生化学 SEIKAGAKU
Journal of Japanese Biochemical Society

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Journal of Japanese Biochemical Society 87(5): 629-632 (2015)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2015.870629

みにれびゅうMini Review

アクチンファミリー分子によるクロマチン・細胞核機能制御Roles of actin family proteins in functional organization of chromatin and the nucleus

東北大学大学院農学研究科Graduate School of Agricultural Science, Tohoku University ◇ 〒981-8555 宮城県仙台市青葉区堤通雨宮町1番1号Tsutsumi-dori Amamiya-machi, Aoba-ku, Sendai-shi, Miyagi 981-8555, Japan

発行日:2015年10月25日Published: October 25, 2015
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1. はじめに:アクチンファミリー分子は細胞核でも本当に機能しているのか?

アクチンは,出芽酵母のような単細胞真核生物から脊椎動物まで,進化的に最も保存されたタンパク質の一つである.アクチンの重要な特徴の一つとして,単量体のglobular(G)-アクチンと,重合体のfilamentous(F)-アクチンの二つの状態として存在することがあげられる.F-アクチンは細胞質の構造(細胞骨格)を支えている.さらにF-アクチンはミオシンモーターのATPaseを活性化させるとともにそのレールとして機能し,また細胞分裂にも必要であるなど多様な役割を有する.細胞内では,F-アクチンからG-アクチンへの脱重合,また逆方向の重合が絶えず起こっており,これにより細胞骨格のダイナミクスや機能が制御されている.このF-アクチンとG-アクチンの変換制御には,アクチンの中心部(アクチンフォールド)に結合したアデニンヌクレオチド(ATPあるいはADP)が関与している.

アクチンに対して,進化的・構造的に関連性を有する一群のタンパク質が存在する.このタンパク質は,アクチン関連タンパク質(actin-related protein,以下Arpと略称)と呼ばれ,アクチンとともに,アクチンファミリーを形成している.アクチンとArpの立体構造は類似しており,特に分子中心部のATP結合ドメイン周辺部の相同性が高い(図1のアクチンとArp4の構造を参照).Arpには10種類のサブファミリーが存在し,アクチンに対して相同性の高い順に,Arp1からArp10に分類されている.これらのアクチンファミリー分子間の協調的な機能が知られており,たとえばArp2とArp3はArp2/3複合体を形成してF-アクチン重合を活性化する.さらにF-アクチンの側面に結合したArp2/3複合体を起点としたF-アクチンが伸長することにより,細胞骨格の枝分かれ構造が形成される.これらの機能により,Arp2,Arp3は,アクチンとともに細胞骨格形成の中心的な分子として機能している.

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図1 クロマチン複合体に含まれるアクチンファミリー

出芽酵母INO80複合体(上)およびSWR1複合体(下)に含まれるアクチンファミリーと,酵素サブユニット上の相互作用領域を示した.アクチンとArp4については,その立体構造も示している.

このように,アクチンとArpの細胞質での機能の重要性が認識される一方で,アクチンファミリー分子が細胞核で機能を持つかどうかについては,長い論争があった.その解決のきっかけの一つとなったのが,細胞核に局在するArpの発見である1,2).アクチンやArp2,Arp3のほとんどが細胞質に存在しているのに対し,Arp4,Arp5,Arp6,Arp7,Arp8,Arp9は,細胞核に局在していた.これらは,核内Arpと呼ばれている.その後,これらの核内Arpがクロマチンリモデリング複合体やヒストン修飾複合体の構成因子であることが見いだされた2).すなわち,これらの核内Arpの機能の一つが,クロマチンの構造変換であることが明らかになった.興味深いことに,これらのArpを含む複合体のほとんどは,G-アクチンも同時に構成因子としていた.これらの知見は,核内でアクチンが実際に機能することを示すとともに,アクチンファミリー間での機能的なクロストークが,細胞質だけでなく,細胞核にも存在することを示している.さらに,細胞核内のアクチンの量が,核内輸送因子importin 9と核外排出因子exportin 6によって能動的に制御されていることも明らかにされた3).これらの一連の発見により,アクチンをはじめとするアクチンファミリー分子が,細胞質だけでなく,細胞核でも機能していることが現在では広く受け入れられている.

