生化学 SEIKAGAKU
Journal of Japanese Biochemical Society

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Journal of Japanese Biochemical Society 88(2): 233-236 (2016)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2016.880233

みにれびゅうMini Review

PU.1標的遺伝子の同定による新たな骨髄球系細胞分化機構の解明Clarifying the novel myeloid differentiation mechanisms through identifying PU.1 target genes

北里大学医療衛生学部血液学Kitasato University, School of Allied Health Sciences ◇ 〒252–0373 神奈川県相模原市南区北里1–15–1 ◇ 1–15–1 Kitasato, Minamiku, Sagamihara, Kanagawa 252–0373, Japan

発行日:2016年4月25日Published: April 25, 2016
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1. はじめに

PU.1は顆粒球,単球,およびBリンパ球に発現し,これら細胞系列の分化に必須な転写因子で,その発現低下は,急性骨髄性白血病(acute myeloid leukemia:AML)等のさまざまな造血器悪性腫瘍の発症原因となっている1, 2).さらに,白血病特異的な遺伝子変異や,染色体転座によってもたらされる異常融合遺伝子などによって,白血病細胞におけるPU.1の発現は低下することが判明しており3),PU.1の発現低下がAML1)をはじめとした多くの造血器腫瘍病態に重要な役割を果たしていると考えられている.これまでに,PU.1は,顆粒球コロニー刺激因子(granulocyte-colony stimulating factor:G-CSF)受容体,顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(granulocyte macrophage-colony stimulating factor:GM-CSF)受容体など,顆粒球や単球(これらを併せて骨髄球系)分化に関わる遺伝子を正に制御することで,骨髄球系細胞分化を中心的に制御していることが知られていた2).筆者のグループは,PU.1が制御する新規遺伝子を同定することで,造血器悪性腫瘍の病態をより詳細に解明しようと試みてきた.本稿では,PU.1標的遺伝子として同定した,アネキシンA1(annexin A1:ANXA1, lipocortin),メタロチオネイン(metallothionein:MT)を紹介する.そして,MTにおける,新たに見いだされた骨髄球系細胞分化における役割について概説する.

2. PU.1新規標的遺伝子の同定

PU.1新規標的遺伝子の同定のため,筆者のグループは,PU.1 siRNAを恒常的に発現し,PU.1発現を部分的に低下(knockdown:KD)させた細胞株,慢性骨髄性白血病K562PU.1KD細胞株を樹立し,マイクロアレイ解析を行った.その結果,抗炎症作用,シグナル伝達や細胞死等に関わるANXA1のPU.1の発現低下に伴う発現上昇を見いだした.さらにAML臨床検体を用いた定量PCR解析において,負の相関(n=43, R=−0.31, p<0.05)を見いだした4).ろ胞性リンパ腫において,CD20やCD75とともに,PU.1の過剰発現は,無増悪生存期間と全生存率の延長と有意に関連する5).また,ANXA1の過剰発現は,白血病細胞株においてTNFα誘導性の細胞死を回避し,免疫性殺細胞効果を阻害する6).すなわち,PU.1の発現低下と,ANXA1の発現上昇は,造血器腫瘍における予後不良因子として考えられるのかもしれない.

さらに筆者らのグループは,PU.1発現ベクターを導入したK562PU.1過剰発現(OE)株を作製し,コントロール株との間でマイクロアレイを行い,前述のマイクロアレイ4)の結果を併せて検討することで,PU.1の真の標的遺伝子の同定を試みた.その結果,細胞内微量金属代謝等に関わる多機能タンパク質,MTとPU.1発現との間に負の関連を見いだした.興味深いことに,アレイ上のシグナルで,すべてのMTアイソフォーム(後述)とPU.1発現とに負の相関が認められた.MT遺伝子発現機構の解析を行ったところ,その機序として,PU.1がMT1AおよびMT1Gプロモーター上にmethyl CpG binding protein 2とともに結合すること,そしてPU.1発現量とMT1A, 1Gプロモーター上のCpGアイランドのメチル化率,およびヒストンH3, H4の脱アセチル化が,密接に関連することを明らかにした7).また,AML患者検体を43例集積し,定量PCRを行い,PU.1と候補遺伝子の発現検討を行ったところ,PU.1MTとの間に統計学的にきわめて有意な負の相関(MT1A: R=−0.58, p<0.0005, MT1G: R=−0.50, p<0.001)を見いだした7).さらに筆者らは,THP-1細胞における12-O-tetradecanoylphorbol-13-acetate(TPA)による単芽球からマクロファージへの分化過程においても,PU.1がMT1Aのプロモーター上に,TPA分化誘導とともに強く結合することを見いだした.さらに,分化誘導に伴い,PU.1がMT1AプロモーターのCpGメチル化割合を増加させることで,MT1Aの発現を抑制することを明らかにした8)

