Online ISSN: 2189-0544 Print ISSN: 0037-1017
公益社団法人日本生化学会 The Japanese Biochemical Society
Journal of Japanese Biochemical Society 88(1): 114-118 (2016)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2016.880114

みにれびゅうMini Review

タンパク質を膜透過させる分子装置の活写Approach for Visualization of Sec Translocon Machinery

奈良先端科学技術大学院大学バイオサイエンス研究科Graduate School of Biological Sciences, Nara Institute of Science and Technology ◇ 〒630–0192 奈良県生駒市高山町8916–5 ◇ 8916–5, Takayama-cho, Ikoma, Nara 630–0192, JAPAN

発行日:2016年2月25日Published: February 25, 2016
HTMLPDFEPUB3

1. はじめに

タンパク質の多くは,合成の場である細胞質から生体膜を越えて輸送される.生体膜は分子やイオンなどを自由に通さない仕組みがあり,タンパク質もまた生体膜を自動的に越えることができない.すべての生物に保存された膜タンパク質複合体であるSecトランスロコンは,タンパク質を膜透過させるチャネルを形成する.2004年に初めてSecトランスロコンの結晶構造解析が報告され1),アミノ酸残基レベルでの詳細なメカニズムの議論が可能になった.しかしながら,タンパク質という巨大な分子がSecトランスロコンを経由して輸送される際の動的な理解には,解決すべき課題がある.本稿では,近年の構造解析を紹介しつつ,タンパク質の膜透過の動態観察にむけた展望を述べる.

2. タンパク質の膜透過

タンパク質の膜透過の研究は古く,膜を越えて輸送される分泌タンパク質にシグナル配列が付加されているという「シグナル仮説」(1999年ノーベル生理学・医学賞)がブローベル博士らによって提案されたのは1975年である.その後タンパク質輸送に関わる因子として,1983年に細菌のSecY(真核細胞のSec61α)が発見された.後に,SecYはすべての生物に保存された「タンパク質膜透過チャネル」を構成する主要因子であることが判明した.膜タンパク質SecYはSecE, SecGとともに3者複合体(SecYEG)を形成し,安定なSecトランスロコンを形成する.膜を越えて輸送されるタンパク質は,通常N末端に付加されたシグナル配列の情報が認識され,膜へと運ばれる.モデル生物である大腸菌では,リボソームとSecYが直接相互作用して,タンパク質の翻訳と同時に膜透過するco-translationalな膜透過と,いったん細胞質で前駆体タンパク質が合成された後,膜へと運ばれSecA ATPaseによって膜透過が駆動されるpost-translationalな膜透過がある(図1a2).これらSecトランスロコンを経由する膜透過が膜の透過障壁としての機能を保ったまま起こるためには,緻密なメカニズムが必要である.

Journal of Japanese Biochemical Society 88(1): 114-118 (2016)

図1 Secトランスロコンを介した膜透過

(a)co-translationalな膜透過とpost-translationalな膜透過.(b)閉状態の古細菌Secトランスロコン(SecYEβ)の3.2 Å分解能の構造(PDB ID 1RH5).(c)閉状態の細菌Secトランスロコン(SecYEG)の2.7 Å分解能の構造(PDB ID 5AWW).Secトランスロコンの中心部には砂時計型の構造があり,ラテラルゲートの開閉やプラグ・キャップの移動によりタンパク質が膜透過するためのチャネルを形成する.

3. タンパク質膜透過チャネルの構造

Secトランスロコンの結晶構造は,2004年にTom Rapoportらのグループが初めて3.2 Å分解能で解明した1).SecYの膜貫通領域(transmembrane:TM)1~5とTM6~10は擬似2回対称であり,その構造体をSecEが安定化している(図1b).SecYの内部にはタンパク質の通り道となる砂時計型の穴が存在しており,この通り道は,細胞外側から「プラグ」と呼ばれる短いαヘリックスによってふさがれていることが判明した.この結晶構造はSecトランスロコンの閉状態(resting state)と解釈された.タンパク質が膜透過する際には,SecEがSecYのかすがいとして位置している逆側の「ラテラルゲート」と呼ばれるTM1~5–TM6~10の境目(TM2とTM8の間)が横方向に開き砂時計型の穴のサイズが大きくなり,同時にプラグも外側へ外れることでタンパク質を透過させるチャネルを形作ると推測された.この仕組みは,さまざまな生化学的な解析結果と一致している2).この後もいくつかSecトランスロコンの結晶構造の報告がなされたが,分解能の向上はなかった.特に,サブコンポーネントであるSecGを含む完全な状態のSecYEGの構造は4.0 Å分解能を超える報告はなかった.しかし,筆者らのグループは,2015年にSecGを含んだ完全な状態のresting stateのSecYEG複合体の構造を2.7 Å分解能で明らかとした(図1c3).SecYの砂時計型の構造体とSecEのかすがい構造は先行研究と一致していたが,今回の高分解能構造解析において,SecGのフレキシブルなループを完全に配置することができた.以前に報告されたSecYの構造において,細胞質側に漏斗状の空間があることで不安定な構造体のようにみえていたが,本構造においてSecGのループがSecYの細胞質側に覆いかぶさるように配置していた.このことから,SecGがSecYの細胞質側のキャップとして機能することが考えられた.このアイデアはSecGのループをジスルフィド結合でSecYに固定したとき,タンパク質の膜透過が阻害される結果と矛盾しない.以上のことから,SecYはresting stateにおいては細胞外側と細胞質側のどちら側からも栓をされることで,膜透過障壁能を保っていると考えることができる.タンパク質膜透過時にはラテラルゲートが開き,プラグとキャップ構造がSecY内部の通り道から離れることで中心部にタンパク質膜透過のためのチャネルを形成する.

