生化学 SEIKAGAKU
Journal of Japanese Biochemical Society

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Journal of Japanese Biochemical Society 88(2): 198-201 (2016)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2016.880198

みにれびゅうMini Review

オプトジェネティクスに期待される非興奮性細胞の新たな操作技術Optogenetics on non-excitable cells

慶應義塾大学医学部精神・神経科学教室Department of Neuropsychiatry, Keio University School of Medicine ◇ 〒160–8582 東京都新宿区信濃町35 ◇ 35 Shinanomachi, Shinjuku, Tokyo 160–8582, Japan

発行日:2016年4月25日Published: April 25, 2016
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1. はじめに

オプトジェネティクスとは,光を意味するoptoと遺伝学を意味するgeneticsを合わせた造語である.geneticsは遺伝学よりもむしろ遺伝子導入と意訳するべきで,つまり,optogeneticsの意味するところは光感受性分子のオプシン(opsin)を遺伝子導入するということである.オプトジェネティクスで最もよく使われるオプシンには3種類存在する.チャネルロドプシン(ChR)1),ハロロドプシン(HaloR)2),アーキロドプシン(ArchR)3)である.本稿ではまず,オプシンを用いた神経細胞の活動操作のメカニズムについて述べる.次いで,オプシンを神経細胞以外の細胞に用いた場合に何が起こるのか,どんなことが期待されるのか説明する.

2. オプトジェネティクスでは神経活動電位を「最終的に」操作している

神経細胞の静止膜電位はおよそ−70 mVである(図1).興奮性シナプス電流が流れれば細胞が脱分極し,抑制性シナプス電流が流れれば細胞が過分極する.シナプス入力の総和がある程度の脱分極(閾値,図1の点線)を引き起こすと,軸索起始部に集積している電位依存性ナトリウムチャネルが開き,活動電位を発生する.活動電位は軸索を伝わっていき,軸索終末で神経伝達物質の放出の引き金となる.

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図1 活動電位

神経細胞の静止膜電位は−70 mV程度.脱分極刺激が閾値(点線)を超えると活動電位が発生する.閾値を超えない入力は活動電位を発生させない.ChRそのものが活動電位を発生させているのではなく,両矢印に示す脱分極を担当している.HaloRやArchRは脱分極を起こす.

興奮性オプシンであるChRを神経細胞に導入することによって可能なことは閾値まで脱分極させることであり,ChRそのものが活動電位を生じさせているわけではない.つまり,ChRの導入により内在性電位依存性ナトリウムチャネルによる活動電位を生じさせやすくしているのである.抑制性オプシンであるHaloRやArchRは過分極させることによって,活動電位を生じさせにくくする.神経細胞を標的にしたオプトジェネティクスでは,最終的に神経活動電位を発生させる,発生させないを達成しているのだが,基本的なメカニズムは膜電位を脱分極させる,過分極させることにある.

3. 神経細胞以外の細胞でオプシンを働かせる

電位依存性のチャネルは限られた細胞にしか存在しない.神経細胞には電位依存性ナトリウムチャネルがあるので活動電位が発生し,筋肉細胞には電位依存性カルシウムチャネルがあるので筋収縮が起こり,内分泌細胞や神経細胞には異なるタイプの電位依存性カルシウムチャネルがあり活動電位を生じさせ,最終的にホルモンや神経伝達物質を放出に導く.オプシンを発現させて膜電位をオプトジェネティクスで操作することは,電位依存性チャネルを持つ神経細胞以外の細胞でも可能である4, 5).一方,電位依存性チャネルがほとんど存在しない細胞でもオプトジェネティクスを操作することにより膜電位を操作することが可能であるが,この場合,何を期待できるのであろうか? 電位依存性チャネルをほとんど持たないグリア細胞においてオプトジェネティクスの応用について筆者らの研究を次に紹介する6–9)

神経軸索に髄鞘を形成するグリア細胞であるオリゴデンドロサイトは,神経活動の亢進に伴って10~20 mV脱分極する.これは神経からオリゴデンドロサイトへの一方向性の作用といえる.筆者らは,オリゴデンドロサイトが神経細胞からの作用を受けた後,逆に,オリゴデンドロサイトが神経細胞へ何らかの作用を及ぼしているのではないかと考えた.この仮説を実証するにあたり,オリゴデンドロサイトを特異的に脱分極させる技術操作が必要となる.つまり,オリゴデンドロサイトを恣意的に脱分極させたときに,神経活動がどのように変化するのか調べるのが実験の目的であり,膜電位の操作は神経細胞からオリゴデンドロサイトへの作用を模倣することを期待した.

