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公益社団法人日本生化学会 The Japanese Biochemical Society
Journal of Japanese Biochemical Society 87(6): 785-788 (2015)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2015.870785

みにれびゅうMini Review

ミスフォールドタンパク質/MHCクラスⅡ分子複合体による新たな自己免疫疾患発症機構Cellular misfolded proteins transported to the cell surface by MHC class II molecules are targeted by autoantibodies

1大阪大学免疫学フロンティア研究センター免疫グループ免疫化学研究室Laboratory of Immunochemistry, Immunology Group, Immunology Frontier Research Center, Osaka University ◇ 〒565-0871 大阪府吹田市山田丘3番1号Yamadaoka 3-1, Suita-shi, Osaka 565-0871, Japan

2大阪大学微生物病研究所生体防御研究部門免疫化学分野Department of Immunochemistry, Division of Host Defense, Research Institute for Microbial Diseases, Osaka University ◇ 〒565-0871 大阪府吹田市山田丘3番1号Yamadaoka 3-1, Suita-shi, Osaka 565-0871, Japan

発行日:2015年12月25日Published: December 25, 2015
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1. はじめに

主要組織適合遺伝子複合体(MHC)にはクラスⅠ分子とクラスⅡ分子があり,クラスⅠ分子はキラーT細胞へペプチド抗原を提示し,クラスⅡ分子はヘルパーT細胞にペプチド抗原を提示することで生体防御における免疫応答の中心を担っている.その一方で,MHCの遺伝子多型は,さまざまな自己免疫疾患の感受性に最も強く影響を与える.MHCの遺伝子多型がどのように疾患感受性に関与しているかを解明することは,自己免疫疾患の発症機構を解明する上で重要である.MHCクラスⅡ分子は,クラスⅠ分子と比べて,ペプチド結合部位の両端が開いているという特徴があるために,小胞体内でミスフォールドタンパク質の解けたペプチド様領域と結合することができる.さらに,MHCクラスⅡ分子に結合したミスフォールドタンパク質は分解されずに細胞外へ輸送される.特に,自己免疫疾患に感受性アレルのMHCクラスⅡ分子に会合したミスフォールドタンパク質は自己免疫疾患で産生される自己抗体の標的として疾患発症に関わっている可能性が明らかになってきた.

2. MHC分子のペプチド抗原提示能

MHCクラスⅠ分子もクラスⅡ分子も非常に多型性に富んだ遺伝子であり,個人間でも人種間でも大きく異なっている.外来抗原に対する免疫応答はMHCの違いによって大きく異なる.また,MHCの多型性が自己免疫疾患の感受性に最も強い影響を与えることも,数十年前から知られている.最近のゲノムワイド関連解析(GWAS)によっても,同様な結論が得られている.MHCクラスⅠ分子は細胞内タンパク質由来の7~9アミノ酸程度の比較的短いペプチド抗原をキラーT細胞に提示する.一方,MHCクラスⅡ分子は主に細胞外のタンパク質由来の10~15アミノ酸程度の比較的長いペプチド抗原をヘルパーT細胞に提示する.また,MHCによるペプチド抗原提示は,胸腺内でのT細胞分化にも大きな影響を与える.したがって,特定のMHCクラスⅠアレルやMHCクラスⅡアレルが自己免疫疾患の感受性に影響を与えるということは,主にT細胞の分化や応答性の異常が関与しているのではないかと考えられている.しかし,依然として,特定のMHCアレルによる疾患感受性を説明できるような病原性ペプチド抗原が同定されておらず,特定のMHCアレルがどのように自己免疫疾患の発症に影響を与えるのかも明らかになっていない.

3. MHCクラスⅡ分子による小胞体内のミスフォールドタンパク質輸送機構

MHCクラスⅠ分子はβ2マイクログロブリンとのヘテロ二量体を構成する.MHCクラスⅠ分子は小胞体内でプロテアソーム由来のペプチドを提示するが,提示できるペプチドが不足していたり,β2マイクログロブリンが欠損していたりすると,MHCクラスⅠ分子はミスフォールドして細胞表面に発現しない.ところがヒトにおいては,β2マイクログロブリンと会合していない異常なMHCクラスⅠ分子のみを特異的に認識するHC10やL31といったモノクローナル抗体が存在し,ある種の細胞ではそれらの抗体でよく認識される1).つまり,HC10やL31で認識される細胞には,β2マイクログロブリンに会合しないミスフォールドしたMHCクラスⅠ分子を発現させる何らかの分子機構が存在する可能性が考えられる.

