生化学 SEIKAGAKU
Journal of Japanese Biochemical Society

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Journal of Japanese Biochemical Society 88(2): 211-214 (2016)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2016.880211

みにれびゅうMini Review

プロテアソーム阻害によるミトコンドリア障害の機構The mechanism of proteasome inhibition-mediated mitochondrial impairment

京都大学学際融合教育研究推進センター生理化学研究ユニットResearch Unit for Physiological Chemistry, the Center for the Promotion of Interdisciplinary Education and Research, Kyoto University ◇ 〒606–8502 京都市左京区北白川追分町 ◇ Kitashirakawa Oiwake-cho, Sakyo-ku, Kyoto 606–8502, Japan

発行日:2016年4月25日Published: April 25, 2016
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1. はじめに

高齢化社会の進行により,アルツハイマー病をはじめとする晩発性の神経変性疾患が社会的な問題となっている.多くの神経変性疾患で,細胞内における異常タンパク質の凝集体形成が特徴的な共通の病態として観察される.ユビキチン・プロテアソームシステム(ubiquitin-proteasome system:UPS)は細胞内におけるタンパク質の主要な分解経路である.構造異常タンパク質はポリユビキチン化されたのち,巨大なプロテアーゼ複合体であるプロテアソームに運ばれて分解される.老化に伴うプロテアソーム複合体のサブユニットの酸化修飾や発現低下によるプロテアソーム活性の減少が知られており,UPS活性の低下は,神経変性疾患の病因と考えられている1)

ミトコンドリアはアデノシン5′-三リン酸(adenosine 5′-triphosphate:ATP)産生をはじめとする,細胞にとって必須のさまざまな機能を担う細胞内小器官である.また,細胞内において活性酸素種(reactive oxygen species:ROS)を産生する主要な部位でもある.酸化的リン酸化を介したATP産生経路において,副産物として漏洩した電子が酸素と反応し,反応性の高いROSであるスーパーオキシドアニオンが産生される.その一方で,ミトコンドリアDNAや電子伝達系はROSによる障害を受けやすく,老化に伴いミトコンドリアの機能障害が生じる2, 3).電子伝達系からの電子漏洩とこれに連続して起こるミトコンドリアにおけるROS産生の増加により,電子伝達系の活性がさらに低下する.老化に伴うミトコンドリアの機能障害とその結果生じる酸化ストレスは神経変性疾患の発症に関わると考えられている.

このようにUPSとミトコンドリアの機能低下は,ともに神経変性疾患の発症に関わると考えられている.両者の関連性も示唆されており,ミトコンドリア外膜タンパク質の品質管理はUPSに依存し,また,ミトコンドリア電子伝達系の障害はプロテアソームのサブコンプレックスへの解離を引き起こすなどしてUPS活性を低下させる4–6).しかし,両者のクロストークは十分には解明されていない.筆者らは最近,プロテアソーム阻害条件下における細胞内の局所的レドックスの追跡とその回復機序を解析した.本稿では,これらの解析に基づいて明らかになった,プロテアソーム阻害がミトコンドリア障害を引き起こす機構について紹介したい.

2. プロテアソーム阻害による細胞内レドックス異常とその回復

筆者らは,プロテアソーム阻害時における細胞内レドックス状態を検出するため,タンパク質性のレドックスプローブであるRedoxfluorを用いた.Redoxfluorは,出芽酵母の酸化ストレス応答転写因子Yap1pのC末端に存在するレドックスセンシング領域のシステインリッチドメインをタンデムに有し,そのN末端とC末端にCFPの改変体であるceruleanとYFPの改変体であるcitrineをそれぞれ有する.ceruleanとcitrine間のFRET(fluorescence resonance energy transfer)効率がレドックス依存的に変化し,酸化状態ではFRET効率が低く,還元されると上昇する7).Redoxfluorはサイトゾルに局在し,細胞内のレドックス状態を規定する主要な因子であるグルタチオンおよびチオレドキシンと反応し,ROSとも感度よく反応する7, 8)

プロテアソーム阻害剤であるボルテゾミブ添加の8時間後におけるRedoxfluorのFRET効率は,コントロールと比べて低下し,レドックス状態が酸化的になっていた9).細胞内グルタチオンの酸化還元比もレドックス状態が酸化的になっていることを示しており,また,過酸化水素と特異的に反応するタンパク質性の蛍光プローブであるHyPerにより検出した,サイトゾル内の過酸化水素も増加していた.UPSにおける重要なステップであるポリユビキチン化は,ユビキチンのリシン残基を介して進行する.48番目のリシン(K48)を介したポリユビキチン化はプロテアソームで分解すべきタンパク質の主要な指標であり10),この48番目のリシンをアルギニンに変異させたK48Rユビキチン変異体の過剰発現は,ポリユビキチン化を妨げてUPSを阻害する.野生型ユビキチンの過剰発現はRedoxfluorのFRET効率に影響を与えなかったが,K48Rユビキチン変異体の発現はFRET効率を低下させ,つまりRedoxfluorのレドックス状態を酸化的にした9).上記の結果は,プロテアソーム阻害がサイトゾルにおけるレドックス状態を酸化的にすることを示している.