4. SecA ATPaseによるタンパク質膜透過駆動モデル

Secトランスロコンの内部がどのように構造変化してチャネルを形成するのかについては,上記のように構造情報とそれに基づく機能解析によって統一見解が得られている.一方で,Secトランスロコンはそれ自体ではタンパク質を膜透過させることができない受動的なチャネルであるため,別途駆動力が必要である.細菌において,Secトランスコンはリボソームと直接相互作用,またはSecA ATPaseと直接相互作用することによりタンパク質の膜透過を起こす(図1a).リボソームによるタンパク質合成と共役して起こるSecトランスロコンの構造変化とタンパク質輸送については,電子を直接検出できるダイレクトデテクターなどの登場で急速に発達した電子顕微鏡による解析が進んでいる4–6).分解能はX線結晶構造解析に劣るものの,これまでの解析を裏づけるものであり,膜貫通領域のαヘリックスの配置の変化や膜透過中の基質タンパク質の位置などが議論されるようになった.

次に筆者らが解析を進めているSecA駆動型について紹介する.SecA駆動型のタンパク質膜透過は,基本的な現象であることから,古くから研究がされている.in vitroにおいてタンパク質の膜透過反応は,SecYEG複合体とSecA ATPaseのみで再現することができる.1994年にSecAはATPの加水分解に伴って一定の構造変化を繰り返すことで膜透過を駆動することが示された.SecAの初めての構造解析は2002年に発表され7)いくつかのドメインから構成されるタンパク質であることがわかった.その後,ATPの加水分解によって,これらのドメインが構造変化しタンパク質を膜透過しているというさまざまなモデルが提唱された8).いくつかの結晶構造解析から,機能に重要である領域(pre-protein cross-linking domain:PPXD)が大きく変化することが見つかり,これが膜透過を促進すると考えられた.しかしながら,この可動性領域はSecAのATPが結合するドメイン(nucleotide-binding folds:NBF)よりも離れている(図2a, b).ATPの加水分解に連動して長いαヘリックス(helical scaffold domain:HSD)を介してエネルギーを伝えているという報告もあるが,実際にどのように運動エネルギーに変換しているのかについては不明である.現在のところ最も支持されているのは,Zimmerらによって報告されたSecYEG-SecAが1:1で機能するというモデルである.このモデルはSecYEG-SecA複合体の4.5 Å分解能の解析結果から提唱された(図2c9).この複合体構造ではSecAがSecYと強く相互作用しており,SecYは膜貫通ドメインのTM2とTM8の間がやや開いた構造体であった.その広がった領域と連続して,SecA側にも基質が結合しそうな凹んだ領域が存在しており,これらの領域に連続して基質タンパク質が結合すると彼らは考えた.このモデルでは,以前に提唱されていたモデルのようにPPXD領域が大きく変化するのではなく,SecAのIRA1(intramolecular regulator of ATPase1)という領域が基質タンパク質と相互作用して,ATPの加水分解を伴った上下運動でタンパク質を繰り返し押し込む.このモデルは変異体解析によって支持される一方で,この構造情報に基づいてSecAの可変部位を固定しても機能したことから,否定的な意見もある.また,彼らはタンパク質膜透過の動画を公開しているが(http://www.biomedicaltimes.com/downloads/animations/molbio/posttranslational_prok.mov),本当に彼らの提唱するようにSecY:SecAが1:1でタンパク質を駆動しているのかについては議論が続いている.また,SecAとSecYがダイナミックに複合体の構成状態を変えながら機能しているという報告などもある10).筆者らはSecAが何量体でSecYと結合して,どのようにATPの加水分解に伴って構造変化し機能しているかを明らかとするべく,1ユニットをリアルタイムで追跡する試みを行っている.

