生化学 SEIKAGAKU
Journal of Japanese Biochemical Society

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Journal of Japanese Biochemical Society 88(1): 139-143 (2016)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2016.880139

みにれびゅうMini Review

ブルセラ・アボルタス菌の細胞内増殖を制御する新規宿主因子Yip1AYip1A, a novel host factor required for the intracellular replication of Brucella abortus

東京大学大学院総合文化研究科生命環境科学系Department of Life Sciences, Graduate School of Arts and Sciences, The University of Tokyo ◇ 〒153–8902 東京都目黒区駒場3–8–1 ◇ 3–8–1 Komaba, Meguro-ku, Tokyo 153–8902, Japan

発行日:2016年2月25日Published: February 25, 2016
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1. はじめに

感染症をもたらす細菌やウイルスなどの病原体は,宿主の防御機構から逃れて生存,増殖するためにさまざまな戦略を用いる.ある種の細菌やウイルスは,宿主細胞内での自己増殖過程において,本来生理的ストレスに対して細胞の恒常性を回復するための細胞防御反応である小胞体ストレス応答(unfolded protein response:UPR)を利用することが明らかになってきた1).本稿では,ブルセラ属菌の一種ブルセラ・アボルタス菌(Brucella abortus)による,UPRやそれに付随して起こるオートファジー過程を利用する巧妙な細胞内増殖戦略を紹介するとともに,宿主側の新規因子Yip1AのUPRへの関わりについて概説する.

2. ブルセラ属菌の細胞内増殖

ブルセラ属菌は,ヒト,ウシ,ヒツジ,ヤギ,ブタ,イヌなどを含む広範な宿主においてブルセラ症を発症させる細菌である2).非常に感染力が高く,また湿潤環境下では長期間生存することが知られている.自然宿主である家畜では流産や不妊をもたらすため,畜産業に依存する国や地域ではいまだ重篤な感染症の一つである.ヒトは感染動物由来の乳製品や肉の喫食,家畜の流産仔や悪露への接触,汚染エアロゾルの吸入などによりブルセラ属菌に感染し,発熱,倦怠感,疼痛,悪寒,発汗などの症状を示す.ブルセラ属菌は,米国疾病管理予防センターによるバイオテロ関連病原体であり,国立感染症研究所バイオセーフティーレベル3(BSL3)に分類されている.

現在,提唱されているブルセラ属菌の細胞内感染経路を図1に示す.ブルセラ属菌は,宿主細胞に侵入するとBrucella-containing vacuole (BCV)と呼ばれる膜小胞に包まれた形態で存在する.BCVは宿主のエンドサイトーシス経路と相互作用しながらエンドソーム/リソソームコンパートメントに移行する(エンドソーム/リソソーム型BCV).その後,リソソームでの分解を回避して初期分泌経路へと向かい,小胞体由来の膜を獲得することにより増殖可能となる(増殖型BCV).増殖型BCVの生成には,小胞体からのCOPII輸送小胞の出口である小胞体の積荷搬出領域(ER exit sites:ERES)という構造体やいくつかの宿主因子,たとえば,COPII輸送小胞のコンポーネントである低分子量GTPアーゼSar1やSec23/Sec24複合体3),COPI小胞形成に関わる低分子量GTPアーゼRab2やグリセルアルデヒド-3-リン酸デヒドロゲナーゼ(glyceraldehyde-3-phosphate dehydrogenase:GAPDH)などが必要であるとされており4),小胞体から出発する初期小胞輸送過程がブルセラ属菌の小胞体由来膜の獲得に関与すると予想される.

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図1 ブルセラ属菌の細胞内感染経路

宿主細胞内に侵入すると,ブルセラ属菌はBCVと呼ばれる膜小胞に包まれた形態で存在する.BCVは宿主の初期エンドソーム,後期エンドソーム,そしてリソソームと相互作用しながらエンドソーム/リソソームコンパートメントへと移行する.その後,リソソームでの分解を回避して初期分泌経路へと向かい,小胞体由来の膜を獲得することにより増殖能を有する増殖型BCVとなる.増殖型BCVの生成には,小胞体からのCOPII輸送小胞の出口であるERES, COPII輸送小胞のコンポーネントであるSar1やSec23/Sec24複合体,COPI小胞形成に関わるRab2やGAPDHなどが必要であるとされる.

エンドソーム/リソソームコンパートメントに到達したブルセラ・アボルタス菌は4型分泌装置VirBを介して宿主の細胞質内にさまざまなエフェクター(病原因子)を放出する.これらのエフェクターは,宿主因子に作用して増殖型BCVへの転化を促進すると考えられる.たとえば,HeLa細胞内で一過性発現させたVirBエフェクターVceCは小胞体へと移行し,小胞体ストレスを誘導する5).細胞はUPRを起こし,シャペロン発現などにより小胞体への負荷の軽減を図るが,このUPRは細菌の増殖にとってプラスにもマイナスにも働きうる.たとえば,ある種の病原体感染では,小胞体で過剰に合成される病原体タンパク質により小胞体ストレスが亢進し,UPR誘導の結果として細胞死(アポトーシス)が引き起こされ,細菌の増殖が抑えられる.今回我々が研究を行ったブルセラ・アボルタス菌はむしろ逆で,UPRを活用して増殖する.実際,小胞体膜上にあるストレスセンサータンパク質IRE1 (inositol-requiring enzyme 1)のノックダウンによりブルセラ属菌の増殖が阻害されることから,UPRが増殖に必要であることが報告されている6).しかしながら,ブルセラ属菌の感染におけるUPRの役割やその過程に関与する宿主因子などについていまだ詳細はわからないままであった.

