生化学 SEIKAGAKU
Journal of Japanese Biochemical Society

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Journal of Japanese Biochemical Society 88(4): 529-531 (2016)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2016.880529

みにれびゅうMini Review

魚類皮膚粘液レクチンの多様な世界Diversity of fish skin mucus lectins

北里大学海洋生命科学部School of Marine Biosciences, Kitasato University ◇ 〒252–0373 神奈川県相模原市南区北里1–15–1 ◇ 1–15–1 Kitasato, Minami-ku, Sagamihara, Kanagawa 252–0373, Japan

発行日:2016年8月25日Published: August 25, 2016
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1. 化学的バリアーとしての魚類皮膚粘液

動物の体表面は外界と接しており,さまざまな病原生物と接触する場所である.それゆえこれらの体表面は生体防御の最前線を担っており,個体の健康を保つ上で欠くことのできない重要な役割を果たしている.

生体防御の最前線としての体表を水棲動物と陸上動物とで比較した場合,大きな違いがある.水中における微生物の密度は空気中よりはるかに高い.その一方で体表面は角質化されていないため,哺乳類の皮膚のような物理的に強固なバリアーを形成していない.魚類の場合も表皮はすべて生きた細胞から構成されている.魚類はそのため体表面に粘液を分泌し,物理的および化学的なバリアーを構築している.表皮には粘液の主成分であるムチンを分泌する粘液細胞に加え,棍棒細胞,嚢状細胞などさまざまな分泌細胞が散在している.一般にこれらの細胞は腺構造を形成せず,個々の細胞から分泌される種々の防御因子が化学的なバリアーを作り出している.

魚類は適応免疫系の主要な細胞性因子や液性因子を備えているが,粘液中の抗体量は多くない.IgAに相当する粘膜組織に特徴的な免疫グロブリンがあるのかもよくわからない.最近,魚類特有の免疫グロブリンとして見つかったIgTがニジマスの腸や鰓で産生される主要な免疫グロブリンであるという報告がなされたが1),それが魚類に一般的なことなのかはまだ不明である.いずれにせよ,魚類の皮膚においては哺乳類の消化管や呼吸器粘膜のように大量の抗体が分泌されてはおらず,防御反応は主に自然免疫系の因子に負っていると考えられる.その中でもレクチンはさまざまな魚種の皮膚粘液に多量に存在し,生体防御因子として重要な役割を果たしている.またその種類も驚くほど多様である.これまでに魚類の皮膚粘液から見つかったレクチンは,ガレクチン,C-typeレクチン,ラムノース結合レクチン,インテレクチン,フコレクチン,カリクレクチン,パフレクチン,ペントラキシンなど多彩である.ここではそのすべてを論じることはできないので,ガレクチン,C-typeレクチン,パフレクチンとカリクレクチンについて紹介したい.

2. ガレクチン

一次構造が決定された最初の魚類皮膚粘液レクチンであるマアナゴConger myriasterのcongerinは分子量約13,000のサブユニットが2個非共有結合しているプロトタイプガレクチンである.マアナゴの皮膚粘液に大量に含まれているため,マアナゴの皮膚粘液はウサギ赤血球などを強力に凝集する.これまでにcongerin I, II, Pという3種類のアイソタイプが見つかっている2–4).哺乳類のガレクチンは1~15に分類されているが,congerinはそのいずれのオルソログでもない.

congerin I, IIを産生する棍棒細胞は表皮のみならず鰓,咽頭,食道の上皮に分布しており,congerinはこれらの組織を保護する役割を持っている5).大腸菌を凝集するだけでなく,オプソニン効果も示すことから6),体外から細菌が侵入した場合に,粘液中のcongerinが結合していることにより食作用を高める効果があると考えられる.

3. C-タイプレクチン

ニホンウナギAnguilla japonicaの皮膚粘液から発見されたAJL-2は棍棒細胞で産生され,C-タイプレクチンでありながらCa2+非依存性であるという興味深いレクチンである7).Ca2+との結合に必要なアミノ酸残基であるGlu101, Asp129, Asp135は保存されている.しかしラットのマンノース結合タンパク質と比較すると欠落しているアミノ酸もあり,それがCa2+との結合性に影響しているのかもしれない.

