生化学 SEIKAGAKU
Journal of Japanese Biochemical Society

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Journal of Japanese Biochemical Society 87(4): 467-470 (2015)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2015.870467

みにれびゅうMini Review

シナプス形成におけるヘパラン硫酸プロテオグリカンの機能ショウジョウバエ神経筋接合部を中心にFunctions of heparan sulfate proteoglycans at the Drosophia neuromuscular junction

公益財団法人東京都医学総合研究所脳発達・神経再生研究分野神経回路形成プロジェクトNeural Network Project, Department of Brain Development and Neural Regeneration, Tokyo Metropolitan Institute of Medical Science ◇ 〒156-8506 東京都世田谷区上北沢二丁目1番6号2-1-6 Kami-Kitazawa, Setagaya-ku, Tokyo 156-8506, Japan

発行日:2015年8月25日Published: August 25, 2015
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1. はじめに

ヘパラン硫酸プロテオグリカン(HSPG)は,コアタンパク質にヘパラン硫酸(HS)が共有結合した分子群であり,ほぼすべての動物細胞の細胞膜表面および細胞外基質に存在する.これまでの解析からHSPGはきわめて多くの分子と相互作用し,その機能を調節することがわかっている.たとえば,ショウジョウバエ等を用いた解析から,HSPGはHS鎖を介してBMP(bone morphogenetic protein)やWntなどのモルフォジェン分子と相互作用し,胚発生や翅の形態形成を調節することが示されている.また,脊椎動物神経系のシナプス形成や脳の高次機能においても,HSPGが重要な役割を果たすことが明らかにされつつある.しかしながら,その詳細な作用機構は多くの点で不明である.近年,ショウジョウバエを用いた遺伝学的解析から,シナプス形成におけるHSPGの作用機構に関していくつかの新しい知見が得られた.本稿では,ショウジョウバエの神経筋接合部形成におけるHSPGの役割を中心に,我々の成果を交えて紹介したい.

2. HSPGとHS微細糖鎖構造

HSPGには,膜貫通型のシンデカン,GPIアンカー型のグリピカン,そして分泌型のアグリンやパールカンなどが知られている.これらのHSPGは,FGF(fibroblast growth factor)等の分泌性分子を含む多様な分子と相互作用して,その機能を調節する.このようなHSPGの多彩な機能の多くは,HSの糖鎖構造依存的に調節されると考えられている.HS鎖は,EXT(exostosin)ファミリーによる二糖繰り返し構造の合成後,ゴルジ体において糖鎖上のさまざまな部位が,エピマー化酵素(HS C5-EP)および多種類の硫酸転移酵素(NDST, HS2ST, HS3ST, HS6ST)による修飾を受けて完成する.HS鎖の修飾は,生合成過程のみならず,完成したHSPGが細胞表面に輸送された後にも起こる.すなわち,HS鎖の一部,特に高硫酸化された部分の6-O硫酸基が細胞外エンドスルファターゼSulfによって脱硫酸化される(図1).これらの修飾はHS鎖上で不均一に起き,その結果生じる多様な微細糖鎖構造が,さまざまなタンパク質に対する親和性の決定とその機能制御に重要であると考えられている1)

Journal of Japanese Biochemical Society 87(4): 467-470 (2015)

図1 ヘパラン硫酸の修飾

ヘパラン硫酸はゴルジ体においてさまざまな硫酸転移酵素およびエピマー化酵素によって修飾を受け,細胞膜表面に移行後も細胞外エンドスルファターゼ(Sulf)によって脱硫酸化される.

3. 脊椎動物シナプスにおけるHSPGの機能

これまで多くの解析から,HSPGは脊椎動物のシナプス形成に深く関与することが知られている.分泌型HSPGであるアグリンは,神経筋接合部(NMJ)においてシナプス前終末から分泌され,シナプス後部でアセチルコリン受容体のクラスタリングを誘導する2).また同じく分泌型のパールカンはアセチルコリンエステラーゼと相互作用し,そのNMJにおける局在を調節することが知られている3).最近では,中枢神経シナプスにおけるHSPGの重要性についてもいくつか報告されている.すなわち,アストロサイトが産生したグリピカンは,AMPA型グルタミン酸受容体のクラスタリングを誘導することによって,興奮性シナプスの形成を促進する4).HSポリメラーゼをコードするExt1遺伝子のコンディショナルノックアウトマウスは,自閉症様の症状を示すことが報告されている5).注目すべきことに,本マウスの扁桃体の錐体細胞では,シナプスにおけるAMPA型グルタミン酸受容体の発現レベルの低下と興奮性神経伝達の減弱が観察されている.また,ごく最近,HS硫酸転移酵素遺伝子の一つであるNDST1のヒト突然変異によって,知的障害,てんかん,筋緊張低下を伴う発達障害が起こることが見いだされた6).さらに,別のNDSTアイソフォームであるNDST3が統合失調症や双極性障害の関連遺伝子であることも報告されている7).このようにHSPGおよびHS微細糖鎖構造は,脊椎動物のシナプス形成,運動機能,高次脳機能の調節に深く関与していることが明らかにされつつある.しかしながら,その詳細な分子メカニズムに関してはいまだよくわかっていないのが現状である.

