生化学 SEIKAGAKU
Journal of Japanese Biochemical Society

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Journal of Japanese Biochemical Society 88(3): 302-307 (2016)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2016.880302

特集Special Review

酸素濃度センサー分子・PHDによる細胞内代謝調節Regulation of cellular energy metabolism by prolyl hydroxylase PHD

九州大学生体防御医学研究所細胞機能制御学部門分子医科学分野Division of Cell Biology, Department of Molecular and Cellular Biology, Medical Institute of Bioregulation, Kyushu University ◇ 〒812–8582 福岡県福岡市東区馬出3–1–1 ◇ 3–1–1 Maidashi, Higashi-ku, Fukuoka 812–8582, Japan

発行日:2016年6月25日Published: June 25, 2016
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利用できる酸素が限られた低酸素環境においては,低酸素に対するさまざまな生体反応(低酸素応答)が観察される.なかでも,低酸素応答のマスターレギュレーターと呼ばれる転写因子HIF(hypoxia-inducible factor)を介した低酸素応答については非常によく研究されている.HIFは嫌気解糖に関与する遺伝子群の転写亢進を介して細胞のエネルギー代謝を制御しているが,そのHIFもプロリン水酸化酵素PHD(prolyl hydroxylase domain-containing protein)によって負に制御されているため,PHDがHIFを介して細胞の代謝を制御しているといえる.本稿では,(HIF依存的・非依存的を問わず)酸素濃度センサーPHDによるユニークなエネルギー代謝制御機構を紹介したい.

1. はじめに

低酸素に対する生体反応(低酸素応答)の多くは,転写因子HIFによって制御されていることが知られている1)

HIFは造血,血管新生,炎症,アポトーシス,オートファジーを含め,さまざまなイベントに関与する遺伝子の転写をつかさどっているが,その他にも細胞内エネルギー代謝に関する遺伝子群の転写を制御しており,HIFの活性化は嫌気解糖に関与するトランスポーターや代謝酵素を誘導して細胞のエネルギー代謝をミトコンドリアにおける酸化的リン酸化から細胞質での嫌気解糖へとシフトさせる.しかし,そのHIFもまた酸素濃度センサー分子・PHDによって負に制御されているため,PHDが低酸素時の細胞内エネルギー代謝を制御しているといえる2)

しかしながら,実際には後述するとおり低酸素環境下ではPHDやHIF非依存的なさまざまな低酸素応答が惹起される.また,HIFといっても,その三つのαサブユニット(HIF1α, HIF2α, HIF3α)には,それぞれ発現臓器・転写ターゲット・転写活性に差があるので(HIFといいながらも科学的根拠なしに最初にクローニングされたHIF1αにしか注視していない学会発表や論文が散見されるが),低酸素応答=HIFでもなければHIF=HIF1αでもない.

このようなことを踏まえたうえで,本稿では低酸素環境に対する応答反応のなかで,最もよく知られた酸素濃度センサーの一つであるプロリン水酸化酵素PHDによる細胞内エネルギー代謝制御機構についての筆者らの研究を報告したい.

2. PHD-HIF経路

HIFはαとβの二つのサブユニットのヘテロ二量体で形成される転写因子であり,数多くの低酸素関連遺伝子の転写をつかさどる.HIFのβ-サブユニット(HIF1β/ARNT)は恒常的に発現しているのに対して,α-サブユニット(HIFα;HIF1α~3α)は酸素濃度によって発現量が変動する.正常酸素濃度下では,HIFαのN末端側の転写活性化ドメイン(NTAD)内の特定のプロリン残基がプロリン水酸化酵素PHDによって水酸化され,それを指標にHIFαはVHL(von Hippel-Lindau)病の原因遺伝子産物pVHLを含むユビキチンリガーゼ複合体(VBC complex)によってユビキチン化され,プロテアソームでのタンパク質分解へと導かれる(図1).そのため,HIFはHIFα–HIF1βからなるヘテロ二量体を形成できず,HIFを介した低酸素応答は抑制される.一方,低酸素環境においては,その酵素活性に酸素分子を必要とするPHDの活性が低下し,HIFαはpVHL複合体によるユビキチン化を介したタンパク質分解を免れて急速に細胞内に蓄積し,HIF1β/ARNTと結合してヘテロ二量体を形成してゲノムDNA上の特定の配列(HRE:5′-R(A/G)CGT G-3′)を持つ低酸素関連遺伝子群の転写を亢進させ,HIFを介した低酸素応答が活性化する3)

