生化学 SEIKAGAKU
Journal of Japanese Biochemical Society

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Journal of Japanese Biochemical Society 88(4): 525-528 (2016)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2016.880525

みにれびゅうMini Review

HIV-Envを介した膜融合の時空間制御機構研究の動向とその動的解析のためのレポーターの開発Trends in research for spatio-temporal regulatory mechanism of HIV-Env-mediated membrane fusion & development of a reporter for analysis of the membrane fusion dynamics

関西医科大学附属生命医学研究所Institute of Biomedical Science, Kansai Medical University ◇ 〒573–1010 大阪府枚方市新町2–5–1 ◇ 2–5–1 Shinmachi, Hirakata, Osaka 573–1010, Japan

発行日:2016年8月25日Published: August 25, 2016
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1. はじめに

ヒト免疫不全ウイルス(human immunodeficiency virus:HIV)を含む,エンベロープウイルスの宿主への侵入には,ウイルス脂質二重膜–宿主脂質二重膜間でのウイルス外被タンパク質Envを介した膜融合が必須である.この過程によりウイルスは自身の遺伝情報を宿主細胞内へ放出し,宿主への感染を達成することができる.本稿では主にHIVの侵入とそれに伴う膜融合が起こるタイミングや場所に関する最近の知見や,その制御機構の解明を目指した最新の研究動向を,近年筆者らが開発した膜融合の動的測定のための方法論とその適用例に併せて概説する.

2. HIVの侵入経路

HIVは感染者の血液や生殖器・乳腺等からの体液に多く含まれ,上皮組織の傷やその近傍に存在するM細胞または樹状細胞を介して体内に侵入する.血中の遊離のHIVや細胞に捕捉されたHIVはCD4陽性・ケモカイン受容体(CXCR4/CCR5)陽性の免疫担当細胞(主にT細胞)に感染する.

HIVの標的細胞への侵入には主に二つの経路が知られている.体外から侵入したもしくは感染した細胞から放出された遊離ウイルスが非感染細胞に感染するcell-free経路と,細胞の表面に結合したもしくは感染した細胞の内部に形成されたウイルス(前駆体)が,細胞間の接触により非感染細胞へ伝播するcell-to-cell経路である(図1).後者の呼称は感染細胞–非感染細胞間のウイルス拡散の際に用いられることが多く,ミエロイド系細胞の一部(マクロファージ,樹状細胞等)がウイルス表面のオリゴ糖誘導体を認識し,自身は感染せずともT細胞への感染を促進する経路は一般的にtrans-infection経路として知られているが,ミエロイド系細胞への感染成立後もこの呼称が用いられる場合もあるので,本稿では簡単のために広義のcell-to-cell経路とする.in vitro実験系ではcell-to-cell経路が10倍かそれ以上の効率でHIVの侵入に寄与していることが示唆されている1).加えて,最近のHIV/murine leukemia virus(MLV)とマウスを用いたin vivoの実験において,血中に投与したウイルスは末梢リンパ節内の辺縁洞や脾臓の辺縁帯に局在するSiglec-1/CD11b陽性マクロファージに捕捉され,そこで(MLVの場合では)標的細胞にcell-to-cell経路で伝播・拡散することが報告されており2),この過程の重要性がうかがえる.

Journal of Japanese Biochemical Society 88(4): 525-528 (2016)

図1 HIVの侵入経路とHIV-Envが関わる膜融合

一方で,in vitroの実験系ではあるが,数理モデルを用いたcell-freeとcell-to-cellの感染効率の比較解析では,cell-free経路によるHIV侵入も少なからず(40%程度)感染に寄与することも報告されている3).実際はそれぞれの経路が状況に応じてHIV侵入に関与すると推察されるが,in vivoでの各経路の寄与の度合いの解明はこれからの課題であろう.