ニホンウナギは産卵場所である西マリアナ海嶺から北赤道海流と黒潮に乗って北上し,稚魚であるシラスウナギ期に日本沿岸に接岸,淡水域へと移行する.ウナギ目はもともと海水性の魚であり,進化の過程で淡水域への適応能を獲得した.淡水中にはCa2+イオンはごくわずかしか含まれていないため,その環境下で,ニホンウナギはCa2+を必要としないC-タイプレクチンを獲得したと考えられる.興味深いことに,ウナギ属のある別の種では,稚魚期まではAJL-2ホモログのC-タイプレクチンを発現しているが,成魚はこのレクチンを持たないことがわかった.このホモログがCa2+依存性かどうかは未確認であるが,Ca2+依存性であれば,この種の場合は淡水域で棲息する成魚ではこのレクチンを使わないという選択をしたと考えられる.

純海産魚であるマアナゴの皮膚粘液からもこのレクチンのホモログが見つかっているが,こちらはCa2+依存性である8)

4. パフレクチン

パフレクチンはトラフグTakifugu rubripes皮膚粘液から発見されたマンノース特異的レクチンであり,フグの英名puffer fishからパフレクチンと名づけられた9).興味深いことに,パフレクチンは単子葉植物のマンノース結合レクチンと相同性を示す.パフレクチンのアミノ酸配列中には,X線結晶解析によりユリ目植物レクチンにおける糖鎖結合領域として同定されたQXDXNXVXYが保存されており,かつこの部位で実際にマンノースと結合することが示されている.発見当時,フグとユリ科植物以外でホモログは知られていなかった.現在はカレイ目,タラ目,スズキ目,サケ目を含む多様な魚類と一部の細菌で少なくとも遺伝子レベルでは見つかっている.また植物でもユリ科だけでなく,多様な単子葉植物に分布している.

パフレクチンはビブリオ属をはじめとするいくつかの細菌を凝集する.また,トラフグの皮膚および飼育水から単離した細菌に対する凝集を調べたところ,飼育水由来の細菌を多く凝集することがわかった.このことは,本レクチンが皮膚に付着した細菌を飼育水中に排除している可能性を示している.

5. カリクレクチン

カサゴ目コチ科のマゴチPlatycephalus indicusの皮膚粘液からはカリクレインと相同性を示すユニークなレクチン(カリクレクチン)が見つかった10).このレクチンは40 kDaのサブユニットが共有結合したホモ二量体でCa2+依存的にマンノースと結合する.既知のレクチンとの相同性はなく,哺乳類やXenopusの血漿カリクレインおよび血液凝固因子IXと相同性を示した.

哺乳類のカリクレインは血漿カリクレインと組織カリクレインの2種類が知られている.ともにセリンプロテアーゼ活性を持ち,血漿カリクレインは血中の高分子キニノゲンを分解して,血管拡張作用などを持つペプチド,キニンを生じる.組織カリクレインはトリプシン様ドメインのみからなるのに対し,血漿カリクレインの前駆体プレカリクレインはアップルドメインが4個繰り返されたN末端側領域と,トリプシン様ドメインのC末端側領域からなる.プレカリクレインは切断されたのち,N末端側(H鎖)とC末端側(L鎖)がジスルフィド結合で架橋される.

魚類では血漿カリクレインのホモログは見つかっていない.コチのレクチンは4個のアップルドメインからなるがトリプシン様ドメインを持たず,血漿カリクレインH鎖とのみ相同性を示す(図1).

Journal of Japanese Biochemical Society 88(4): 529-531 (2016)

図1 コチレクチン(カリクレクチン)とカリクレインの構造

コチのレクチン(カリクレクチン)はアップルドメインのみからなる.

アップルドメインのみからなるコチのタンパク質がレクチンであったことから,ヒトカリクレインH鎖にもレクチン活性があるのではないかと考え,凝集試験を行った.その結果,ヒトカリクレインはウサギ赤血球を凝集し,その活性はフェツインによって阻害されたことから,ヒトカリクレインがレクチン活性を持つことが明らかとなった.

このレクチンのホモログはトラフグとアンコウ(アンコウ目)で存在を確認しており,ミドリフグおよびメダカ(ダツ目)のゲノムデータベース上でもホモログの存在を確認した.その後スズキ目,カダヤシ目などでも報告されているが,ウナギ目,サケ目などの古い系統群からは見つかっていない.また魚類以外でも見つかっていない.

その後,WongとTakei11)による詳細な研究が行われ,やはり肉鰭類を除く硬骨魚類では血漿カリクレインおよび高分子キニノゲン遺伝子がないことが確認された.両者は肉鰭類のシーラカンスで初めて出現する.一方,従来報告されていた魚類の組織カリクレインはおそらく偽遺伝子であり,真の組織カリクレインはシンテニー解析から見つかった新奇のタンパク質か,あるいはオルソログは存在せず,他のトリプシン様酵素が働いているのではないかと推測されている.