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図1 PHD–HIF依存的低酸素応答

酸素濃度が低下するとPHDの酵素活性が抑制され,HIFαのプロリン残基(P)の水酸化を指標としたプロテアソームでのタンパク質分解が抑えられることでHIFαのタンパク質発現量が急激に上昇し,HIFαはHIF1βと結合してヘテロ二量体を形成し,転写因子HIFを介した低酸素応答が活性化する.さらに酸素濃度が低下するとFIH-1の酵素活性も抑制され,HIF1αあるいはHIF2αのC末端側のアスパラギン残基(N)の水酸化も低下し,転写共役因子p300がC末端側の転写活性化ドメインへ結合してHIFの転写活性が上昇する.

哺乳動物には三つのPHD遺伝子が同定されており,発現臓器や細胞内局在がそれぞれ異なることから,各々の遺伝子には固有の機能があるものと思われる4, 5)in vitroでは三つのPHDともHIFαの特定のプロリン残基を水酸化するが6)in vivoではPHD2が主要なHIFαのプロリン水酸化酵素であり,また発生に必須な分子である7, 8).PHD2は他の2分子と強調しながらHIFαのプロリン残基を水酸化することで,HIFを介した低酸素応答を負に制御している9)

HIFαにはHIF1α, HIF2α, HIF3αの三つの別個の遺伝子から転写されるアイソフォームが同定されており,HIF1αとHIF2αのC末端側の転写活性ドメイン(CTAD)の特定のアスパラギン残基はFIH-1(factor inhibiting HIF1α)によって酸素濃度依存的に水酸化修飾を受ける.このアスパラギン残基の水酸化はヒストンアセチル基転移酵素(HAT)活性を持った転写共役因子であるp300とCTADとの結合を阻害することでCTADの転写活性を抑制している.すなわち,PHDによってHIFαの発現量が,FIH-1によってHIFαのCTAD転写活性が,共にアミノ酸残基の水酸化によって二重に制御を受けていることになる.ただし,FIH-1の酸素分子に対するKm値は,PHDのそれと比較してかなり低いため6, 10),酸素濃度が低下するにつれ,まずPHDの酵素活性が低下してHIFαのタンパク質発現量が上昇してHIFが活性化し,その後さらに酸素濃度が低下するとFIH-1の酵素活性が低下しCTADにp300が結合し,HIFの転写活性が最大限にまで上昇する.

なお,HIF3αはCTADを欠くこともあり,HIF1αやHIF2αよりも転写活性が低いとされるだけではなく,IPAS, NEPASなど,いくつも知られているスプライシング・バリアント11, 12)のなかにはHIF1αやHIF2αの機能を競合的に阻害するものもある.そのスプライシング制御機構など,HIF3αについてはまだ解明されていない点が多い.

活性化したHIFは,自身を負に制御するはずのPHD3を(細胞種によってはPHD2も)転写する.あたかも,酸素濃度の低下に伴い減弱したPHDの酵素活性を発現量で補おうとしているかのようである.このように,我々の身体にはHIFが恒常的に活性化しないようにするネガティヴ・フィードバック機構が組み込まれていることがわかる(図2).慢性的なHIFの活性化が心筋におけるミトコンドリアの傷害および拡張型心筋症に類似した重篤な心不全を引き起こすこと7, 13, 14),HIFを負に制御する水酸化酵素が三つも遺伝子としてコードされていることからも,どうやら我々の身体は,HIFの恒常的な活性化をなんとかして回避しようとするようにデザインされていることをうかがい知ることができる.

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図2 HIFを介した低酸素応答の制御メカニズム

正常酸素濃度下では,PHDによってHIFαのタンパク質発現量が,FIH-1によってHIFα(HIF1αあるいはHIF2α)の転写活性が,共に負に制御されている.低酸素によってPHDによる抑制が解除されて活性化したHIFは,同時に自身を負に制御するPHD2とPHD3をも転写するため,我々の身体の細胞にはHIFの恒常的な活性化を防ぐネガティヴ・フィードバック機構が存在することがわかる.

