生化学 SEIKAGAKU
Journal of Japanese Biochemical Society

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Journal of Japanese Biochemical Society 88(2): 237-239 (2016)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2016.880237

みにれびゅうMini Review

末梢神経障害および末梢血流障害によるしびれとTRPA1Roles of TRPA1 in painful peripheral neuropathy

京都大学医学部附属病院薬剤部Department of Clinical Pharmacology and Therapeutics, Kyoto University Hospital ◇ 〒606–8507 京都市左京区聖護院川原町54 ◇ 54 Shogoin-Kawahara-cho, Sakyo-ku, Kyoto 606–8507, Japan

発行日:2016年4月25日Published: April 25, 2016
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1. はじめに

痛みは,外界から生体組織を損傷しうる刺激(侵害刺激)を,主に一次感覚神経の自由終末に存在する侵害受容器がそれぞれ認識することにより発生する.この侵害受容器の分子実体として,1997年にカプサイシン,43°C以上の熱やプロトンにより開口するtransient receptor potential vanilloid 1(TRPV1)が発見されて以来1),種々のイオンチャネルが同定されてきた.当初,TRPV1は有望な新規鎮痛薬の標的分子として注目され,多くの製薬企業がTRPV1阻害薬の開発に着手したが,発熱という副作用が生じたため,いずれも開発中止となっている1).このTRPV1阻害薬開発の失敗は,その後の新規鎮痛薬開発,さらに疼痛研究領域の進展にも大きくのしかかる結果となった.一方,ワサビの受容体として知られるTRP ankyrin 1(TRPA1)は,さまざまな刺激により開口するポリモーダル侵害受容器として位置づけられており2),新規鎮痛薬の標的候補として,TRPV1阻害薬の失敗を払拭できるだけのポテンシャルを有している.本稿では,「しびれ」とTRPA1の関連について,筆者らの研究成果も踏まえて概説したい.

2. TRPA1の構造と機能

TRPA1は,6回膜貫通型の非選択的カチオンチャネルTRPチャネルファミリーの一つで,他のTRPチャネルと同様,四量体を形成する.TRPA1の構造的な特徴として,非常に長いN末端を有し,その中に17個ものアンキリンリピート構造を持ち,この領域がTRPA1活性化に関与している2).最近,低温電子顕微鏡による単粒子像解析法によりその詳細な立体構造がひも解かれ,予想どおり,巨大な細胞内ドメインと他のTRPチャネルと類似の膜貫通領域を有するドーム構造をとり,そのリンカー部位に存在するTRP様アロステリックドメインと呼ばれる領域に,さまざまなドメインが収束しているようである3)

TRPA1はさまざまな刺激性物質,たとえばイソチアン酸アリル(ワサビ成分),シンナムアルデヒド(シナモン成分),アリシン,イチリン,汚染物質のアクロレイン,アルデヒド類などによって活性化される.これら刺激性物質による活性化はいずれもN末端に多数存在するシステイン残基への求電子反応が関与する2).また,TRPA1の酸化感受性は,他の酸化感受性TRPチャネル(TRPV1, TRPV4など)と比較しても群を抜いて高く,活性酸素種(ROS)や活性窒素種のほか,TRPA1の酸化による活性化の閾値が酸素の酸化還元電位よりも高いため,高酸素によっても活性化される4).一方,低酸素下において酸素感受性プロリン水酸化酵素(PHD)の活性が抑制されると,TRPA1 N末端のプロリン残基の水酸化が抑制され,恒常的なTRPA1の抑制が解除された結果,TRPA1は開口する4).このように,TRPA1は酸素センサーとしても機能し,呼吸制御や呼吸器疾患に重要な役割を果たすことも示唆されている5)

TRPA1は発見当初,17°C以下の冷刺激により開口すると報告されたが,その真偽に議論が分かれている.最近でも,TRPA1の温度感受性には種差があり,げっ歯類では冷感受性を持つが,ヒトや猿などの霊長類では温度非感受性,一方,両生類や爬虫類では熱感受性を有するとの報告があるが6),精製したヒトTRPA1タンパク質を脂質二重膜に再構成させた系において冷感受性を示すとの報告もあり7),いまだ決着がついていない.