Journal of Japanese Biochemical Society 88(1): 114-118 (2016)

図2 SecA駆動型のタンパク質膜透過

(a)PPXDがNBFドメインから遠ざかっているSecAの結晶構造(PDB ID 2IPC).(b)PPXDがNBFドメインに近づいているSecAの結晶構造(PDB ID 1TF5).(c)SecAとSecYEGの複合体の4.5 Å分解能の構造(PDB ID 3DIN).SecAのIRA1領域がATPの加水分解に応じて反復運動することによってタンパク質を組み込むというモデル.

5. タンパク質の膜透過の1ユニット観察の試み

タンパク質の膜透過の詳細な機構については,Secタンパク質の構造が判明した後でも不明な点が多い.Secタンパク質はpHや温度等の外的な要因で一斉に構造変化して機能するのではなく,複合体を形成しその後ATPの加水分解により生じるエネルギーを使って駆動するため,それらが実際動作する姿の詳細を知るためには,1ユニットかつリアルタイムでの動的観察が有効である.これを達成することができれば,現在謎に包まれている問題に答えられる.SecYEGは1ユニットで機能する説が有力であり,その根拠としてDriessenらのFCS (fluorescence correlation spectroscopy)などを用いたin vitroの一分子解析11)や,in vivoにおけるTom Rapoportらの解析例がある12).動的な解析の準備として必要なことは,機能しうる1ユニットを単離することである.Driessenらは1ユニットのSecトランスロコンを形成させるために,SecYEGを再構成した「ナノディスク」を用いた.ナノディスクは,膜骨格タンパク質(membrane scaffold protein:MSP)を用いて膜タンパク質と脂質をディスク状に再構成したものである(図3a).ディスクのサイズは使用するMSPのサイズに依存するが,直径100 Å程度のものを用いた場合,1ユニットのSecYEGを再構成できる.より大きな直径のものを利用することで,2ユニットのSecYEGを再構成することも可能である.近年,MSPを用いる方法だけではなく,スチレン–マレイン酸共重合体を用いた脂質含有粒子(SMALPs)も膜タンパク質の解析に使われている13).このようにディスク状に膜タンパク質を再構成することは解析上の利点がある.生化学的な解析において,再構成リポソームや平面膜に膜タンパク質を再構成させて測定を行うことが多いが,どちらも脂質やタンパク質の流動性が高く,オリゴマー状態も制御できず1ユニットの動的観察には適していない.Secタンパク質はタンパク質という比較的大きな分子を透過させるため,膜をはさんだ両側には十分な空間が必要である.ナノディスク状の粒子を用いれば,1ユニットとしてSecYEGを単離でき,膜の流動性を最小限に膜構造を保ちつつ,膜の両側の空間を確保した状態で,本動態観察を達成できると考えている.まず,動態観察には高速AFM (atomic force microscopy)を用いる.ミオシンのように高速AFMを用いてリアルタイムでタンパク質膜透過反応を見いだす14)計画である.

Journal of Japanese Biochemical Society 88(1): 114-118 (2016)

図3 ナノディスクを用いたSecトランスロコンの1ユニット解析

(a)タンパク質を再構成したナノディスク.(b)SecYEG再構成ナノディスクの基盤への固定.(c)SecYEG再構成ナノディスクを用いたタンパク質膜透過中間体.(d)高速AFMを用いたタンパク質膜透過中間体の解析例.

このSecYEGを再構成したナノディスクの基盤への固定は,図3bに示したように縦方向,または横方向を考えている.SecYEG再構成ナノディスクを高速AFMで観察したところ,均一の粒子が確認された.ここにモータータンパク質SecA ATPaseを追加することで,測定される粒子が大きくなることを確認した.このことから,SecAとの相互作用を保持したSecYEG再構成ナノディスクが完成していると考えられる.次に,SecYEG再構成ナノディスクに,基質タンパク質であるproOmpA, SecA ATPaseなどを加えてインキュベートした.基質タンパク質の内部にはS-S結合を導入しており,タンパク質膜透過反応が途中で停止した膜透過中間体が形成する(図3c).この状態のサンプルを高速AFMで観察した結果,図3dに示したような粒子が多く観察された.粒子の中心部がSecA結合型SecYEGナノディスクであり,その周りにある不明瞭なひも状の物体が基質タンパク質であると考えている.今後,さらなる解析が必要ではあるが,タンパク質中間体と想定すると矛盾しない粒子である.過去に高速測定ができない従来型のAFMでのSecタンパク質の観測の試みは報告されている15)が,まだSecトランスロコンのリアルタイム1ユニット解析は始まったばかりである.これを達成できれば当該分野のブレークスルーは間違いない.その後,高速AFMで精密な測定を進めると同時に,蛍光一分子観察などへも展開させたい.本稿でふれなかったが,Secトランスロコンは膜タンパク質YidC16),SecDF17)とも複合体を形成して膜組み込み過程にも関わる.将来的には,Secトランスロコンを含む巨大な複合体が活きて働く姿を捉えたい.