3. 多機能タンパク質MTについて

MTはヒトでは少なくとも10種類のアイソフォームを持ち,大きくMT1MT4に分類される.61アミノ酸で構成される低分子タンパク質であるが,多機能タンパク質であり,細胞内金属イオンの上昇,ストレス等で発現が上昇する9, 10).また,その制御は,金属イオン変化,ストレス刺激等の調節下にあるmetal-responsive element-binding transcription factor-1, upstream stimulatory factor-1, nuclear factor 1をはじめとする転写因子により正に制御されることが報告されていた11, 12).さらに,これまでに,MTを負に制御する因子としては,CCA AT enhancer binding protein α, Kuなどが明らかになっていた12).それらに加え,我々は,MTがPU.1のエピジェネティックな活性により,抑制性に制御されることを明らかにした7, 8)

さて,PU.1は骨髄球系細胞分化におけるマスター転写因子である.しかし,これまでに,その標的遺伝子として見いだされたMTが,骨髄球系細胞において,どのような役割を果たしているかは不明のままであった9)

4. MTの骨髄球系分化における役割

そこで筆者らは,MTの主要なアイソフォームの一つである,MT1Gの骨髄球系分化における機能について,全トランス型レチノイン酸(all-trans-retinoic acid:ATRA)により好中球まで分化する性質を持った急性前骨髄球性白血病細胞株,NB4細胞を用いてMT1G過剰発現細胞株を樹立し,ATRAを用いて分化誘導実験を行い,MTの骨髄球系分化における役割を明らかにしようと試みた.その結果,MT過剰発現NB4細胞は,CD11bをはじめとした好中球分化において誘導を認める因子の発現誘導が著しく減弱していることが判明した.また,好中球の機能試験として,好中球の殺菌能を評価するニトロブルーテトラゾリウム(nitroblue tetrazolium:NBT)還元試験を行ったところ,コントロール細胞では,ATRA添加後,経時的にNBT還元試験強陽性細胞の割合が増加し,ATRA添加後72時間後に80%以上の細胞がNBT還元試験強陽性であったのに対し,MT過剰発現NB4細胞は28~60%程度と著しい減少を認めた.さらに細胞形態の変化を細胞間で比較するため,ライトギムザ染色の後,顕微鏡下における形態評価を行った.その結果,ATRA添加前の細胞形態では,コントロール細胞と比較して,MT過剰発現NB4細胞は細胞質内顆粒の強い沈着を認めた.ATRA添加5日後で比較すると,コントロール細胞は,骨髄球以降の分化傾向を認める細胞が平均75%程度認められたのに対し,MT過剰発現NB4細胞は,同様の細胞が平均19%のみと著しい低下が認められた.また,マイクロアレイ解析の結果,いくつかの骨髄球系分化関連遺伝子(GATA2, azurocidin 1, pyrroline-5-carboxylate reductase 1, matrix metallopeptidase-8, S100 calcium-binding protein A12, neutrophil cytosolic factor 2, oncostatin M)のATRAによる発現変化が,MT過剰発現NB4細胞において著しく阻害されていることが判明した.その中でも特に,細胞質顆粒形成に関わるazurocidin 1は,通常,分化に伴い発現抑制が認められるが,今回認められた異常は,形態評価で認められた顆粒異常沈着と併せて興味深い.以上より,MT1Gの過剰発現は,骨髄球系細胞の正常な分化を阻害することが明らかになった13)

5. まとめと今後の展望

これまでに,PU.1は,G-CSF受容体,GM-CSF受容体等の骨髄球系細胞分化に必須な遺伝子を正に制御することで,分化を調節することが知られていた2).筆者らの一連の研究により,それらに加えPU.1は,MTをエピジェネティックな活性により負に制御し,MTも骨髄球系細胞分化を負に制御することが見いだされた.すなわち,PU.1は,このように二つの経路を制御することで,巧妙に骨髄球系細胞分化調節を行っていることが明らかになった(図1,左).さらに,PU.1発現低下は,G-CSF受容体等の骨髄球系遺伝子の発現低下のみならず,MT上昇を引き起こすことで,分化障害という急性白血病の病態の根幹に関わっていることがうかがわれた(図1,右).