そこで我々は,HeLa細胞におけるブルセラ・アボルタス菌感染によるUPRの誘導メカニズムを詳細に調べた7).その結果,UPRにおけるIRE1経路の特異的活性化とそれに続く小胞体からのオートファジー様膜形成がブルセラ菌増殖を引き起こすこと,また宿主因子Yip1AがIRE1リン酸化制御を行う重要因子であることを明らかにした.

3. ブルセラ・アボルタス菌の細胞内増殖メカニズムと新規宿主因子Yip1A

ブルセラ・アボルタス菌感染によるUPR誘導について詳細に調べた結果,感染後の特定の時間(感染後4~8時間および16時間以降)にUPRのIRE1経路が特異的に活性化されることを発見した7).活性化したリン酸化IRE1は小胞体ストレス負荷時にERESに濃縮されていること,また宿主因子はUPRと小胞体の膜動過程をむすぶ因子である可能性があることを考え,リン酸化IRE1に結合し,かつ,小胞体からの小胞輸送に関与するタンパク質に焦点を絞り以下の実験を行った.15種類の初期小胞輸送関連タンパク質とリン酸化IRE1との免疫沈降を行った結果,COPII小胞構成タンパク質(Sec23, Sec24A, Sec24B, Sec24C, Sec24D)とRab1に加えてYip1Aがリン酸化IRE1に結合することがわかった7)

ヒトYip1Aは,Yip1ファミリーに属する複数回膜貫通タンパク質であり,親水性に富んだN末端と疎水性に富んだC末端からなる特有の領域トポロジーを有する.Yip1Aの細胞内局在部位は,ERES,小胞体–ゴルジ体中間区画(ER–Golgi intermediate compartment:ERGIC),シス-ゴルジ体であると報告されている8, 9).Yip1Aの酵母ホモログYip1pは低分子量GTPアーゼRabタンパク質と相互作用し,Yip1pの欠失は小胞体からゴルジ体への輸送を遮断し,小胞体膜の蓄積を引き起こす10).ヒトYip1AはCOPII輸送小胞のSec23/Sec24複合体と相互作用し,ERESからのCOPII輸送小胞の出芽や8),ゴルジ体から小胞体ヘのCOPI非依存的逆行輸送に関与することが報告されている9).このように,Yip1Aは小胞体–ゴルジ体間のメンブレントラフィックにおける役割が示唆されてきた.

Yip1Aのブルセラ・アボルタス菌の増殖への影響をRNA干渉法により調べたところ,Yip1A発現抑制細胞では,菌の感染後にみられたIRE1リン酸化は顕著に減少し,菌の増殖は有意に抑制された7).菌が感染した細胞を電子顕微鏡下で観察すると,コントロールの細胞では,菌は小胞体由来の膜コンパートメント内で増殖し,増殖する菌の近傍には小胞体由来の多数の膜小胞の形成が認められた(図2A).一方,Yip1Aを発現抑制した感染細胞では,ブルセラ・アボルタス菌の増殖も小胞体由来の膜小胞形成もほとんど起こらず,菌体はエンドソーム/リソソームコンパートメント内にとどまったままであった(図2B).つまり,小胞体由来膜を有する増殖型BCVになるには,UPRのIRE1経路の活性化に起因する小胞体由来の膜小胞形成が必要であり,IRE1の活性化はYip1Aによって制御されることが示唆された7)

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図2 ブルセラ・アボルタス菌が感染したHeLa細胞の電子顕微鏡写真(感染後24時間)

(A)コントロールの感染細胞では小胞体由来の膜コンパートメント内で増殖するブルセラ・アボルタス菌が認められる.増殖する菌の近傍には多数の小胞体由来の膜小胞が存在する.BCV膜上に認められるリボソームを矢印で示す.Bar=2 µm.(B)Yip1Aの発現を抑制した感染細胞では,ブルセラ・アボルタス菌の増殖は顕著に抑えられる.BCVは小胞体由来の膜を獲得しておらず,小胞体由来の膜小胞もほとんどみられない.Bar=2 µm.

ではどのようにしてYip1AはIRE1活性化を制御しているのだろうか? 我々は,Yip1AがIRE1活性化時に起こる高次複合体形成を制御することを見いだした(図3にYip1AのIRE1活性化制御を介したブルセラ・アボルタス菌の小胞体由来膜獲得のモデルを示す)7).IRE1は自己集合し自己リン酸化することで活性化状態になる(図3A).未変性ポリアクリルアミドゲル電気泳動によりIRE1高次複合体形成を評価したところ,小胞体ストレス誘導時のIRE1高次複合体形成はYip1Aの発現抑制により顕著に減少していた.また,小胞体ストレス誘導時では,リン酸化IRE1はERESに濃縮してYip1Aと共局在することから,活性化IRE1はERES構造内でYip1Aを介して高次複合体を形成していることが示唆された.このようにYip1Aは小胞輸送過程のみならずUPR過程においてもIRE1活性制御を通じて重要な役割を持つことが明らかになった.

