生化学 SEIKAGAKU
Journal of Japanese Biochemical Society

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Journal of Japanese Biochemical Society 88(2): 192-197 (2016)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2016.880192

総説Review

植物の生体防御機構における一酸化窒素の機能Role of Nitric Oxide in Plant Defense System

名古屋大学大学院生命農学研究科生物機構・機能科学専攻Division of Bioresource Functions, Graduate School of Bioagricultural Sciences, Nagoya University ◇ 〒464–8601 愛知県名古屋市千種区不老町 ◇ Furo-cho, Chikusa-ku, Nagoya, 464–8601, Japan

発行日:2016年4月25日Published: April 25, 2016
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一酸化窒素(NO)は反応性に富むラジカル分子であり,生理的および病理的な諸過程を制御する細胞内・細胞間情報伝達系因子として働くことが広く知られている.植物では,病原体の攻撃という過酷なストレスに対しても,NOが機能していることが知られている.植物は病原体の攻撃を受けると,能動的な細胞死を起こして病原体を封じ込め,感染行動を阻止する過敏感細胞死を起こす.この細胞死を伴った一連の抵抗反応発現に至る過程で,NOは抵抗反応の誘導・増幅シグナルとして働いている.また,NOは活性酸素と協調して,細胞内代謝を制御し,抵抗反応を発現することが明らかとなってきた.本稿では,植物の病原体防御機構におけるNOの機能について概説する.

1. はじめに

植物は病原体(糸状菌,細菌,ウイルスなど)に対処するために,動物とは異なるさまざまな防御機構を有している.病原体の感染に対して植物が抵抗性を発現する際は,①病原体の初期認識,②情報シグナルの変換と伝達,③防御応答(抵抗反応)に関連した遺伝子の発現誘導,④過敏感細胞死(後述)による病原体の封じ込め,および周辺細胞での抵抗反応誘導に働くタンパク質群(pathogenesis-related protein:PRタンパク質)や低分子性抗菌物質(ファイトアレキシン)の生産といった一連の過程が働いている.その病害ストレス応答のごく初期には,活性酸素種(reactive oxygen species:ROS),特にスーパーオキシドアニオン(O2)が生成され,抵抗反応誘導の始動シグナルとして機能することが知られている.ROSは,細胞壁構造タンパク質の架橋やリグニン化による細胞壁の強化,脂質の過酸化,細胞内シグナル伝達経路に関与するMAPK(mitogen-activated protein kinase)カスケードの活性化,グルタチオンS-トランスフェラーゼやファイトアレキシン生合成関連酵素などの防御関連遺伝子の発現誘導などを引き起こす.

さらに,ROSに加えて活性窒素種(reactive nitrogen species:RNS),特に一酸化窒素(NO)の抵抗反応誘導への関与が近年明らかとなってきた.本稿では,植物の病害ストレス応答におけるNOの生成系およびその機能について,研究の現状を紹介する.

2. 植物におけるNO生成系としての硝酸還元酵素

NOは反応性に富むラジカル分子であり,形態形成,成熟過程,気孔の閉鎖,休眠の抑制や傷害などのストレスに対する応答といったさまざまな植物の生理現象に深く関わっている1–4).NO生成には,哺乳類から細菌に至るまで一般に,L-アルギニンからL-シトルリンへの変換を介するNO合成酵素(NOS)が関与するとされている.これに対して植物では,緑藻においてNOSのホモログが存在するものの5),高等植物ではNOSの存在は明らかになっていない.これまで多数の植物種においてNOS様活性が検出され,哺乳類NOS抗体により認識されるタンパク質が存在することが報告された.しかし,哺乳類NOS抗体を用いたプロテオーム解析により,NOS抗体はNOSとは関連性のない植物タンパク質を認識することが報告され6),また,全塩基配列が明らかにされたアブラナ科モデル植物シロイヌナズナのゲノムにおいてもNOSホモログは同定されなかった7).したがって,植物には動物のNOSと類似した酵素は存在せず,NOSと機能のみが類似するオルソログが存在すると考えられる.かつて,シロイヌナズナからは,NOS様遺伝子としてNOA1(NO associated 1)が単離されたが,その後,NOA1はGTPアーゼであり,NOA自体はNOS様活性を持たないことが明らかとなったことから,NOS活性の調節因子と推定されている8)図1).ナス科のモデル植物であるベンサミアナタバコ(Nicotiana benthamiana)ではNOA1遺伝子(NbNOA1)の発現抑制個体において病原菌に由来するエリシター(植物の病害抵抗性を誘導する物質)処理時のNO生成が抑制され9),NOA1がNO生成に関与することが示唆されている.また,アルギニンを過剰に蓄積するシロイヌナズナのcue1変異体において,NOが恒常的に生成されたという報告もあることから1),植物細胞においてもアルギニンを基質としたNO生成機構が存在することが推測されているが,植物のNOSの詳細についてはいまだに不明な点が多い.

