生化学 SEIKAGAKU
Journal of Japanese Biochemical Society

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Journal of Japanese Biochemical Society 88(3): 411-415 (2016)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2016.880411

みにれびゅうMini Review

宿主細胞コレステロール生合成系を標的としたC型肝炎ウイルスに対する抗ウイルス戦略Host cholesterol biosynthesis as a potential target for anti-hepatitis C virus strategies

国立感染症研究所細胞化学部Department of Biochemistry and Cell Biology National Institute of Infectious Diseases ◇ 〒162–8640 東京都新宿区戸山1–23–1 ◇ 1–23–1 Toyama, Shinjuku-ku, Tokyo 162–8640, Japan

発行日:2016年6月25日Published: June 25, 2016
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1. はじめに

C型肝炎はフラビウイルス科ヘパシウイルス属のC型肝炎ウイルス(hepatitis C virus:HCV)により引き起こされる疾患である.無治療でいると高率で肝硬変,肝がんを発症することが知られ,慢性感染者は日本では約150万人,世界では約1億5000万人に上る.従来のインターフェロン療法に加え,HCV非構造タンパク質を標的とする直接作用型抗ウイルス薬が近年登場したことにより,C型肝炎の治癒率は劇的に向上した.しかしながら,ウイルスを標的とした治療薬は耐性ウイルスの出現リスクと隣り合わせであり,より耐性を生じにくい宿主因子を標的とした治療戦略も有用であろう.

我々は従来のHCV細胞培養系を基に,よりHCV産生能の高い実験系を構築し1),コレステロール生合成に関わるスクアレンシンターゼ(SQS)が抗HCV標的となりうることを見いだした2).本稿では,宿主細胞コレステロール生合成系を標的とした抗HCV戦略について紹介する.

2. HCV生活環と細胞培養系

HCVは一本鎖のRNAゲノムを持つエンベロープウイルスで,そのゲノムにはコアタンパク質,エンベロープタンパク質といった構造タンパク質と,ゲノム複製やアセンブリーに関わる7種の非構造タンパク質がコードされている.ウイルス粒子が受容体に結合し,エンドサイトーシスによって細胞内に侵入すると,ゲノムは細胞質に放出され,小胞体で翻訳・複製される.その後,新たに組み立てられたウイルス粒子は小胞体内腔に出芽し,分泌経路を経て細胞外へと放出される.この一連の生活環は,Wakitaらが分離したHCV JFH1株3)を使うことにより,培養細胞で再現可能になった.また,ヒト肝がん由来のHuh7細胞から,HCV複製能が高いHuh7.5.1細胞4)も開発され,JFH1株とともに世界中で汎用されている.

最初に我々が導入したHuh7.5.1親株細胞では感染感受性が均一ではなく,HCVに高感受性と低感受性細胞が混じっていると考えられた.そこで,細胞のクローニングを行ったところ,元の親株細胞に比べてHCV産生能が約10倍高く,継代培養を1年以上繰り返しても高感受性が維持されたHuh7.5.1-8細胞を得ることができた1).我々はさらに,JFH1株を基にHuh7.5.1細胞への感染効率が高くなったウイルス変異株も分離し,Huh7.5.1-8細胞と組み合わせた結果,元の実験系よりも約1000倍HCV産生能が上昇した非常に有用なHCV細胞培養系を構築することができた(白砂ら,投稿準備中).

3. 新たな抗HCV標的候補:スクアレンシンターゼ(SQS)

HCVはウイルス粒子そのものがコレステロール,スフィンゴ脂質,コレステリルエステルなどの脂質に富んでおり,生活環のさまざまな局面で,宿主細胞のコレステロールやリポタンパク質を利用していることが知られる5).たとえば,細胞への侵入やゲノム複製には宿主細胞の脂質ラフトを利用する.また,ウイルス粒子はコレステリルエステル等を貯蔵する脂肪滴の周辺で形成され,超低密度リポタンパク質の分泌系を利用して細胞外へ放出される.これらのことから,コレステロール生合成系(図16)は抗HCV標的の候補と考えられてきた.HCVの細胞培養系が確立されていなかったころ,HCVのゲノム複製過程を再現することができるサブゲノミックレプリコン(構造遺伝子の代わりに薬剤耐性遺伝子等を有し,自律複製するサブゲノム)を使って,コレステロール生合成系の律速酵素,3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリルコエンザイムA(HMG-CoA)レダクターゼの阻害剤・スタチンがHCVゲノム複製過程を阻害することが報告された7).ところが,その主要な抗HCV効果はコレステロール低下によるものではなく,主にタンパク質のプレニル化に関わるゲラニルゲラニル二リン酸の低下に起因するものであった.