そこで,HC10やL31などの抗体でMHCクラスⅠが認識される細胞からcDNAライブラリーを作製して,293T細胞にHC10やL31で認識されるMHCクラスⅠ分子を発現させる分子を発現クローニング法で同定することを試みた.その結果,HC10やL31で認識される異常なMHCクラスⅠ分子の発現を誘導する分子としてMHCクラスⅡ分子が同定された.すなわちMHCクラスⅡ分子は,ミスフォールドしたMHCクラスⅠ分子の発現を誘導することが判明した.さらに,ミスフォールドしたMHCクラスⅠ分子のペプチド様構造がMHCクラスⅡ分子のペプチド結合部位に結合することによって,ミスフォールドしたMHCクラスⅠ分子が細胞表面に輸送されることが明らかになった.また,MHCクラスⅠ分子ばかりでなく,ミスフォールドした卵白リゾチーム(hen egg lysozyme: HEL)も,MHCクラスⅡ分子に会合すると細胞外へ輸送される.このように,MHCクラスⅡ分子には小胞体内でミスフォールドタンパク質と結合すると,それらを分解せずに細胞外へ輸送するという新たな機能があることが明らかになった(図12)

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図1 MHCクラスⅡ分子による細胞内ミスフォールドタンパク質の輸送

いままでMHCクラスⅡ分子はペプチドをT細胞に提示すると考えられてきた.ところが,ミスフォールドによってタンパク質の構造が解けて露呈したMHCクラスⅡエピトープがMHCクラスⅡ分子のペプチド結合部位に結合すると,通常は速やかに分解されてしまうミスフォールドタンパク質がMHCクラスⅡ分子によって,細胞外へ輸送され細胞表面で提示される.

MHCクラスⅡ分子にペプチド抗原が提示されることは,MHCクラスⅡ分子の構造解析によっても確認されているが,タンパク質が提示されることは知られていない.小胞体内で新たに合成されたばかりのMHCクラスⅡ分子のペプチド結合部位にはInvariant chain(Ii)が結合し3),その後MHCクラスⅡ分子はIiによって後期エンドソームへ輸送され,そこでIiと乖離しペプチドを獲得する(図1).このようにMHCクラスⅡ分子にはIiが結合するために,小胞体内で他の分子と結合することはないと考えられてきたが,Ii自体Ⅱ型の膜タンパク質であると考えると,MHCクラスⅡ分子は,本来タンパク質と結合することができる分子であると考えられる.MHCクラスⅡ分子には多くのアレルがあるため,MHCクラスⅡ分子のアレルが異なるとIiとの親和性も異なってくる.したがって,Iiもしくは小胞体内のタンパク質とMHCクラスⅡ分子との親和性の強さやそれらの発現量によって,新たに合成されたMHCクラスⅡ分子にIi以外のタンパク質が結合する可能性があると考えられる.MHC分子の立体構造解析の結果,MHCクラスⅠ分子のペプチド結合部位の両端は狭くなっており,MHCクラスⅠ分子には7~9アミノ酸程度の短いペプチドが提示される4).一方,MHCクラスⅡ分子のペプチド結合部位の両端は広く開いているために,長いペプチドでも提示することができることから,ミスフォールドタンパク質の構造が解けてペプチド様になった部位がMHCクラスⅡ分子のペプチド結合部位に提示されることは,構造的にも可能なことである5).しかし,いままでMHCクラスⅡ分子に関して膨大な研究がされてきたにも関わらず,細胞内ミスフォールドタンパク質を細胞外へ輸送するというMHCクラスⅡ分子の機能は解析されてこなかった.

4. 自己免疫疾患におけるミスフォールドタンパク質/MHCクラスⅡ分子複合体

関節リウマチ等の自己免疫疾患ではさまざまな自己抗体が産生される.それぞれの自己免疫疾患では,特異的な自己抗体が産生されるため,自己抗体の検出は自己免疫疾患の診断にも重要である.しかし,なぜ自己免疫疾患で疾患特異的な自己抗体が産生されるかは依然として不明である.つまり,生体内には数多くの抗原が存在するにも関わらず,自己免疫疾患では特定の抗原に対する自己抗体のみが産生される.抗体応答は自己抗原と異なる抗原性を持った分子に対して引き起こされ,正常な自己抗原に対して抗体が産生されることはない.すなわち特定の抗原に対する自己抗体が産生されるということは,その標的抗原に何らかの異常がある可能性が示唆される.