3. PHD依存的代謝制御機構1——全身の細胞における嫌気解糖の活性化——

生体内における主要なHIFαのプロリン水酸化酵素であるPHD2の機能が抑えられると,HIFαの発現量が急速に上昇し,HIFが活性化する(図3).HIFはグルコースを細胞に取り込むトランスポーターや多くの解糖系酵素を誘導する.また,ピルビン酸をミトコンドリアTCAサイクルの基質であるアセチルCoAへと変換するピルビン酸デヒドロゲナーゼ(PDH)のE1βサブユニットがHIFによって誘導されるPDHキナーゼ(PDK1など)によってリン酸化されるとPDHの活性が抑制されるため15),HIFの活性化はピルビン酸のTCAサイクルでの利用を妨げる.その結果,細胞に取り込まれたグルコースから代謝されて産生されたピルビン酸は,同じくHIFによって誘導された乳酸デヒドロゲナーゼ(LDH-A)によって乳酸へと変換される.すなわち,HIFの活性化は嫌気解糖を活性化させ,その結果大量の乳酸が細胞外へと放出される2, 16)

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図3 Phd2を破壊するとHIFを活性化させることができる

マウス胎仔性線維芽細胞(Phd2+/+, Phd2+/−, Phd2−/−におけるHIF1α, Phd2, およびHIFの転写標的分子Glut1のウェスタンブロッティング.Phd2を欠損した細胞ではHIF1αの発現量が上昇することがわかる.マウス胎仔性線維芽細胞はHIF2αを発現していないため,HIF1αのみを図示した.

4. PHD依存的代謝制御機構2——肝細胞における乳酸クリアランスの活性化——

もし全身の細胞において低酸素応答が活性化したら,我々の個体はどうなるであろうか?そこで,低酸素センサー分子PHD2を欠損した細胞やマウスを用いて培養上清や血液中の乳酸を定量した.まず,PHD2を欠損したマウス胎仔性線維芽細胞(MEFs)においては,野生型対照群と比較して乳酸の細胞外への放出速度が有意に速く(図4A,左),培養上清のフェノールレッド試薬が黄色へと変色していることがわかる(図4A,右).この結果から,Phd2遺伝子を全身の細胞で破壊したマウスにおいては,全身の細胞の代謝が嫌気解糖に傾き,尿中に排泄できる量を上回る大量の乳酸が血中に放出され,個体は乳酸アシドーシスに陥ってしまうことが予想された.ところが,タモキシフェン誘導的にPhd2遺伝子を全身の細胞で破壊したマウス(Phd2-SKOマウス)においては,血中乳酸値は予想に反して対照群と比較してむしろ低値であり(図4B,左),また,運動によって生理的に乳酸を負荷すると,驚くべきことに血中乳酸値は対照群よりも有意に低下していた(図4B,右).尿中の乳酸濃度は両群間に差がなかったので,Phd2-SKOマウスでは,腎臓以外のいずれかの臓器が乳酸を処理(代謝)していることを意味している.

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図4 Phd2欠損細胞や,全身あるいは肝特異的Phd2破壊マウスにおける乳酸代謝

(A)左:野生型およびPhd2欠損マウス胎仔性線維芽細胞の培養上清中への乳酸放出速度(pmol/h/細胞).右:培養上清の写真.右のPhd2欠損マウスの培養上清の方が放出された乳酸によってpHが低下して培地中のフェノールレッド色素が黄色く変色していることがわかる.(B) Phd2を全身で欠損させたマウス(Phd2-SKO)および対照群(Control)における血中乳酸値.左:安静時,右:トレッドミル50分運動後.(C) Phd2を肝特異的に欠損させたマウス(Phd2-LKO)および対照群(Control)における血中乳酸値.左:安静時,右:トレッドミル50分運動後.(D) Phd2-LKOおよびControl群における乳酸(0.5 mg/g体重)腹腔内投与後の血中乳酸値の推移(左)と生存率(右).文献18の図より一部改変.

骨格筋細胞などにおける嫌気解糖の結果産生された乳酸は,血流に乗って肝臓に運ばれてグルコースへとリサイクル(糖新生)され,血流に乗って再び骨格筋などへ戻されることが古くから知られている(コリ回路)17)ため,筆者はPhd2-SKOマウスにおいては,乳酸の肝臓への取り込みが亢進しているのではないかと考えた.