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図1 想定される植物でのNO生成系

NR:硝酸還元酵素,NO:NO合成酵素,NOA1:nitric oxide-associated 1,*好気条件では,NOはヘモグロビンのジオキシゲナーゼ活性によりNO3に変換される.

一方,植物ではNOSを介した反応とは異なる硝酸還元酵素(NR)が関与する亜硝酸(NO2)依存性NO生成経路の存在が推定された(図1).硝酸還元酵素(NR)はNO3をNO2に還元する反応を触媒する窒素同化の律速酵素として知られており,NRが植物固有のNO生成系として着目された10).当研究グループでは防御応答時に誘導される新規なNR遺伝子(StNR5StNR6)をジャガイモ植物から単離し11),遺伝子操作の容易なベンサミアナタバコを用いてNR遺伝子ホモログ(NbNR1)の発現抑制株を作製したところ,NO生成活性は疫病菌(Phytophthora infestans)由来のタンパク質性エリシター(INF1)の処理により約50%抑制された11, 12).この結果はNRがエリシター応答性NO生成を担う酵素の一つであることを支持したが,残るNO生成活性はNR以外の生成系によるものであることも示唆した.

その他にも植物のNO生成系についての報告があり,シロイヌナズナでは低酸素条件におけるミトコンドリア13)やヘモグロビン14)の作用により,亜硝酸が還元されてNOが生成される(図1).哺乳類ではNOSアイソフォームが異なる組織や生理的条件下でそれぞれ機能分担しているように,植物においても,刺激の種類に依存して複数のNO生成系が協調的に機能していると考えられる15)

3. 植物の感染防御応答におけるNOの関与

当研究グループでは,抵抗反応の誘導へのNOの関与について,ジャガイモ塊茎のNO生成剤処理により,ファイトアレキシンであるリシチンが生成蓄積されることを1996年に報告した16).その後,非病原菌接種あるいはエリシター処理に応答したNO生成は,ジャガイモ(Solanum tuberosum),タバコ(Nicotiana tabacum),ダイズ(Glycine max),シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)細胞などで広く認められ11, 17–22),植物の誘導抵抗反応においてNOが機能しうることを示した例が報告されている.たとえば,PRタンパク質をコードする遺伝子や,ファイトアレキシン生成や細胞壁の強化に関与するフェニルアラニンアンモニアリアーゼ(PAL)遺伝子,P450遺伝子などさまざまな代謝経路の酵素遺伝子の発現が誘導されることが示されている18, 23)

植物の典型的な抵抗反応に過敏感細胞死がある.過敏感細胞死は,病原体に攻撃された植物細胞が細胞死を起こして病原体の感染行動を阻止するという植物特有の現象であり,さまざまな病原体と植物の組み合わせにおいてみられる.過敏感細胞死は病原体に侵された結果の壊死ではなく能動的な抵抗反応であり,プログラム細胞死の一種とみなされる.この過敏感細胞死は,細胞内のNOとROS両者の生成量のバランスによって制御されていることが明らかとなってきた24, 25).植物体は,病原体を認識したのち,その侵入部位で,オキシダティブバーストと呼ばれるROSの急激な生成およびNOの生成が起こる26).NOとROSのいずれもミトコンドリアからのシトクロムcの漏出を引き起こし,カスパーゼ様プロテアーゼカスケードを活性化する27, 28).また,NOやROSが制御する防御シグナル経路にはMAPKや脱リン酸化酵素が含まれており,病原菌の感染応答により生成したNOとROSがこれらのシグナル経路を制御して細胞死を誘導すると考えられている.

タバコ懸濁培養細胞の例では,疫病菌由来のエリシター(INF1)の処理により,NOとROSが生成し,過敏感反応に関連したHSR遺伝子(HSR203J)の発現および過敏感細胞死が誘導される.しかし,NO消去剤を加えることによりどちらも抑制されたことから,NOがこれらの反応に関与するとともに,ROS単独では細胞死を誘導しないことが示唆された20).一方,NO生成特異的エリシター(後述)をベンサミアナタバコ葉に処理するとPRタンパク質などの防御関連遺伝子の発現が上昇したが,ROSの生成は確認されず,細胞死の誘導もみられなかった29).これらのことから,それぞれ単独では過敏感細胞死の誘導には至らないことが示され,NOとROSは協調して過敏感反応を誘導すると考えられている.

