生化学 SEIKAGAKU
Journal of Japanese Biochemical Society

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Journal of Japanese Biochemical Society 88(2): 225-228 (2016)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2016.880225

みにれびゅうMini Review

炎症可視化モデルマウスの開発Transgenic mouse model for imaging of inflammation in vivo

群馬大学大学院医学系研究科教育研究支援センターEducation and Research Support Center, Gunma University, Graduate School of Medicine ◇ 〒371–8511 群馬県前橋市昭和町3–39–22 ◇ 3–39–22 Showa-machi, Maebashi, Gunma 371–8511, Japan

発行日:2016年4月25日Published: April 25, 2016
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1. はじめに

炎症は古くから知られる初期免疫反応の一つであり,軽く放っておいても自然に治まるようなものであれば,多くの人が経験しているので,わりと身近であり,深刻には感じられていないかもしれない.ただ一方で,炎症が長く続いてしまうアトピー性皮膚炎や喘息,関節リウマチなどの難病に苦しむ人もいるし,また近年では慢性化する炎症が動脈硬化やアルツハイマー病,がん,肥満とも関わりを持つと報じられている.ゆえに基礎医学および臨床医学の両側面から炎症研究が盛んになっている.

炎症反応が起こるメカニズムについてはまだ不明な部分も多く残されているが,現在のところ以下のように説明することができる(図1).たいていの場合,きっかけとなるのはカラダを構成する細胞の傷害か菌やウイルスの感染である.その損傷部や感染部の周辺では,壊れた細胞から漏れ出た物質や菌/ウイルスの構成物質がある種の免疫系細胞によって感知され,炎症性サイトカインと称されるタンパク質が産生・分泌される.さらに,この炎症性サイトカインは他の免疫系細胞および周辺細胞に作用することで,血管拡張や発痛を引き起こしたり,細胞漏出物や感染体の無毒化・弱毒化機能を活性化したりする.

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図1 炎症反応が起こるメカニズム

たいていの場合,炎症のきっかけとなるのはカラダを構成する細胞の傷害か菌やウイルスの感染である.その損傷部や感染部の周辺では,壊れた細胞から漏れ出た物質や菌/ウイルスの構成物質がある種の免疫系細胞によって感知され,それに応じて炎症性サイトカインが産生・分泌される.炎症性サイトカインは他の周辺細胞および免疫系細胞に作用することで,炎症の特徴である「発赤」や「発熱」,「疼痛」,「腫脹」,「機能障害」を引き起こしたり,細胞漏出物や感染体の無毒化・弱毒化機能を活性化したりする.

2. 炎症の可視化技術の必要性

古代ローマ時代の医学者ケルススも唱えたように,炎症の特徴には「発赤」,「発熱」,「疼痛」,「腫脹」,および後に病理学者ウィルヒョーによって加えられた「機能障害」があげられ,場合によって我々は肉眼でも炎症部位を見つけ出すことができる.しかしながら,炎症を生体内で細胞および分子レベルで理解するために,最近ではさまざまなイメージング技術が利用されて始めている.たとえば,炎症性マクロファージの詳細な挙動が高機能な顕微鏡観察により理解されつつあるし1),炎症性メディエーターの産生局在が質量分析イメージングにより捉えられつつある2).また,炎症応答性分子であるミエロペルオキシダーゼ(MPO)やシクロオキシゲナーゼ2(COX-2)の活性化を検出するための発光および蛍光プローブも開発されている3, 4).炎症反応はさまざまな分子によるシグナル伝達や触媒機能が巧妙かつ多段階的に発揮されることにより生じると考えられているため,炎症を伴う生命現象の研究に対して多面的な角度からイメージング技術を開発することが求められている.我々は今日までに小胞体ストレスや酸化ストレスを生体レベルで可視化するためのモデルマウス開発に携わっており5, 6),炎症の可視化にも挑戦したいと考えた.

