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公益社団法人日本生化学会 The Japanese Biochemical Society
Journal of Japanese Biochemical Society 87(5): 601-604 (2015)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2015.870601

みにれびゅうMini Review

核内IκB-ζによる炎症応答の制御Nuclear IκB-ζ controls inflammatory responses

1岐阜大学大学院医学系研究科Graduate School of Medicine, Gifu University ◇ 〒501-1194 岐阜県岐阜市柳戸1番1号Yanagito 1-1, Gifu-shi, Gifu 501-1194, Japan

2東北大学大学院生命科学研究科Graduate School of Life Sciences, Tohoku University ◇ 〒980-8577 宮城県仙台市青葉区片平二丁目1番1号Katahira 2-1-1, Aoba-ku, Sendai-shi, Miyagi 980-8577, Japan

受付日:2015年7月10日Received: July 10, 2015
発行日:2015年10月25日Published: October 25, 2015
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1. はじめに

さまざまな炎症応答の起点となる転写因子として知られるNF-κBは,David Baltimore博士により同定され,1986年に報告がなされた1).NF-κBは,κB binding elementsと呼ばれる遺伝子配列を認識し,遺伝子発現を直接制御することが知られている.その後,NF-κBの転写活性を制御する因子として,IκB-αが同定された2).IκB-αは,細胞質においてNF-κBと複合体を形成し,NF-κBの核内移行を阻害している分子である.IκB-αは,リポ多糖(LPS)などの刺激によりリン酸化された後,プロテアソームで分解される.IκB-αとの複合体を解消したNF-κBは,核内移行が促進され,転写活性が増強されるのである.刺激に伴うNF-κBの活性化により,刺激後0~1時間をピークに一過的な発現を示す遺伝子を,一次応答遺伝子と呼ぶ.

著者らが着目しているIκB-ζは,マクロファージに対するLPS刺激によりその発現が一過的に上昇する分子として同定されたIκBファミリー分子の一つである3).IκB-ζは核内に局在することから,核内IκBファミリー分子に属する分子であり,C末端側に存在するアンキリンリピート配列を介し,NF-κBと複合体を形成することが知られている4).また,NF-κB標的遺伝子を二次的に制御することで,IL-6やLcn2などの遺伝子の発現が,3~6時間をピークに認められるようになる.これらの遺伝子を二次応答遺伝子と呼ぶ.つまり,IκB-ζは一次応答遺伝子から二次応答遺伝子への遺伝子発現を切り替える「スイッチ」としての役割を担っているとも考えられている(図1).その代表的な一例として,マクロファージにおけるLPS刺激依存的な遺伝子応答の変化があり,IκB-ζが炎症性サイトカインTNF-αの産生から炎症性サイトカインIL-6の産生増強へのスイッチに寄与していることが報告されている5)

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図1 IκB-ζの構造と機能

(A)IκB-ζは核移行シグナルを持っており,C末端側のアンキリンリピートを介してNF-κBと複合体を形成する.また,転写活性部位の同定もなされている.(B)IκB-ζによる遺伝子発現パターン変化の概念図.一次応答遺伝子から二次応答遺伝子への切り替えに役立つと考えられる.

本稿では,近年明らかとなってきているIκB-ζの多様な細胞種における役割について,著者らが見いだした知見を中心に概説をする.

2. IκB-ζ欠損マウスの表現型

IκB-ζ欠損マウスは,加齢とともに眼裂周囲に強い炎症が認められることが報告された6).IκB-ζ欠損マウスの詳細な解析が行われた結果,血中の抗核抗体価が上昇していること,涙の量が顕著に減少していること,さらに,涙腺上皮細胞の細胞死が亢進していることから,シェーグレン症候群様の自己免疫疾患を自然発症していると推察された.

IκB-ζ欠損マウスと,T細胞およびB細胞の存在しないRag2欠損マウスとを掛け合わせ,二重欠損マウスの作製が行われた.興味深いことに,二重欠損マウスは加齢による眼裂周囲の強い炎症は認められないが,IκB-ζ欠損マウス由来のCD4+ T細胞を移入すると,加齢による眼裂周囲での強い炎症が認められるようになった.この細胞移入実験では,野生型マウス由来のCD4+ T細胞を用いた場合でも同様の炎症応答が認められることから,T細胞におけるIκB-ζの発現は,シェーグレン症候群様の自己免疫疾患の発症には直接関与しないものの,炎症応答の増悪をつかさどることが示唆された.

次に,さまざまな細胞種特異的なIκB-ζ欠損マウスの作製を行い,シェーグレン症候群様の自己免疫疾患の発症要因についての検討が行われた.すると,上皮特異的にIκB-ζを欠損するマウス(Nfkbizflox/flox K5-cre)において,眼裂周囲の強い炎症や,涙腺上皮細胞の細胞死の亢進,および血中の抗核抗体価の上昇など,シェーグレン症候群様の自己免疫疾患を自然発症することが明らかとなった.