細胞内では正常タンパク質ばかりでなく,うまく折りたたまれなかったミスフォールドタンパク質が恒常的に産生されている.そのようなミスフォールドタンパク質は細胞内で小胞体関連分解(ERAD)等のメカニズムによって速やかに分解され,通常は細胞外に運ばれることはない6).つまり,免疫システムは細胞内のミスフォールドタンパク質に曝露されておらず,それらに寛容になっていない.一方,MHCクラスⅡ分子は,非免疫細胞にほとんど発現していない.ところが,ウイルス感染等によって炎症が引き起こされ,免疫細胞からインターフェロンγ(IFN-γ)等が産生されると,普段MHCクラスⅡ分子が発現していない細胞にもMHCクラスⅡ分子の発現が誘導される.そのようなMHCクラスⅡ分子に細胞内のミスフォールドタンパク質が結合すると,それらは分解されずにMHCクラスⅡ分子によって細胞外へ輸送されてしまい,免疫学的な「非自己」としてミスフォールドタンパク質に対する自己抗体の産生を引き起こす可能性が考えられる(図2).

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図2 ミスフォールドタンパク質/MHCクラスⅡ分子複合体による自己免疫疾患の発症機序

細胞内で生じたミスフォールドタンパク質は速やかに分解され,細胞外に排出されないため,そのようなタンパク質に対して免疫寛容は誘導されない.一方,感染や炎症でIFN-γ等のサイトカインが産生されると,通常MHCクラスⅡ分子が発現していない細胞にもMHCクラスⅡ分子の発現が誘導される.細胞内のミスフォールドタンパク質がMHCクラスⅡ分子に結合すると,MHCクラスⅡ分子がミスフォールドタンパク質を細胞外へ輸送してしまう.その結果,ミスフォールドタンパク質/MHCクラスⅡ分子複合体は免疫学的な「非自己」として異常な免疫応答を引き起こし,その結果として自己免疫疾患が発症するのではないかと考えられる.

リウマトイド因子は,変性したIgGに対する自己抗体であり,関節リウマチ患者の7~8割が陽性になるため古くから関節リウマチの診断に使われている7).しかし,なぜ関節リウマチで変性したIgGに対する自己抗体が産生されるか,また,リウマトイド因子の本来の標的抗原が何であるのかは依然として解明されていない.一方,IgGは重鎖と軽鎖からなり,重鎖のみでは分泌もされないし,細胞表面にも発現しない.ところが,MHCクラスⅡ分子が存在するとIgG重鎖が単独で細胞表面に出現する8).さらに,MHCクラスⅡ分子と複合体を形成したミスフォールドしたIgG重鎖は,関節リウマチ患者の自己抗体に認識される.一方,膜型抗体であるB細胞受容体は関節リウマチ患者の自己抗体には認識されない.したがって,IgG重鎖/MHCクラスⅡ分子複合体は関節リウマチにおける自己抗体の標的抗原であると考えられる(図38).実際,関節リウマチ患者の関節滑膜にはIgG重鎖/MHCクラスⅡ分子複合体が検出される.

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図3 IgG重鎖/MHCクラスⅡ分子複合体に対する自己抗体の結合は関節リウマチの感受性と強い相関を示す

関節リウマチ患者の自己抗体はIgG重鎖/MHCクラスⅡ分子複合体を認識する(左).さらに,IgG重鎖/MHCクラスⅡ分子複合体に対する自己抗体の結合性は,ヒトのMHCクラスⅡであるHLA-DRの各アレル(図中の番号)による関節リウマチの感受性(横軸)と,高い相関を示す(右).これまでHLA-DRによる関節リウマチ感受性を説明できるペプチド抗原は知られておらず,IgG重鎖がHLA-DRの関節リウマチ感受性と相関を示す初めての分子である.このことから,IgG重鎖/MHCクラスⅡ分子複合体は自己抗体の特異的な標的抗原として関節リウマチの発症に直接関与している可能性が考えられる(文献8より改変).