TRPA1は,主に脊髄後根神経節(DRG)や三叉神経節の感覚神経,特に小径から中型の侵害受容性神経に豊富に存在し,そのほとんどがTRPV1と同一の神経に発現するが,冷受容器TRPM8との共発現はほとんど認められない2).冷感の感知はTRPM8発現神経が主に担っていることが知られており,このことは,TRPA1が冷感の感知よりもむしろ,冷侵害刺激による痛みの発生に関与していることを示している8).一方,TRPA1は他のさまざまな組織にも存在し,たとえば,腸管のクロム親和性細胞や上皮細胞にも発現し,その刺激に応じてセロトニンを放出させ,腸管平滑筋の収縮に関与する9).その他,内耳有毛細胞,肺胞上皮細胞,皮膚角化細胞,尿路上皮細胞,血管内皮細胞などさまざまな細胞に発現しているが2),これらはいずれも外界あるいは生体内の環境刺激に触れる細胞であり,TRPA1のセンサーとしての役割を示唆するものである.

3. TRPA1と痛み

TRPA1は侵害受容器として機能していることから,発見当初より痛みとの関連が着目されてきた.TRPA1刺激薬が一時的な痛み行動を引き起こすだけでなく,神経末端からサブスタンスPやカルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)遊離を介し神経原性炎症を引き起こし,二次的な炎症性疼痛の原因となること,各種炎症性および神経障害性疼痛の動物モデルにおいて,感覚神経のTRPA1発現量が増加しており,TRPA1阻害薬が有効性を示すことなどさまざまな報告がなされている2).また,コロンビアの家族性特発性疼痛症候群の家系で,gain-of-functionとなるTRPA1の遺伝子変異が発見されている10)

4. TRPA1と末梢神経障害時のしびれ

筆者らは,痛みのほかに,しびれや異常感覚,ときには感覚鈍磨を伴う末梢神経障害との関連に注目している.たとえば,糖尿病の合併症状として生じる糖尿病性神経障害の動物モデルで生じる疼痛行動に対してTRPA1阻害薬が有効性を示すだけでなく,糖尿病時に産生される過酸化脂質4-ヒドリキシノネナールや糖化最終産物の一つであるメチルグリオキサールがTRPA1を持続的に刺激した結果,表皮内神経線維の脱落など糖尿病性神経障害の発症に関わることなどが報告されている11).また,がん化学療法で用いられるタキサン系,白金製剤などの抗がん剤は,副作用として高率に末梢神経障害を誘発するが,その動物モデルにおいてTRPA1発現量の増加や,TRPA1遺伝子欠損や阻害薬が触覚アロディニアを抑制することなどが報告されている12).一方,筆者らは,白金製剤オキサリプラチンが,他の抗がん剤と異なり,投与直後から数時間内にほぼすべての患者で,寒冷被曝で四肢末端,口周囲等にしびれや異常感覚を発生させることに着目している.マウスに各種抗がん剤を投与すると数日後に触覚アロディニアが生じるのに対し,オキサリプラチンは投与数時間内に冷刺激に対する過敏応答を惹起する.この急性応答は,臨床所見や薬物感受性から,痛みとは性質の異なるしびれ感覚を表現するものと考えている.さらに,この冷過敏応答がTRPA1阻害薬や遺伝子欠損で消失すること,DRG神経のTRPA1が特異的に過敏化しており,TRPV1やTRPM8の機能に変化は認められないことなどを報告した13).さらに最近,その詳細な分子機構として,オキサリプラチンやその代謝産物シュウ酸が,TRPA1の低酸素による活性化に関与するPHD活性を抑制しうること,ヒトTRPA1 N末端394番目のPHDによるプロリン残基の水酸化が解除されると,TRPA1のROSに対する感受性が顕著に増強することを見いだしている.オキサリプラチンなどの白金製剤はミトコンドリア障害により過酸化水素(H2O2)を産生させることから,PHD抑制により過敏化したTRPA1にROS刺激が加わることにより,しびれや異常感覚などの症状が誘発されたものと考えている.