オリゴデンドロサイトの脱分極(5~10分間程度)は,二つの変化をもたらした.一つは,脱分極が生じている期間,神経伝導速度が増加する変化であり,もう一つは,脱分極の開始から2時間以上にわたって神経軸索が発火しやすくなる変化である.前者については,ガラス電極を用いたオリゴデンドロサイトの脱分極操作によって発見した事実の追試であるが,後者についてはオプトジェネティクス操作することによって初めて明らかになった事実である.オリゴデンドロサイトは髄鞘を形成することによって神経伝導の跳躍伝導を可能にする構造物であるが,この光操作からわかったことは,オリゴデンドロサイトは髄鞘を巻いたらそれで終わりではなく,動的に神経伝導を調節しうることが明らかになった9).ただし,脱分極操作の後に,なぜこういった可塑的な変化が起きたのかについて分子メカニズムを突き詰めることはできずにおり,本誌読者の皆さんにとってはスッキリ感が不足していることだろう.

4. あらためてオプシンの性質をみてみる

非興奮性細胞をオプトジェネティクスで操作して何を期待するのか.これを考えるために,オプシン3種類の機能を見てみよう(図2).ChRは光で開口する陽イオン透過性チャネルである.HaloRは光で駆動するクロライドポンプ,ArchRは光で駆動するプロトンポンプである.ChRに上下矢印をつけたのは,意味がある.チャネルなので,イオンの流れは電気勾配とイオン勾配に支配される.ナトリウムイオンであれば,外から内に流入することになる.結果として細胞は脱分極する.

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図2 オプシンの性質

チャネルロドプシン(ChR)は陽イオンを透過するチャネル,ハロロドプシン(HaloR)はクロライドイオンを外から内へ流入させるポンプ,アーキロドプシン(ArchR)はプロトンを内から外へ汲み出すポンプ.

チャネルと異なりポンプには方向性があり(矢印の向きが一方向である),光をエネルギーとして決められた方向にイオンを送る.クロライドイオン【塩素イオン】は外から内へ,プロトンポンプは内から外へ送られる.結果として細胞は過分極する.ChRはナトリウムを透過するチャネルとして華々しくデビューしたために,「脱分極を誘導するツール」,「神経細胞であれば活動電位を誘導するツール」という概念が定着してしまった.実はChRのナトリウム透過性は高くなく,はるかに多くのプロトンがChRを透過する10).プロトンが外から内に流入するので脱分極することになるが,同時に細胞内が酸性化する.

5. オプシンは細胞内pHを操作するツール

東北大学の松井広博士が,小脳バーグマングリア(小脳皮質のアストロサイト)を用いた実験から,オプシンが細胞内pHを操作できること,細胞内pH低下(酸性化)によってバーグマングリアからグルタミン酸が放出されることを発見した7, 8).以下に経緯を記す.

バーグマングリアは膜抵抗が小さいことから,カチオンが流入しても(ChR開口による電流が発生しても),膜電位がほとんど変化しない.先ほどから,オプシンによって膜電位が脱分極・過分極することを強調してきたが,バーグマングリアにおいてはオプシンが膜電位を操作するツールとは強調しがたい.にも関わらず,松井博士はChRを活性化させるとバーグマングリアがグルタミン酸を放出することを事前に突き止めていた.脱分極では説明できない何か別のメカニズムによってグルタミン酸が放出されるのだろうと松井博士は考え,その背後にあるメカニズムを探求していった.そこで必要となった発想の転換が,「ChRはプロトンを透過する」ことだったのである.

この発想を得た後は,アイデアを実証する実験を組み立てればよいわけで,松井博士は,以下の実験をやりきった8)

  • 1)ChRを光で活性化させると細胞内pHが下がり,ArchRを光で活性化させると細胞内pHが上がることをpHイメージングで示す.
  • 2)ChRを光で活性化させるとバーグマングリアからグルタミン酸が放出されるが,この放出はDIDSという名前の薬剤に感受性のあるアニオンチャネルを介して行われる.
  • 3)ChRを用いたオプトジェネティクス以外の方法で細胞内pHを下げる.たとえば細胞膜を通過できる酢酸を投与して細胞内pHを下げる,嫌気性代謝を誘導して細胞内の乳酸を増やして細胞内pHを下げるなどいずれの方法によってもバーグマングリアからグルタミン酸が放出される.
  • 4)脳虚血で誘導されるバーグマングリア細胞内pHの低下はArchRの活性化によって緩和させることができ,結果としてグルタミン酸放出が抑制できる.

おそらく,この研究が,オプトジェネティクスによる細胞内pH操作を明快に示した初めての研究である.細胞には細胞内pHを一定に保つようにする仕組みがあるはずであるが,その調整能力を超えてオプトジェネティクスが介入・操作できるのである.

松井らは,バーグマングリア細胞内pH変化の意義をまずは脳虚血という病態に求めたが,現在は,通常の脳活動でバーグマングリア細胞内のpHがどのように変化するのかpHイメージングに取り組んでいる.そもそもグリア細胞の細胞内pHがダイナミックに変動するのかしないのか,変動するとしたらどのような神経活動や血管活動に伴ってグリア細胞の細胞内pHが変化するのか,細胞内pHの変化が細胞内シグナルとして注目すべきものなのか,細胞内シグナルとしての役割があるのならどのような情報を媒介するのか,など興味がつきない.

