生化学 SEIKAGAKU
Journal of Japanese Biochemical Society

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Journal of Japanese Biochemical Society 87(4): 478-480 (2015)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2015.870478

みにれびゅうMini Review

PQBP1遺伝子のフレームシフト変異はスプライシング因子U5-15kDへの結合を阻害するFrameshift mutations in the PQBP1 gene prevent its interaction with the splicing factor U5-15kD

富山大学大学院医学薬学研究部環境・生命システム学域生命分子薬学系Department of Molecular Pharmaceutical Science, Division of Environment and Life Systems, Graduate School of Medicine and Pharmaceutical Sciences for Research, University of Toyama ◇ 〒930-0194 富山県富山市杉谷2630番地2630 Sugitani, Toyama-shi, Toyama 930-0194, Japan

発行日:2015年8月25日Published: August 25, 2015
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1. はじめに

世界の人口の1~3%は知的障害のハンディキャップを背負っていると推定されている1).知的障害はさまざまな原因で生じるが,近年,知的障害の発症に関与する遺伝子が多数発見されている1).知的障害との関連性が強く示唆される遺伝子の一つにPolyglutamine tract-binding protein 1(PQBP1)遺伝子がある.2003年にPQBP1遺伝子のフレームシフト変異が知的障害を持つ複数の家系から発見され,それ以来,知的障害の原因と考えられるPQBP1遺伝子の変異がいくつも報告されている(図1A2,3).著者の研究グループは,PQBP1の立体構造解析を行い,PQBP1の機能に必須のモチーフを同定した4).その結果をもとに,本稿ではPQBP1遺伝子の変異がその機能にどのような影響を与えるのか考察する.

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図1 知的障害に関与するPQBP1の構造

(A)PQBP1のアミノ酸配列.C末端領域の220~265残基のみを示し,YxxPxxVL配列にアンダーラインを付した.c641insCは,知的障害を持つ家系から発見されたフレームシフト変異体である.(B)PQBP1のモデル図.WWドメインのC末端側は特定の構造をとらない天然変性領域である.

2. PQBP1は天然変性タンパク質である

我々は,核磁気共鳴(NMR)法を用いて,PQBP1が天然変性タンパク質(intrinsically disordered protein: IDP)であること,具体的にはPQBP1が小さく折りたたまれたWWドメインと長大な天然変性領域(intrinsically disordered region: IDR)からなることを明らかにした(図1B5).一般に,IDP中に存在するIDRは,遊離の状態では特定の構造をとらないという特徴を持ち,転写,翻訳,シグナル伝達などで重要な機能を担うと報告されている.PQBP1の場合,C末端側184残基(82~265残基)がIDRである(図1B).一方,N末端側に位置するWWドメインは40残基程度の小さなドメインであり,プロリンに富んだ配列を認識・結合する.我々はNMRを用いて,PQBP1のC末端IDRがスプライシング因子U5-15kDの疎水性溝に結合することを示した5–7).U5-15kDはスプライシングに必須であることから,PQBP1とU5-15kDの結合を調べることは,スプライシングにおけるPQBP1の機能を解明するために重要である8).しかし,PQBP1-U5-15kD複合体の溶解度は低く,さらに結合領域のNMRシグナルの多くが消失していた.そのため,この実験ではPQBP1-U5-15kD複合体の大まかな構造情報を得るのみにとどまった7)

3. PQBP1のYxxPxxVLモチーフはU5-15kD結合配列である

そこで我々は,NMRからX線結晶構造解析に切り替えて,PQBP1-U5-15kD複合体の構造解析に取り組み,PQBP1のC末端43残基のフラグメント(PQBP1-CT43)とU5-15kDの複合体の立体構造を2.1 Åの分解能で決定することができた.さらに,U5-15kDのC末端にPQBP1-CT43を連結した融合タンパク質の立体構造も決定した4).複合体の立体構造を詳しくみると,PQBP1のC末端部分に存在する疎水性アミノ酸残基(Y245, P248, V251, L252)がU5-15kDの疎水性溝に接触していた(図2A4).この結果は,疎水性側鎖のパッキングが,PQBP1とU5-15kDの結合に重要であることを示している.これは,先に行ったNMRによる相互作用解析の結果と矛盾しなかった7).さらに,PQBP1のY245,P248,V251,L252に変異を導入するとU5-15kDとの結合親和性が著しく低下したことから,これらのアミノ酸残基がU5-15kDとの結合に必須であることが示された4).そこで我々は,PQBP1のYxxPxxVLモチーフがU5-15kD結合配列であると提案した.

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図2 PQBP1とU5-15kDの結合状態

U5-15kD分子表面に分布する正の電荷を青で,負の電荷を赤で表示した.PQBP1は表面電荷が少ない疎水性溝に結合している.(A)PQBP1とU5-15kDの複合体構造.(B)PQBP1,U5-15kD,U5-52Kのヘテロ三量体構造.U5-52KのGYFドメインをリボンモデルで表示した.(C)PQBP1,U5-15kD,U5-52Kの相互作用の概略.PQBP1がU5-15kDに結合すると,U5-15kDとU5-52Kの結合が強化される.