2. クロマチンリモデリング複合体の機能へのアクチンファミリーの関与

上述したとおり,アクチンファミリー分子の核内での重要な機能の一つとして,クロマチン構造変換への関与が知られている.出芽酵母での解析では,アクチンファミリー分子を構成因子として含むクロマチンリモデリング複合体として,SWR1(脊椎動物のSRCAP複合体),INO80複合体(脊椎動物のINO80複合体),SWI/SNF複合体(脊椎動物のBAFあるいはSWI/SNF複合体),RSC複合体(脊椎動物のPBAF複合体)が,またヒストン修飾複合体であるNuA4 HAT複合体(脊椎動物のTip60複合体)がこれまでに報告されている.これらの複合体に含まれるアクチンファミリー分子の種類は進化的に保存されており,またこれらのアクチンファミリーは複合体機能に必須である.以下,INO80複合体およびSWR1複合体を例として,クロマチン構造変換複合体におけるアクチンファミリー分子の役割についての知見を紹介する.

INO80複合体とSWR1複合体にはさまざまなアクチンファミリー分子が含まれている.INO80複合体とSWR1複合体のそれぞれの酵素サブユニットであるIno80とSwr1は,ともにHSAドメインを有しており,アクチンとArp4はこのドメインを介してIno80およびSwr1に直接結合している(図14).Ino80においては,さらにHSAドメインにArp8が結合し,アクチン,Arp4とともに一つの構造的機能単位(モジュール)を形成している5).一方,HSAドメイン以外の領域で,Ino80はArp5と,Swr1はArp6と結合している.ここで述べたアクチンファミリー分子は,脊椎動物のINO80複合体およびSRCAP複合体にもすべて同様に存在している.

クロマチンリモデリング複合体中で,それぞれのアクチンファミリー分子はどのような機能を果たしているのだろうか? Arp4,Arp8はヒストンに結合する性質を有することから6,7),これらのアクチンファミリーを含むモジュールが複合体のクロマチンへの結合に寄与すると考えられている.また,Arp8はDNAにも結合し,特に一本鎖DNAに強く結合する8).INO80複合体がDNA二重鎖切断(DNA double strand break: DSB)領域に結合すること,また相同組換え修復に必要な一本鎖DNAの形成に関与することが知られている.これらの知見から,Arp8の一本鎖DNAへの結合活性が,INO80複合体をDSB領域に選択的に結合させることによって,DSBの相同組換え修復に関与している可能性が提唱されている8).実際にArp8の遺伝子ノックアウト細胞ではDSBの相同組換え修復能の低下が観察された.Arp5については,ヒストンやDNAへの結合はこれまでに検出されていないが,INO80複合体のクロマチンリモデリング活性の発現に必要であることが報告されている9).また,Arp6については,後述するように,タンパク質相互作用を介して,クロマチン領域の核内空間配置の決定に関与することが示されている10).一方,クロマチン複合体中のアクチンの機能については不明な点が多いが,INO80複合体のクロマチンリモデリング活性発現にアクチンが必要であることが報告されている11)

3. 細胞核内でのクロマチン空間配置におけるアクチンファミリーの機能

アクチンファミリーを構成因子とするINO80およびSWR1クロマチンリモデリング複合体は,クロマチンの局所的な構造変換のみならず,核内でのクロマチン空間配置にも関与することが示されている12).出芽酵母において,修復困難なDSBが形成された場合に,このDSB領域が核膜近傍に移行して,核膜孔複合体(nuclear pore complex: NPC)などの核膜タンパク質に結合することがこれまでに観察されていた.我々は,SWR1およびINO80複合体が,このようなDSB領域の核内空間配置に関与することを見いだした12).これまでにも,SWR1複合体とINO80複合体がDSB領域に結合することは知られていたが,これらの複合体がDSB領域とNPCとの相互作用に必要であることが新たに明らかになった.SWR1複合体に含まれるArp6に関して,これまでにLexAと融合したArp6を人為的に結合させたクロマチンドメインがNPCに結合して核膜近傍に配置されること,リボソームタンパク質遺伝子のNPCへの結合にArp6が必要であることが示されている10).このことから,Arp6がDSB領域のNPCへの結合においても重要な役割を果たす可能性が考えられている(図2).このようなArp6の機能はswr1欠損株においても保たれていることから,このようなクロマチンドメインのNPCへの結合には,NPCとArp6との分子間相互作用が関与することが示唆されている10)

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図2 Arp6によるクロマチンの細胞核内空間配置の制御

転写やDNA修復の過程で,あるいは人為的操作によりArp6が結合したクロマチン領域が,核膜孔複合体との相互作用により核周辺部に配置されるようすを模式的に示した.

このNPCとArp6との関連は,出芽酵母で観察されたものであるが,脊椎動物細胞でもArp6がクロマチン空間配置に関与することが示されている.脊椎動物細胞の細胞周期間期の核内では,それぞれの染色体DNAが核内で固有の空間を占める染色体テリトリー(chromosome territory: CT)を形成して存在している.しかし,Arp6遺伝子を破壊した細胞では,このCTの空間配置も破壊されていた13).これらの観察結果は,クロマチン空間配置へのArp6の関与が,進化的にも保存されている可能性を示している.