Journal of Japanese Biochemical Society 88(3): 411-415 (2016)

図1 哺乳動物細胞におけるコレステロール生合成経路

HMG:3-ヒドロキシ-3-メチルグルタリル,CoA:コエンザイムA, SQS:スクアレンシンターゼ,SQLE:スクアレンエポキシダーゼ,LSS:ラノステロールシンターゼ,CYP51A1:ラノステロール14-αデメチラーゼ,TM7SF2:Δ14-ステロールレダクターゼ,EBP:Δ7-イソメラーゼ,SC5DL:ステロール-C5-デサチュラーゼ,DHCR7:7-デヒドロコレステロールレダクターゼ,DHCR24:24-デヒドロコレステロールレダクターゼ,ACAT:アシル-CoA:コレステロールアシルトランスフェラーゼ.本文で取り上げた酵素は黄色,その阻害剤は赤色で示した.

我々はHCV産生におけるコレステロール生合成の重要性を明らかにするため,SQSに着目した.SQSはコレステロール生合成に特化した経路の初発酵素であり,その阻害剤は非ステロールイソプレノイドの低下を伴わずに,コレステロール合成を阻害する.上述したHuh7.5.1-8細胞とJFH1適応変異株を用いて,我々はSQS阻害剤・YM-53601が細胞増殖には影響を及ぼさずに,HCV産生を強く阻害することを見いだした2).別のSQS阻害剤,ザラゴジン酸Aや,siRNAによるSQSのノックダウンでもHCV産生の低下が観察されたことから,SQSが抗HCV標的となる可能性を示すことができた.また別のグループも,siRNAライブラリーを利用してHCV産生に関わる宿主因子の網羅的解析を行い,SQSを同定している8)

4. SQS阻害剤による抗HCV機序

YM-53601で処理した細胞では,実際にコレステロールとコレステリルエステルの合成が低下しており,両脂質に富む低密度リポタンパク質をHCV感染細胞の培地に添加すると,YM-53601の抗HCV効果が減弱した.一方,アシルコエンザイムA:コレステロールアシルトランスフェラーゼ(ACA T)の阻害剤Sandoz 58-035を用いて,コレステリルエステル合成を特異的に阻害すると,HCV産生の低下はみられなかった.これらの結果から,YM-53601の抗HCV効果は,コレステリルエステルの低下ではなく,コレステロールの低下によることが明らかとなった.興味深いことに,YM-53601によるコレステロール量の減少が10%にも満たない条件でもHCV産生は強く抑制されていた.このことからHCV感染には,新規合成と関連する特殊なコレステロールプールが重要である可能性が考えられる.

5. SQS阻害剤による抗HCV効果のHCV遺伝子型依存性

HCVには10種以上の遺伝子型が知られており,JFH1株が含まれる遺伝子型2a以外は,まだ効率的な培養系が確立されていない.しかし,ゲノム複製を再現するサブゲノミックレプリコンと,細胞侵入過程を再現するシュードタイプウイルス(HCVのエンベロープタンパク質を覆ったレトロウイルス)は他の遺伝子型でも利用可能である.これらを用いた解析の結果,YM-53601はJFH1株のゲノム複製と侵入過程を阻害したが,Con1株(遺伝子型1b)の複製とTH株(遺伝子型1b)の侵入については阻害しなかった.したがって,複製と侵入過程におけるコレステロールの重要度については,遺伝子型によって違いがある可能性が考えられた.今後,さまざまな遺伝子型HCVの完全培養系が利用可能となった場合には,SQS阻害剤の抗HCV効果を詳細に検討する必要がある.

