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公益社団法人日本生化学会 The Japanese Biochemical Society
Journal of Japanese Biochemical Society 87(6): 781-784 (2015)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2015.870781

みにれびゅうMini Review

EMCは複数膜貫通タンパク質の合成に特異的に必要な因子であるEMC is essential for biosynthesis of rhodopsin and other multi-pass membrane proteins in Drosophila photoreceptors

1広島大学大学院総合科学研究科行動科学研究室Laboratory of Behavioral Sciences, Graduate School of Integrated Arts and Sciences, Hiroshima University ◇ 〒739-8521 広島県東広島市鏡山一丁目7番1号Kagamiyama 1-7-1, Higashi-Hiroshima-shi, Hiroshima 739-8521, Japan

2広島大学大学院総合科学研究科人間科学部門Division of Human Sciences, Graduate School of Integrated Arts and Sciences, Hiroshima University ◇ 〒739-8521 広島県東広島市鏡山一丁目7番1号Kagamiyama 1-7-1, Higashi-Hiroshima-shi, Hiroshima 739-8521, Japan

発行日:2015年12月25日Published: December 25, 2015
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1. はじめに

真核生物のほとんどの分泌タンパク質・膜タンパク質は小胞体膜上のリボソームにより合成され,トランスロコンにより小胞体内腔に輸送されるか,あるいは小胞体膜に組み込まれ,糖鎖付加などの修飾を受けながら適切に折りたたまれて機能的なタンパク質となる.小胞体膜での膜貫通ヘリックスの脂質二重膜への挿入は,新生鎖の翻訳に並行して同時に行われると考えられており,この過程にはトランスロコンに加えTRAMやTRAP/SSRなどが関与することが報告されているが,特に複数回膜貫通タンパク質の組込みとそれに引き続くフォールディングの過程は,まだ完全に解明されたわけではない.

我々の研究グループではショウジョウバエ視細胞をモデルとして7回膜貫通受容体であるロドプシンの合成・輸送を研究しているが,この過程に関わる変異体を単離するためにトランスポゾン挿入変異体546系統をスクリーニングした結果,Rh1ロドプシンが光受容膜に集積しない変異体が複数同定された1).同定された変異体の一つは,酵母で見つかった小胞体膜タンパク質複合体(EMC)のサブユニットEMC3をコードする遺伝子にトランスポゾンが挿入されていた.さらに,変異誘導剤であるエチルメタンスルホネートにより変異導入したハエ個体のスクリーニングでEMC3と似た表現型を示す変異体を単離し,EMC1およびEMC8/9の変異体を得ることができた.これらの変異体について詳細な解析を行い,EMCが複数回膜貫通ドメインを持つ膜タンパク質の合成もしくはフォールディングに特異的に作用する因子であることを示した2).本稿では,EMCに関する酵母や線虫の研究結果を紹介した後,筆者らの行った研究を概説し,EMCの機能について考察したい.

2. 酵母におけるEMCの同定

Jonikasらは,小胞体ストレス応答(unfolded protein response: UPR)を引き起こす度合いを指標として,小胞体におけるタンパク質のフォールディングに関わる因子を数百同定し,さらに,二重変異体におけるUPRレベルの測定により,二つの遺伝子の機能的相互依存を定量化した.この方法により,既存の複数の小胞体内シャペロンを再同定したのに加えて,新規に六つの遺伝子が複合体を形成しシャペロンとして機能する可能性を示した3).これが小胞体膜タンパク質複合体(EMC)である.各々のEMCのサブユニットはEMC1~6と名づけられた.その後,小胞体内腔および小胞体膜中のミスフォールドしたタンパク質を,細胞質中に回収し分解する仕組みである小胞体関連分解(ER-associated degradation: ERAD)に関わる因子の哺乳類細胞を用いた網羅的相互作用研究からEMCが再同定され,哺乳類では酵母の6サブユニットに加えてさらに4サブユニット(EMC7~10)が相互作用することも示された4).ショウジョウバエゲノム上には,EMC2が2遺伝子あるが,逆にEMC8,EMC9については両者に似た遺伝子が一つだけ存在し,合計として10のEMC遺伝子が存在する(表1).最近になって,酵母でもEMC7とEMC10が報告されたので,EMCは進化的に保存された10サブユニットからなる複合体であるかもしれない5).また,Jonikasらは,酵母EMCの詳細な機能解析は行っていないが,変異体の遺伝的相互作用の様式が,ミスフォールドした膜貫通タンパク質,Sec61-2PやKWSの過剰発現の結果と非常に似ていることを指摘しており,このことからEMCの膜貫通タンパク質のフォールディングへの作用が推測されていた3)

