子移動.(B-1)電子ドナーとして機能する人工核酸塩基NUと電子捕捉剤BrU.(B-2)DNAの同鎖内・相補鎖間の電子移動効率と方向依存性.(C-1)電子ドナーとしての人工核酸塩基PyUと電子メディエーターPhU.(C-2)PhUのDNA内への導入による電子移動効率の飛躍的な増大.

2)人工核酸塩基を用いた過剰電子移動の高効率化

修飾核酸塩基を用いたDNA内の高効率ホール移動については以前から報告例があった8,9).一方で高効率の過剰電子移動については,近年まで報告がなされていなかったが,これについては他グループおよび筆者らがそれぞれ異なる核酸塩基を用いて実現している10,11).Itoらは電子吸引基を有することでLUMOレベルの低くなった(電子親和性の高い)5-フルオロウラシルなどのウラシル誘導体をDNA内に導入することでDNAの電子移動特性を変化させた.一方で筆者らは5位にフェニルエチニル基が連結されたPhU(図1C-1)を過剰電子のメディエーターとしてDNAに導入している.過剰電子は同じく5位修飾のウラシル誘導体PyU(図1C-1)の選択的光励起によりDNAに注入される.それぞれPhUを複数個含むDNAオリゴヌクレオチドと参照のオリゴヌクレオチドを準備した.これらのDNAサンプル溶液に対して照射波長400 nmでPyUの選択的光励起を行い,それぞれのDNAでのBrUの分解速度を初期分解量から得た結果,PhUを電子供与体PyUとBrUの間に含むDNAではPhUを含まないDNAの約60倍,さらにBrUの後方にもPhUを含むDNAでは約145倍と分解効率の大幅な上昇がみられた(図1C-2).Gaussianによる計算からはPhUのLUMOレベルが天然の核酸塩基Tよりも大幅に低いという結果が出ている.これは導入されたフェニル基によりπ系が拡張されることによる電子の非局在化の影響により電子受容性が大幅に高まったためであると考えられる.この効果によりDNA内での飛躍的な高効率の過剰電子移動が観測されたといえる.

3. 人工核酸によるDNAの位置選択的損傷

人工核酸は上記のようにDNA内に入れ込むだけではなく,外部からDNAを認識,改変するツールとして用いることもできる.本節ではペプチド核酸PNA, 特に二本鎖DNA中にインベージョン(侵入)することでできるpseude-complementary PNA(pcPNA)について取り上げる.Nilesenらにより開発された人工核酸PNAは電荷を持たない主鎖骨格を持ち,DNAと高い二重鎖形成能・配列認識能を持つ(図2A).pcPNAではDNAの核酸塩基A, Tの代わりにそれぞれ2,6-ジアミノプリン(D),2−チオウラシル(Us)を導入することにより,立体障害のためPNAどうしの二重鎖よりも優先してDNAと二重らせんを組むこととなる.pcPNAはDNAターゲット配列に対して相補となるように設計すると図2BのようにDNAにインベージョンする12).これまでにはpcPNAの特性を利用して,末端にCe(IV)/EDTA錯体を配し,リン酸ジエステル結合を加水分解してDNAの位置選択的切断を行うことで細胞内での相同組換えの誘発に成功した例などが報告されている13).pcPNAのインベージョンは塩基配列に対して非常に精密な認識能を持つため巨大DNAに対して用いることができる.筆者らが合成したN末端にリンカーを介して色素チアゾールオレンジ(TO)を修飾した一対のpcPNA(TO-pcPNA)もまたDNAのターゲット配列を精密に認識しインベージョンする14).TOはDNAのインターカレーターである一方,水溶液中でフリーに存在する場合にはほぼ非蛍光性であるためDNAの染色剤としてよく用いられている.pcPNAがインベージョンした際にTOが二本鎖DNA部分にインターカレートするような設計にすると,基質DNAがターゲット配列を持つ場合にのみ,インベージョン複合体中のTOからの強い蛍光が観測されることになる.このコンセプトによって,合成されたTO修飾のpcPNAプローブは100 bpのDNA中の1塩基の違いも感度よく識別でき,またプラスミドDNA(4733 bp)中のターゲット配列も蛍光発光測定で簡便に検出できた.またTOは三重項状態からのエネルギー移動により一重項酸素を発生させる(図2C).この一重項酸素もDNA中の近傍のGと反応し,8-oxoG等の酸化損傷物を与える.実際にTO-pcPNAをインベージョンさせたプラスミドDNAに光照射を行うと,インベージョン周辺位置に集中して酸化損傷物8-oxoGが生成することが,8-oxoGを認識・除去しDNAの切断を行う酵素Fpgでの処理により明らかになった(図2D).このように人工核酸塩基PNAとTOを用いることで,DNAの目的配列に対してプローブとして働くと同時に,位置特異的に光損傷を与えられることがわかった.

