ホスホリパーゼA/アシルトランスフェラーゼ-3を介したペルオキシソームの制御機構
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ホスホリパーゼA/アシルトランスフェラーゼ(PLA/AT)ファミリーに属する5種類の分子は,がん原遺伝子H-Rasの機能を負に制御するタンパク質群として単離されていたが,長い間その性状は不明であった.我々の一連の研究から,PLA/ATファミリーに属するすべての分子がグリセロリン脂質を基質とする酵素であることが明らかとなり,いずれもホスホリパーゼA1/A2活性とアシル基をグリセロリン脂質から別のグリセロリン脂質へ転移する活性を保有していた.最近になって我々は,これらの分子がペルオキシソーム形成の制御に関与している可能性を見いだしたので,本稿ではこの知見を中心に同ファミリー分子の機能を紹介したい.
PLA/ATファミリーは,ヒトではPLA/AT-1~5の5種類からなるリン脂質代謝酵素群であり,グリセロリン脂質から脂肪酸を遊離させるホスホリパーゼA1/A2活性と,グリセロリン脂質のアシル基をホスファチジルエタノールアミンのアミノ基に転移するN-アシル転移酵素活性,および同様にアシル基をリゾリン脂質の水酸基に転移するO-アシル転移酵素活性を示す1–7)
.これらの分子はいずれもがん原遺伝子H-Rasの機能を負に制御するがん抑制因子群(遺伝子名HRASLS1~5)として単離されていたが8)
,その性状は長い間不明であった.我々はこれらの精製組換えタンパク質が上述した酵素活性を示すことを明らかにし,HRASLS1~5をそれぞれPLA/AT-1~5と呼ぶことを提唱した3–6)
.これらの分子の一次構造は互いに類似しており,N末端側からproline-richドメイン,Hボックス,NCドメイン,および膜結合に関わる疎水性ドメイン等から構成されている(図1).また,ビタミンAの体内動態を制御する酵素であるレシチン-レチノールアシルトランスフェラーゼと相同性を示す.PLA/ATファミリー・メンバーの詳細については,他を参照されたい9)
.
PLA/ATファミリーの中ではPLA/AT-3の機能解析が最も進んでおり,H-rev107あるいは脂肪組織で高発現していることからadipose-specific phospholipase A2(AdPLA)とも呼ばれる.脂肪組織での高発現と一致して3,6),Sulらによって作製された遺伝子欠損マウスでは,脂肪組織における脂肪滴の著しい減少が観察され,高脂肪食摂取による肥満に耐性を示した10).我々はPLA/AT-3の機能を脂質代謝酵素という観点から解析するため,PLA/AT-3を安定発現するHEK293細胞を樹立し,脂質組成を解析した11).その結果,ジアシル型グリセロリン脂質には大きな違いはみられなかったが,グリセロール骨格のsn-1位にエーテル結合を持つプラスマローゲン等のエーテル型リン脂質が劇的に減少していた.同様の結果は,エーテル結合を含む中性脂肪(モノアルキルジアシルグリセロール)においても観察された.これらの変化は酵素活性を欠いた点変異体であるC113Sの発現細胞ではみられないことから,PLA/AT-3の酵素活性に依存した現象であった.エーテル型脂質の前駆体はペルオキシソームで合成され,合成に関わる酵素の欠損やペルオキシソーム自体の機能不全は,一連のエーテル型脂質の産生異常を来す.そこで,PLA/AT-3安定発現細胞におけるペルオキシソームの異常の有無を解析するため,細胞ホモジネートをショ糖密度勾配法にて遠心分画し,ペルオキシソームのマーカータンパク質であるカタラーゼとPMP70の分布をウエスタンブロッティングで検討した(図2A).その結果,コントロール細胞やC113S発現細胞では,オルガネラ画分に両タンパク質が検出されたのに対し,PLA/AT-3発現細胞ではもっぱら細胞質画分にカタラーゼが存在し,PMP70はいずれの画分でもほとんど検出されなかった.これより,PLA/AT-3の発現はペルオキシソームを減少させることが強く示唆された.
ペルオキシソームの形成はペルオキシン(Pex)と呼ばれるタンパク質群によって制御されており,ペルオキシンの欠損はペルオキシソームの機能異常や欠損を引き起こす12).中でもPex19pは,ペルオキシソーム膜タンパク質の細胞内輸送に関わるシャペロン分子として知られている.PLA/AT-3発現細胞の表現型はPex19p欠損細胞のそれとよく類似していることから,PLA/AT-3の発現に伴うペルオキシソームの減少がPex19pの機能異常によって生じる可能性を検討した13).PLA/AT-3とPex19pをCOS-7細胞で共発現させ,免疫沈降を行ったところ,両分子の結合が認められた(図2B).また,PLA/AT-3の変異体を用いた実験から,酵素活性を欠いたC113SはPex19pと結合したが,N末端またはC末端のペプチドを欠いた変異体(ΔNとΔC)では結合はみられなかった.これより,PLA/AT-3は酵素活性非依存的にPex19pと結合し,この結合にはPLA/AT-3のN末端側のproline-richドメインとC末端側の疎水性ドメインが必要であることが明らかになった.次に,PLA/AT-3がPex19pのシャペロン活性に影響を与えるかどうかを調べるため,Pex19pとペルオキシソーム膜タンパク質であるPex3pをCOS-7細胞で共発現させ,両者の結合を免疫沈降法によって解析した.その結果,野生型PLA/AT-3の存在下ではPex19pとPex3pの結合は阻害された(図2B).一方,C113S変異体は,Pex19pとPex3pの結合に影響を与えなかった.同様の結果が,Pex3p以外の別のペルオキシソーム膜タンパク質であるPex11βpを用いた解析からも得られた.以上の結果から,PLA/AT-3は新規Pex19p結合タンパク質であり,Pex19pのシャペロン活性を酵素活性依存的に阻害することでペルオキシソームの形成を負に制御する可能性が示唆された.Pex19pは小胞体膜もしくは細胞質中でペルオキシソーム膜タンパク質と結合し,その後,これらをペルオキシソームに輸送すると考えられている.PLA/AT-3がどのようにPex19pの機能を抑制するかは不明であるが,Pex19pが小胞体膜上に存在するペルオキシソーム膜タンパク質と結合する際に必要とされる小胞体膜ドメインの脂質組成に酵素として影響を与えることで,Pex19pの機能を抑制しているのかもしれない.または,Pex19pと結合したPLA/AT-3がペルオキシソームに輸送され,ペルオキシソームの膜構造に異常をもたらす可能性も考えられる.同様のペルオキシソームに対する効果は,PLA/AT-2発現細胞でも観察されている14).今後,さらなる分子メカニズムの解明が必要であると考えている.
PLA/AT-3の過剰発現がPex19pの機能阻害を引き起こすことは明らかになったが,これが生理的な条件下でも起きるのかはわかっていない.PLA/AT-3は脂肪組織で高発現しており,肥満によってさらに発現が誘導されることが報告されているので,同組織におけるペルオキシソーム含量を制御しているのかもしれない.また,我々は並行して,PLA/AT-1や-2が前述のN-アシル転移酵素として機能することで,生理活性脂質であるN-アシルエタノールアミンの生合成に関与していることを見いだしたが14,15)
,その生理的意義は十分には明らかになっておらず,個体レベルでの解析が必要である.さらに,PLA/ATファミリーはH-Rasの機能を負に制御するがん抑制遺伝子群として単離されたが,その分子メカニズムには不明な点が多く,同ファミリーの酵素活性がH-Rasとどのように関わっているのかを検討することも課題である.
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