そこで,Phd2を肝細胞特異的に破壊したマウス(Phd2-LKOマウス)を作製し,同様に血中乳酸値を測定したところ,Phd2-LKOマウスの安静時の血中乳酸値は対照群と差がなかったが(図4C,左),運動負荷によって生理的に乳酸値を上昇させると,Phd2-LKOマウスの血中乳酸値は対照群と比較して有意に低値であった(図4C,右).すなわち,肝臓でPHD2を抑制すると,乳酸クリアランス能力が強化されることが確認された.

さらに,体外から致死量の乳酸を負荷した乳酸アシドーシスモデルにおいても,Phd2-LKOマウスの血中乳酸値は対照群と比較して低値であり(図4D,左),その後のマウスの生存率も劇的に改善されていた(図4D,右).すなわち,肝臓においてPHD2の機能を抑制すると,致死的乳酸アシドーシスの生存率を改善できることが示された.肝細胞におけるPHD2阻害によって乳酸のクリアランスが改善する理由としては,乳酸を肝細胞内に取り込むモノカルボン酸トランスポーターMCT2や,細胞内に取り込んだ乳酸をピルビン酸へと変換する酵素LDH-Aの発現上昇などが考えられる18).肝細胞に取り込まれた乳酸の代謝経路については,炭素原子すべてを安定同位体13Cで置換した乳酸(13C3乳酸)を対照群およびPhd2-LKOマウスの腹腔内に投与し,その20分後に13C3乳酸から産生された血漿中グルコースを質量分析器で定量したところ,Phd2-LKOマウスの方が対照群と比較して投与した13C3乳酸由来のグルコースが有意に多かったため(図5A),肝細胞においてPHD2の機能を阻害すると,過剰投与した乳酸からの糖新生能力が強化されることが証明された.ただし,これらがすべてPHD2の抑制によるHIFの活性化だけで説明できるものなのかどうか,現時点では不明である

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図5 エンドトキシンショックモデルにおける経口PHD阻害剤の生存率改善効果

(A)安定同位体13Cで標識した乳酸(13C3乳酸)投与20分後の血漿グルコースに含まれる13C元素の定量.Phd2-LKO群では対照群より多くの乳酸が糖新生に利用されていることがわかる.(B) LPS(40 mg/kg体重)を腹腔内投与したマウスの生存率を,対照群あるいは経口PHD阻害剤(GSK360A 30 mg/kg体重)投与群の2群間で比較した.(C)経口PHD阻害剤による乳酸アシドーシスの治療法の作用メカニズム.文献18の図より一部改変.

乳酸アシドーシスは,敗血症などのエンドトキシンショックに合併し,生命予後を悪化させる病態である.そこで筆者らは,致死量の大腸菌毒素(LPS:リポポリサッカライド)を投与して作製したエンドトキシンショックモデルマウスを作製し,PHD2の阻害がその生存率を改善させるか否かを調べた.PHD2の阻害剤GSK360Aを経口胃管投与(oral gavage)したマウス群においては,対照群と比較してマウスの生存率の著明な改善が確認できた(図5B).経消化管的に投与された薬剤は,消化管での吸収後門脈を経由してまず肝臓に作用するため,この研究結果は,PHD阻害剤の経口投与が,肝臓における低酸素応答を活性化し,重症感染症などに合併した乳酸アシドーシスにおいて血中乳酸値を低下させて生存率を改善することが可能であることを意味している18)

致死率の高い敗血症などの重篤な感染症の治療成績は血中乳酸値と逆相関するため,重症感染症の治療には原疾患の治療と同時に血中乳酸値を低下させることが必須となる19).今後,肝臓におけるPHD2を介した低酸素応答を標的とした乳酸アシドーシスの新規治療法が,重症感染症などの治療成績を改善することが期待される(図5C).

経口PHD阻害剤はFG-4592(roxadustat)が慢性腎臓病(CKD)患者の腎性貧血治療薬として現在臨床治験中であるが,腎性貧血だけでなく,乳酸アシドーシスへの適応拡大を今後試みたいと思っている.