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図1 PU.1による骨髄球系細胞分化制御とPU.1発現低下による分化阻害機序

(左)これまで,PU.1はその転写活性化作用により,G-CSF受容体,GM-CSF受容体など,骨髄球系細胞分化に必須な遺伝子を調節することで,分化を制御するとされていた.筆者らの一連の研究により,PU.1がMT遺伝子制御領域に直接結合し,エピジェネティックに抑制することが明らかになった7, 8).さらに,MT発現上昇が,骨髄球系細胞分化阻害を引き起こすことを明らかにした13).すなわち,PU.1は,このように二つの経路を制御することで,巧妙に骨髄球系細胞分化調節を行っていることが判明した.(右)白血病で認められるPU.1発現低下は,G-CSF受容体,GM-CSF受容体発現低下のみならず,MT発現上昇を誘導し,強力な分化阻害を引き起こすことがうかがわれた.

白血病の治療法の一つとして分化誘導療法があり,これには急性前骨髄球性白血病に対するATRAが広く一般的に用いられている.また,高齢者の治療法として用いられている低用量の抗がん剤(Ara-C, mitoxantroneなど)も殺細胞効果ではなく,細胞の分化を促すことで腫瘍細胞を死滅させる分化誘導療法の一つとして期待されている14).さらに骨髄異形成症候群の治療に用いられているDNAメチル化酵素阻害剤も,分化誘導によりその薬効が発揮されると考えられている15).一連の結果から,骨髄球系細胞分化を中心的に制御するPU.1と同時に,独自に同定したPU.1標的遺伝子MTの発現検討が,このような治療法に対する効果を予測するバイオマーカーとして有用である可能性が示唆された(図2).

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図2 正常造血,急性白血病とその治療である分化誘導療法の模式図

PU.1およびMT発現検討が,分化誘導療法における効果を予測するバイオマーカーとして有用である可能性が示唆された.

また,MTは多くの固形がんにおける発現の上昇と,予後との負の相関に関して報告がある10).さらに,MTの高発現が,細胞増殖,抗がん剤耐性に関与していることが示唆されている10).すなわち,通常PU.1が制御する増殖,生存などに関わる遺伝子の制御が,PU.1発現低下により破綻し,過剰発現が引き起こされ,細胞周期異常や抗がん剤耐性などを引き起こしていることが予想される.

今後,PU.1標的遺伝子群の同定と,機能解明について取り組むことで,AMLをはじめとした造血器腫瘍のさらなる病態解明を目指すとともに,これら標的遺伝子が,骨髄球系細胞分化制御因子,抗がん剤効果予測因子として機能するか検討を進めていく.

謝辞Acknowledgments

本研究は中山科学振興財団研究助成,武田科学振興財団医学系研究奨励,神奈川難病研究財団賞,科研費(基盤研究(C)23590687, 26460685)等の助成により遂行された.

引用文献References

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著者紹介Author Profile

髙橋 伸一郎(たかはし しんいちろう)

東北医科薬科大学病院臨床検査部教授(輸血部兼任).医学博士.

略歴

1969年宮城県に生る.94年弘前大医学部卒業後,東北大第二内科入局.第二医化学に出向し学位取得.米国Mt. Sinai大ポスドク,東北大病院検査部講師,北里大医療衛生学部血液学教授を経て,2016年より現職.

研究テーマと抱負

急性骨髄性白血病の病態解明に関する基礎研究を行ってきました.この春から新しい環境でのスタートですが,これまでと別な角度から研究を進め,発展させていきたいと考えています.

ウェブサイト

http://www.hosp.tohoku-pharm.ac.jp/

趣味

ジャズ鑑賞,ビール,クルマ.

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