Online ISSN: 2189-0544 Print ISSN: 0037-1017
公益社団法人日本生化学会 The Japanese Biochemical Society
Journal of Japanese Biochemical Society 87(6): 749-752 (2015)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2015.870749

みにれびゅうMini Review

機能未知タンパク質の機能解明を目指してヌクレオチド代謝を例にToward functional identification of functionally unknown proteins in nucleotide metabolism

大阪市立大学大学院理学研究科Graduate School of Science, Osaka City University ◇ 〒558-8585 大阪府大阪市住吉区杉本三丁目3番138号Sugimoto 3-3-138, Sumiyoshi-ku, Osaka-shi, Osaka 558-8585, Japan

発行日:2015年12月25日Published: December 25, 2015
HTMLPDFEPUB3

1. はじめに

全ゲノム配列決定が容易になった結果,多くの新しいタンパク質(遺伝子)の存在や機能を配列情報から予測することはかなり容易になった.とはいえ,どの生物種でも,全遺伝子の1/3~1/2はその配列からだけでは機能を予測できない「機能未知タンパク質」をコードしている.生命現象の全体像を分子レベルから理解するためには,それら機能未知タンパク質の機能の解明も必要である.

一口に機能未知タンパク質といっても,既知の配列モチーフをまったく持たないものもあれば,多くの種で保存されている機能既知の配列モチーフを持つものもある.また,タンパク質が持つ活性(分子機能)を苦労して同定しても,細胞における働き(細胞機能)がわからない場合や,逆のケースも多い.

我々のグループでは,ヌクレオチドや核酸に関わる配列モチーフを持つものの,その機能がはっきりしないタンパク質に着目して構造機能解析を行ってきた.それらの中には重要な生理的機能を担っているものがまだあるに違いない,というのが大きなモチベーションである.本稿では,高度好熱菌の場合を例に,機能未知タンパク質の機能解明を目指したいくつかの例を紹介する.

2. ppGpp分解酵素Ndx8(TTHA1939)

大腸菌では,酸化傷害塩基である8-オキソグアニン(8-OG)を含む8-oxo-dGTPを8-oxo-dGMPに分解するMutTという酵素が知られている.MutTと共通の機能モチーフを持つ加水分解酵素群はウイルスからヒトまで生物界に広く分布し,ヌクレオシド二リン酸誘導体のリン酸ジエステル結合を加水分解するNudixファミリーと総称されている.我々はMutT様活性を持つタンパク質の同定を目指して,高度好熱菌(Thermus thermophilus HB8)が持つ八つのNudixタンパク質の機能解析を行ったが,その過程で予想外の方向に展開したのがNdx8(ORF ID: TTHA1939)である1)

精製したNdx8は,さまざまな塩基のヌクレオシド二リン酸[(d)NDP]を(d)NMPに特異的に分解した.次に,ndx8遺伝子破壊株(ndx8)は,栄養制限条件では対数増殖期の途中で細胞が定常期のように凝集した(図1).さらに,DNAマイクロアレイによる解析では,リボソームタンパク質やTCA回路の酵素群など,細胞増殖に必須なタンパク質の転写がndx8で抑制されていた.これらの変化はNdx8が持つ活性の消失によると考えられるが,in vitroで検出した(d)NDP分解活性との関連は不明であった.

Journal of Japanese Biochemical Society 87(6): 749-752 (2015)

図1 Ndx8の機能解析

ndx8細胞は対数増殖期の途中で凝集するという表現型を示した.その時点でメタボローム解析を行うと,野生型と比べてndx8で細胞内レベルが大きく変動した低分子(●)の中にppGppが含まれていた.精製したNdx8はppGppをpGpに分解した.

そこで,細胞内におけるNdx8の本来の基質は(d)NDP以外のヌクレオチド(誘導体)ではないかという仮説を立て,キャピラリー電気泳動と飛行時間型質量分析計を用いて,細胞内の低分子量代謝分子の変動を調べた.その結果,野生株と比較してndx8細胞には7種類のヌクレオチドが蓄積しており,その中に細菌のシグナル分子として知られるグアノシン3′,5′-ビス二リン酸(guanosine-3′,5′-bispyrophosphate: ppGpp)が含まれていた(図1).in vitroで検証したところ,Ndx8はppGppに対して最も高い分解活性を示した.ppGppは,アミノ酸などの栄養が枯渇すると細胞内に蓄積し,RNAポリメラーゼへの結合を介して細胞増殖を抑制する方向へ転写を誘導する.この特徴は,栄養制限下で観察されたndx8の表現型をうまく説明できる.実際,ppGpp合成を担うrelA遺伝子の破壊株でndx8遺伝子を重ねて破壊すると,細胞凝集をはじめとした表現型が観察されなかった.これらの結果は,RelA/SpoT以外の活性によってppGpp濃度が調節されていることを示した初めての例であり,Ndx8の活性が栄養制限時の細胞増殖を制御する上で重要な役割を担うことを示している.また,メタボローム解析が酵素の基質の同定に役立つことも示している.