6. その他のコレステロール生合成系標的薬剤の抗HCV効果

近年,SQS以外にも6種のコレステロール生合成関連酵素が抗HCV標的となる可能性が報告されており(表1),HCV生活環においてコレステロール生合成系が重要であることの裏づけとなっている.

表1 抗HCV効果を示すコレステロール生合成系標的薬剤(スクアレン合成以降)
薬剤標的酵素生活環の阻害過程*実験系(遺伝子型)文献
YM-53601**SQS複製・侵入HCVcc (2a)2, 8
レプリコン(2a)2, 8
HCVpp (2a)2
ザラゴジン酸A***SQSHCVcc (2a)2
クロミフェンSQLE複製レプリコン(1b)9
Ro 48-8071LSS複製レプリコン(1b)9
U18666ALSS・ DHCR24複製レプリコン(2a・1b)9, 11
HCVcc (2a)11
キメラマウス(1b)11
アモロルフィンCYP51A1複製レプリコン(1b)9
フェンプロピモルフCYP51A1複製レプリコン(1b)9
テルコナゾルCYP51A1複製レプリコン(1b)9
AY-9944DHCR7複製レプリコン(2a・1b)9, 10
HCVcc (2a)10
トリパラノールDHCR24複製レプリコン(1b)9
TMP-153ACATアセンブリー (複製は阻害せず)HCVcc (2a)12
YIC-C8-434ACATアセンブリー (複製は弱い阻害)HCVcc (2a)13
酵素名は本文参照.HCVcc:HCV細胞培養系,HCVpp:HCVシュードタイプウイルス.*記載のない増殖過程については未評価.**1bの複製・侵入は阻害しない(文献2).***1bの複製は阻害しない(文献9).

1)スクアレンエポキシダーゼ(SQLE)・ラノステロールシンターゼ(LSS)・ラノステロール14-αデメチラーゼ(CYP51A1)

Owensらは遺伝子型1bのサブゲノミックレプリコンの系を用いて,SQLE, LSSおよびCYP51A1の阻害剤が,細胞毒性を示さずに抗HCV効果を示すことを報告している9).特にLSS阻害剤であるRo 48-8071とU18666Aの阻害効果は強く,IC50はnMオーダーであった.U18666AはLSSのほか,24-デヒドロコレステロールレダクターゼ(DHCR24)やコレステロール輸送の阻害剤としても知られており,その抗HCV効果の詳細は3)項で述べる.

2)7-デヒドロコレステロールレダクターゼ(DHCR7)

RodgersらはJFH1株感染細胞の脂質代謝物を解析し,非感染細胞の約10倍量のデスモステロールが感染細胞に蓄積していることを報告した10).デスモステロールは,DHCR7によって7-デヒドロデスモステロールから合成される.DHCR7をノックダウンした細胞や,DHCR7阻害剤AY-9944で処理した細胞では,HCV産生の低下がみられ,培地にデスモステロールを添加すると産生は回復した.一方,コレステロールの添加では回復が部分的であったことから,DHCR7阻害による抗HCV効果は主にデスモステロールの低下によるものと示唆されている.また,サブゲノミックレプリコンの系においてもAY-9944の抗HCV効果がみられることから9, 10),ゲノム複製過程が同薬剤の標的の一つと考えられる.デスモステロールはコレステロール前駆体というだけではなく,HCV複製における固有の機能を持つと考えられ,今後の解析が待たれる.

3)DHCR24

TakanoらはサブゲノミックレプリコンとJFH1株細胞培養系を用い,DHCR24をノックダウンした細胞や,DHCR24阻害剤U18666Aで処理した細胞で,HCVのRNA複製が阻害されることを報告した11).HCV感染動物モデルである,ヒトの肝細胞を移植したキメラマウスの系においても,同薬剤はHCV感染(遺伝子型1b)を抑制する効果があり,ペグ化インターフェロンとの併用による相乗的な抗ウイルス効果もみられている.