ここで各経路の詳細をみていく.一つ目のcell-free経路については,標的細胞の表面で形質膜とHIV膜が膜融合を起こす古典的な経路と,エンドサイトーシスを介してHIVが細胞内に侵入し,エンドソームとHIVが膜融合を起こす新規の経路の二つが提唱されている(図1).歴史的にはHIV-Envを介した膜融合がpH非依存性であることから一つ目の経路が支持されてきたが,近年,リソソーム内でのHIVの分解の抑制によって,HIV感染の効率が上昇することや4),筆者を含むグループの研究における,HIV内包型酵素レポーターを用いたHIV侵入阻害剤に対する逃避キネティクス解析の結果,膜非透過性の膜融合阻害剤からの逃避よりもさらに後の時点においても温度の低下(細胞内の膜融合も阻害する処理)とダイナミン(エンドサイトーシスの際に取り込まれる小胞を細胞質側に切り取る働きを担う分子)の阻害剤により膜融合が阻害されることから,細胞表面上で起こる過程の後にさらにもう一つ過程が存在し,それがエンドサイトーシスと関連していることが示された5–7).また,脂質二重膜と内部を二色蛍光標識したHIVと顕微鏡を用いた時分割測定において,標識HIVがエンドソームとの膜融合が起こることを支持する蛍光消失のパターンを示すことなどから,新規の経路を支持する結果が得られている5–7).一方で,ダイナミンの機能を恒常的に不活性化させた変異体を過剰発現した細胞に長時間HIVを感染させると,野生型ダイナミンを発現した細胞と同程度にHIV膜融合・感染が起こること8),また,培養温度を低下させ,エンドサイトーシスは起こるが膜融合は起こらない状態でHIVを細胞内に取り込ませて,膜非透過性の膜融合阻害剤存在下で温度上昇させることにより膜融合を誘導した場合には,HIV感染は起こらないことも報告されている8)

実験系が異なるため単純な比較は困難であるが,以上の研究から得られた結論には明らかな相違がある.この原因として,エンドサイトーシスによりT細胞内に取り込まれるHIVの大部分は感染に寄与しないこと(感染頻度の低さ)6, 8)や,顕微鏡解析における障壁であるT細胞の細胞質体積の小ささ,現在までにHIV解析に用いられてきた顕微鏡の分解能の限界等の問題点を克服することができる方法論の欠如が挙げられる.今後,超分解能顕微鏡等でHIV動態を高い空間・時間分解能で観測する実験系や,まれなイベントも捕捉可能な高感度動的測定系等が確立すれば,徐々にこの詳細も明らかになるであろう.

一方,後者のcell-to-cell経路では細胞どうしが接触し,細胞間での特徴的な構造である“ウイルスシナプス(VS)”を形成することで過程が進行する(図1).HIVはこの過程を介して宿主の中和抗体等の物理的介入を弱めたまま伝播できるため,宿主の免疫防御機構を回避する有効な戦略の一つである.VSはCD4陽性T細胞と抗原提示細胞間もしくはCD8陽性T細胞/NK細胞と標的細胞間での相互作用の際に形成される“免疫シナプス”に構造が類似しているため命名された.免疫シナプスではT細胞受容体(TCR)とその下流のシグナル伝達分子群が中心部に集積し,それを囲う形で接着分子インテグリンLFA-1とそのリガンドICAM-1や細胞骨格とLFA-1をつなぐTalin等が円状に集積する構造を持つが,VSではTCRの代わりにEnvが中心部に集積する構造を持つ9).また,最近の三次元透過電子顕微鏡解析によれば,Envが集積する中心部はHIVが細胞外へ出てゆく排出口の役割を果たしていることが示唆されている10).VSを介したHIVの排出後,HIVは標的細胞に膜融合を介して侵入するが,この場合にも形質膜からの経路とエンドサイトーシスを介した経路の両方が提唱されており(図1),上述のcell-freeの場合と同様の理由で両者の寄与度の解明はいまだ困難である.

このように,HIVの標的細胞への侵入モデルは混沌としており,その解明には計測技術・方法論の革新的進展が待たれるが,いずれの場合でもHIVは膜融合を介して細胞内に侵入するため,この過程の詳細な分子機構の解析とその阻害方法の検討はHIVの感染・伝播を広範囲に防ぐ上で非常に重要な標的の一つとなる.

3. HIV-Envを介した膜融合の分子機構

膜融合を担うEnvの動作機構をみる.Envはgp120三量体と一回膜貫通型タンパク質gp41三量体の六つのサブユニットから形成される,高度に糖鎖修飾されたタンパク質であり,Envの外側全域に張り巡らされた糖鎖修飾の多様性が中和抗体による攻撃の防護壁となっている.gp120は主にCD4/ケモカイン受容体との結合を担い,リガンド結合が引き金となるアロステリック効果により,gp41が大きな構造変化を起こし,N末端側のfusion peptide(FP)が標的細胞膜に突き刺さった後,標的細胞膜–HIV膜を近づけるさらなる構造変化が起こることにより膜融合を誘導すると考えられている(図2).実際,最近のX線結晶構造解析法を用いたEnv細胞外領域の膜融合前の全長構造の解析からgp41は膜融合後に形成される安定なsix-helix bundle(6HB)構造をリガンド結合前には形成しておらず,膜融合前のgp41は大きく異なる構造をとっていることが明らかになってきた(図211).困ったことに,HIVの感染性を広範囲に不活性化する中和抗体の一部はこの構造変化における中間体構造でのみ露出するエピトープを認識し,またこの部位はHIV亜種間で保存性の高い場合が多い.このため,HIVの中和を達成するための戦略構築における知識基盤として,Envの静的構造のみならず,Envを介した膜融合の動的側面の十分な理解も必須である.