3. dNTP分解酵素Tt-dNTPase(TTHA0412)

8-oxo-dGTPを分解する酵素の候補として,我々はdGTPをデオキシグアノシン(dG)と三リン酸(PPPi)に分解する酵素(dGTP triphosphohydrolase: dGTPase)にも着目した.大腸菌由来dGTPaseについては,T7ファージがdGTPaseの活性を阻害するタンパク質を持つことなどから,抗ファージ機構の一部として働く可能性が示唆されていたが,dGTP分解活性自体の働きは不明であった.そこで,dGTPaseが8-oxo-dGTPaseのような傷害ヌクレオチドを分解する可能性を考え,大腸菌dGTPaseのホモログであるTTHA0412を用いて実験的な検証を試みた2)

ところが,精製したTTHA0412はdGTP分解活性を示さず,他の(d)NTPや(d)NDPなども分解しなかった.そこで,基質候補を広くスクリーニングするため,試しに5種類のdNTPの混合物をTTHA0412と反応させたところ,その五つすべてがデオキシリボヌクレオシドとPPPiに分解された(図2).dNTPの組合わせと数を変え,詳細な速度論的解析を行った結果,dATPあるいはdTTPが活性化因子(エフェクター)としてTTHA0412に結合し,別のdNTPが基質として分解されるものと推定された(図2).エフェクターがdNTPだったのは,今思えば非常に幸運であった.

Journal of Japanese Biochemical Society 87(6): 749-752 (2015)

図2 Tt-dNTPaseの構造機能解析

Tt-dNTPaseはdNTPによって活性化されるユニークなdNTP分解酵素であり,基質結合部位とは別に,エフェクターdNTPの結合部位を持つと予想される.大腸菌dGTPaseの解析結果などから,エフェクター結合部位は六量体中の二量体ユニットのサブユニット会合面と考えられる.

X線結晶構造解析法によって決定したTTHA0412(Tt-dNTPase)の立体構造は,三量体のリングが二つ重なった形の六量体であった(図23).基質のdNTPは,金属イオンを配位した活性部位に結合すると考えられた.その後決定されたエンテロコッカス由来dNTPase(四量体)4)や大腸菌dGTPase(六量体)5)の立体構造では,エフェクターとして働く分子が二つのサブユニットの会合面に結合していた(図2).これらの結果から,サブユニットの会合面にエフェクターが結合することにより,基質結合部位が開いて基質のdNTPが結合できるようになるという活性化機構モデルが考えられている.さらに我々の結果に基づいて,ヒト免疫不全ウイルス1型(HIV-1)の感染を阻止する抑制因子の一つ(SAMHD1)も,Tt-dNTPaseと同様のアロステリック制御機構を持つdNTPaseであることが同定され6),その活性を介したdNTP濃度の低下がHIV-1の感染を抑制することが報告された7).最近になって,SAMHD1はRNA分解活性も持つと報告された8).細菌のdNTPaseやSAMHD1の多様で複雑な分子機能の解明はまだ途上である.

4. nanoRNA分解酵素(TTHA0118)

RecJはDNA修復や相同組換えの際に働く一本鎖DNA特異的な5′-3′エキソヌクレアーゼであり,DHHモチーフとDHHA1モチーフを有する.その二つのモチーフを持つタンパク質TTHA0118(324残基)は,RecJ(666残基)より短いものの,おそらくRecJに似た酵素だろうという予想のもとに研究を始めた9)

精製したTTHA0118は,二価金属イオン存在下で一本鎖DNAに対して5′-3′エキソヌクレアーゼ活性を示したが,活性が非常に低く,一本鎖RNAも分解する点がRecJとは異なっていた.そこでさまざまな基質を試したところ,一本鎖核酸の長さが短くなるほど活性が劇的に高くなるという予想外の結果が得られた(図3).

Journal of Japanese Biochemical Society 87(6): 749-752 (2015)

図3 nanoRNaseの構造機能解析

高度好熱菌由来TTHA0118は,基質の一本鎖核酸が短いほど高い活性を示した.その遺伝子破壊株はヌクレオシド(Nuc)やヌクレオシド一リン酸(5´-NMP)の添加によって栄養制限培地での生育を回復した.これらのことから,このタンパク質はmRNA分解の最終段階で短いRNA(nanoRNA)を分解するnanoRNaseと考えられる.長い基質はnanoRNaseの活性発現に必要な二つのドメインの接近を妨げるのかもしれない.

TTHA0118遺伝子の破壊株は,栄養制限下で生育速度が低下したが,ヌクレオチドなどの添加により生育速度を回復した(図3).この結果から,TTHA0118は短い一本鎖核酸を基質としており,ヌクレオチド生合成のサルベージ経路に関与していると考えた.mRNAの分解はさまざまなRNA分解酵素(RNase)によって段階的に行われるが,多くのRNaseは2~5ヌクレオチドの短鎖RNA(nanoRNA)までしか分解できない.nanoRNAをモノリボヌクレオチドまで分解する酵素として,大腸菌ではOrnという酵素が知られている.Ornのホモログを持たない高度好熱菌を含む多くの生物種では,TTHA0118のオーソログ(nanoRNase)がOrnの機能ホモログとして働くと現在では考えられている(図3).