NOとROSのシグナル伝達の相互作用はさまざまなタンパク質の修飾と抵抗性発現の制御に関与する.病原体の攻撃を受けた植物では,攻撃を受けた部位のみならず,植物個体全身で抵抗反応が誘導される全身獲得抵抗性(systemic acquired resistance:SAR)が知られている.SARに関連する諸因子の一つに転写補助因子NPR1(non-expresser of pathogenesis-related gene 1)がある30, 31).NPR1は細胞内のNOの濃度に依存してS-ニトロソ化(後述)されてオリゴマーが形成され,細胞質に局在する.感染応答時には,サリチル酸を介してNPR1は単量体となり核に移行して防御関連遺伝子の発現を正に制御する(図2).その一方で,NPR1の移行は細胞質のH2O2濃度の増加により阻害されることから32),NOとROSの両者によりNPR1の機能が制御されることが示されている.NOとROSの相互作用は哺乳類由来のNO合成酵素を発現させた植物体の解析でも確認されている.ラット脳由来NOSを発現させたタバコ植物体では,高レベルのNOとH2O2を蓄積し,防御応答系に重要なサリチル酸,ジャスモン酸,エチレンを介したシグナル伝達経路を活性化し,病害抵抗性を高めた33)

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図2 NOが関与する翻訳後修飾と抵抗性の発現

実線の矢印はNOによって直接的または間接的に活性化される経路,破線の矢印は抑制される経路を示す.NPR1:non-expresser of pathogenesis-related gene 1,SA:サリチル酸,PrxII:ペルオキシレドキシンII,ICDH:イソクエン酸脱水素酵素.

4. NOによるタンパク質のニトロソ化

NOが関与するタンパク質翻訳後修飾の一つにニトロソ化がある.ニトロソ化は可逆的であり,酸化還元状態に影響される反応であることから,細胞内タンパク質の活性調節に関わっていると考えられる.タンパク質のニトロソ化量はNOとその貯蔵体であるS-ニトロソグルタチオン(GSNO)により調節されている.近年,植物におけるニトロソ化やその制御因子についての報告がなされている.シロイヌナズナにおいて,数十種類に及ぶニトロソ化タンパク質がビオチンスイッチ法により検出され34),シロイヌナズナ葉に細胞死を誘導するPseudomonas菌を接種した場合に16種のタンパク質がニトロソ化された35).ビオチンスイッチ法により,サリチル酸を介した防御応答シグナル伝達経路で働くNPR1のニトロソ化が検出され,NPR1のオリゴマー化がニトロソ化により促進されることでNPR1の安定化に寄与することが示された30, 31).また,別の例として,病原菌認識後のO2生成酵素であるRBOHD(respiratory burst oxidase homolog D)の活性制御があげられる.シロイヌナズナのRBOHDはS-ニトロソ化により活性が阻害されるが36),一方でペクチンオリゴ糖をシロイヌナズナ葉に処理した場合にはNOの生成がH2O2の生成の増加に必要であった37)

当研究グループでは植物の感染防御応答の際に生成するNOの標的分子探索の一環として,ジャガイモ葉および塊茎抽出タンパク質にNO供与体GSNOを処理し,質量分析計を用いたプロテオーム解析を行った結果,約80種のニトロソ化候補タンパク質を同定した.また,病原性あるいは非病原性疫病菌を接種したジャガイモ葉を用いて,同様に約100種のニトロソ化候補タンパク質を同定した.これら候補タンパク質について,ニトロソ化による修飾と機能制御を現在検討している.たとえば,候補タンパク質の一つであるデヒドロアスコルビン酸レダクターゼ(DHAR)は細胞内のアスコルビン酸代謝を介して酸化ストレス制御に関与する酵素である.ジャガイモDHARタンパク質配列中に存在するシステイン残基のうち活性に重要である20番目および147番目のシステイン残基がニトロソ化の標的となること,本酵素タンパク質をGSNOで処理してニトロソ化することによりDHAR活性が阻害されることを明らかにした38)