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図2 HIV-Env膜融合の分子機構

4. dual split protein(DSP)の開発

Envの動的作用機序の解明のため,さまざまな方法論の開発が行われてきた12).どの方法も,基本的にはEnv発現細胞もしくはHIV感染細胞と,CD4/共受容体発現細胞を共培養し,膜融合前後の時系列変化を観測する方法である.古くは,異なる2色素で2種類の細胞を染色し,色の交わりをみる方法であるが,色素の細胞毒性による融合能低下や,色素の漏れ出しによる偽陽性増加等の実験上の難点があり,適用は限定される.また,転写因子を一つの細胞に,それが認識するプロモーター制御下のレポーター酵素をもう一つの細胞に発現させる実験系では,比較的簡便かつ高S/N比で膜融合を測定できるが,レポーター酵素の転写と翻訳が必須であり,シグナル検出までに時間を要するため,動的性状を知るためのリアルタイム解析には適用できない.

そこで筆者らは,Env膜融合の高感度・簡便かつ,リアルタイム測定を目的として,膜透過性の基質が使用できるルシフェラーゼ(Renilla luciferase:Rluc)の分割型酵素レポーター実験系を確立した(図3).分割型RlucはN末端もしくはC末端単体では活性を持たないが,相互作用ドメインの付加により会合し活性を持つことができる.初期設計では分割型Rlucを会合させるために,ヘテロ二量体を形成するコイルドコイルを末端に融合させて解析したが,全長Rlucと比較すると活性回復は1/1000~1/100程度にとどまった.そこで,コイルドコイルよりさらに大きな相互作用面積を持つ自己会合型の分割型GFPを分割型Rlucと融合させたところ,コイルドコイルの場合よりも10倍以上高い活性が得られた13).GFPもRlucも分割型であるためこのレポーターをdual split protein(DSP)と名づけ,Env発現細胞,もしくはCD4/共受容体発現細胞に片方のDSPを発現させ,同ウェル内でのRluc活性を継時的に測定したところ(図3),時間経過とともにRluc活性が上昇し,約30分でプラトーに達することがわかった13).またこの活性はEnv阻害剤で阻害され,それは各因子が作用する機序に従ったことから,Env膜融合のリアルタイム解析を実現できるレポーター実験系であることが示された13)

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図3 dual split protein(DSP)の設計とその応用

DSP実験系を用いてHIV亜種間できわめて保存性の高いEnv膜貫通ドメインの変異体を解析したところ,低融合能変異体の膜融合も十分なS/N比で観測され,このドメインが細胞外ドメインのすばやい構造変化に寄与していることが明らかになった13).また,この系と前述のHIV–細胞間融合解析のためのHIV内包型酵素レポーターを用いた実験系を組み合わせることにより,HIV–細胞間融合とHIVを介した細胞–細胞間融合の膜融合速度の差や,宿主因子依存性の違いを同時に1ウェルで解析できる.興味深いことに,膜融合におけるアクチン重合の依存性はウイルス膜融合と細胞膜融合で異なっており,後者のみが依存することが明らかになってきた14)

5. 今後の展開

DSPは簡便かつ高感度で膜融合のリアルタイム解析ができ,最近ではさらに高活性のDSPも使用できるため15),細胞間融合のモデル実験系のみならず,冒頭で概説したHIV侵入経路解析にも応用できる潜在性を持つ.また近年,他のウイルスの膜融合解析でも適用例が増加している.その簡便さを生かし,将来的には新規薬剤のスクリーニング等にも適用されうると筆者は期待する.

謝辞Acknowledgments

本稿の内容は,筆者が東京大学医科学研究所,中国科学院生物物理研究所,エモリー大学医学部在籍時に行った研究成果の一部を紹介しております.東京大学・松田善衛先生,エモリー大学・Gregory Melikian先生,並びに共同研究者の多くの方々に多大な謝意を表します.

引用文献References

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著者紹介Author Profile

近藤 直幸(こんどう なおゆき)

関西医科大学附属生命医学研究所助教.博士(理学).

略歴

1978年大阪府に生る.2007年大阪大学理学研究科生物科学専攻修了.東京大学医科学研究所特任研究員・特任助教,中国・中国科学院生物物理研究所訪問学者,米国・エモリー大学医学部博士研究員を経て2012年より現職.

研究テーマと抱負

多量体化や大きな構造変化を伴う蛋白質の生物学的な意義に根本的な興味を持ち,研究を進めております.それらの動作原理の解明により,新規機能分子の設計や生物学・基礎医学の発展に貢献できたらと夢見ております.

趣味

舞台鑑賞,サイクリング.

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