Journal of Japanese Biochemical Society 87(4): 463-466 (2015)

図2 人工核酸pcPNAによるDNAの位置特異的光損傷

(A)PNAおよびPNA/DNA二重鎖の構造(PNA/DNAの構造はMacroModelにより計算).(B)2,6-ジアミノプリン(D)と2-チオウラシル(Us)の構造およびpcPNAのDNAへのインベージョンの模式図.(C)pcPNAのN末端にスペーサーを介して修飾したチアゾールオレンジ(TO)の構造とTOの光照射による一重項酸素発生の機構.(D)TO修飾pcPNAによる位置特異的DNA光損傷.

4. おわりに

現在ではさまざまな人工核酸が開発されてきており,ここにあげた以外にも多種多様な研究がなされている.DNA内電荷移動の研究はDNA損傷・修復機構とも関連し,さまざまな電子ドナー・アクセプターが開発されてきた.このような電子ドナー・アクセプターとして人工核酸塩基を用いると,DNAの二重らせん構造をほとんど変化させない状態での電荷移動特性を調べることができる.また人工核酸塩基によるDNAの電気伝導性の制御は,DNAのデバイスへの応用研究にもつながる.さらに人工核酸はDNAの目的部位に選択的に損傷を与えるツールとしても用いることができる.このようにさまざまな人工核酸はDNAの特性の検討やその改変に機能し,ユニークな構造と特性を持つDNAの可能性を大きく広げている.

謝辞Acknowledgments

本記事での研究を進めるにあたり,ご指導,ご支援いただきました先生方を始め,共同研究者の方々に深く感謝いたします.

著者紹介Author Profile

田仲 真紀子(たなか まきこ)

日本学術振興会特別研究員(RPD).博士(工学).

略歴

奈良県に生る.大阪大学理学部卒業,同大学理学研究科博士前期課程修了,同大学工学研究科博士後期課程修了.大阪大学,カリフォルニア工科大学,日本大学,筑波大学にて学振研究員(PD),博士研究員を経て,2013年より現職.

研究テーマと抱負

学生時代には分析化学および電子移動化学の研究を行い,博士号取得後は光の関わるDNAの化学を主に研究している.

趣味

ドライブ,ジョギング.

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生化学 SEIKAGAKU
Journal of Japanese Biochemical Society

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公益社団法人日本生化学会 The Japanese Biochemical Society
〒113-0033 東京都文京区本郷5-25-16 石川ビル3階 Ishikawa Building 3F, 5-25-26 Hongo, Bunkyo-ku Tokyo 113-0033, Japan
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doi:10.14952/SEIKAGAKU.2015.870463

みにれびゅうMini Review

人工核酸を用いたDNA内電荷移動とDNA光損傷DNA-mediated charge transfer and DNA photodamage by artificial nucleic acids

筑波大学生命領域学際研究センター小宮山プロジェクトKomiyama Project, Life Science Center of Tsukuba Advanced Research Alliance, University of Tsukuba ◇ 〒305-8577 茨城県つくば市天王台一丁目1番1号1-1-1 Tennodai, Tsukuba-shi, Ibaraki 305-8577, Japan