4. スプライシング因子U5-15kDとU5-52Kの相互作用

スプライシングに必須のU5-15kDは,PQBP1の他にスプライシング因子U5-52KのGYFドメインに結合する9).U5-52KのGYFドメインとU5-15kDの複合体の結晶構造は他の研究グループによって報告されていた9).その複合体構造を,我々が決定したPQBP1-U5-15kD複合体と比較すると,U5-15kDはPQBP1とU5-52Kに同時に結合すると予想された.実際に我々は,U5-15kD,PQBP1,U5-52Kからなる複合体構造も決定し,これらのスプライシング因子がヘテロ三量体になることを示した(図2B4).この実験では,ヘテロ三量体の結晶化が困難である可能性を考慮し,U5-15kD-PQBP1融合タンパク質とU5-52KのGYFドメインからなる擬似的なヘテロ三量体の結晶構造解析を行った.さらに我々は,PQBP1のU5-15kDへの結合が,U5-15kDとU5-52Kの結合にどのような影響を与えるのかを調べた.その結果,U5-15kD-PQBP1融合タンパク質とU5-52Kの結合は,U5-15kDとU5-52Kの結合よりもわずかに強いことがわかった.したがって,PQBP1がU5-15kDに結合すると,U5-15kDとU5-52Kの結合が強化されると思われる(図2C4)

5. PQBP1遺伝子のフレームシフト変異はYxxPxxVLモチーフを欠損させる

スプライシングは,スプライソソームと呼ばれる超分子複合体によって実行されるが,その中にはRNAの他に200以上のタンパク質が含まれている10).PQBP1,U5-15kD,U5-52Kはスプライソソームの構成因子であることがわかっている.我々はPQBP1のYxxPxxVLモチーフがU5-15kDに結合することを示したが,知的障害の原因と考えられる変異体では,YxxPxxVLモチーフが共通して失われていた(図1A4).また,PQBP1のU5-15kDへの結合が,U5-15kDとU5-52Kの結合を強化することも示した(図2C4).したがって,PQBP1遺伝子の変異によってYxxPxxVLモチーフが失われると,スプライソソーム中でPQBP1-U5-15kD複合体が形成できなくなり,さらにU5-15kDとU5-52Kの結合親和性も低下すると思われる.したがって,知的障害の原因と考えられるPQBP1遺伝子の変異は,スプライソソームを不安定化すると予想される4).一方,ヒトにおけるさまざまな遺伝子変異の約10%はスプライシングに影響を与えると推測されており,事実,いくつかの神経変性疾患はスプライシング異常によって生じると報告されている11,12)PQBP1遺伝子が関与する知的障害も,YxxPxxVLモチーフが失われることによるスプライシング異常が原因と推測される4)

6. おわりに

U5-15kDとの結合に必須のYxxPxxVLモチーフは,PQBP1のC末端側に位置しており,遊離の状態では特定の構造をもたない(図15).スプライソソームにはIDPが多数含まれ,スプライソソーム構成因子のアミノ酸配列全体の約50%がIDRであると予想されている13).IDPは,複数のタンパク質を連結するハブとして機能していることが多く,スプライソソームのIDPは,ハブ機能を利用して分子間ネットワークを形成していると予想される13,14).長大なIDRを含むPQBP1は,U5-15kDの他にスプライシング因子WBP11に結合すると報告されており,さらにWBP11は450残基からなるIDPである13,15).このようなIDPが作る分子間ネットワークがスプライシングに重要であり,分子間ネットワークの一部が崩壊することでスプライシング異常が生じると予想される.したがって,スプライソソームを構成するIDPの構造・機能解析は,スプライシング異常が関与する疾患の原因解明につながると期待される.

謝辞Acknowledgments

本稿で紹介した研究は,岡澤均教授(東京医科歯科大学),河野敬一教授(現千歳科学技術大学),帯田孝之准教授(富山大学),小島理恵子博士(現山形大学),高橋真樹助教(現千葉科学大学),鍋島裕子博士(富山大学),芹田智仁氏(富山大学),森本崇大氏(富山大学)との共同研究によるものです.共同研究者の方々,ならびに本研究にご協力くださった方々に心より御礼申し上げます.

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著者紹介Author Profile

水口 峰之(みずぐち みねゆき)

富山大学大学院医学薬学研究部(薬学)教授.博士(理学).

略歴

1995年北海道大学理学部高分子学科卒業.99年同大学院理学研究科博士課程生物科学専攻修了.2000年スクリプス研究所リサーチアソシエイト.同年富山医科薬科大学薬学部講師.04年同大学薬学部助教授,09年より現職.

研究テーマ

疾患関連タンパク質の立体構造に関する研究.

抱負

タンパク質の立体構造を研究し,難病の原因解明につなげたい.

ウェブサイト

http://www.pha.u-toyama.ac.jp/phypha2/index-j.html

趣味

読書.

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