5. TRPA1と末梢血流障害時のしびれ

「しびれ」という感覚は,痛みと異なり,動物モデルやその評価法がいまだ確立されておらず,実はその発症機構はまったく理解されていない.しびれは,正座を崩した直後などにも発生するが,これは末梢神経の器質的な障害ではなく,末梢血流障害による機能的な変化が関与すると考えられる.そこで筆者らは,正座後のしびれをマウスで再現するため,マウス後肢をたこ糸で強く結紮し,数十分~1時間の下肢虚血負荷の後,たこ糸を解くことにより後肢虚血/再灌流によるしびれ様モデルを確立した.このモデルでは,再灌流直後から処置側後肢に対する自発的なlicking行動(しびれ様行動)が観察されるとともに,興味深いことに,虚血中から触覚刺激に対する鈍麻が生じ,再灌流後もしばらく継続する.すなわち本モデルは,一見矛盾するようにみえるが,自発的licking行動と触覚鈍麻が併発するきわめて珍しいモデルである.このしびれ様行動は,ROSスカベンジャーなどにより抑制され,さらに,TRPA1阻害薬や遺伝子欠損でも抑制されることから,虚血/再灌流時のROS産生によるTRPA1活性化が関与していると考えられる.さらに,ヒトTRPA1発現細胞に30分間低酸素を負荷し,その後,再酸素化と同時にH2O2を処置したところ,TRPA1応答が増強した.同様の現象はマウス培養DRG神経でも認められたが,TRPA1遺伝子欠損マウス由来の培養DRG神経では認められないことを確認している.その分子機構として,上述のオキサリプラチンの場合と同様,低酸素負荷によるPHD活性の抑制,PHDによるプロリン残基の水酸化解除によるTRPA1のROSに対する感受性増強が関与することを明らかにした.これらの結果から,末梢虚血/再灌流によるしびれの少なくとも一側面は,低酸素負荷によるPHD抑制を介したTRPA1の過敏化が関与し,再灌流時に大量に発生するROSが過敏化したTRPA1を刺激することにより惹起されるものと考えられた(図114).一方,糖尿病性神経障害,抗がん剤誘発末梢神経障害のほか,末梢神経損傷による末梢性神経障害性疼痛においても末梢血流障害が生じており15),末端の低酸素負荷によりTRPA1過敏化が生じている可能性があり,いわゆる冷えからくる痛みやしびれ,さらには末梢神経障害の進行にも関与しているのかもしれない.

Journal of Japanese Biochemical Society 88(2): 237-239 (2016)

図1 後肢虚血/再灌流によるしびれ発生と低酸素負荷によるROSに対するTRPA1過敏化機構14)

6. おわりに

上述してきたように,TRPA1はしびれ治療薬の創薬標的として有望と考えられる.しかし,しびれは,ビリビリ,ピリピリ,チクチクなど多彩な言葉で表現されるよう,おそらくさまざまなメカニズムを介して発生した感覚の総和であり,さらに,「しびれ」という日本語は,不快な陽性症状(dysesthesia)だけでなく,錯感覚や感覚鈍磨などの不快ではない異常感覚(paresthesia)も含んでいる.その奇妙な感覚の全貌はいまだ明らかでないが,本研究を糸口に今後,新たなしびれ研究領域が立ち上がることを期待している.これまでにいくつかのTRPA1選択的阻害薬が合成されており,実際,有痛性糖尿病性神経障害に対するフェーズIIa臨床試験に関する中間報告において良好な成果が発表されている.今後の動向に期待したい.

引用文献References

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著者紹介Author Profile

中川 貴之(なかがわ たかゆき)

京都大学医学部附属病院薬剤部准教授,副薬剤部長.博士(薬学).

略歴

1972年滋賀県に生る.94年京都大学薬学部卒業.96年同大学院薬学研究科修士課程修了.97年日本学術振興会特別研究員.同年同大学院薬学研究科博士後期課程中途退学後,同助手.2005年同助教授,准教授.13年より現職.現在に至る.

研究テーマと抱負

痛み・しびれの発生機構,抗がん剤誘発末梢神経障害の予防・治療法の開発.薬学研究科での基礎研究から薬剤部に異動し,臨床現場に接しながら,患者の役に立つ基礎/臨床研究の融合を目指している.

ウェブサイト

http://clinical.pharm.kyoto-u.ac.jp

趣味

年数回のキャンプ/BBQ, 釣り等,スキーがメイン.

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