発行日:2015年8月25日Published: August 25, 2015
HTMLPDFEPUB3

1. はじめに

DNAの損傷を引き起こす主な要因として,化学物質や放射線照射,光照射などがあげられる.このうち光照射については,DNAに対する紫外線照射がピリミジン塩基連続部位で二量体形成を引き起こすなどの損傷を与えるだけでなく,より長波長のUVA領域や可視領域の光も,フラビンやNADHなど生体内の発色団を励起することによってDNAに損傷を与える.このようなDNA光損傷は主に,発色団の励起状態がDNAの核酸塩基と電子移動などにより直接反応するものと,酸素へのエネルギー移動を介した活性酸素種の発生によるものに分類される.DNAの直接酸化の場合,DNAに生じたホール(正電荷)は最終的にグアニン(G)に局在し,その後水や酸素と反応することで8−オキソグアニン(8-oxoG)などに代表される酸化損傷物を生成することとなる.また一方で発色団によりDNAが還元される,つまりDNAに電子が注入される反応ではピリミジン二量体の還元による修復が起こることなどが知られている.酸化によってDNAに生じたホールがDNA内を移動し,核酸塩基Gで損傷に至るまでの過程の詳細については,DNA内の長距離電子移動の可能性1)の探求と相まって,化学合成されたDNAを用いて多数の研究がなされてきた.また一方でDNAへ電子が注入された場合の電子の振る舞いについては研究が遅れていたが,近年では適切に設計された人工核酸塩基をDNA内の電子ドナー・アクセプター,ひいてはDNA内の電子の通り道として用いることにより,DNA内の過剰電子移動のさまざまな特性が明らかになり,またその電子移動特性の改変も可能になった.さらにDNAとは骨格の異なる人工核酸を用いることでDNA中の任意のターゲット位置にのみ損傷を与えられるなどDNAを自在に操作できるような化学ツールの開発も進んできた.本稿では人工核酸を用いて検討したDNA内電荷移動特性およびDNA光損傷について,筆者らの最近の研究結果を中心に概説する.

2. DNA内電荷移動

DNAが直接酸化を受けた場合には四つの核酸塩基のうち酸化電位の低いG,特にGGやGGGなどの連続配列が最も酸化されやすく,DNA中に注入されたホールによる最終的な酸化損傷のターゲットとなる2).このDNA内に生じたホールがGに至る過程であるDNA内ホール移動の特性のうち,特に距離依存性を調べるためには光酸化剤とホールトラップの位置を固定することが必須となる.このコンセプトによって,現在までにDNAの光酸化剤(電子アクセプター)として金属錯体や有機分子を結合させたさまざまなDNAコンジュゲートが開発されるに至った.前節のDNAに光損傷を与える生体内発色団の代わりに,化学合成的に扱いやすい発色団が位置を固定されてDNAに修飾されているという状態である.このようなDNAコンジュゲートによってDNA内のホール移動特性についてはこれまでに多くの知見が得られている3)

1)DNA内過剰電子移動

一方で発色団からDNAへの電子の注入による過剰電子移動(図1A)の特性についても,2000年代初期にはさまざまな合成DNAを用いて調べられ始めた.たとえばCarellらはDNA修復を行う光回復酵素を模してフラビンの還元体をDNAに修飾し,チミン二量体の単量体への光開裂を観測している4).LewisとWasielewskiは過渡吸収測定法により過剰電子のDNAへの注入速度について検討を行っている5).ItoとRokitaによっては新規の光還元剤を用いる系が開発されている6).しかしそれでもこのようなDNAへの電子の注入による過剰電子移動特性についての研究が広く手がけられてこなかった理由の一つには,DNA内で機能する適切な電子ドナーの開発の難しさがあげられる.なぜなら,DNA中でよい光還元剤として機能するには,基底状態で安定でありながらその光還元力は強く,一方でDNA自体を励起しない波長での選択的光励起が可能であることが必要不可欠なためである.また,その導入がDNA二重らせんの本来の構造を崩さないことも重要である.以上の点をふまえ,筆者らは励起状態が長寿命で,かつ低い酸化電位を持つナフタレンをエチニルリンカーで連結した新規の人工核酸塩基NU(図1B-1)をDNA中の電子ドナーとして用いる系の開発を行った7).このときDNA中の電子捕捉剤としては,一電子還元によって速やかに分解するブロモウラシルBrU(図1B-1)を用いた.本来ナフタレンは,光電子供与能は高いもののUVA領域に吸収バンドを持たないため,DNAを直接励起することなしに光還元剤として用いることは困難であるが,エチニルリンカーによりDNAに連結されたナフタレン部位の吸収バンドは大きなレッドシフトを示すため,選択的光励起が可能となる.またピリミジン塩基の5位に連結された修飾分子は二本鎖DNAの主溝に位置することとなるため,DNA全体の安定性にほとんど影響を及ぼさない.NUとBrUを含む種々の配列のDNAについて照射波長340 nmで光照射実験を行い,そのそれぞれについてBrUの分解をHPLCによる分析で定量的に調べることで,同一鎖内での過剰電子移動は相補鎖間のものよりも明らかに効率よく起こること,また3´末端から5´末端方向が効率よく起こることがわかった.図1B-2にはBrUがNUから2塩基対分離れた場合のBrUの分解速度を示している.さらにDNA中のホール移動と同様,過剰電子移動でも距離依存性が小さく,その電子移動効率はDNAの構造のわずかな違いに大きく依存することが明らかとなった.DNA内電子ドナーとして従来のインターカレーター型ではなく機能性の人工核酸塩基を用いたこの系では,電子ドナーと相補鎖の塩基との軌道のオーバーラップはほぼないため,このようなDNA鎖内と鎖間の電子移動が明らかに区別されて観測されたといえる.