表1 出芽酵母,ヒト,ショウジョウバエにおけるEMCサブユニット
Saccharomyces cerevisiaeHomo sapiensDrosophila melanogaster
EMC1YCL045CKIAA0090CG2943
EMC2YJR088CTTC35CG17556, CG3678
EMC3YKL207WTMEM111CG6750
EMC4YGL231CTMEM85CG14550
EMC5YIL027CMMGT1CG15168
EMC6YLL014WTMEM93CG11781
EMC7Sop4C15orf24CG8397
EMC8C14orf122CG3501
EMC9COX4NBCG3501
EMC10YDR056CC19orf63CG32441
出芽酵母では六つのサブユニットにより構成されるが,ショウジョウバエやヒトでは9~10サブユニット存在する.ごく最近,酵母でもさらなる二つのサブユニットが見つかった.

3. 線虫におけるEMCの機能

線虫Caenorhabditis elegansでは,アセチルコリン受容体の生合成に関わる因子を同定する目的で,コリン作動性アゴニストであるレバミソールへの感受性が減少する変異体のスクリーニングが行われ,EMC6のストップコドン直前のチロシンをコードするコドン領域にトランスポゾンMos1が挿入された変異体が単離された6).この変異体の詳細な解析により,EMC6は複数のサブユニットからなるアセチルコリン受容体の小胞体膜上での会合,あるいは,会合より以前の段階に必要であることが示された.EMC1, 2, 3, 4のsiRNAの導入によってもレバミソールへの感受性が減少したことから,これらのサブユニットもアセチルコリン受容体の形成に必要であると推測された.さらに著者らは,EMC6の変異体において,GABAへの応答性が減少すること,一方でEGF受容体LET23は正常に機能することを見いだし,システインループ型受容体ファミリーに属するアセチルコリン受容体とGABA受容体が少なくともその発現にEMCを必要とする可能性について言及した.しかしながら,その他のタンパク質についての解析は行われておらず,著者ら自身,EMCがシステインループ型受容体以外のタンパク質の発現に必要である可能性を除外できないと述べている.システインループ型受容体はそれぞれ4本の膜貫通ヘリックスを持つサブユニットからなる五量体であるのに対して,EGF受容体はⅠ型1回膜貫通タンパク質である.

4. EMCはロドプシン形成の初期段階に作用する

ショウジョウバエ網膜の周辺視細胞で発現するロドプシン(Rh1)は,アポタンパク質Rh1オプシンが小胞体膜上で合成された後,発色団11-cis-レチナールが結合することにより形成される.このRh1形成過程で3種のシャペロン,カルネキシン・NinaA・XPORTが必要であることが示されている7–9).発色団11-cis-レチナールを欠損した培地で飼育したハエやNinaA,XPORTハエ変異体においては,エンドグリコシダーゼH感受性のN型糖鎖を持ったRh1(Rh1合成中間体)が小胞体に蓄積する10).一方,カルネキシン変異体では,Rh1合成中間体は蓄積せず,カルネキシンとNinaAの二重変異体においてもRh1合成中間体が蓄積しないことから,カルネキシンはNinaAよりも早い段階でRh1に作用すると考えられている7)