マウスの上皮細胞株であるPam212を使用し,IκB-ζの過剰発現を行ったところ,高濃度のツニカマイシン(抗生物質)による細胞死の誘導に対し,抵抗性を示すことが明らかとなった.さらに,IκB-ζ欠損マウスの眼裂周囲に,細胞死を誘導するカスパーゼの阻害剤(Z-VAD)を投与したところ,眼裂周囲の炎症が劇的に抑えられた.

以上より,上皮細胞におけるIκB-ζの発現が,上皮細胞の細胞死を制御していること,また,細胞死の亢進によって,二次的にCD4+ T細胞が活性化することで炎症応答の増悪が認められることが明らかとなった.

3. CD4+ T細胞におけるIκB-ζの役割

CD4+ T細胞におけるIκB-ζの発現は,サイトカインであるトランスフォーミング増殖因子β(TGF-β)+インターロイキン6(IL-6)刺激により誘導され,転写因子RORγtと強調し,炎症性サイトカインIL-17を産生するヘルパーT細胞(Th17)の分化誘導を促進する(図2A).そのため,IκB-ζ欠損マウスではTh17の分化誘導能が低下しており,Th17依存的な自己免疫疾患として知られる多発性硬化症に抵抗性を有することが示された7)

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図2 T細胞における転写制御因子IκB-ζの役割

(A)TGF-βおよびIL-6刺激により誘導されたIκB-ζとRORγtの協調.IL-17Aの転写開始点より,約6 kb上流に存在する種間高保存領域に結合し,IL-17A産生を正に制御する.(B)TGF-βにより誘導されたIκB-ζの役割.NF-κB依存的なIFN-γおよびfoxp3遺伝子発現を負に制御する.

一方,著者らがT細胞特異的なIκB-ζ欠損マウス(Nfkbizflox/flox Lck-cre)を作製したところ,幼若齢(3週齢)より末梢リンパ組織のCD4+ T細胞の活性化およびIFN-γの高産生が認められ,加齢により生体恒常性維持が破綻することが明らかとなった8).このT細胞特異的なIκB-ζ欠損マウスは,眼裂周囲での強い炎症応答や,血中の抗核抗体価の上昇が認められないことから,シェーグレン症候群様の自己免疫疾患ではないことが明らかとなった.さらに詳細な解析を行った結果,T細胞におけるIκB-ζの発現は,サイトカインTGF-βのみでも発現上昇が認められること,また,TGF-β誘導性のIκB-ζ発現がCD4+ T細胞からのIFN-γ産生を制御していることが明らかとなった.そのため,IκB-ζ欠損CD4+ T細胞は,TGF-β刺激によるIFN-γ産生抑制能が低下している(図2B).

また,CD4+ T細胞に対するTGF-β刺激は,制御性T細胞の分化誘導にも必須であることが知られている.そこで,制御性T細胞のマスターレギュレーターであるFoxp3を指標に,試験管内で培養したCD4+ T細胞の解析を行ったところ,制御性T細胞の分化誘導能に差は認められなかった.しかし,著者らはTGF-β刺激存在下においても,IκB-ζ欠損CD4+ T細胞が炎症性サイトカインであるインターフェロンγ(IFN-γ)などを高産生していることが,制御性T細胞の分化誘導を阻害している原因になっているのではないかと推察し,TGF-β刺激とともに炎症性サイトカインの中和抗体を入れて培養を行ったところ,IκB-ζ欠損CD4+ T細胞において,制御性T細胞の分化誘導の顕著な促進が認められた9).また,Foxp3リポーターを用いた詳細な解析を行ったところ,NF-κBの強制発現により活性化するFoxp3リポーター活性は,IκB-ζの強制発現により顕著に抑制された9).つまり,TGF-β誘導性のIκB-ζ発現は,foxp3遺伝子を負に制御していることから,制御性T細胞の分化誘導を負に制御する転写制御因子であることが明らかとなった(図2B).一方,T細胞特異的なIκB-ζ欠損マウス由来の制御性T細胞の免疫抑制能については,顕著に低下していることも明らかとなったことから8),TGF-β誘導性のIκB-ζは,制御性T細胞の免疫抑制能の獲得にも重要であることが示唆される.