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図1 DNA内過剰電子移動特性

(A)DNA内ホール移動と過剰電子移動.(B-1)電子ドナーとして機能する人工核酸塩基NUと電子捕捉剤BrU.(B-2)DNAの同鎖内・相補鎖間の電子移動効率と方向依存性.(C-1)電子ドナーとしての人工核酸塩基PyUと電子メディエーターPhU.(C-2)PhUのDNA内への導入による電子移動効率の飛躍的な増大.

2)人工核酸塩基を用いた過剰電子移動の高効率化

修飾核酸塩基を用いたDNA内の高効率ホール移動については以前から報告例があった8,9).一方で高効率の過剰電子移動については,近年まで報告がなされていなかったが,これについては他グループおよび筆者らがそれぞれ異なる核酸塩基を用いて実現している10,11).Itoらは電子吸引基を有することでLUMOレベルの低くなった(電子親和性の高い)5-フルオロウラシルなどのウラシル誘導体をDNA内に導入することでDNAの電子移動特性を変化させた.一方で筆者らは5位にフェニルエチニル基が連結されたPhU(図1C-1)を過剰電子のメディエーターとしてDNAに導入している.過剰電子は同じく5位修飾のウラシル誘導体PyU(図1C-1)の選択的光励起によりDNAに注入される.それぞれPhUを複数個含むDNAオリゴヌクレオチドと参照のオリゴヌクレオチドを準備した.これらのDNAサンプル溶液に対して照射波長400 nmでPyUの選択的光励起を行い,それぞれのDNAでのBrUの分解速度を初期分解量から得た結果,PhUを電子供与体PyUとBrUの間に含むDNAではPhUを含まないDNAの約60倍,さらにBrUの後方にもPhUを含むDNAでは約145倍と分解効率の大幅な上昇がみられた(図1C-2).Gaussianによる計算からはPhUのLUMOレベルが天然の核酸塩基Tよりも大幅に低いという結果が出ている.これは導入されたフェニル基によりπ系が拡張されることによる電子の非局在化の影響により電子受容性が大幅に高まったためであると考えられる.この効果によりDNA内での飛躍的な高効率の過剰電子移動が観測されたといえる.