4. 細胞核の機能構造形成におけるアクチンファミリーの機能

上記のクロマチンリモデリング複合体やヒストン修飾複合体には,それぞれ1分子のアクチンが含まれている.すなわち,アクチンはG-アクチンとしてこれらの複合体中に存在する.では,これらの複合体に含まれないアクチンは,核内で重合してF-アクチンを形成することが可能なのだろうか? また,核内でF-アクチンは何らかの機能を有するのであろうか? 核内でも,細胞質と同様にF-アクチンの形成が可能であることは,核移行シグナル(nuclear localization signal: NLS)を付加したアクチンを発現させた細胞の観察から明らかにされた.NLS付加アクチンの発現によって,核内に繊維状構造体が観察される14)図3).この構造体が束化したF-アクチンであることが,ファロイジンによる染色(図3A),およびアクチン脱重合化合物であるMycalolide Bによるこの構造体の消失(図3B)によって確認された.

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図3 細胞核内に形成される束化F-アクチン

(A)GFP(緑色蛍光タンパク質)を付加したNLS-アクチンの発現により形成された核内の繊維状構造が,ファロイジン(Cy3-Phalloidin)によって染色された.(B)NLS-アクチン発現細胞にアクチン脱重合試薬Mycalolide B(50 µg/mL)を加え,経時的に核内の繊維状構造を観察したところ,短時間でこの構造が消失した.これらの観察結果から,この核内の繊維状構造が束化したF-アクチンであることが確認された.(東京工業大学,木村宏博士の協力を得て撮影)

NLS付加アクチンを発現した細胞において,多くの遺伝子の活性化が観察されることから,細胞核内のF-アクチンの機能の一つとして,転写制御への関与が提唱されている14,15).さらに,核内のF-アクチンが遺伝子リプログラミング(初期化)に関与することを示唆する現象も観察されている.ツメガエル卵母細胞の巨大な核(卵核胞)内に体細胞の核を移植すると遺伝子初期化が起こり体細胞核は多能性を獲得するが,Miyamoto, Gurdonらは核内F-アクチンの形成がこの遺伝子初期化に必要であることを示した16).従来は核と細胞質のアクチンを区別して解析することが困難であったが,Miyamotoらは,ミネラルオイル中に単離した卵母細胞核を解析することで,この問題を解決した16).また,F-アクチン形成を制御するタンパク質が遺伝子初期化に関与することも観察されている16,17).遺伝子初期化の過程で,Oct4遺伝子プロモーター領域とアクチンとの相互作用も検出されている16).これらの結果からは,核内F-アクチンによって構成される核骨格構造とクロマチンとの相互作用が,転写制御因子のクロマチン上への集積や結合に影響を与えている可能性が考えられる.さらに,アクチンに加え,核内Arpも核内の機能構造形成に関与することが見いだされている.一例として,我々は脊椎動物細胞核内でARP6の一部が核小体に存在し,核小体の機能やリボソームRNAの転写制御に関与することを見いだしている18)

5. おわりに

ゲノム機能は,局所的なクロマチン構造の変換だけでなく,クロマチンと核構造との相互作用やクロマチン核内空間配置によっても制御されている.すなわち,核内でのクロマチンの階層的な構造形成が,エピジェネティックの多様な制御に寄与している.アクチンファミリー分子は,クロマチンリモデリング複合体の構成因子としてクロマチン構造の変換に関わることに加え,核内の機能構造形成にも関与しており,クロマチンの階層構造形成に中心的な役割を果たすタンパク質群の一つである.アクチンファミリーのクロマチン・細胞核の機能構造形成の分子メカニズムを明らかにすることによって,近い将来,クロマチン階層構造によるエピジェネティック制御の普遍的機構の一端を解き明かすことができるのではないかと考えている.

引用文献References

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著者紹介Author Profile

原田 昌彦(はらた まさひこ)

東北大学大学院農学研究科准教授.農学博士.

略歴

1962年長野県に生る.84年東北大学理学部卒業,89年東北大学大学院農学研究科修了,農学博士.2003年より現職.この間,92年から93年ウィーン大学がん研究所滞在.

研究テーマと抱負

ヌクレオソームから細胞核に至るまでのクロマチン階層構造形成の分子メカニズムを,アクチンファミリー,ヒストンバリアント,クロマチンリモデリング複合体などの解析から明らかにしたい.

ウェブサイト

http://www.harata-lab.org

趣味

楽しいお酒.

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