生化学 SEIKAGAKU
Journal of Japanese Biochemical Society

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Journal of Japanese Biochemical Society 88(2): 240-243 (2016)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2016.880240

みにれびゅうMini Review

N-アシルエタノールアミンとリゾホスファチジン酸の生合成に関わる新規リゾホスホリパーゼD型酵素Novel lysophospholipase D-type enzymes involved in the biosynthesis of N-acylethanolamines and lysophosphatidic acids

香川大学医学部生体分子医学講座生化学Department of Biochemistry, Kagawa University School of Medicine ◇ 〒761–0793 香川県木田郡三木町池戸1750–1 ◇ 1750–1 Ikenobe, Miki, Kagawa 761–0793, Japan

発行日:2016年4月25日Published: April 25, 2016
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1. はじめに

N-アシルエタノールアミン(別名,脂肪酸エタノールアミド)は長鎖脂肪酸とエタノールアミンが縮合した構造を持つ一群の脂質メディエーターである1).代表的化合物として,カンナビノイド受容体の内在性アゴニストとして発見されたアラキドノイルエタノールアミド(慣用名アナンダミド)や抗炎症・鎮痛作用を有するパルミトイルエタノールアミド,食欲抑制作用を示すオレオイルエタノールアミドが知られている(図1).筆者らはN-アシルエタノールアミンの生合成と分解のメカニズムに興味を持ち,代謝経路と責任酵素群に焦点を当てて解析を進めてきた.その過程で,リゾホスホリパーゼD(リゾPLD)型反応によるリン脂質の加水分解がN-アシルエタノールアミンの生合成に関与する可能性が示された.本反応ではよく知られた別の脂質メディエーターであるリゾホスファチジン酸(LPA)も同時に生成する.本稿では,この反応を触媒するリゾPLD型酵素を中心に,N-アシルエタノールアミンの生合成機構について筆者らの最新の研究成果を交えて概説したい.

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図1 生体作用を示す主なN-アシルエタノールアミン

2. N-アシルエタノールアミンの生理作用

N-アシルエタノールアミンは哺乳類を含む種々の生物に普遍的に存在する1)N-アシルエタノールアミンは複数の受容体に対してアゴニストとして働き,脂質メディエーターとして機能するが,作用する受容体と生理作用は脂肪酸鎖の種類によって異なる.最初に注目を集めたのは高度不飽和脂肪酸のアラキドン酸を含むN-アシルエタノールアミンであるアラキドノイルエタノールアミド(アナンダミド)であり,カンナビノイド受容体の内在性アゴニスト(エンドカンナビノイド)としてブタ脳から単離された.しかしながら,後にアラキドン酸とグリセロールのエステルである2-アラキドノイルグリセロール(2-AG)が新たなエンドカンナビノイドとして報告され,その体内レベルはアナンダミドよりはるかに高いことが明らかとなった.さらに2-AGはカンナビノイド受容体CB1およびCB2の両サブタイプに対して完全アゴニストとして作用するのに対して,アナンダミドはCB1受容体の部分アゴニストでありCB2受容体に対しては弱い作用しか持たない.これらの事実から生理的条件下ではエンドカンナビノイドとしてはアナンダミドよりも2-AGの方が重要であると現在では考えられている2).しかしながら,アナンダミドも分解酵素の遺伝的欠損や阻害剤投与により体内含量が増加するとCB1依存的な生物作用が認められる.また,アナンダミドはバニロイド受容体TRPV1の内在性リガンドとしても機能し,シナプスでの伝達効率が長期間にわたって低下する長期抑圧を起こす.一方,飽和脂肪酸のパルミチン酸や一価不飽和脂肪酸のオレイン酸を含むN-アシルエタノールアミンとして,それぞれパルミトイルエタノールアミドやオレオイルエタノールアミドが知られ,これらの体内レベルはアナンダミドをはるかに上回る.両者ともカンナビノイド受容体には作用しないがペルオキシソーム増殖剤活性化受容体PPARαのアゴニストとして働く.パルミトイルエタノールアミドは抗炎症・鎮痛作用を持ち3),欧米では神経因性疼痛に有効なサプリメントないしは医療用食品として販売され,医薬品としての開発も進められている.またオレオイルエタノールアミドには食欲抑制作用が認められ4),抗肥満の観点から興味深い.オレオイルエタノールアミドはGタンパク質共役型受容体GPR119や上述のTRPV1のアゴニストとしても報告されている.