3. インターロイキン-1βについて

インターロイキン-1β(IL-1β)は正常組織ではほとんど検出されず,炎症反応の場に浸潤・活性化したマクロファージで産生・分泌され,インターロイキン-6(IL-6)や腫瘍壊死因子(TNFα)と同様に代表的な炎症性サイトカインとして知られる.それゆえIL-1βは炎症のマーカー分子の一つにあげられている.IL-1βの発現や活性化はよく研究されており,以下のような2段階で制御されることがわかっている(図2).まず,IL-1βの遺伝子発現は炎症誘導刺激によって主に転写因子であるNF-κBにより活性化される.この遺伝子発現の活性化に伴って前駆型IL-1βタンパク質の産生が促進される.その後,前駆型IL-1βタンパク質はインフラマソームにより活性化されたカスパーゼによって切断され,分泌可能な成熟型IL-1βに変換される7, 8)

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図2 インターロイキン-1βの産生・分泌を調節する仕組み

インターロイキン-1β(IL-1β)の産生・分泌を調節する仕組みは非常に特徴的で2段階の生体反応を必要とする.1段階目はプロモーターに依存する転写活性化で,2段階目はインフラマソームを通じたタンパク質切断である.IL-1βは前駆体として翻訳され,タンパク質切断を経て成熟型になり,細胞外へ分泌される.

IL-1βの検出・測定では,多くの場合,血清中のタンパク質量をELISA法で測定するか,または炎症組織から抽出したRNAを用いて定量的PCR法によって遺伝子発現解析される.しかしながら,これらの方法は定量性に優れるが,炎症が生じている局所の経時的変化に関する情報は得がたい.一方,生体イメージング技術を用いれば,低侵襲で炎症組織における局所微小領域のIL-1β活性を捉えられるはずである.実際,これまでに他の研究グループがIL-1βのプロモーター制御下にレポーター遺伝子を導入したマウスを作製し,そのマウスにおいて期待どおりに特定組織におけるIL-1β活性が可視化できることを報告している9, 10).また最近では,カスパーゼによるIL-1βタンパク質の切断活性をモニターする技術が細胞レベルにおいて開発されている11–13)

4. インターロイキン-1βの2段階制御を組み込んだ炎症レポーター

IL-1βの活性化を忠実に検出するために,我々はプロモーターによる転写制御とインフラマソームによるプロセシング制御の両方を組み込んだレポーター遺伝子を次のとおり考案した(図3).ルシフェラーゼ遺伝子はマウス由来IL-1β遺伝子の部分領域を介してCL1-PEST分解シグナル配列と融合され,その融合遺伝子をマウス由来IL-1β遺伝子のプロモーター(−5 kb)の下流に連結した.非炎症時,この融合レポーター遺伝子は転写誘導されないし,仮に発現がリークしても融合レポータータンパク質はユビキチン–プロテアソーム系で分解される.ゆえにレポーターシグナルは検出されない.逆に炎症時には,この融合レポーター遺伝子はNF-κΒなどにより転写レベルで誘導され,産生されるタンパク質もインフラマソームによるプロセシングによってレポーター部分と分解シグナル配列部分に分断される.ゆえにレポーターシグナルは強く特異的に検出されるはずである.実際に考案したレポーター遺伝子の性能をRAW264細胞で調べてみると,いずれか一方の制御機構しか組み込んでいないレポーター遺伝子よりも炎症刺激に対する応答性が高かった.ちなみに我々はこの新しいレポーター遺伝子をIL-1β based dual operating luciferaseの頭文字をとってIDOL(アイドル)遺伝子と呼んでいる14)

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図3 IDOLシステムの概念図

ルシフェラーゼ遺伝子はマウス由来IL-1β遺伝子の部分領域を介してCL1-PEST分解シグナル配列と融合され,その融合遺伝子はマウス由来IL-1β遺伝子のプロモーターの下流に連結されている.非炎症時,この融合レポーター遺伝子は転写誘導されないし,仮に発現がリークしても融合レポータータンパク質はユビキチン–プロテアソーム系で分解される.ゆえにレポーターシグナルは検出されない.逆に炎症時には,この融合レポーター遺伝子はNF-κΒなどにより転写レベルで誘導され,産生されるタンパク質もインフラマソームによるプロセシングによってレポーター部分と分解シグナル配列部分に分断される.ゆえにレポーターシグナルは強く特異的に検出されるはずである.

