生化学 SEIKAGAKU
Journal of Japanese Biochemical Society

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Journal of Japanese Biochemical Society 87(5): 617-620 (2015)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2015.870617

みにれびゅうMini Review

細胞内代謝とエピゲノム制御のクロストークMolecular mechanisms of metabolism-epigenome crosstalk

熊本大学発生医学研究所発生制御部門細胞医学分野Department of Medical Cell Biology, Division of Developmental Regulation, Institute of Molecular Embryology and Genetics, Kumamoto University ◇ 〒860-0811 熊本県熊本市中央区本荘二丁目2番1号Honjo 2-2-1, Chuo-ku, Kumamoto-shi, Kumamoto 860-0811, Japan

発行日:2015年10月25日Published: October 25, 2015
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1. はじめに

細胞活動に必要なエネルギーを産生するためには,必要量の栄養を取り込み,代謝する必要がある.また,機能維持のために必要なエネルギー量は細胞によって異なる.特に,細胞分化や形質転換等,細胞機能や増殖能が大きく変化する際には,包括的なエネルギー代謝機能の転換,すなわち,代謝リプログラミングが起こる.この代謝リプログラミングは,代謝酵素やその関連遺伝子の大規模な発現変化を伴うことから,エピゲノム記憶を介した統合的な制御がその土台をなしていると考えられている.

細胞内代謝変化により生じた代謝物がエピジェネティクス因子の機能・活性を変化させ,その結果代謝遺伝子調節に影響を及ぼす可能性が想定されている.この概念を代謝–エピゲノムクロストークという1).代謝–エピゲノムクロストークを介した代謝調節システムは,細胞外環境ならびにその細胞自身の状況を踏まえた長期的なエネルギー代謝機能を獲得する上できわめて有効である.これまで,多くのエピゲノム修飾・脱修飾酵素の活性に栄養代謝物が基質や補酵素として必要とされることが知られていたが,近年の活発な研究により,それらの代謝物の動態がエピゲノム制御に直接的な影響を及ぼすことがわかってきている.本稿では,代謝–エピゲノムクロストークの分子メカニズムについて,近年筆者らが明らかにしたフラビンアデニンジヌクレオチド(FAD)依存性エピゲノム制御機構を中心に解説する.

2. エピジェネティクス因子の機能に影響を及ぼす細胞内代謝経路

DNAやヒストンのメチル化反応においてメチル基供与体となるS-アデノシルメチオニン(SAM)は,one-carbon cycleの一部であるメチオニン代謝回路において生成される.この回路は葉酸,ベタイン,ビタミンB6およびB12等の栄養素代謝と共役していることから,細胞内SAMプールはこれらの栄養素供給と密接につながっている.また,実際に摂取する栄養組成の違いによるSAM合成量変化が生物個体の形質に影響を与えることが示されている.たとえばagouti viable yellow(Avy)マウスの毛色は,agouti遺伝子座に挿入されたIAP(intracisternal A-particle gene)トランスポゾンのDNAメチル化レベルと連動しており,低メチル化では黄色を,高メチル化では茶色(pseudo-agouti)を呈する.したがって妊娠期間中に高メチル基供与体含有飼料を給与された母親からは,茶色の仔が高頻度で生まれる2).この例は,栄養環境が生体内でエピゲノムに影響を及ぼす直接の証拠であると同時に,胎生期環境がエピジェネティックな機序により表現型に寄与することを示した点においても重要である.メチル基の消去を担うヒストン脱メチル化酵素やメチル化シトシン水酸化酵素も同様に代謝物に依存した活性を示すことから,細胞内代謝状況がグローバルなエピゲノムの書き込み・消去のバランスを調整していると考えられる.

ヒストンのアセチル化および脱アセチル化も,栄養環境により大きな影響を受けることが示されている.ヒストンアセチル化のアセチル基供与体であるアセチルCoAは,核や細胞質に存在するATPクエン酸リアーゼによってクエン酸から合成される3).したがって,細胞へのグルコース取り込み量に応じて解糖系およびTCA回路におけるクエン酸合成量が変化することで,核内でのヒストンアセチル化レベルが変動する.また,クラスⅢヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)であるsirtuinは,ニコチンアミドジヌクレオチド(NAD)依存性酵素であり,細胞内NAD合成やNAD+/NADHバランスの影響を強く受けることも知られている.