3. N-アシルエタノールアミンの生合成機構とリゾPLD型酵素

N-アシルエタノールアミンは脂肪酸鎖の種類に関わらず共通の経路で生合成されると考えられている.初発段階として,一般的なリン脂質であるホスファチジルエタノールアミン(PE)のアミノ基がアシル化されて,3本のアシル基を有する特殊なリン脂質であるN-アシル-PE(NAPE)が生成する.次いで,NAPEは特異的なホスホリパーゼD型酵素であるNAPE-PLDによって加水分解されてN-アシルエタノールアミンが遊離する(図2A).筆者らの研究グループはNAPE-PLDの遺伝子クローニングを世界に先駆けて行い5),その触媒機能の解析を進めた.その後,米国のCravattの研究グループと筆者らは独立して本酵素の欠損マウスを作製し,脳におけるN-アシルエタノールアミンの含量を検討した6, 7).その結果,パルミトイルエタノールアミドやオレオイルエタノールアミドは野生型マウスの50~70%程度にまで減少していた.一方,アナンダミドについてはCravattらの欠損マウスでは野生型と有意差が認められなかったのに対して,筆者らの作製した欠損マウスでは野生型の半分以下に減少していた.以上の結果からNAPE-PLDがマウスの脳で種々のN-アシルエタノールアミンの生合成に貢献していることが推察されたが,その一方でNAPE-PLD欠損マウスの脳でも相当量のN-アシルエタノールアミンが残存していることや,本欠損マウスの脳のホモジネートを放射標識したNAPEと反応させるとN-アシルエタノールアミンが生成したことから,NAPE-PLDを介さないN-アシルエタノールアミンの生合成機構の存在が考えられた.

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図2 NAPE(A)およびN-アシル-PlsEt(B)からのN-アシルエタノールアミンの生合成経路

太い矢印はリゾPLD型反応を示す.

Cravattらは,このNAPE-PLDを代替する経路としてNAPEの2本のO-アシル基がα/βヒドロラーゼドメイン含有タンパク質4(ABHD4)によって順次脱離して,最初にN-アシル-リゾPEが,次いでグリセロホスホ-N-アシルエタノールアミンが生成し,最後にグリセロホスホジエステラーゼ(GDE)1によってN-アシルエタノールアミンが遊離する経路を提唱した8, 9)図2A).しかしながら,NAPE-PLDとGDE1の二重欠損マウスから作製した初代培養神経細胞でもNAPEからN-アシルエタノールアミンが生成しうることが後に判明し10),さらに別の酵素あるいは経路の関与が示唆された.一方,筆者らは以前にIB, IIA, V型の分泌性ホスホリパーゼA2(sPLA2)によってNAPEからN-アシル-リゾPEが生成し,さらにリゾPLD型反応(図2Aの太い矢印)によりN-アシルエタノールアミンが生成する経路を提唱していた11).以上の結果から,リゾPLD型酵素によるN-アシル-リゾPEの加水分解が代替経路におけるN-アシルエタノールアミンの生成の一部を担う可能性が考えられた.しかしながら,その当時このリゾPLD型酵素の実体は不明であった.

脳にはPEのほかに,グリセロール骨格のsn-1位にアルケニル基がエーテル結合を介して結合したプラスマローゲン型のエタノールアミンリン脂質(プラスメニルエタノールアミン,PlsEt)も豊富に存在する.筆者らは,PlsEtに加えてN-アシル-PlsEtも脳に存在し,本脂質からNAPE-PLDによる経路と代替経路の両者を経由してN-アシルエタノールアミンが生成することを報告した(図2B7)N-アシル-PlsEtから始まる代替経路では,ABHD4などのエステラーゼでsn-1位のエーテル結合を加水分解することはできないと考えられる.したがって,N-アシル-リゾPlsEtのリゾPLD型酵素による加水分解が代替経路の中でも特に重要と考えられた.