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図3 ブルセラ・アボルタス菌の小胞体由来膜獲得のモデル

(A)(a)感染した細胞内でエンドソーム/リソソームコンパートメントに到達したブルセラ・アボルタス菌は,4型分泌装置VirBを介して宿主の細胞質内にエフェクターを放出し,小胞体ストレスを誘導する.(b)IRE1はYip1Aの存在下でERESにおいて高次複合体を形成し,自己リン酸化により活性化する.(c)IRE1の活性化は次に小胞体由来の膜小胞の形成をもたらす.この膜小胞の形成にはオートファジー関連因子Atg9およびWIPI1が必要とされる.(d)小胞体由来の膜小胞はエンドソーム/リソソーム小胞と融合する.ブルセラ・アボルタス菌はエンドソーム/リソソームコンパートメント内に存在するので,これらの小胞体由来の膜小胞と融合すると考えられる.(e)小胞体由来の膜を獲得した菌体は増殖を開始する.(B)Yip1Aの発現を抑制した細胞ではIRE1は活性化されず,小胞体由来の膜小胞は形成されない.菌体はエンドソーム/リソソームコンパートメント内にとどまったままで増殖することができない.

4. UPRとオートファジーとの関わり

IRE1活性化によって引き起こされる小胞体由来の膜形成には,オートファジーが関与すると考えられる.実際,我々もオートファジー関連タンパク質Atg9, WIPI1 (WD repeat domain phosphoinositide-interacting protein 1)が,ブルセラ・アボルタス菌の増殖に必要であり増殖型BCV形成に関与することを見いだしている7).一般的にUPRの活性化に付随して起こるオートファジーは細胞にとってプラスに働くと考えられ,たとえば小胞体ストレス誘導時に体積が増大する小胞体を正常の大きさに維持したり,細胞死を抑制したりすることが報告されている11–13).興味深いことに,細胞がストレスに対する生存戦略として用いるオートファジー過程を,菌は逆手にとって利用しているようである.UPRに付随して起こるオートファゴソーム形成が小胞体ストレス誘導時に小胞体由来の膜を供給するマシナリーとなり,菌はこの細胞の仕組みをうまく利用して,自身が増殖できる環境(ニッチ)作りに役立てている可能性がある.

また,ブルセラ属菌の増殖において重要な役割を果たすCOPIIコンポーネントSec23/Sec24複合体やSar1は,初期小胞輸送のみならずオートファゴソームの生合成においても機能することが明らかになっている14, 15).つまりERESは,COPII小胞が出芽する場所であり,リン酸化IRE1が濃縮する場所であり,さらにオートファゴソーム生合成時に膜を供給する場所でもある可能性がある.タンパク質機能を細胞内の「場」の観点からみると,これらのタンパク質が集合するERESは,メンブレントラフィック–UPR–オートファジーそれぞれがクロストークする「ハブ」になっている可能性がある.さらにERESでのCOPII小胞の出芽とIRE1の活性化の両方に関与するYip1Aは,初期分泌経路のメンブレントラフィック–UPR–オートファジーを結びつけ,そのバランスを制御する重要な因子であるのかもしれない.

5. おわりに

ブルセラ属菌が感染宿主内で増殖能を獲得する重要な過程は今まで不明であった.しかし,Yip1Aという新規の宿主因子の発見で,その分子機構が少しずつ明らかになってきた.ブルセラ・アボルタス菌は,増殖に必要な小胞体由来の膜小胞を獲得するためにメンブレントラフィック,UPR,オートファジーなど,宿主細胞内の多様な膜動過程を巧みに利用している.ブルセラ属菌の細胞内増殖メカニズムの解明は,長期間の抗生剤投与が必要とされる現在のブルセラ症の治療においてだけでなく,ブルセラ属菌と同様にその増殖過程に宿主のUPRを利用する他の細菌やウイルスの増殖メカニズム研究やその治療においても新しい細胞生物学的戦略を生み出すことが期待される.さらに,UPRは,がん,神経変性疾患,代謝性疾患などの発症・進行への関与も示唆されており,これらの疾患の診断・治療ターゲットとしてのYip1Aの可能性にも興味が持たれる.

謝辞Acknowledgments

本稿の内容は,国立感染症研究所の今岡浩一博士,片岡紀代氏,宇田晶彦博士との共同研究に基づいています.

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著者紹介Author Profile

田口 由起(たぐち ゆき)

東京大学大学院総合文化研究科特任研究員.博士(学術).

略歴

2015年東京大学大学院総合文化研究科博士課程修了.同年より現職.

研究テーマ

細胞が自身の生死を決定する機構と疾患との関わりを解明すること.

趣味

映画鑑賞,テニス.

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