4. ショウジョウバエNMJ形成におけるHSPGの機能

1)ショウジョウバエのシナプス形成モデル

ショウジョウバエのNMJはグルタミン酸作動性であり,脊椎動物中枢神経系の興奮性シナプスと類似した性質を示し,電気生理学的手法や電子顕微鏡を用いた観察,運動機能の解析なども容易である.また,ショウジョウバエは,HSPG関連遺伝子のアイソフォーム構成が脊椎動物と比較してきわめて単純であり,かつ高度な遺伝学的手法が容易に利用できる.このようなショウジョウバエNMJの利点を活用して,シナプス形成におけるHSPGの作用メカニズムが解明されつつある.

2)シンデカンとグリピカンはLARのリガンドである

ショウジョウバエのシナプス形成におけるHSPGの重要性は,Johnsonらによって初めて示された8).彼らはシンデカンとグリピカン(Dlp)が,受容体型チロシンホスファターゼLAR(leukocyte common antigen-related)と相互作用することでNMJ形成を調節することを明らかにした.興味深いことに,両者のシナプスにおける役割は異なり,シンデカンはシナプス前細胞において,Dlpはシナプス後細胞において機能する.シンデカンはシナプス前部に局在するLARに結合し,そのチロシンホスファターゼ活性を活性化することでシナプス形成を促進する.一方,DlpはシンデカンによるLARの活性化を阻害し,神経伝達物質放出領域である活性帯(active zone)の構造を安定化する.シンデカンとDlpはともにHS鎖を介してLARの同一部位に結合するが,どのようなメカニズムで,二つのHSPGがLARに対して異なる作用を示すのかはいまだ不明である.一方,脊椎動物においても,グリピカン4がLARと近縁なPTPσと相互作用し,興奮性シナプスの形成と機能を調節することが報告されている.したがって,HSPGによる受容体型チロシンホスファターゼの機能調節は進化的に保存されていると推測される9)

3)パールカンはWntシグナルを調節する

脊椎動物のNMJ形成においてはアグリンが中心的な働きをするが,ショウジョウバエでは明らかなアグリンのホモローグは同定されていない.現段階でアグリンに最も類似している分子はパールカンである.脊椎動物同様ショウジョウバエにおいても,パールカン(Trol)は基底膜の構成分子として知られ,ラミニンやジストログリカン等と相互作用する.

筆者らはシナプス形成におけるパールカンの作用機構を調べるため,まずはじめに,trol欠失変異体の幼虫のNMJを詳細に観察した.その結果,シナプス前終末が過剰に形成される一方,シナプス後部の構造は対照的に低形成を示すことが明らかになった10).特に本変異体のシナプス後部では,subsynaptic reticulum(SSR)と呼ばれる筋細胞膜の陥入構造が著しく減少していたが,この異常はWntのホモローグであるWingless(Wg)シグナルの低下によって起こる表現型と酷似していた.Wgは運動ニューロンによって合成され,NMJまで軸索内を輸送された後,シナプス前終末から分泌される.放出されたWgは,シナプス前部と後部の両方に存在するWg受容体Dfz2(Drosophila frizzled 2)に結合し,シナプス前終末と後部の発達を促進する11,12).そこで,trol欠失変異体のシナプス後細胞(筋細胞)におけるWgシグナル活性を解析したところ,著しく低下していることが判明した.

それに対してtrol欠失変異体のシナプス前終末は過剰に形成され,その数が減少するwg変異体の表現型とはまったく逆の現象が起こっている.これまで運動ニューロンにおいてWgシグナルが過剰になると,シナプス前終末が増加することが知られていた.そこでtrol欠失変異体の運動ニューロンにおいてWgシグナルの活性を減少させてみたところ,シナプス前終末の過剰形成が抑制されることがわかった.以上の結果から,trol欠失変異体の運動ニューロンではWgシグナルが過剰になる一方,筋細胞では不足することによって,シナプス前後部の発達が不均衡になることが示唆された.

