Online ISSN: 2189-0544 Print ISSN: 0037-1017
公益社団法人日本生化学会 The Japanese Biochemical Society
Journal of Japanese Biochemical Society 88(3): 406-410 (2016)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2016.880406

みにれびゅうMini Review

トリガーファクターシャペロンによる動的基質認識の構造基盤Dynamic Recognition of Unfolded Proteins by the Trigger Factor Chaperone as investigated by NMR

1北海道大学大学院理学研究院化学部門Graduate School of Chemical Sciences and Engineering, Hokkaido University ◇ 〒060–0810 札幌市北区北10条西8丁目理学部7号館 ◇ School of Science Bldg. 7, Kita 10-jo Nishi 8-chome, Kita-ku, Sapporo 〒060–0810

2北海道大学大学院総合化学院Department of Chemistry, Faculty of Science, Hokkaido University ◇ 

3JSTさきがけPRESTO, JST ◇ 

発行日:2016年6月25日Published: June 25, 2016
HTMLPDFEPUB3

1. はじめに

細胞内では転写・翻訳,さらにタンパク質の折りたたみ・輸送・分解が高度に統制のとれた状態に保持されているが,そこで重要な役割を果たすのがシャペロンである(図1A).細胞内にはさまざまなシャペロンが存在し,それらが共同的に機能することによって翻訳直後のタンパク質(新生鎖)の折りたたみや輸送を補助している1).翻訳直後の新生鎖は高次構造をとらない変性状態として細胞質に放出され,本来タンパク質のコアを形成するべき疎水性領域が露出しているため凝集や分解のリスクが高い.タンパク質濃度が300~400 mg/mLにも達する2)細胞内において,凝集,ミスフォールディングを回避して新生鎖が特定の場所に輸送されそこで折りたたまれるためには,シャペロンによる補助がなくてはならない.そのような重要な機能にも関わらず,シャペロンの詳細な作用機序については大部分が未解明のままである.その最大の理由の一つが,シャペロンと基質タンパク質との相互作用はダイナミックかつ過渡的であるため,複合体での立体構造解析が困難であることである.本稿ではシャペロン,特にトリガーファクター(TF)シャペロンの機能やその作用メカニズムについて,我々の研究成果を中心に紹介する.

Journal of Japanese Biochemical Society 88(3): 406-410 (2016)

図1 細胞内におけるシャペロンの多彩な機能

(A)細胞内におけるタンパク質合成・折りたたみ・輸送・分解と,それらを仲介するシャペロンタンパク質.(B)TFの立体構造.(C)トリガーファクター(TF)シャペロンの機能.

2. シャペロンの多彩な働き

シャペロンの最も重要な機能は,まだ立体構造をとらない新生鎖との相互作用によって新生鎖の折りたたみを補助することであるが,それ以外にもシャペロンは多くの機能を持つことが知られている.細胞膜や細胞小器官(オルガネラ)に移行するタンパク質はシグナル配列を持つが,そのようなタンパク質の輸送においてはシャペロンが重要な役割を担う.大腸菌ではTF, SecB, SecA, SurAなどのシャペロンがタンパク質輸送に関わることが知られている3).また,DnaKとClpBが協調的に機能し凝集したタンパク質をほどく脱凝集活性を持ち4, 5),DnaK, ClpX, ClpAがミスフォールドしたタンパク質の折りたたみをほどくアンフォールダーゼ活性を持つ.ClpXとClpAはタンパク質分解酵素であるClpPと直接相互作用することによって,折りたたみに失敗したタンパク質の分解・除去にも寄与する6)

3. トリガーファクターシャペロン

大腸菌における主要なシャペロンとしてTF, DnaK, DnaJ, GroEL-ESなどが知られるが,中でもリボソーム結合型シャペロンであるTFは,リボソームにより合成されるほぼすべての細胞質内タンパク質,さらに一部の膜移行タンパク質と相互作用する,非常に汎用性の高いシャペロンである7).TFはribosome-binding domain(RBD1–112),substrate-binding domain(SBD113–149,247–432),peptidylprolyl isomerase domain(PPD150–246)から構成され(図1B),その細長く特徴的な立体構造は,PPDを頭,SBDのarm 1, 2を翼,RBDを尾に見立てて“dragon shape”とも形容される.TFはRBDを介してリボソームexit channel近傍に結合し,PPDとSBDとがexit channelに覆いかぶさるように位置することでリボソームから出てきた直後の新生鎖と相互作用し8),立体構造をまだとらない変性状態の新生鎖を凝集や分解から保護する.また,TFは細胞質中に50 µM程度という高濃度で存在し,細胞質タンパク質の凝集を抑制する抗凝集活性を持つほか,比較的小さなサブユニットタンパク質と結合し複合体への組み込みを補助するなどといった多様な機能も知られている9)図1C).これまでの研究によってTF単独8),TF-リボソーム複合体8),折りたたまれた基質タンパク質との複合体9)の結晶構造が決定されているが,変性状態の基質タンパク質との複合体構造は決定されておらず,TFの主要な機能である変性タンパク質との相互作用についての情報はごく限られていた.TFのみならず他のシャペロンについても,変性状態の基質認識における分子機構は大部分が未解明であった.その最大の理由は,ダイナミックで過渡的なシャペロン–基質間の相互作用と複合体のサイズであった.シャペロンは変性状態の基質と弱くダイナミックな相互作用をし,さらに変性基質それ自体の運動性が高いことから複合体での結晶構造解析が難しい.一方,分子を溶液状態で観測する核磁気共鳴(NMR)法は動的なシステムや弱い相互作用の解析に適しているが,従来のNMR法では分子量上の制限が大きな壁となっていた.TFは溶液中で100 kDaの二量体として存在するほか,DnaK(70 kDa),DnaJ(二量体,80 kDa),GroEL(14量体,800 kDa)など主要なシャペロンの多くは従来のNMR法にとって高分子量であり,本格的な構造解析がなされていなかった.

