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公益社団法人日本生化学会 The Japanese Biochemical Society
Journal of Japanese Biochemical Society 88(2): 244-247 (2016)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2016.880244

みにれびゅうMini Review

FUSによるmRNA長の制御Regulation of mRNA length by FUS

名古屋大学大学院医学系研究科神経疾患・腫瘍分子医学研究センター神経遺伝情報Division of Neurogenetics, Center for Neurological Diseases and Cancer, Nagoya University Graduate School of Medicine ◇ 〒466–8550 愛知県名古屋市昭和区鶴舞町65 ◇ 65 Tsurumai, Showa-ku, Nagoya Aichi 466–8550, Japan

発行日:2016年4月25日Published: April 25, 2016
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1. はじめに

最近10年間の,RNA-seqを中心とするトランスクリプトーム解析技術の発展は,生体内の多様な転写・RNA代謝の網羅的解析を可能にし,特に脳に代表される神経組織で他組織とは異なった選択的スプライシングやポリアデニル化が頻繁に行われていることを明らかにした.

本稿で紹介するRNA結合タンパク質fused in sarcoma(FUS)は,転写因子CHOPとの異常融合タンパク質が粘液性脂肪肉腫(myxoid liposarcoma)の原因となるため,長らく,がん遺伝子として研究されていた.しかし,2009年に筋委縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis:ALS)でFUS遺伝子変異集積が同定され1),神経疾患関連RNA結合タンパク質として,大きな注目を集めている.本稿では,次世代シークエンサー解析により見いだされたFUSによるRNAプロセシング制御の詳細について,紹介する.

2. 疾患との関連

FUSは,神経変性疾患であるALSや前頭側頭葉変性症(frontotemporal lobar degeneration:FTLD)の発症と密接に関連している.ALSは運動神経障害を特徴とする神経変性疾患であり,ALS患者でFUS遺伝子変異が同定されている.変異は,FUSのC末端に存在する核移行シグナルとして機能する領域に集中しており,野生型FUSが核局在を示すのに対し,変異FUSは細胞質に異常局在する.FTLDでは,FUS遺伝子変異はみられないにも関わらず,FUSの異常蓄積が細胞質中に見いだされる.通常,FUSは核内の転写複合体中に存在し,核内でmRNAの転写開始からスプライシング・転写終結・RNA移送に至るRNA代謝のほぼすべてのステップに関与している.したがって,細胞質中でのFUSの異常蓄積により生じるRNA代謝の何らかの異常がALS・FTLDの病態発症につながると考えられている.

3. FUSによるRNA認識

FUSタンパク質は,N末端側にPrion like domainを,残りの領域にRGG, RRM, Zn fingerといった複数のRNA結合ドメインを持つ.in vitro解析で,FUSはRNAおよび一本鎖DNAに結合性を示すものの二本鎖DNAにはほとんど結合しない.実際の生体内におけるFUSのRNA結合部位は,2008年に開発されたCLIP-seq法2)の登場により,大きく解明された.

CLIP-seq法は,タンパク質に結合しているRNAを紫外線(UV)で架橋後,特異抗体による免疫沈降,結合RNAの精製,次世代シークエンサーを用いた配列解読を順次行うことで,目的タンパク質の生体内RNA結合部位をゲノムワイドに解明する手法である.我々3)を含め複数のグループからFUSのCLIP-seq解析結果が報告されているが,総合すると,FUSのRNA結合には次のような特徴がある.主にFUSはスプライシングを受ける前のpre-mRNAに結合し,特に,選択的スプライシングを受けるエキソン周囲や,選択的転写開始・終結点を持つ領域に結合する.FUS認識RNAモチーフは明瞭ではないが,GUリッチな配列に指向性が認められる.また,FUS結合領域では,RNAは二次構造をとりやすい.

4. RNAポリメラーゼII転写活性制御

上述したように,FUSは転写複合体内に存在するため,古くから転写調節に関わると考えられてきた.我々はCLIP-seqに加え,RNAポリメラーゼII(RNAP II)のChIP-seq,および新生RNAに特化したRNA-seqであるNascent-seqを行い,FUSによる転写調節の詳細を解析した4).CLIP-seqでは,3万か所を超えるFUS-RNA結合集積領域が見いだされ,これらの領域でFUS依存的に,ChIP-seqでRNAP IIのうっ滞が,Nascent-seqで新生RNA量の減少が認められた.すなわち,FUSは合成途中のRNAへの結合を介して,局所的にRNAP IIの転写速度を減弱させ,RNA新生を抑制している(図1A).最近の研究では,FUSのPrion like domainは,細胞内のリボ核タンパク質(RNP)顆粒の形成に関わっており,繊維状の構造物を作ってRNAP IIのC末端領域(CTD)と結合することが明らかになっている5, 6).CTDは,哺乳類では7アミノ酸配列の52回の反復から構成されており,特定のアミノ酸の修飾がRNAP IIの転写活性と密接に結びついている.中でも,Ser2のリン酸化はRNAP IIの転写活性維持に必須であり,FUSとRNAの結合は,繊維状構造物形成を促進し,CTDのSer2リン酸化を抑制する7).FUSは,転写中のRNAに結合・集積し,Ser2リン酸化抑制を介した局所的なRNAP II転写活性減弱をグローバルに行っていると予想される(図1A).