4. リゾPLD型酵素として機能するGDEファミリー・タンパク質

GDEファミリーは細菌から哺乳類に至るまで高度に保存されたタンパク質ファミリーであり,種々のグリセロホスホジエステルに対してホスホジエステラーゼ活性を有する複数の酵素が含まれるが,その基質特異性は各メンバーで異なる12).前述したとおり,マウスGDE1はグリセロホスホ-N-アシルエタノールアミンを加水分解してN-アシルエタノールアミンを生成するホスホジエステラーゼ活性を持つことが知られていた9).筆者らは,この活性に加えてマウスGDE1にN-アシル-リゾPlsEtからN-アシルエタノールアミンを生成するリゾPLD活性があることを明らかにした7)図3).この際,別の反応産物としてアルケニル型LPA(厳密にはリゾプラスメニン酸)も同時に生成する.さらに筆者らは,これまで機能不明であったGDE4がGDE1と同様にグリセロホスホ-N-アシルエタノールアミンやN-アシル-リゾPlsEtを加水分解し,前者からN-アシルエタノールアミンが,後者からN-アシルエタノールアミンとアルケニル型LPAが生成することを見いだした13).GDE4の活性はGDE1と同様にMg2+によって促進され,Ca2+によって阻害された.GDE4の基質特異性はGDE1と比較して広く,N-アシル-リゾPEにも作用してN-アシルエタノールアミンとアシル型LPAを生成した.GDE1とGDE4は脳をはじめとする種々のマウス臓器でmRNA発現が認められることから,両酵素が種々の臓器においてNAPE-PLD非依存的な代替経路によるN-アシルエタノールアミンの生合成の一端を担っている可能性が考えられた.

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図3 GDE4, GDE1およびオートタキシン(ATX)のリゾPLDとしての基質特異性

興味深いことにGDE4はN-アシル化を受けていない通常のエタノールアミンリゾリン脂質であるリゾPEや,コリンリゾリン脂質であるリゾホスファチジルコリン(リゾPC)に対してもリゾPLD活性を持ち,LPAを生成した13).群馬大学の大嶋らも筆者らとほぼ同時期にGDE4のリゾPEとリゾPCに対するリゾPLD活性を報告した14).大嶋らはGDE7が同様のリゾPLD活性を持つことも示した.GDE7はマウスの脳では発現量が低いが胃や腎臓で高発現が認められた.リゾPLD型酵素はリゾPEやリゾPCが基質である場合,N-アシルエタノールアミン生合成の代替経路とは無関係であるが,やはりLPAが反応産物となる(図3).細胞外におけるLPAの生成機構としてエクト型酵素であるオートタキシン(ATX)のリゾPLD活性がよく知られている15).これに対してGDE4やGDE7はLPAを細胞内で生成すると考えられ,LPAの新たな生成機構としても両酵素の役割が注目される.

5. おわりに

N-アシルエタノールアミンの生合成機構は従来考えられていたよりも複雑であることが,NAPE-PLD欠損マウスの解析と引き続く検討により明らかにされつつある.GDEファミリーのメンバーがリゾPLD活性を介してNAPE-PLD非依存的なN-アシルエタノールアミンの生合成を担う可能性を本稿で示したが,実際に生体内においてどの程度貢献しているのかについては各メンバーの遺伝子欠損マウスなどの解析が必要である.特にGDE4欠損マウスの解析が待たれるが,GDEファミリーの各メンバーの機能的な重複を考慮すると,多重欠損マウスの作製が必要となるかもしれない.またLPA生成酵素としてもGDE4とGDE7は着目されるが,細胞内で生成したLPAが細胞外に分泌されて脂質メディエーターとして働きうるのか,あるいはGDE4やGDE7が触媒部位を細胞外に配置した形で細胞膜に存在して細胞外でLPAを産生するのかについても今後の解析が待たれる.

謝辞Acknowledgments

本稿で紹介した筆者らの研究は,香川大学医学部生体分子医学講座生化学において上田夏生教授の指導の下で行われたものであり,また,徳島大学医歯薬学研究部の徳村彰教授(現安田女子大学),田中保准教授と共同で実施したものであります.この場をお借りして,御指導,御支援いただきましたすべての先生方と大学院生・卒業研究生の皆様に厚く御礼申し上げます.

引用文献References

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著者紹介Author Profile

坪井 一人(つぼい かずひと)

香川大学医学部助教(学内講師).博士(薬学).

略歴

1974年奈良市に生る.96年京都大学薬学部卒業.2001年同大学院薬学研究科博士後期課程修了(98~01年日本学術振興会特別研究員,市川厚研究室).同大学研究員を経て,02年香川医科大学(03年より大学統合により香川大学医学部)助手.07年助教(07~09年米国イリノイ大学シカゴ校日本学術振興会海外特別研究員).11年より現職.

研究テーマと抱負

受容体・代謝・シグナル伝達と,脂質メディエーターの生理的役割の解明を目指して様々な側面からアプローチしてきました.日々の研究が人類の健康増進に貢献出来ることを願いつつ,精力的に頑張りたいと思います.

ウェブサイト

http://www.med.kagawa-u.ac.jp/~biochem/index.html

趣味

家族でうどん屋めぐり.

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