4. NMRによるTFシャペロンの構造解析

我々はメチル基選択的安定同位体標識法10)やmethyl-TROSY11)などを駆使した最新のNMR法を用いることによって,TFによる変性状態の基質タンパク質の認識メカニズム解明に取り組んだ12).中でもタンパク質中に豊富に存在するメチル基を特異的に13C1H3標識し,他を重水素化(2H)するメチル基選択的安定同位体標識法は,重要な立体構造情報を失わずに横緩和を抑えることでNMR信号を先鋭化・高感度化する強力な手法である(図2A10, 11).メチル基を持つアミノ酸はタンパク質中に豊富に存在していることから,この手法によってNMRスペクトルを高感度化・高分解能化する一方で重要な立体構造情報を失わずに構造解析を進めることが可能になる(図2B).

Journal of Japanese Biochemical Society 88(3): 406-410 (2016)

図2 TFとPhoAに対するNMR解析

(A) TFPPD-SBD1H-13C HMQCスペクトル.Ile, Leu, Val, Ala, Metのメチル基が選択的に13C1H3標識されている.(B)選択的標識が可能なアミノ酸のマッピング.TF中の各アミノ酸の個数を括弧内の数字で表している.(C)TF上に同定された4か所の基質結合サイト(A~D).(D)PhoA上に同定された7か所のTF結合領域(a~g).点線で囲まれた三つの領域それぞれに1分子のTFが結合する.

本研究では変性状態の基質タンパク質としてアルカリホスファターゼPhoAを用いた.一般的にタンパク質を変性状態に保つためには尿素やグアニジンなどの変性剤を高濃度で加える必要があるが,シャペロンとの複合体形成のためには変性剤を取り除かなければならない.変性剤を取り除いたあとの基質タンパク質は凝集しやすく,構造解析に適した均一なサンプルを得ることが困難である.しかし本研究で用いたPhoAは酸化還元状態でその折りたたみが制御されていることが知られており,我々のNMRを用いた実験によっても,PhoAは2-メルカプトエタノールやジチオトレイトール(DTT)などの還元剤存在下で立体構造を持たない変性状態として存在することが確認された12).変性PhoAのNMR信号強度は均一で,可溶性も高く,シャペロンとの複合体解析に理想的なタンパク質であった.

5. TFは特異的かつダイナミックに基質タンパク質を認識する

PhoA, TFの両者の相互作用領域を決定するためNMR滴定実験を行った結果,TF上に4か所(TF-A, B, C, D),PhoA上に7か所(PhoAa–g)の結合サイトが存在することが明らかになった12)図2C, D).TF上の4か所のサイトのうち3か所がTFSBD上に,1か所がTFPPD上に存在していた.短いPhoAフラグメント(例:PhoAa,PhoAc1,PhoAc2,またはPhoAc3)から長いフラグメント(例:PhoAa–c,PhoAde)まで段階的に領域を変えて相互作用解析を行った結果,フラグメントごとにTF上のサイトへの特異性が異なることが明らかになった.いくつかのPhoA上の結合領域は特異性が低く複数のTF上のサイトに結合する一方,ある特定のTF上のサイトに結合するものもあった.より長いフラグメントではその特異性の組み合わせによって特定のコンホメーションに落ち着くことが明らかになり,本研究ではその最安定状態の複合体立体構造をNMRにより決定した(図3A12).決定された複合体立体構造から,TF上の4か所の独立したサイトが基質PhoAの疎水性領域,特に芳香族アミノ酸を含む領域を認識し,arm1, arm2で形成されるcavity内部にPhoAが格納されていることが明らかになった(図3A).また,複数のサイトを介した結合によってPhoAは90 Å程度にわたって引き伸ばされた状態に保持されていた.このようにTFは基質の疎水性領域を互いに引き離した状態で保持することによって,基質の凝集とミスフォールディングを防いでいることが明らかとなった12)