Journal of Japanese Biochemical Society 88(2): 244-247 (2016)

図1 FUS–RNA結合による転写調節・転写終結制御

(A) FUSによるRNAP II転写制御.(B) FUS–RNA結合と転写開始点,PolyA site, splice siteの位置関係.(C) FUSによるポリアデニル化転写終結制御.

5. RNAプロセシング制御

FUSによる局所転写活性制御は,mRNAの発現,プロセシング,翻訳にどのような影響を与えているのだろうか? Fusノックダウン細胞のRNA-seq解析では,数百個の遺伝子にmRNA発現量の変化は認められるものの,ほとんどの遺伝子で2倍以内の変化という軽度の発現変化であった.では,RNAプロセシングはどうだろうか? 我々は,FUSによるRNAプロセシング制御を解明するため,RNA-seq, CAGE-seqおよびPolyA-seqを行い,それぞれ,スプライシング,5′Cap化,3′ポリアデニル化の詳細を解析した4).CLIP-seqと統合解析を行ったところ,他の部位に比べ圧倒的に多くのポリアデニル化部位(PolyA site)がFUS–RNA結合周囲に集積していた(図1B).また,Fusノックダウンにより,3000か所を超えるPolyA siteが4倍以上発現変化するなど,FUSがRNA結合を介し,積極的にポリアデニル化制御を行っていることが明らかとなった.

PolyA siteとFUS–RNA結合の位置関係には明瞭な傾向が認められ,PolyA site下流へのFUS結合はポリアデニル化を促進し,逆に上流への結合は抑制する(図1C).PolyA site下流へのFUS結合時には,FUSは,RNAP II転写抑制作用により転写終結を進めるとともに,CPSF160(cleavage and polyadenylation specificity factorの160 kDaサブユニット)との協調作用によりポリアデニル化を促進していた.逆に,PolyA site上流への結合時は,本来,PolyA site下流で生じるべきRNAP II転写抑制が早期に上流で生じ,タイミングのずれからポリアデニル化が障害される.最近,FUSとCPSF160は細胞内でU1 snRNPと一体となって複合体を形成していることが判明した8).U1 snRNPはスプライシングおよび転写終結制御因子であり9),ALS変異FUSには結合性が減弱するなど,ALSの病態形成に深く関与する可能性が示唆されている10)

6. FUSによるmRNA長の制御

CAGE-seqおよびPolyA-seqにより細胞内全発現遺伝子の転写開始点・終結点をマッピングできたので,それぞれの各遺伝子上の相対位置を発現量を反映させながら演算し,各遺伝子の平均mRNA長を解析した.図2に示すように,FUSは全発現遺伝子(7377個)のほぼ2/3の遺伝子のmRNA長をダイナミックに制御していた.FusノックダウンによるmRNA長の変化は,PolyA siteの移動とよい相関を示した(R=0.8).また,FUSによりmRNA長制御される遺伝子群では,より多くのFUS-RNA結合が認められ,Gene Ontology解析では,神経分化やシナプス形成に関係する遺伝子が著明に含まれていた.mRNA長変化はさまざまなmRNAアイソフォームの発現変化を意味しており,FUSはこれらの制御を通して神経分化・機能制御を行っていることが予想される.

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図2 全発現遺伝子におけるFUSによるmRNA長制御

(A)モデル遺伝子におけるmRNA長・FUS–RNA結合量.(B) Fusノックダウンによる各遺伝子のmRNA長の変化.(C)各遺伝子上のFUS–RNA結合の量.

7. おわりに

本稿では,FUSがmRNA長制御を中心にRNAプロセシングに深く関与しているようすを概説した.現在のところ,FUS機能異常がどのようにしてALSやFTLDなどの神経疾患発症につながるかは,十分に判明していない.FUSによるmRNA長制御について,疾患ではどのような異常が生じているか,さらに解析を進めていきたい.

引用文献References

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著者紹介Author Profile

増田 章男(ますだ あきお)

名古屋大学大学院医学系研究科先端応用医学部門神経遺伝情報分野准教授.医学博士.

略歴

1994年名古屋大学医学部卒業.同年一宮市立市民病院内科医師.98年名古屋大学大学院医学系研究科.2001年名古屋大学医学部付属病態制御研究施設生体防御分野助手.03年名古屋大学大学院医学系研究科先端応用医学部門神経遺伝情報分野助教.12年より現職.

研究テーマと抱負

分化や細胞増殖など幅広い生命現象制御の基盤となっているRNA代謝について,生化学や細胞生物学の手法にバイオインフォマティクスを融合させて,明らかにしていきたいと考えています.

ウェブサイト

http://www.med.nagoya-u.ac.jp/neurogenetics/

趣味

旅行,スキー.

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