では,基質が短いほどnanoRNaseが高い活性を示すのはなぜか.我々はBacteroides fragilis由来のnanoRNase(BF3670)とGMPとの複合体構造を決定した(図310).nanoRNaseの活性部位は,二つのドメインの間の溝である.反応生成物にあたるGMPは,Mn2+を配位するDHHモチーフ近辺ではなく,溝の反対側のDHHA1モチーフ近傍に結合していた.切断箇所であるGMPの3′-OH基とMn2+との距離が約7 Åだったことから,反応時には二つのドメインが相互に近づくことが必要と考えられる.nanoRNaseが示す基質の長さ依存性は,長い基質ではこのドメインの動きが制限されることによるのかもしれない.

5. まとめ

機能未知タンパク質の解析は,複雑な生命現象の謎を分子レベルに落としこむという一般的な取り組み方とは異質に見えるが,目指すところは同じである.対象が酵素の場合には,in vitroでの詳細な活性測定に持ち込む前に,基質候補をいかに絞り込むかが難しく,答えにたどりついていないものも多い.しかし,さまざまな解析手法が利用可能な今だからこそ,取り組むべき,かつ面白い課題だと考えている.

謝辞Acknowledgments

本稿の内容は,大賀拓史,近藤直幸,若松泰介,植村有里の各氏が大阪大学倉光研究室在籍時に行った研究の成果をもとにしたものです.倉光成紀先生ならびに共同研究者の皆様に謝意を表します.

引用文献References

1) Ooga, T., Ohashi, Y., Kuramitsu, S., Koyama, Y., Tomita, M., Soga, T., & Masui, R. (2009) J. Biol. Chem., 284, 15549–15556.

2) Kondo, N., Kuramitsu, S., & Masui, R. (2004) J. Biochem., 136, 221–231.

3) Kondo, N., Nakagawa, N., Ebihara, A., Chen, L., Liu, Z.J., Wang, B.C., Yokoyama, S., Kuramitsu, S., & Masui, R. (2007) Acta Crystallogr. D Biol. Crystallogr., 63, 230–239.

4) Vorontsov, I.I., Minasov, G., Kiryukhina, O., Brunzelle, J.S., Shuvalova, L., & Anderson, W.F. (2011) J. Biol. Chem., 286, 33158–33166.

5) Singh, D., Gawel, D., Itsko, M., Hochkoeppler, A., Krahn, J.M., London, R.E., & Schaaper, R.M. (2015) J. Biol. Chem., 290, 10418–10429.

6) Goldstone, D.C., Ennis-Adeniran, V., Hedden, J.J., Groom, H.C., Rice, G.I., Christodoulou, E., Walker, P.A., Kelly, G., Haire, L.F., Yap, M.W., de Carvalho, L.P., Stoye, J.P., Crow, Y.J., Taylor, I.A., & Webb, M. (2011) Nature, 480, 379–382.

7) Lahouassa, H., Daddacha, W., Hofmann, H., Ayinde, D., Logue, E.C., Dragin, L., Bloch, N., Maudet, C., Bertrand, M., Gramberg, T., Pancino, G., Priet, S., Canard, B., Laguette, N., Benkirane, M., Transy, C., Landau, N.R., Kim, B., & Margottin-Goguet, F. (2012) Nat. Immunol., 13, 223–228.

8) Ryoo, J., Choi, J., Oh, C., Kim, S., Seo, M., Kim, S.Y., Seo, D., Kim, J., White, T.E., Brandariz-Nunez, A., Diaz-Griffero, F., Yun, C.H., Hollenbaugh, J.A., Kim, B., Baek, D., & Ahn, K. (2014) Nat. Med., 20, 936–941.

9) Wakamatsu, T., Kim, K., Uemura, Y., Nakagawa, N., Kuramitsu, S., & Masui, R. (2011) J. Biol. Chem., 286, 2807–2816.

10) Uemura, Y., Nakagawa, N., Wakamatsu, T., Kim, K., Montelione, G.T., Hunt, J.F., Kuramitsu, S., & Masui, R. (2013) FEBS Lett., 587, 2669–2674.

著者紹介Author Profile

増井 良治(ますい りょうじ)

大阪市立大学大学院理学研究科生物地球系専攻代謝調節機能学研究室教授.博士(理学).

略歴

1965年大阪府に生る.88年大阪大学理学部卒業.93年大阪大学大学院理学研究科修了.博士(理学).以後,同理学部教務員,同大学院理学研究科助手,講師,准教授をつとめた後,2014年10月より現職.

研究テーマと抱負

DNA傷害の修復やヌクレオチド代謝に関わるタンパク質の構造機能解析.機能カテゴリーや機能の既知・未知を問わず,タンパク質がはたらく際の新たな仕組みを見つけたい.

趣味

アメリカンフットボール観戦(主にCSでNFL. たまに阪神タイガース).短歌鑑賞.

This page was created on 2015-11-05T13:54:43.03+09:00
This page was last modified on 2015-12-18T14:33:48.18+09:00


このサイトは(株)国際文献社によって運用されています。