6. オプトジェネティクスによる細胞小器官内pHの操作

細胞膜にオプシンを発現させ,そこに光を当てれば細胞内pHを変化させることができる.細胞小器官の膜にオプシンを発現させ,そこに光を当てれば,細胞小器官のpHを操作できるかもしれない.図311)のように,リソソームの細胞内のpHが低いことはよく知られている.リソソーム内の酵素は低いpHで働くようになっているので,pHを低く保つことはタンパク質分解に必須である.この低いpHはV-ATPaseによってプロトンが能動的に(ATPを消費して)汲み入れられることによって維持される.またミトコンドリアマトリックスは,電子伝達系の複合体IからIV群によってアルカリ化(pH 7.8)されていて,そのプロトン勾配を使ってATP合成が行われている.

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図3 細胞小器官のpH

細胞小器官のpHを示す.ゴルジ体,エンドソーム,リソソーム内は酸性,ミトコンドリアマトリックスはアルカリ性である(Grabe, M. & Oster, G. (2001) J. Gen. Physiol., 117, 329–344, Fig. 1を改変).

オプトジェネティクスによって細胞小器官pHを操作する試みは学会発表レベルで散見される.本稿では,論文発表されている数少ない成功例の一つであるミトコンドリアマトリックスのpH操作を紹介したい12).早稲田大学の澤村博士らは,培養細胞のミトコンドリア内膜に,古細菌ハロテリジェナ(Haloterrigena turkmenica)由来の光駆動型プロトンポンプであるデルタロドプシン(前述のプロトンポンプであるArchRとは異なる)を発現させた.電子伝達系の複合体群をロテノンなどの薬剤で阻害すると,ミトコンドリアマトリックスのプロトン勾配が消失するので,ATPを合成できなくなり細胞死が生じる.このとき,光でデルタロドプシンを活性化させるとプロトン勾配を回復させることができ(マトリックスからプロトンを汲み出す),結果として細胞死を部分的に抑制することができる.論文では,光照射によってミトコンドリアのATP合成能力が増加するのか示されていないが,光を用いてミトコンドリアの機能を操作できることを間接的に示している点で興味深い.同様の戦略で,リソソームや小胞体,ゴルジ体などの細胞小器官の機能を秒から分単位で操作できることが期待される(図4).

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図4 リソソームにオプシンを発現させたら

ChRが開口すると,プロトンの濃度勾配に従い,プロトンがリソソーム内から細胞内へ移動することが期待される,すなわちリソソーム内がアルカリ化する(リソソームの電気勾配については無視している).ArchRは細胞内から外(この場合はリソソーム内)にプロトンを汲み出すので,リソソーム内がより酸性化することが期待される.

7. おわりに

神経細胞の発火を操作する技術として登場したオプトジェネティクスは,発火しない細胞すなわち非興奮性細胞に対してもその応用を広げつつある.そこには膜電位を操作するツールから,イオン勾配を操作するツールという発想の転換が必要になる(本来は,チャネルやポンプはイオン勾配を変える分子であるが……).本稿では,非興奮性細胞の膜電位を操作する実験例,細胞内プロトン操作の成功例および細胞小器官内プロトン操作の可能性について述べた.オプトジェネティクスには,イオン勾配を操作するチャネル・ポンプ以外にも,cAMPやcGMP量を操作するツールなど細胞内シグナル分子量を直接操作できるものがあるので,これらのツールも非興奮性細胞の機能操作に使っていただきたい.

引用文献References

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10) Nagel, G., Szellas, T., Huhn, W., Kateriya, S., Adeishvili, N., Berthold, P., Ollig, D., Hegemann, P., & Bamberg, E. (2003) Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 100, 13940–13945.

11) Grabe, M. & Oster, G. (2001) J. Gen. Physiol., 117, 329–344.

12) Hara, K.Y., Wada, T., Kino, K., Asahi, T., & Sawamura, N. (2013) Sci. Rep, 3, 1635.

著者紹介Author Profile

田中 謙二(たなか けんじ)

慶應義塾大学医学部精神・神経科学教室准教授.博士(医学).

略歴

1997年慶應義塾大学医学部卒業.2年間の精神科研修,4年間の大学院博士課程を経て,2003年から生理学研究所勤務.12年から現職.オプトジェネティクスは06年から開始.

研究テーマと抱負

こころの病から治るとはどういうことか,治る過程で何が起こっているのか知りたい.病気になる,治るを平たく言うと状態の変化なので,まずはそれを正しく記載したい.その後で摂動を加えて素過程を理解したい.

ウェブサイト

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趣味

テニス.

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