5. IDOLマウスから検出される発光シグナル

我々はIDOL遺伝子を導入したトランスジェニックマウスを作製しており,その有用性についていくつかのモデルを用いてテストしている14).たとえば,グラム陰性菌細胞壁外膜の構成成分であるリポ多糖(LPS)を腹腔内投与した場合,数時間で全身的に炎症性サイトカインの産生および分泌が高まることがわかっているが,IDOLマウスの発光シグナルも内在性IL-1βの動きに合わせて高まることが確認できている.もちろんIL-1βの活性化が終息すれば,発光シグナルは低下していく(図4).また,我々はガラクトサミン誘導性肝炎モデルやセルレイン誘導性酸膵炎モデルにおける発光シグナルも調査している.どちらのモデルにおいても肝臓,腎臓,膵臓,脾臓,肺,心臓,筋肉,および脳の8臓器における発光シグナルをコントロール群と比較したが,前者のモデルにおいては肝臓で,後者のモデルにおいては膵臓で特異的に高い発光シグナルが検出された(図5).これらの結果から我々は炎症(狭義的にはIL-1βの活性化)を検出する新たなモデルマウスの作製に成功したと考えている.

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図4 LPSを腹腔内投与されたIDOLマウスの全身写真

左からグラム陰性菌細胞壁外膜の構成成分であるリポ多糖(LPS)を腹腔内投与して0時間,4時間,24時間後のIDOLマウスから発せられる発光シグナルを示している.LPS注射直後ではIL-1βがまだ活性化されず,発光シグナルもほとんど検出されない.しかし4時間後には十分にIL-1βが活性化され,強い発光シグナルが検出される.ただし,24時間も経つとIL-1βの活性化が鎮まり,発光シグナルも検出されづらくなる.ちなみに写真のマウスは同一個体である.

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図5 肝炎および膵炎を誘発させたIDOLマウスの肝組織および膵組織写真

上段が肝組織,下段が膵組織の写真である.肝炎を誘発させたIDOLマウスの肝組織からは強い発光シグナルが検出され,膵炎を誘発させたIDOLマウスの膵組織からは強い発光シグナルが検出される.ちなみに写真は載せていないが,肝炎を誘発させたIDOLマウスの膵組織や膵炎を誘発させたIDOLマウスの肝組織の発光シグナルはコントロールと同等レベルであった.

6. おわりに

IDOLマウスを用いれば,高い応答性を示すレポーターによって低侵襲的に生体レベルの内在性IL-1βの挙動を可視化できるので,炎症およびIL-1β機能が関連するさまざまな疾患や薬剤開発に役立たせることができると考えている.たとえばIDOLマウスに疾患モデルマウスを交配させれば,疾患の進行に伴った炎症およびIL-1β活性を同一のマウスで経時的に調べることができる.また薬を投与すれば,それの炎症およびIL-1β活性に対する影響も生体全身レベルで容易に検査できる.ゆえにIDOLマウスは医学・生命科学分野において価値のあるモデル動物として広く用いられることが期待される.

謝辞Acknowledgments

IDOLマウスの作製および解析については当研究室の室員,ならびに熊本大学の山村研一博士と竹田直樹博士,理化学研究所の片岡祐介博士,株式会社トランスジェニックの石川智夫博士に多大なるご協力をいただいた.この場を借りて感謝申し上げたい.

引用文献References

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著者紹介Author Profile

岩脇 隆夫(いわわき たかお)

群馬大学大学院医学系研究科教育研究支援センター講師.バイオサイエンス博士(奈良先端科学技術大学院大学).

略歴

2001年3月に博士課程を修了後,同年4月から理研BSI研究員,03年11月からJSTさきがけ研究員.05年4月に理研の独立主幹研究員として独立,11年2月に群馬大へ移り,15年4月から現職.そして16年4月に金沢医大の教授へ着任予定.

研究テーマ

小胞体ストレス応答および生体イメージング.

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