5. 植物の防御応答におけるONOO生成とタンパク質のニトロ化

植物の誘導抵抗反応においてNOとO2が生成するということは,NOとO2との反応物であるペルオキシ亜硝酸イオン(ONOO)が存在し,防御応答に機能している可能性を想起させる.植物の防御反応へのONOOの関与を示唆した報告があり,たとえば,抵抗反応を誘導する非病原性Pseudomonas菌を接種したシロイヌナズナでは,過敏感反応および防御関連遺伝子発現の誘導にONOOが関与していることが推定された39).当研究グループでは検出蛍光試薬を用いて植物細胞におけるONOOの検出を行った40).エリシター(INF1)を処理したタバコ培養細胞(BY-2)において,O2およびNO生成の誘導に伴い,ONOO生成がみられ,核DNAのラダー化を伴う細胞死が誘導された.また,タバコ葉に対して病原性を示さないインゲン炭疽病菌(Colletotrichum truncatum)を接種したところ,病原性を示すウリ類炭疽病菌(C. orbiculare)接種の場合と比較して,より多くのONOO生成が認められ,ONOO生成と病害抵抗性との相関が示された41)

生体内のONOOは,核酸や脂肪酸など多様な生体分子と反応するが,中でもタンパク質に含まれるチロシン残基のニトロ化が知られている.細胞内のONOOはペルオキシレドキシンにより還元され濃度調節されるが,感染時のNO生成によりペルオキシレドキシンがS-ニトロソ化され,ONOO還元活性が阻害される.このためにONOOの蓄積量が増加し,細胞毒性が高まるとともに,タンパク質のチロシン残基のニトロ化が促進されると考えられる42).ONOO生成剤およびエリシターをBY-2細胞に処理し,抗ニトロチロシン抗体を用いたイムノブロット解析では,複数のタンパク質においてニトロ化チロシン残基が検出された40).また近年,ONOO生成剤を植物細胞に処理することにより,カルボニックアンヒドラーゼ43)や,イソクエン酸脱水素酵素44)のチロシン残基がニトロ化され,両酵素活性が阻害されることが報告されている.これらの酵素活性の制御と防御応答の関係は明らかになっていないが,ONOOは植物細胞中の特定のタンパク質を翻訳後修飾することにより,防御応答時の抵抗反応の制御に関与することが予想される.

6. NO生成エリシターによる抵抗反応の誘導

NOが抵抗反応誘導に関与することを示す報告の多くはNO生成剤を用いた解析により得られている.しかしながら,高濃度のNO生成剤あるいはNOの酸化還元反応により生じた副産物が細胞毒性ないし二次的生理作用を示す可能性は否定できず,実際の植物体内におけるNO生成の機能を反映しているかどうかは定かではない.したがって,NOが関与する抵抗反応誘導の作用機作を明らかにするためには,植物体自身のNO生成誘導活性を持つNO生成エリシターを用いた解析も必要である.当研究グループではbis-aryl-methanone化合物NUBS-4190(3,5-difluorophenyl-[3-methyl-4-(methylsulfonyl)isoxazol-5-yl]-methanone)がNO生成エリシターであることを示し29),この化合物を用いてナス科植物での抵抗反応誘導活性を検討した.NUBS-4190はジャガイモ塊茎とジャガイモ懸濁培養細胞において,NO生成およびO2生成を誘導した.本化合物はジャガイモ葉とジャガイモ懸濁培養細胞において,過敏感細胞死を誘導したのに対し,ファイトアレキシン生成は誘導しなかった.本化合物はジャガイモ懸濁培養細胞において,防御関連遺伝子であるNADPHオキシダーゼや硝酸還元酵素,PRタンパク質をコードする遺伝子や過敏感反応に関連するHSR遺伝子の発現を誘導した.NUBS-4190をジャガイモ葉に処理した後にジャガイモ疫病菌を接種したところ,NUBS-4190処理区において疫病菌に対する抵抗性が増大した45).一方,ベンサミアナタバコ葉を用いてNUBS-4190の活性を調べた.本化合物の処理はNO生成を誘導したのに対し,O2生成および過敏感細胞死を誘導しなかったが,疫病菌に対するベンサミアナタバコ葉の抵抗性が増大した29).これらの結果は,同一のエリシターでも植物種ごとに防御応答において誘導されるNOおよびROSの生産量が異なること,過敏感細胞死の誘導にはNO生成およびROS生成の両者が必要であることをあらためて示唆している.