3. FAD依存性ヒストン脱メチル化酵素によるエネルギー代謝制御

ヒストンリシン脱メチル化酵素のうち,アミンオキシダーゼ型に属するlysine-specific demethylase 1, 2(LSD1およびLSD2)は,FAD依存的活性を示すモノメチル化およびジメチル化ヒストンH3リシン4(H3K4me1およびme2)脱メチル化酵素として同定された(図1A).FADはリボフラビン(ビタミンB2)から合成される補酵素で,脂肪酸酸化,TCA回路,アミノ酸異化等においてさまざまな酸化還元反応に利用される.したがって,代謝状況に応じた細胞内FADレベルの変化がエピゲノム制御に影響を及ぼす可能性がある.

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図1 FAD依存性リシン脱メチル化酵素

(A)LSD1およびLSD2の構造.共通のSWIRMおよびアミンオキシダーゼドメインの他に,LSD1にはタンパク質間相互作用に関わるTowerドメインがあり,LSD2には二つのZnフィンガードメイン(C4H2C2, CW)がある.(B)LSD1およびLSD2はH3K4me1およびme2を脱メチル化する活性がある.

1)LSD1

一般的にメチル化H3K4は,転写因子やRNAポリメラーゼ複合体などがアクセスしやすいいわゆるオープンクロマチンと呼ばれる染色体領域において検出され,転写活性を正に制御することが知られている(図1B).LSD1は,H3K4脱メチル化酵素として多数の遺伝子のエンハンサーおよびプロモーター活性を負に制御する4).また,LSD1は,H3K4以外にもヒストンH3リシン9(H3K9),DNAメチル基転移酵素DNMT1,p53,STAT3,E2F1などさまざまな核タンパク質のメチル化修飾を除去することで,その機能を調節しており5),さまざまな細胞や組織の形成および維持に必須の役割を持つ.

一方で,LSD1のFAD依存的機能や代謝–エピゲノムクロストークの担い手としての役割は見過ごされてきた.筆者らは,LSD1が脂肪細胞の分化過程において好気呼吸や脂肪分解等のエネルギー消費に関わる遺伝子群を負に制御していることを明らかにした(図26).LSD1機能を阻害すると好気呼吸遺伝子の発現上昇とともに,酸素消費の亢進が認められた.重要なことに,リボフラビン輸送やFAD合成阻害により細胞内FAD量を低下させると,LSD1の遺伝子発現抑制機能が損なわれ,したがって抑制標的である好気呼吸関連遺伝子の発現量が増加した.また,興味深いことに,LSD1によるエネルギー消費抑制は脂肪細胞分化時やインスリン刺激等,脂肪蓄積が誘導される環境下で活性化されたことから,LSD1は余剰エネルギー貯蔵のための代謝リプログラミングに貢献していることが示唆される.カロリー過剰等の細胞外環境が細胞内FAD代謝や動態にどのような影響を及ぼすかは不明であるが,この点は代謝–エピゲノムクロストークを正確に理解する上で重要である.また,Schuleらのグループにより,LSD1は飢餓刺激下においてはエネルギー消費を亢進させることが示されており7),LSD1は栄養環境と代謝プログラムを可塑的にリンクさせる役割を担っていると考えられる.

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図2 LSD1による細胞外環境に応じた代謝リプログラミング制御

LSD1は,さまざまながんや白血病において発現亢進が認められ,がん細胞の増殖や浸潤能に寄与することが報告されている8).多くのがん細胞は,酸素供給に依存せずに細胞増殖に必要なATP,核酸や脂質等を確保できる好気的解糖(Warburg効果)と呼ばれる解糖系に特化したエネルギー戦略を保持するが,そのエピジェネティックな調節機序は未知の点が多い.筆者らはLSD1のがん代謝リプログラミングへの関与をLSD1発現亢進が認められる肝がん細胞を用いて検討した.LSD1ノックダウン(KD)により,好気呼吸の活性化とともに,グルコース取り込みと解糖系の低下が観察された9).LSD1は,肝がん細胞においてH3K4脱メチル化を介して好気呼吸遺伝子発現を抑制すると同時に,低酸素応答性転写因子HIF-1αと協働して解糖系遺伝子発現を活性化していた.興味深いことに,LSD1はHIF-1αタンパク質の安定化に必須の役割を果たすことで,解糖系遺伝子のみならず低酸素応答性の遺伝子発現調節に広く貢献していた.実際のヒト肝がんにおいてLSD1とグルコース輸送担体GLUT1のタンパク質発現は正の相関を示し,マウスを用いた肝がん細胞移植試験においてLSD1-KDにより腫瘍の肥大が抑制された.これらの点からLSD1は肝がんにおける好気的解糖の統合的制御因子であることが示唆された(図2).LSD1によるがん代謝リプログラミング制御のがん種を超えた普遍性や治療標的としての実効性について今後の検証が待たれる.