Journal of Japanese Biochemical Society 88(3): 406-410 (2016)

図3 TFによる基質認識

(A)TF-PhoAa–cの複合体立体構造.PhoA上の結合領域がTF上の4か所の基質結合サイトに認識されることによって,PhoAの疎水性領域が互いに引き離された状態で保持される.(B)NMR緩和分散法によって,PhoAとTFの相互作用は比較的速い結合–解離によって成り立っていることが明らかになった.(C)TFの抗凝集活性の評価.グアニジン変性GAPDHをグアニジンを含まない緩衝液中に希釈した後の凝集体の形成を光散乱強度によって追跡した.

上記のようにTFはPhoAと特異的に相互作用し,またKd 2 µM程度と比較的親和性も高いことが明らかになったが,一方でNMR緩和分散法によってPhoAとTFの結合–解離の交換を観測した結果,交換速度定数kex 1300~1500 s−1,PhoAのTF上での滞在時間約20 msと,比較的速い交換が起こっていることが明らかになった(図3B12).このダイナミックな結合・解離が,タンパク質の折りたたみを補助するというTFのシャペロンとしての機能上重要であると考えられる.つまりTFは基質の疎水性領域と結合して凝集を抑制する一方,時たま基質を解放し基質に折りたたみの機会を与えていると予想される.

立体構造解析によってTF上の4か所の基質結合サイトが基質の複数の疎水性領域と結合することが明らかになったが,この複数サイトを介した基質認識はTFの抗凝集活性に重要であることも明らかになった(図3C).グリセルアルデヒド3-リン酸脱水素酵素(GAPDH)を基質として用い,グアニジン変性状態からのリフォールディングにおける凝集体形成を光散乱によってリアルタイム観測したところ,TF存在下では凝集体の形成が強力に抑制されていることが示された.一方で,4か所の基質結合サイトのうち1か所のみであってもアミノ酸変異によって基質結合能をなくすとTFの抗凝集活性が著しく低下することが明らかになった12)

本研究によって,TFシャペロンは複数の基質結合サイトを使って変性タンパク質の疎水性領域とダイナミックに結合し変性タンパク質の凝集を抑制することが明らかになった.GroELなどの他のシャペロンについても複数の基質結合サイトがあることから,本研究によって明らかにされたTFによる基質認識機構は他の多くのシャペロンに共通する普遍的なメカニズムである可能性がある.

6. おわりに

シャペロンはタンパク質の折りたたみ,輸送,分解などといった生命活動の根幹をなす場面において重要な機能を果たすが,その詳細な作用メカニズムはほとんど明らかにされていない.シャペロン単独での結晶構造は数多く報告されているものの,シャペロンがどのように基質と相互作用するのか,またどのように基質の折りたたみに寄与するのか,などといったことに対する知見は限られている.我々の研究によって,TFシャペロンに対する基質認識メカニズムの一端が明らかにされたものの,まだまだ研究の余地は残されている.さらに最近の研究によって,複数のシャペロンが共同的に機能し,ネットワークとして基質タンパク質の折りたたみや輸送,脱凝集,分解などを行うということが示唆されている13, 14).シャペロンネットワークは弱く過渡的な相互作用によって仲介されるためこれまで構造生物学研究が進んでいなかったが,溶液状態のタンパク質を原子分解能で観測できるNMR法は今後のシャペロン研究において最も強力なツールの一つになると期待される.

謝辞Acknowledgments

本研究はミネソタ大学Charalampos Kalodimos教授,Paolo Rossi博士,ハーバード大学Xiao Guan博士をはじめ,多くの共同研究者のご指導・ご協力のもと行われました.共同研究者の方々に深く御礼申し上げます.現在も北海道大学大学院理学研究院化学部門構造化学研究室(石森浩一郎教授)にて本研究をさらに発展させています.本研究の一部は科学技術振興機構さきがけの助成を受けています.

著者紹介Author Profile

斉尾 智英(さいお ともひで)

北海道大学大学院理学研究院化学部門助教.博士(生命科学).

略歴

1983年千葉県に生る.2006年北海道大学薬学部卒業.11年同大学院生命科学院博士課程修了.米国ラトガース大学博士研究員を経て14年より現職.

研究テーマと抱負

専門はNMRによるタンパク質の構造解析.タンパク質のフォールディングおよび輸送における分子シャペロンの作用メカニズムをNMRにより明らかにしたい.

ウェブサイト

http://wwwchem.sci.hokudai.ac.jp/~stchem/

趣味

スキー.

This page was created on 2016-05-11T10:13:18.766+09:00
This page was last modified on 2016-06-17T15:02:19.720+09:00


このサイトは(株)国際文献社によって運用されています。