ただし,先述したとおり,ここで示した肝細胞における乳酸クリアランス機構はPHD依存的なものではあるものの,これが果たしてHIFを介した低酸素応答の結果なのか否かについては現時点では不明である.マスターレギュレーターとも呼ばれるHIFαのクローニング,およびそのプロリン水酸化を介したpVHL依存的ユビキチン–プロテアソーム系によるタンパク質分解機構の解明以来,低酸素応答の多くがPHD–HIF経路で制御されていることが明らかとなったが,PHDにもHIFα以外の基質が同定されつつあり20, 21),PHD依存的だがHIF非依存的な低酸素応答の分子メカニズムについても,今後明らかにされていくものと思われる.

5. PHD非依存的代謝制御機構

先述したとおり,細胞内にはシトクロムcオキシダーゼやヘムオキシゲナーゼなど,オキシダーゼ・オキシゲナーゼと呼ばれる多数の酸素添加酵素がある.各々の酵素の酸素分子に対するKm値に差こそあれ,これらの酵素は酸素濃度の低下に伴い酵素活性が低下し,さまざまな生理機能がこれらの酵素活性の変動によって制御されており,PHDだけでなくこれらの酵素もみな酸素濃度センサーとして生体の生理機能を制御しているといえよう.たとえば,頸動脈小体における呼吸制御22, 23)や低酸素性肺血管収縮(hypoxic pulmonary vasoconstriction:HPV)24)などは,古くから知られる“低酸素応答”である.JmjCドメインを持つヒストンリシン脱メチル化酵素(KDMs)やメチル化シトシンジオキシゲナーゼ(ten-eleven translocation methylcytosine diokygenase 1–3:TET1–3)などは,PHDやFIH-1と同ファミリーに属する2-オキソグルタル酸・鉄依存的ジオキシゲナーゼであり,低酸素によってその活性が抑制されるため,低酸素応答はエピジェネティクスも制御していることがわかる.また,脳においては,低酸素時にヘムオキシゲナーゼHO-2の活性が低下することで一酸化炭素(CO)の産生量が減少し,COによって活性が抑制されていたシスタチオニンβ合成酵素(CBS)が活性化した結果産生された硫化水素(H2S)によって脳血管が拡張することが明らかとなった25).O2−NO−H2Sという異種ガス状分子のクロストークによって生理機能が複雑に制御されているという事実は大変興味深い.

このように,低酸素応答を正しく掌握するためには,よく研究されているPHDやHIFを介した低酸素応答だけでなく,それ以外の低酸素応答メカニズムをも含めて総合的に理解することが重要である.

6. おわりに

本稿でご紹介させていただいたように,「細胞内のエネルギー代謝システムを嫌気解糖へと傾けると思われていた低酸素応答が,実は肝細胞においては相反する代謝経路である糖新生を活性化していた」といったふうに,我々の身体にプログラムされた低酸素応答にはいまだに解明されていない部分が多く残っている.低酸素応答機構の全貌解明に向けて,既知の知見を参考にしながらも,PHDやHIFといったある特定の分子だけに縛られない,広い視野と柔軟性を持った研究を心がけたいと思っている.

謝辞Acknowledgments

本稿で紹介した研究の多くは,慶應義塾大学医学部の医化学教室・麻酔学教室・臨床研究推進センターの教員・大学院生・技術員の尽力のもとに進められた.この場をお借りして厚く御礼申し上げたい.

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著者紹介Author Profile

南嶋 洋司(みなみしま ようじ)

九州大学生体防御医学研究所細胞機能制御学部門分子医科学分野特別研究員.博士(医学).

略歴

1968年アメリカ合衆国テキサス州ヒューストン生まれ.93年九州大学医学部卒業.2002年同大学院医学系研究科修了後,Howard Hughes Medical Institute, Dana-Farber Cancer Institute, Harvard Medical Schoolにて博士研究員.10年より慶應義塾大学医学部医化学講師.16年より九州大学生体防御医学研究所細胞機能制御学部門分子医科学分野.

研究テーマと抱負

癌・細胞周期制御・細胞老化・低酸素応答・ガス状分子への応答反応など,生体内のさまざまな生理的・病理的イベントにおけるエネルギー代謝制御メカニズムをin vitro/in cellulo/in situ/in vivoレベルで解明することを目標としております.

ウェブサイト

http://orcid.org/0000-0001-7995-9318

趣味

音楽鑑賞,バイク,散歩,サッカー,フルマラソン,テニス,野球.

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