3. 人工核酸によるDNAの位置選択的損傷

人工核酸は上記のようにDNA内に入れ込むだけではなく,外部からDNAを認識,改変するツールとして用いることもできる.本節ではペプチド核酸PNA, 特に二本鎖DNA中にインベージョン(侵入)することでできるpseude-complementary PNA(pcPNA)について取り上げる.Nilesenらにより開発された人工核酸PNAは電荷を持たない主鎖骨格を持ち,DNAと高い二重鎖形成能・配列認識能を持つ(図2A).pcPNAではDNAの核酸塩基A, Tの代わりにそれぞれ2,6-ジアミノプリン(D),2−チオウラシル(Us)を導入することにより,立体障害のためPNAどうしの二重鎖よりも優先してDNAと二重らせんを組むこととなる.pcPNAはDNAターゲット配列に対して相補となるように設計すると図2BのようにDNAにインベージョンする12).これまでにはpcPNAの特性を利用して,末端にCe(IV)/EDTA錯体を配し,リン酸ジエステル結合を加水分解してDNAの位置選択的切断を行うことで細胞内での相同組換えの誘発に成功した例などが報告されている13).pcPNAのインベージョンは塩基配列に対して非常に精密な認識能を持つため巨大DNAに対して用いることができる.筆者らが合成したN末端にリンカーを介して色素チアゾールオレンジ(TO)を修飾した一対のpcPNA(TO-pcPNA)もまたDNAのターゲット配列を精密に認識しインベージョンする14).TOはDNAのインターカレーターである一方,水溶液中でフリーに存在する場合にはほぼ非蛍光性であるためDNAの染色剤としてよく用いられている.pcPNAがインベージョンした際にTOが二本鎖DNA部分にインターカレートするような設計にすると,基質DNAがターゲット配列を持つ場合にのみ,インベージョン複合体中のTOからの強い蛍光が観測されることになる.このコンセプトによって,合成されたTO修飾のpcPNAプローブは100 bpのDNA中の1塩基の違いも感度よく識別でき,またプラスミドDNA(4733 bp)中のターゲット配列も蛍光発光測定で簡便に検出できた.またTOは三重項状態からのエネルギー移動により一重項酸素を発生させる(図2C).この一重項酸素もDNA中の近傍のGと反応し,8-oxoG等の酸化損傷物を与える.実際にTO-pcPNAをインベージョンさせたプラスミドDNAに光照射を行うと,インベージョン周辺位置に集中して酸化損傷物8-oxoGが生成することが,8-oxoGを認識・除去しDNAの切断を行う酵素Fpgでの処理により明らかになった(図2D).このように人工核酸塩基PNAとTOを用いることで,DNAの目的配列に対してプローブとして働くと同時に,位置特異的に光損傷を与えられることがわかった.

Journal of Japanese Biochemical Society 87(4): 463-466 (2015)

図2 人工核酸pcPNAによるDNAの位置特異的光損傷

(A)PNAおよびPNA/DNA二重鎖の構造(PNA/DNAの構造はMacroModelにより計算).(B)2,6-ジアミノプリン(D)と2-チオウラシル(Us)の構造およびpcPNAのDNAへのインベージョンの模式図.(C)pcPNAのN末端にスペーサーを介して修飾したチアゾールオレンジ(TO)の構造とTOの光照射による一重項酸素発生の機構.(D)TO修飾pcPNAによる位置特異的DNA光損傷.

4. おわりに

現在ではさまざまな人工核酸が開発されてきており,ここにあげた以外にも多種多様な研究がなされている.DNA内電荷移動の研究はDNA損傷・修復機構とも関連し,さまざまな電子ドナー・アクセプターが開発されてきた.このような電子ドナー・アクセプターとして人工核酸塩基を用いると,DNAの二重らせん構造をほとんど変化させない状態での電荷移動特性を調べることができる.また人工核酸塩基によるDNAの電気伝導性の制御は,DNAのデバイスへの応用研究にもつながる.さらに人工核酸はDNAの目的部位に選択的に損傷を与えるツールとしても用いることができる.このようにさまざまな人工核酸はDNAの特性の検討やその改変に機能し,ユニークな構造と特性を持つDNAの可能性を大きく広げている.

謝辞Acknowledgments

本記事での研究を進めるにあたり,ご指導,ご支援いただきました先生方を始め,共同研究者の方々に深く感謝いたします.

著者紹介Author Profile

田仲 真紀子(たなか まきこ)

日本学術振興会特別研究員(RPD).博士(工学).

略歴

奈良県に生る.大阪大学理学部卒業,同大学理学研究科博士前期課程修了,同大学工学研究科博士後期課程修了.大阪大学,カリフォルニア工科大学,日本大学,筑波大学にて学振研究員(PD),博士研究員を経て,2013年より現職.

研究テーマと抱負

学生時代には分析化学および電子移動化学の研究を行い,博士号取得後は光の関わるDNAの化学を主に研究している.

趣味

ドライブ,ジョギング.

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