EMCの作用する段階を知るために,発色団欠乏条件下でEMC変異がRh1合成中間体の蓄積量にもたらす影響を検討したが,EMC1,EMC3,EMC8/9いずれの変異体においてもRh1合成中間体は小胞体膜に蓄積しなかった1).さらに,EMC3とNinaAの二重変異体においても,Rh1合成中間体が蓄積しないことから,EMCはカルネキシンと同様にNinaAよりも早い段階でRh1に作用すると考えられた.この遺伝的相互作用の結果と一致して,GFP融合型のEMC1を発現するハエに対し抗GFP抗体を用いた免疫沈降実験では,EMCのサブユニットだけでなくカルネキシンが共沈されてきた.これらのことから,カルネキシンとEMCはRh1合成中間体の形成の早い段階に一緒に機能する可能性が考えられた.一方,EMCとRh1との共沈は観察されず,EMCのRh1への作用が一過的であるか,あるいはRh1オプシンの新生段階にあることを示唆している.

さらに,我々はEMC欠損におけるRh1合成中間体の欠損がERADによる分解のためである可能性を考えて,ERAD変異体との二重変異体の解析を行ったが,Rh1合成中間体を蓄積させることはできなかった(未発表).用いたERAD変異体の中には,実際にロドプシンのフォールディング変異体の膜からの引き抜きを阻止できることが示されているVCP/ter94の変異体も含まれている11).これらの結果は,EMCはRh1が膜に完全に挿入されてから作用するのではなく,すべてのヘリックスが膜に挿入し終わる以前,おそらくは新生鎖の段階で作用することを示唆している(図1).

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図1 新生ロドプシンの合成過程

EMCはカルネキシンと相互作用し,新生ロドプシンの膜貫通ヘリックスの膜への挿入・離脱・フォールディングのいずれかの段階に作用する.その後,ロドプシンはNinaAによりプロリン異性化を受けた後に,発色団である11-cis-レチナールと結合し,正常にフォールディングされ,小胞体からゴルジ体へと輸送される.

5. EMCは複数の膜貫通ドメインを持つタンパク質に特異的に必要である

我々はRh1ロドプシンの合成・輸送に関わる因子としてEMCを単離したが,EMCは酵母においてシャペロンとしての機能が示唆されていることから3),Rh1以外のタンパク質の合成への影響を検討した.まず,中心視細胞に発現するRh3・Rh4ロドプシンの発現を検討したところ,Rh1と同様にEMC欠損細胞ではまったく検出できず,EMCがRh3,Rh4の合成に必要であることがわかった2).次にロドプシンと同様に光受容膜に局在するチャネルタンパク質TRPや,側底面膜に局在するNa+K+ ATPaseのαサブユニットを検討したところ,EMC欠損細胞ではいずれもまったく検出されなかった(図2A, B).これらのタンパク質はいずれも多数の膜貫通ヘリックスを持つ膜タンパク質である.一方,膜貫通ヘリックスをまったく持たない分泌タンパク質であるEys(図2C),膜貫通ヘリックスを一つ持つⅠ型1回膜貫通タンパク質であるCrumbs(Crb,図2C),DE-Cadherin(DE-Cad,図2B),Neuroglian(NG),FasciclinIII(FasIII),Ⅱ型1回膜貫通タンパク質であるNeurotactin(Nrt),Ⅳ型1回膜貫通タンパク質であるSyx1Aの合成は正常であった.これらの結果は,EMCが複数の膜貫通ヘリックスを持つ膜タンパク質の合成に特異的に機能する可能性を示唆している.分泌タンパク質の小胞体内腔への輸送や膜貫通ヘリックスの膜への組み込みに関わるトランスロコンは,1分子で2本の膜貫通ヘリックスまでしか内部に保持することができない.したがって,膜貫通ヘリックスを多数持つ膜タンパク質の合成時には,先に膜に組み込まれたヘリックスはトランスロコンから離脱し脂質二重膜中で保持される必要があるが,その過程に関わるタンパク質については明らかではない.興味深いことに,我々は,N末端とC末端付近に一つずつ膜貫通ヘリックスを持つハエmetallophosphoesterase(dMPPE)に関しては正常な局在を観察している(図2D).これらの結果は,EMCがトランスロコンからの膜貫通ヘリックスの離脱を促進するか,あるいは離脱した膜貫通ヘリックスを保持することにより,3本以上の膜貫通ヘリックスを持つ膜タンパク質の合成に関わる可能性を示しているのかもしれない.