次に,このレドックス異常を回復させる化合物「レドックスモジュレーター」を同定するために抗酸化剤を探索した.その結果,レスベラトロールとセサミンがレドックスモジュレーターとして機能し,サイトゾルの酸化を抑制することがわかった9).これらのレドックスモジュレーターはポリユビキチン化タンパク質の蓄積量を低減させなかったが,プロテアソーム阻害による細胞死を抑制した.

3. プロテアソーム阻害によるミトコンドリア依存的な酸化ストレス

プロテアソーム阻害はサイトゾルにおけるレドックス状態を酸化的にし,過酸化水素産生も増加させた.そこで,細胞内における主要なROS産生の場であるミトコンドリアに着目した.すると,ミトコンドリアの膜電位は低下し,ミトコンドリアにおけるスーパーオキシドアニオン産生が亢進しており,プロテアソーム阻害によるミトコンドリアの機能障害が示唆された9).構造異常なミトコンドリア外膜タンパク質はサイトゾルへと引き出されてユビキチン化され,プロテアソームで分解されることが知られている4, 11).プロテアソーム阻害とミトコンドリア障害の関連性を明確にするため,ポリユビキチン化タンパク質の蓄積を経時的に追跡した.すると,ミトコンドリア外膜画分におけるポリユビキチン化タンパク質の蓄積はプロテアソーム阻害の4時間後に急激に増加した9).一方で,サイトゾルでの蓄積増加はこれより2時間遅れて生じた.さらに,別のレドックスプローブであるroGFP(reduction-oxidation sensitive GFP)を用い,サイトゾルとミトコンドリアのレドックス状態の計時変化を追跡した.roGFPは緑色蛍光タンパク質(GFP)の発色団近傍の隣り合うβシート上にシステインが導入されており,レドックス依存的な蛍光特性を示すGFP改変体である12).roGFPで計測したミトコンドリアのレドックス状態はプロテアソーム阻害の3, 4時間後に酸化的となったが,これはサイトゾルが酸化的になるより2時間早かった9).したがって,プロテアソーム阻害下では,ミトコンドリアにおけるレドックス状態の酸化とポリユビキチン化タンパク質の蓄積がサイトゾルより先に起こることがわかった.

プロテアソーム阻害によるサイトゾル酸化に対して,レドックスモジュレーターとして機能したレスベラトロールとセサミンはミトコンドリアの膜電位低下とスーパーオキシドアニオン産生も抑制した9).レスベラトロールとセサミンは抗酸化剤として直接ROSを消去する活性を持つ一方,酸化ストレス応答であるNrf2経路を介して抗酸化遺伝子群を誘導する13).これらのレドックスモジュレーターの作用機序を明確にするため,ミトコンドリア特異的な抗酸化剤であるMitoQの添加効果やミトコンドリアに特異的に発現するマンガンスーパーオキシドジスムターゼ(MnSOD)の過剰発現の効果を検証した.これらはともにミトコンドリアにおけるスーパーオキシドアニオン産生を抑制し,サイトゾル酸化と細胞死を抑制した(図1).一方で主としてサイトゾルに発現するSOD1の過剰発現はサイトゾル酸化も細胞死も抑制しなかった9).また,ブロッコリーに含まれる抗酸化剤であるスルホラファンは直接ROSを消去する活性を持たず,Nrf2経路を介した酸化ストレス応答を誘導することで機能する14)が,スルホラファンの添加は,サイトゾルの酸化も細胞死も抑制しなかった15).以上の結果は,レスベラトロールやセサミンがミトコンドリアで産生されるROSを直接消去することでサイトゾル酸化と細胞死を抑制したことを示唆している.プロテアソーム阻害においては,まず,ミトコンドリアにおけるROS産生が増加し,その後遅れてサイトゾルが酸化的となり,最終的に細胞死に至ることが明らかとなった(図2).

Journal of Japanese Biochemical Society 88(2): 211-214 (2016)

図1 プロテアソーム阻害による酸化ストレスのミトコンドリア特異的な抗酸化剤による回復

(上段)Redoxfluorで検出したサイトゾルのレドックス状態.FRET効率を赤から青に至る疑似カラーで表している.赤っぽいほどFRET効率が高く還元的で,青っぽいほどFRET効率が低く酸化的であることを示す.(下段)ミトコンドリアのスーパーオキシドアニオンを特異的に検出するMitoSOXの蛍光.スーパーオキシドアニオン量に依存して赤色の蛍光強度が増大する.文献9から改変転載.