4. B細胞におけるIκB-ζの役割

B細胞におけるIκB-ζの発現は,LPSやCpG-DNAといった微生物由来成分による刺激により誘導される10).このIκB-ζの発現については,mRNAの3′-UTR(中でも終止コドンから165塩基下流までの領域)を介したmRNAの安定化が最も重要であるが,詳しい分子メカニズムについてはいまだ不明な部分が多い11)

著者らがB細胞特異的なIκB-ζ欠損マウスを作製したところ,加齢によるシェーグレン症候群様の自己免疫疾患の自然発症は認められなかった12).また,B細胞の成熟能についても異常は認められず,血清中の各種の抗体価も野生型のマウスと同程度であった.興味深いことに,T細胞非依存的な抗体産生を促すLPS-trinitrophenol(TNP)を免疫したところ,B細胞特異的なIκB-ζ欠損マウス由来の血中において,TNP依存的な抗体価の顕著な減少が認められた.そこで,IκB-ζ欠損B細胞を精製し,試験管内でLPS刺激を行ったところ,抗体のクラススイッチおよびクラススイッチリコンビナーゼActivation-Induced Cytidine Deaminase(AID)の発現低下が認められた.このIκB-ζ欠損B細胞に対し,レトロウイルスを用いたAIDの過剰発現を行ったところ,抗体のクラススイッチ能が,野生型と同程度まで認められた.

近年,B細胞からのIL-10産生は,多発性硬化症などの自己免疫疾患や,脂肪組織における慢性炎症の制御にも重要であることが示唆されている.著者らも,IκB-ζを欠損したB細胞について,LPSおよびCpG-DNA刺激により誘導される抗炎症性サイトカインIL-10の産生能の低下,また,CpG-DNAおよびB細胞受容体刺激による免疫抑制分子CTLA-4の発現誘導能の低下を明らかとしたことから10,12),B細胞による炎症応答の制御に,転写制御因子IκB-ζが重要な役割を担うことが推察された.

5. NK細胞におけるIκB-ζの役割

NK細胞におけるIκB-ζの発現は,炎症性サイトカインIL-12およびIL-18刺激により誘導されることが報告されている13,14).また,IκB-ζを欠損したNK細胞においては,IL-12およびIL-18刺激によるIFN-γ産生,および,細胞障害性が顕著に低下していることが明らかとされた.その詳しい分子メカニズムについては,IκB-ζによるIFN-γの種間保存領域(転写開始点より33 kb上流に存在)のヒストンアセチル化の亢進が認められ,IL-12刺激に伴うSTAT4への結合が増強すること,また,IκB-ζ自身はIFN-γのプロモーター領域に直接結合し,その発現を正に制御することが示された.

6. おわりに

本稿では,さまざまな細胞種におけるIκB-ζの役割について概説した.IκB-ζを起点とした遺伝子発現制御は,NF-κBの標的遺伝子を二次的に制御するものであるとの報告が相次いでいるが,本稿で示したIL-17およびAIDについては,NF-κB非依存的な遺伝子発現調整がなされている.今後,IκB-ζによるNF-κB非依存的な遺伝子発現制御機構について,配列特異性や転写開始ステップの詳細な検討が望まれる.また,T細胞におけるIκB-ζの発現については,Th17の分化誘導を押し進める転写制御因子であるとの報告より,Th17を促進する転写制御因子としての報告が続いているが,著者らは免疫恒常性維持にも重要であることを示した.また,NK細胞によるIκB-ζを介したIFN-γ産生と,T細胞によるIκB-ζを介したIFN-γ産生は,相反する結果ではあるが,細胞種および刺激の違いが原因となり,異なるIFN-γの産生機構が働いている可能性が推察される.以上より,さまざまな役割を担う転写制御因子IκB-ζの役割については,今後,複雑な転写因子のクロストークおよびネットワークの解明を行う必要がある.さらに最近,著者らは,IκB-ζと最も相同性の高い分子IκBNSがTh17分化誘導に重要であることを示していることから15),核内IκBファミリー分子の構造活性相関や活性化機構そのものを解明することも,今後の課題である.

謝辞Acknowledgments

本稿を執筆するにあたり,東北大学生命科学研究科細胞認識応答分野の教授であられました故牟田達史先生より,研究のご指導をいただきましたこと,深く御礼申し上げます.

引用文献References

1) Sen, R. & Baltimore, D. (1986) Cell, 46, 705–716.

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15) Kobayashi, S., Hara, A., Isagawa, T., Manabe, I., Takeda, K., & Maruyama, T. (2014) PLoS ONE, 9, e110838.

著者紹介Author Profile

丸山 貴司(まるやま たかし)

岐阜大学大学院医学系研究科テニュアトラック助教(文科省プロジェクト型,P.I.).博士(薬学).

略歴

1979年兵庫県に生まれる.2007年静岡県立大学大学院薬学研究科修了.08年より米国立衛生研究所・博士研究員および日本学術振興会海外特別研究員(Dr. Chen WanJunラボ),11年より東北大学大学院生命科学研究科助教(Dr. 牟田達史ラボ)を経て,14年より現職.

研究テーマと抱負

より良い環境で独立講座を持ち,約束と夢を叶える場所を築きたい.

ウェブサイト

http://researchmap.jp/read0135243/

趣味

旅行,物書き.

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