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図2 EMC欠損変異体におけるさまざまな膜タンパク質・分泌タンパク質の合成

EMC3(A, D)またはEMC8/9(B, C)欠損細胞(白の☆印)と野生型細胞からなるモザイク網膜の間接蛍光抗体法による観察結果を示す.赤は野生型細胞マーカーであるRFPを示す.(D)の画像のみSatoh et al., 20152)と同一画像を使用した.(A)緑:Na+K+ ATPase,青:Rh1ロドプシン.(B)緑:DE-Cadherin,青:TRP.(C)緑:Crb,青:Eys.(D)緑:dMPPE.

6. EMC変異体では視細胞の光受容膜が変性する

ロドプシンを含め,ロドプシンの合成・輸送に関わる因子の多くは,その欠損により網膜変性症を引き起こすことが知られている.このような網膜変性症の発症の分子機構を解明する試みから,ゼブラフィッシュにおいて赤色錐体特異的な網膜変性を引き起こす変異体,Partial optokinetic response bpoba1が単離され,その原因遺伝子が同定され,Pobと命名されていた12,13).このPobはJenikasらの報告した酵母EMCのサブユニットの一つ,EMC3のオーソログであった3)poba1変異では,塩基置換によりスプライシングアクセプターが消失したが,6塩基下流の配列がスプライシングアクセプターとして機能したため,二つのアミノ酸の欠失と一つのアミノ酸の置換が生じていた.Pobは網膜のすべての細胞で発現しており,また細胞内小胞輸送に関わる細胞小器官への局在が認められたことから,Taylarらは赤色錐体特異的であるのはpoba1Pob遺伝子機能の部分欠損変異であるためかもしれないと述べている13)

EMCの網膜変性症への関わりを明らかにするために,暗所または12D/12Lの明暗サイクルで飼育したハエについて,羽化後3日と17日の網膜を電子顕微鏡により観察した.その結果,羽化後3日後には,光条件に関わらず,光受容膜の細胞内部へ著しい落ち込みが観察され,光受容膜変性が確認された.羽化後17日では,光条件に関わらず,光受容膜は一切観察されず,羽化後3日に観察された細胞質内へ陥入した光受容膜のすべてが分解されたことがわかった.このような光受容膜の著しい縮退変性にも関わらず,ミトコンドリアは正常な形態を保ち細胞の膨潤も起こっていなかった2).さらに,羽化後35日の細胞を電子顕微鏡と共焦点レーザー顕微鏡により観察したところ,視細胞死は起こっていなかった(未発表).この結果は,EMCが光受容膜の維持には必須であるが,細胞の生死には影響がないこと,もしくはEMC変異が細胞死を引き起こす分子機構にも欠損をもたらすことを示している.

7. これからの研究展開

今後は,EMCの基質特異性を明らかにするために,より多くの膜タンパク質の合成についてEMCの必要性を検討することを計画している.また,EMCの機能を生化学的に解明するために,in vitro翻訳系を用いた実験を行っていきたいと考えている.

引用文献References

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著者紹介Author Profile

佐藤 明子(さとう あきこ)

広島大学大学院総合科学研究科准教授.理学博士(大阪大学大学院理学研究科).

略歴

1993年大阪大学理学部卒業.98年大阪大学大学院理学研究科博士号取得.2000年よりPurdue大学ポスドク研究員.08年より名古屋大学理学研究科特任准教授.12年より現職.11~15年さきがけ研究者兼任.

研究テーマと抱負

膜タンパク質の選別輸送をメインとしていますが,その他,視細胞の頂端面の内部ドメイン分化や色素顆粒運動の分子機構など,ショウジョウバエ視細胞を用いて,興味深い細胞生物学的現象の分子機構を研究しています.

ウェブサイト

http://home.hiroshima-u.ac.jp/aksatoh/

趣味

特にナシ.

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