では一体どのようなメカニズムでTrolはシナプス前・後細胞におけるWgシグナル活性を調節しているのだろうか? 筆者らは電子顕微鏡を用いた解析から,Trolタンパク質がシナプス間隙やSSRに局在することを見いだした.次に,Wgタンパク質の分布を調べたところ,野生型ではシナプス前膜からシナプス後部のSSRにかけて濃度勾配を形成しているのが観察された.一方trol欠失変異体では,Wgがシナプス前膜にとどまりシナプス後部にまで拡散しないことが判明した.このことは,trol変異体におけるWgタンパク質の偏った分布が,過剰なシナプス前終末とシナプス後部の発達不全を引き起こしたことを示唆している.このように,Trolはシナプス前後部におけるWgタンパク質の分布を調節することで,シナプス前後部の同調した発達を促進すると考えられる(図2).

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図2 神経筋接合部の形成におけるTrolの機能

野生型においてTrolはWgタンパク質をシナプス前・後部にバランスよく分配し,シナプス前部と後部の同調した発達を促進する.trol欠失変異体では,Wgタンパク質がシナプス前膜に蓄積し,シナプス後部にまで拡散しない.その結果,過剰なシナプス前終末の形成とシナプス後部の発達不全が起こると考えられる.

4)NMJ形成におけるHS微細糖鎖構造の役割

Daniらは,多くの糖鎖関連遺伝子のショウジョウバエRNAi系統をスクリーニングし,NMJ形成に寄与する複合糖質を検索した.その結果,HS6STSulf1のRNAi系統のNMJが,形態学的および電気生理学的に特徴的な異常を示すことを見いだした13).両分子はHS鎖のグルコサミン単位の6位をそれぞれ硫酸化,脱硫酸化する酵素であり,この発見はHS鎖上の6-O硫酸基がシナプス形成において重要な働きをすることを示している.解析の結果,HS6STおよびSulf1のRNAi個体のNMJでは,WgやBMPファミリーのGlass bottom boat(Gbb)を介したシグナル伝達に異常を来していることが明らかになった.また彼らは,Sulf1欠失変異体ではシナプスにおけるDlpとシンデカンのレベルが増加する一方,HS6ST欠失変異体ではDlpのレベルが減少し,シンデカンのレベルが増加することを見いだした.この現象の詳細なメカニズムはまだ不明であるが,以上のことは,HSの微細糖鎖構造がシナプス形成においてきわめて重要な役割を果たすことを示している.

5. おわりに

ショウジョウバエNMJの解析から,HSPGはシナプスにおいてLAR,Wnt,BMPなどさまざまな分子の機能を調節していることが明らかになった.またこれらの分子以外にもショウジョウバエのNMJでは,FGFやラミニンなど非常に多くのヘパリン結合性分子が機能している.ショウジョウバエ遺伝学を使ったシナプスにおけるHSPGの機能解析はまだ始まったばかりであり,今後詳細な解析を進めることによって,HSPGとHS微細構造の新たな機能が明らかになると期待される.

引用文献References

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13) Dani, N., Nahm, M., Lee, S., & Broadie, K. (2012) PLoS Genet., 8, e1003031.

著者紹介Author Profile

神村 圭亮(かみむら けいすけ)

(公財)東京都医学総合研究所・主席研究員.理学博士.

略歴

兵庫県小野市出身.2003年東京都立大学大学院博士課程を卒業後,愛知医科大学分子医科学研究所研究員,ミネソタ大学遺伝細胞発生生物学部研究員,(財)東京都神経科学総合研究所研究員を経て,2011年より現職.

研究テーマと抱負

ショウジョウバエを用いたプロテオグリカンの機能解析.

趣味

釣り.

ウェブサイト

http://www.igakuken.or.jp/regeneration/

前田 信明(まえだ のぶあき)

(公財)東京都医学総合研究所・プロジェクトリーダー.理学博士.

略歴

横浜市出身.1981年名古屋大学理学部化学科卒.88年大阪大学大学院理学研究科博士課程修了.90年愛知県心身障害者コロニー発達障害研究所研究員,92年岡崎国立共同研究機構基礎生物学研究所助手,97年同助教授,2001年(財)東京都神経科学総合研究所部門長を経て,11年より現職.

研究テーマと抱負

プロテオグリカンによる神経回路形成の制御機構を解明したい.

趣味

自然観察と温泉めぐり.

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