2)LSD2

LSD2は,LSD1とよく保存されたアミンオキシダーゼドメインを持つが,固有のドメイン構成を持つことから,機能的差別化が推察される(図1).LSD2は,遺伝子の転写領域であるgene bodyのH3K4脱メチル化を介して転写伸長を促進すること10),樹状細胞においてH3K9脱メチル化を介して炎症遺伝子発現を活性化することが報告されているが11),その分子機能については文献が少なく,未知な点が多い.

筆者らは,肝細胞を用いてLSD2が脂質代謝を制御していることを明らかにした(図312).LSD2-KDにより,脂肪酸取り込みや脂質代謝遺伝子が発現上昇を示した.網羅的な解析から,これら遺伝子がLSD2によって直接制御されており,LSD2-KDによりその結合部位のH3K4me1やヒストンH3リシン27アセチル化レベルが亢進することを明らかにした.これらのマークの組み合わせはエンハンサー活性化を反映することから,LSD2は脂質代謝遺伝子のエンハンサー活性を抑制していることが示唆された.さらに,LSD2-KD細胞に脂肪酸を負荷すると,その取り込みが著しく増加し,脂肪酸やアシルCoA,ホスファチジン酸等多種の脂質が細胞内に蓄積していた.過剰な脂肪酸流入は増殖抑制や細胞死を惹起するが,LSD2-KD細胞では脂肪酸負荷により顕著な増殖抑制が観察された.これらの結果から,LSD2は過剰な脂質負荷から肝細胞を保護していることが示唆される.試験管内酵素試験等の結果から,LSD2がFAD依存性のリシン脱メチル化活性をもつことは明らかにされているが,細胞内FADプールの変化がLSD2による遺伝子発現制御に直接影響を及ぼすかはわかっていない.LSD1のケースと同様に,細胞外環境変化に応じたLSD2のエピゲノム制御機能が細胞内FAD動態の影響を受けるかが,興味深い点である.

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図3 LSD2は過剰な脂肪酸流入を抑制する

4. おわりに

上記のようにFAD依存性エピジェネティクス因子は,細胞のコンテクストに応じた代謝リプログラミングに密接に関わっていると考えられる.FADの生化学的性質が詳細に明らかにされているのに対し,細胞内動態や生合成系調節機構については驚くほどわかっていない.近年の報告では,FAD合成酵素であるリボフラビンキナーゼが細胞内の局所的FAD供給に寄与していること13),FADシンセターゼの一部のアイソフォームが核内に局在することが示されている14).これらの報告は,FAD合成がエピゲノム制御と時空間的にリンクしている可能性を示唆している点で興味深い.

代謝–エピゲノムクロストークは,細胞や生物個体の環境適応や生存戦略の基盤をなしていると考えられる.この点を正確に理解する上で,FADをはじめとする代謝物がエピゲノム制御に作用する仕組みを明らかにすることが重要である.

引用文献References

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著者紹介Author Profile

日野 信次朗(ひの しんじろう)

熊本大学発生医学研究所細胞医学分野助教.博士(医学).

略歴

1998年京都大学農学部卒業.2004年京都大学大学院医学研究科博士課程修了.京都大学ウイルス研究所,ノースカロライナ大学,熊本大学発生医学研究センター研究員を経て,09年より現職.

研究テーマと抱負

代謝とエピジェネティクス因子の相互作用を介した細胞記憶とその破綻について研究中.記憶装置としてのエピゲノムの実体を知りたい.

趣味

スポーツ(テレビ)観戦,潮干狩り.

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