7. 植物病原菌のNO生成と宿主植物の相互作用

植物病原菌を含めた多くの微生物もまた,NOを生成することが知られている46).このうち,細菌では,主なNOの生成系としては,哺乳類と同様にNOSにより生成される経路と,脱窒細菌に分布する,亜硝酸還元酵素により亜硝酸からNOへ変換される経路の2種が存在する46, 47).一方,真菌の場合では,Aspergillus属の一部のゲノム中にはNOSホモログが見いだされるが,それ以外の真菌でも,植物と同様にNOS様活性が検出されている48, 49).また,Fusarium oxysporumなど植物病原菌を含む一部の糸状菌は脱窒能を有し,亜硝酸還元酵素によりNOを生成することが示されている50, 51)

近年,植物病原菌が産生するNOが植物への感染成立に影響することが報告されている.灰色かび病菌(Botrytis cinerea)やコウマ炭腐病菌(Macrophomina phaseolina)の例では,植物体感染時に病原菌が産生したNOが植物組織へ拡散するとともに,宿主植物細胞からもNOが産生され,宿主の細胞死を誘導する52, 53).灰色かび病菌やコウマ炭腐病菌は死んだ植物細胞から栄養を吸収する“腐生菌”であることから,自身の生産したNOによる宿主の細胞死の誘導は侵入や病徴の進展に有利に働くことが示唆される.また,寄生菌であるイネいもち病菌(Magnaporthe grisea)やオオムギうどんこ病菌(Blumeria graminis)では,病原菌体内にNOが蓄積した際に宿主植物への感染に必要な付着器を形成し,NO阻害剤の添加により,付着器の形成が抑制されることが示されている49, 54).したがって,前述のように植物のNOの生成が防御応答に欠かせない一方で,病原菌にとってのNO生成が侵入戦略にとって有効であることも示唆され,植物-微生物相互作用の両側でNO生成が関与することは興味深い.

8. おわりに

高等植物は,病原微生物の攻撃に対してさまざまな防御応答を発動し,抵抗性を獲得している.研究例の蓄積に伴い,この過程でNOが重要な役割を担うことは明らかとなった.しかし,NOが細胞内シグナル伝達経路にどのように結びつくかについてはいまだ解明されていない点も多い.NOとO2をはじめとしたRNS, ROSは互いに反応性に富み,存在量,存在形態,存在部位が時間経過とともに変化し,それらが協奏的に機能し,種々の抵抗性を発現していると考えられるが,検出や相互作用の正確な解析がいまだ困難な状況にある.これら植物でのNOとO2の協働による抵抗反応発現に至るシグナル伝達の解明のためには,制御されるタンパク質の知見の蓄積に加え,NO特異的およびO2特異的生成誘導エリシターを用いた解析も有効であろう.また,応用的側面から,これら種々のエリシターを作物に処理することにより,病害抵抗性を付与することが想定され,植物保護の観点から応用展開できる可能性を持っている.基礎的研究および,今後の農業生産現場に即した研究の進展を期するところである.

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著者紹介Author Profile

川北 一人(かわきた かずひと)

名古屋大学大学院生命農学研究科教授(植物病理学研究分野).農学博士.

略歴

1985年名古屋大学大学院農学研究科満了.86年北里大学薬学部助手.90年名古屋大学農学部助手.同助教授,大学院生命農学研究科准教授を経て2006年より現職.15年生命農学研究科長・農学部長.

研究テーマと抱負

“作物の免疫能を高めて病気にかかりにくくする”という農学の観点から,植物の感染防御応答におけるシグナル伝達機構,特にNOと活性酸素種の機能の解明をめざしている.

ウェブサイト

http://www.agr.nagoya-u.ac.jp/~byori/

趣味

観劇・オペラ鑑賞.

佐藤 育男(さとう いくお)

名古屋大学大学院生命農学研究科助教(植物病理学研究分野).博士(農学).

略歴

2003年千葉大学園芸学部卒業.05年同大学院自然科学研究科修士課程修了,同年日東製粉株式会社.06年農業環境技術研究所契約職員,10年筑波大学生命環境科学研究科博士課程修了.同年農業環境技術研究所契約職員,14年名古屋大学生命農学研究科助教(現職).

研究テーマと抱負

植物病害を抑制する微生物の探索とその病害抑制機構,植物病原菌の代謝機構と病原性.〈抱負〉植物病害に関連する微生物の多様な機能の解明を通して,植物病害の制御法の開発に役立てたい.

ウェブサイト

http://www.agr.nagoya-u.ac.jp/~byori/index.html

趣味

テニス.

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