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図2 プロテアソーム阻害によるミトコンドリア障害を介した細胞死の機構

(左)正常細胞.(中)プロテアソーム阻害により,ミトコンドリア障害が生じ,ミトコンドリアROSが産生される.その結果,サイトゾルが酸化され,細胞死に至る.(右)ミトコンドリア特異的なレドックスモジュレーター添加や抗酸化酵素の発現といったミトコンドリアに対する抗酸化処置は,ポリユビキチン化タンパク質の蓄積を抑制しないが,サイトゾルのレドックス状態を維持し,細胞死を抑制する.文献9から改変転載.

4. プロテアソーム阻害がミトコンドリア障害を引き起こす機構

プロテアソーム活性を阻害すると,初期のイベントとしてポリユビキチン化されたミトコンドリア外膜タンパク質の蓄積とミトコンドリアにおけるスーパーオキシドアニオン産生の増加が観察された.そこで,ミトコンドリアでのROS産生に関わる電子伝達系の酵素活性を測定したところ,各複合体での酵素活性低下が検出された(論文投稿準備中).電子伝達系複合体の多くのサブユニットは核ゲノムにコードされており,サイトゾルで翻訳され,ミトコンドリア膜を介して輸送された後にミトコンドリア内で複合体を形成して機能するので,ミトコンドリア膜でのタンパク質輸送活性に着目した.すると,プロテアソーム阻害の初期に,サイトゾルからミトコンドリア内へのタンパク質輸送を担うTOM40複合体にポリユビキチン化タンパク質が蓄積し,その輸送活性が低下することが判明した(論文投稿準備中).また,ミトコンドリア外膜からポリユビキチン化タンパク質の引き抜きを担うAAA(ATPase associated with diverse cellular activities)ファミリーATPaseであるp97の活性を阻害すると,プロテアソーム阻害時と同様にミトコンドリア外膜画分におけるポリユビキチン化タンパク質の蓄積が増大し,ミトコンドリア内へのタンパク質輸送活性が低下した.さらに,ミトコンドリアにおけるROS産生も増大していた.プロテアソーム阻害はミトコンドリア外膜のポリユビキチン化タンパク質を蓄積させ,ミトコンドリア内へのタンパク質の輸送活性を阻害した.その結果,核ゲノムでコードされ,サイトゾルで新規に合成される電子伝達系複合体サブユニットのミトコンドリア内への輸送が阻害され,電子伝達系複合体の活性低下とROS産生の増大が生じ,ミトコンドリア障害が引き起こされることが示唆された.

5. おわりに

プロテアソーム阻害は,ユビキチン化タンパク質の蓄積によるミトコンドリア障害を介した酸化ストレスを経て細胞死を引き起こすことが明らかとなった.ミトコンドリアで産生されるROSの抗酸化剤による消去はユビキチン化タンパク質の蓄積を改善しなかったが,続いて起こるサイトゾル酸化を抑制し,細胞死も抑制した.したがって,抗酸化剤摂取などによるミトコンドリアの抗酸化処置はプロテアソームの活性低下に起因する神経変性疾患の予防に効果が期待される.しかしながら,神経変性疾患の発症において,プロテアソーム機能低下とミトコンドリア障害は鶏と卵の関係にあり,その影響は複雑である.筆者らの知見を含めて両者の連関機序が解明されてきたが,そのクロストーク機構の解析はまだ十分といえない.両者のクロストーク機構に関する理解をさらに深めることは根本的な治療法を持たない神経変性疾患の予防や治療戦略に対して貢献すると期待される.

謝辞Acknowledgments

本研究は,京都大学大学院農学研究科応用生命科学専攻制御発酵学分野の阪井康能教授の研究室において行われたものです.この場を借りて御礼申し上げます.

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著者紹介Author Profile

寳関 淳(ほうせき じゅん)

京都大学学際融合教育研究推進センター生理化学研究ユニット特定准教授.理学博士.

略歴

1971年兵庫県に生まれる.94年京都大学農学部卒業.96年同大学院農学研究科修士課程修了.2001年大阪大学大学院理学研究科博士課程修了.明治乳業株式会社,理化学研究所播磨研究所,大阪医科大学,京都大学再生医科学研究所,京都産業大学総合生命科学部を経て,11年から現職.

研究テーマと抱負

細胞内タンパク質品質管理不全に伴うオルガネラレドックスの異常機構.レドックスプローブを用いて様々な生命現象におけるレドックス変化とその機序の解析に取り組んでいる.

趣味

スポーツ観戦.

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