一方,抗リン脂質抗体症候群は血栓症や不育症を引き起こす自己免疫疾患である.抗リン脂質抗体症候群では,リポタンパク質の一つであるβ2-glycoprotein 1(β2GP1)に対する自己抗体が産生される.そこで,IgG重鎖と同様に,β2GP1の細胞表面発現におけるHLA-DRの機能を解析すると,β2GP1もHLA-DRによって細胞表面に出現することが判明した9).さらに,HLA-DRに提示されたβ2GP1は,患者由来の抗リン脂質抗体によって認識される.特に,通常の臨床検査でβ2GP1抗体が陰性の患者においてもβ2GPI/HLA-DR複合体に対する自己抗体が認められるため,HLA-DRに結合したβ2GP1は,抗リン脂質抗体症候群患者の自己抗体の主要な標的抗原であると思われる9).このように,ミスフォールドタンパク質/MHCクラスⅡ分子複合体は,自己免疫疾患で産生される自己抗体の標的分子になっていると考えられる.

5. ミスフォールドタンパク質/MHCクラスⅡ分子複合体と自己免疫疾患感受性

多くの自己免疫疾患の感受性には特定のMHCクラスⅡ分子が関与しており,関節リウマチの感受性もMHCクラスⅡのアレルによって決定される10).たとえばヒトMHCクラスⅡアレルの一つであるHLA-DR4は,関節リウマチに感受性アレルであり,HLA-DR3は抵抗性アレルである.HLA-DR4を持っている人は,HLA-DR3を持っている人より約10倍以上も関節リウマチに罹りやすくなる.そこで,IgG重鎖と種々のHLA-DRとの複合体に対する自己抗体の結合性を解析すると,それぞれのHLA-DRアレルによる関節リウマチの罹りやすさとIgG重鎖/HLA-DR分子複合体に対する自己抗体の結合性というまったく異なるパラメーターが,非常に高い相関を示すことが判明した(図3).つまり,関節リウマチに罹りやすいアレルのMHCクラスⅡを持っているヒトは,自己抗体の標的抗原が産生されやすいことになる8).いままでHLA-DRアレルによる関節リウマチ感受性の違いに関与する病原性ペプチド抗原は知られておらず,IgG重鎖がHLA-DRの関節リウマチ感受性に相関する初めての分子である.また,抗リン脂質抗体症候群においても,感受性アレルのHLA-DRによって提示されたβ2GPIが自己抗体に効率よく認識される9).このように,ミスフォールドタンパク質/MHCクラスⅡ分子複合体は自己抗体の特異的な標的抗原として多くの自己免疫疾患の発症に直接関与している可能性が考えられる.

6. おわりに

ミスフォールドタンパク質/MHCクラスⅡ分子複合体は,自己抗体の特異的な標的抗原としてさまざまな自己免疫疾患の発症に関与している可能性が考えられる.したがって,自己免疫疾患の発症機序を解明するためには,ミスフォールドタンパク質/MHCクラスⅡ分子複合体がどのように産生され,ミスフォールドタンパク質/MHCクラスⅡ分子複合体がどのように自己抗体を産生させるか,また,ミスフォールドタンパク質/MHCクラスⅡ分子に対する自己抗体がどのように疾患発症に関与するかを,さらに解明することが重要である.ミスフォールドタンパク質を細胞外へ輸送するのはMHCクラスⅡ分子の本来の機能ではないが,長いペプチドを提示できるというMHCクラスⅡ分子の特徴のために,炎症や感染に伴って誤って細胞内のミスフォールドタンパク質を細胞外へ輸送してしまうことで,疾患が発症する可能性が考えられる.一方,ミスフォールドタンパク質自体は,アルツハイマー病等のいわゆるフォールディング病に関与している.したがって,MHCクラスⅡ分子のように,ミスフォールドタンパク質を細胞外へ輸送する分子が他にも存在し,フォールディング病等の病因に関与している可能性も考えられる.このように,ミスフォールドタンパク質の分解機構ばかりでなく,それらの分解を逃してしまう分子機構の解明もさまざまな疾患の原因解明に重要であると思われる.

引用文献References

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著者紹介Author Profile

荒瀬 尚(あらせ ひさし)

大阪大学免疫学フロンティア研究センター免疫化学研究室教授,大阪大学微生物病研究所免疫化学分野教授.医学博士.

略歴

1965年北海道に生る.90年北海道大学医学部卒業.94年北海道大学大学院医学博士課程修了.千葉大学医学高次機能制御研究センター助手,カリフォルニア大学サンフランシスコ校研究員,千葉大学大学院医学研究院助教授を経て2006年より現職.

研究テーマと抱負

自己免疫疾患の発症機構の解明やペア型レセプターを介した宿主病原体相互作用を行っている.どのように免疫システムが構築され,それが,免疫疾患でなぜ破綻するかの解明を目指している.

ウェブサイト

http://immchem.biken.osaka-u.ac.jp

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