4)ACAT

ACA Tはコレステロール生合成系ではないが,関連酵素として紹介する.我々の実験では,Sandoz 58-035に抗HCV効果は認められなかったが,別のACA T阻害剤TMP-153やYIC-C8-434については,HCV粒子のアセンブリーを阻害するとの報告がある12, 13).YIC-C8-434で処理した細胞では脂肪滴の減数と肥大化がみられることから,脂肪滴の構造変化がアセンブリーに影響しているのかもしれない.HCV粒子はコレステリルエステル含量が高いことから,同脂質が成熟ウイルス粒子の形成に重要である可能性が示唆されている.

7. コレステロール生合成系の抗HCV標的としての展望

培養細胞での抗HCV効果が報告されたコレステロール生合成系標的薬剤の中で,動物実験レベルでの抗HCV効果を報告している薬剤はU18666Aのみであり,抗HCV薬への応用を目指す上では重要な検討課題の一つである.またOwensらは,LSS以降のコレステロール生合成系阻害剤どうしあるいは同阻害剤とゲラニルゲラニル化阻害剤を組み合わせると,相乗的な抗HCV効果を生むことを報告しており9),このような阻害剤の併用は有望な戦略の一つであろう.さらに,U18666Aでみられたように,既存抗ウイルス薬との併用で,抗HCV効果の増強が期待できるかもしれない.実際,先行するスタチンについては,患者を対象とした無作為化比較試験のメタ解析で,単剤投与では無効だが,ペグ化インターフェロン+リバビリンに併用すると,有意に持続的なウイルス陰性化が得られるとの結果が出ている14)

もともとコレステロール生合成系標的薬剤は,コレステロール低下薬としてのスタチンの成功を受け,開発が盛んになった経緯がある.スタチンには非ステロールイソプレノイド低下に起因する副作用があるため,それよりも下流にあるSQS等を標的とすれば副作用が少ないと期待されていた.しかし,SQS以降の標的薬剤で治療薬として上市されたものはない.培養細胞レベルでの抗HCV効果を踏まえると,過去に開発され,日の目を浴びなかったコレステロール生合成系標的薬剤の中にはHCV産生阻害能の高いものが存在する可能性があり,抗HCV作用を指標にしたスクリーニングを行うことで,新規抗HCV薬の発見へと結びつくかもしれない.

謝辞Acknowledgments

ご助言,ご協力を賜りました国立感染症研究所・細胞化学部の花田賢太郎部長・白砂圭崇博士,同研究所の脇田隆字副所長,同研究所・ウイルス第2部の相崎英樹博士,浜松医科大学の鈴木哲朗教授,昭和薬科大学の西島正弘学長に深く感謝いたします.

引用文献References

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著者紹介Author Profile

齊藤 恭子(さいとう きょうこ)

国立感染症研究所細胞化学部主任研究官.博士(薬学).

略歴

1991年3月東京大学大学院薬学系研究科修士課程修了.同年4月より国立予防衛生研究所(現国立感染症研究所)化学部(現細胞化学部)研究員.2007年4月より現職.

研究テーマと抱負

ウイルス感染における宿主膜脂質の機能に関する研究.脂質生化学のバックグラウンドを活かして,ウイルス感染症の理解に微力ながら貢献したいと考えている.

趣味

旅行.

深澤 征義(ふかさわ まさよし)

国立感染症研究所細胞化学部第三室室長.博士(薬学).

略歴

1995年東京大学大学院薬学系研究科博士課程修了.同年国立予防衛生研究所(現国立感染症研究所)細胞化学部協力研究員.研究員,主任研究官を経て,2006年第三室室長.02~04年米国留学.

研究テーマと抱負

「ウイルス生活環における宿主因子の役割」について,C型,B型肝炎ウイルスを中心に遺伝学的・免疫学的手法等により解析中.効率的な感染・増殖系のない病原体の培養細胞感染系の構築にも取り組み始めている.

ウェブサイト

http://www.nih.go.jp/niid/ja/from-lab-e/477-biochem/907-bichem-home.html

趣味

音楽鑑賞,読書.

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