引用文献References

1) van den Berg, B., Clemons, W.M. Jr., Collinson, I., Modis, Y., Hartmann, E., Harrison, S.C., & Rapoport, T.A. (2004) Nature, 427, 36–44.

2) Denks, K., Vogt, A., Sachelaru, I., Petriman, N.A., Kudva, R., & Koch, H.G. (2014) Mol. Membr. Biol., 31, 58–84.

3) Tanaka, Y., Sugano, Y., Takemoto, M., Mori, T., Furukawa, A., Kusakizako, T., Kumazaki, K., Kashima, A., Ishitani, R., Sugita, Y., Nureki, O., & Tsukazaki, T. (2015) Cell Reports, 13, 1561–1568.

4) Bischoff, L., Wickles, S., Berninghausen, O., van der Sluis, E.O., & Beckmann, R. (2014) Nat. Commun., 5, 4103.

5) Gogala, M., Becker, T., Beatrix, B., Armache, J.P., Barrio-Garcia, C., Berninghausen, O., & Beckmann, R. (2014) Nature, 506, 107–110.

6) Park, E., Menetret, J.F., Gumbart, J.C., Ludtke, S.J., Li, W., Whynot, A., Rapoport, T.A., & Akey, C.W. (2014) Nature, 506, 102–106.

7) Hunt, J.F., Weinkauf, S., Henry, L., Fak, J.J., McNicholas, P., Oliver, D.B., & Deisenhofer, J. (2002) Science, 297, 2018–2026.

8) Chatzi, K.E., Sardis, M.F., Economou, A., & Karamanou, S. (2014) Biochim. Biophys. Acta, 1843, 1466–1474.

9) Zimmer, J., Nam, Y., & Rapoport, T.A. (2008) Nature, 455, 936–943.

10) Gouridis, G., Karamanou, S., Sardis, M.F., Scharer, M.A., Capitani, G., & Economou, A. (2013) Mol. Cell, 52, 655–666.

11) Kedrov, A., Kusters, I., Krasnikov, V.V., & Driessen, A.J. (2011) EMBO J., 30, 4387–4397.

12) Park, E. & Rapoport, T.A. (2012) J. Cell Biol., 198, 881–893.

13) Prabudiansyah, I., Kusters, I., Caforio, A., & Driessen, A.J. (2015) Biochim. Biophys. Acta, 1848(10 Pt A), 2050–2056.

14) Kodera, N., Yamamoto, D., Ishikawa, R., & Ando, T. (2010) Nature, 468, 72–76.

15) Sanganna Gari, R.R., Frey, N.C., Mao, C., Randall, L.L., & King, G.M. (2013) J. Biol. Chem., 288, 16848–16854.

16) Kumazaki, K., Chiba, S., Takemoto, M., Furukawa, A., Nishiyama, K., Sugano, Y., Mori, T., Dohmae, N., Hirata, K., Nakada-Nakura, Y., Maturana, A.D., Tanaka, Y., Mori, H., Sugita, Y., Arisaka, F., Ito, K., Ishitani, R., Tsukazaki, T., & Nureki, O. (2014) Nature, 509, 516–520.

17) Tsukazaki, T., Mori, H., Echizen, Y., Ishitani, R., Fukai, S., Tanaka, T., Perederina, A., Vassylyev, D.G., Kohno, T., Maturana, A.D., Ito, K., & Nureki, O. (2011) Nature, 474, 235–238.

著者紹介Author Profile

塚崎 智也(つかざき ともや)

奈良先端科学技術大学院大学バイオサイエンス研究科准教授.博士(理学).

略歴

2006年京都大学大学院理学研究科化学専攻博士後期課程修了,同年東京工業大学大学院生命理工学研究科博士研究員,08年東京大学医科学研究所助教,10年東京大学大学院理学系研究科助教を経て,13年より現職.12年より科学技術振興機構さきがけ研究者(兼任).

研究テーマと抱負

Secタンパク質膜透過装置の分子機構の解明.しっかりとした実験に基づき,質の高い研究成果を発表していきたいです.

ウェブサイト

http://bsw3.naist.jp/tsukazaki/

趣味

トレーニング.

This page was created on 2016-01-19T11:26:07.361+09:00
This page was last modified on 2016-02-18T13:55:49.932+09:00


このサイトは(株)国際文献社によって運用されています。