6. 今後の展望

魚類の皮膚粘液レクチンは驚くほど多様である.筆者らが凝集活性を確認しているがレクチンをまだ同定できていない魚種もいくつかあり,その多様性はまだ底がみえない.これからも新奇の,あるいは意外なレクチンが見つかるだろうと予測している.

なぜ魚類のレクチンはこれほど多様なのだろうか.そもそも魚類というグループ自体が非常に多様な進化を遂げていることを考えれば,その粘液レクチンも多様であることはそれほど驚くべきことではないかもしれない.また,多様な環境に棲息する魚類が,それぞれが接触してきた病原生物との共進化の過程で,たまたまあるレクチンがそれぞれの種において選択されてきたとも考えられる.

一方で,皮膚粘液は多様な防御因子のカクテルであり,レクチン以外にも種々の防御物質を含んでいる.抗菌ペプチドとしてはカレイの皮膚と腸で発現するpleurocidin12)やニジマスの皮膚に存在するoncorhyncin13)などがよく知られている.それ以外にも,ニジマス皮膚粘液中のケラチンやヒストンが抗菌作用を持つことが報告されている14, 15).皮膚粘液という化学的バリアーはこのような防御分子の総体であり,レクチンだけをみていてもその多様化を生み出した進化的駆動力はみえてこないかもしれない.

さらに水中には多様な無脊椎動物群がおり,死ねば直ちに細菌に覆われ腐り出してしまう水中という環境の中で,彼らも細菌から身を守って生きている.無脊椎動物からもこれまで多様なレクチンが見つかっているが,それらは体内,あるいは個体まるごとの抽出物などから発見されたものがほとんどであり,水棲無脊椎動物の体表の防御機構となると,我々の知る限り,知見はないに等しい.最近,筆者らは棘皮動物の体表からもレクチン活性を見いだした(未発表).適応免疫系を欠く無脊椎動物においてレクチンは脊椎動物におけるそれよりも重要な防御因子であると考えられ,さらに多様で豊かなレクチンワールドが広がっているものと予測している.

引用文献References

1) Xu, Z., Gomez, D., Parra, D., Takizawa, F., & Sunyer, J.O. (2013) Fish Shellfish Immunol., 34, 1686–1686.

2) Muramoto, K. & Kamiya, H. (1992) Biochim. Biophys. Acta, 1116, 129–136.

3) Muramoto, K., Kagawa, D., Sato, T., Ogawa, T., Nishida, Y., & Kamiya, H. (1999) Comp. Biochem. Physiol. B, 123, 33–45.

4) Watanabe, M., Nakamura, O., Muramoto, K., & Ogawa, T. (2012) J. Biol. Chem., 287, 31061–31072.

5) Nakamura, O., Watanabe, T., Kamiya, H., & Muramoto, K. (2001) Dev. Comp. Immunol., 25, 431–437.

6) Nakamura, O., Matsuoka, H., Ogawa, T., Muramoto, K., Kamiya, H., & Watanabe, T. (2006) Fish Shellfish Immunol., 20, 433–435.

7) Tasumi, S., Ohira, T., Kawazoe, I., Suetake, H., Suzuki, Y., & Aida, K. (2002) J. Biol. Chem., 277, 27305–27311.

8) Tsutsui, S., Iwamoto, K., Nakamura, O., & Watanabe, T. (2006) Mol. Immunol., 44, 691–702.

9) Tsutsui, S., Tasumi, S., Suetake, H., & Suzuki, Y. (2003) J. Biol. Chem., 278, 20882–20889.

10) Tsutsui, S., Okamoto, M., Ono, M., Suetake, H., Kikuchi, K., Nakamura, O., Suzuki, Y., & Watanabe, T. (2011) Glycobiology, 21, 1580–1587.

11) Wong, M.K.-S. & Takei, Y. (2013) PLoS ONE, 8, 11.

12) Cole, A.M., Weis, P., & Diamond, G. (1997) J. Biol. Chem., 272, 12008–12013.

13) Fernandes, J.M., Saint, N., Kemp, G.D., & Smith, V.J. (2003) Biochem. J., 373, 621–628.

14) Molle, V., Campagna, S., Bessin, Y., Ebran, N., Saint, N., & Molle, G. (2008) Biochem. J., 411, 33–40.

15) Fernandes, J.M., Kemp, G.D., Molle, M.G., & Smith, V.J. (2002) Biochem. J., 368, 611–620.

著者紹介Author Profile

中村 修(なかむら おさむ)

北里大学海洋生命科学部准教授.博士(農学).

略歴

1964年山形県に生まれる.88年東京大学農学部卒業.93年東京大学大学院農学系研究科博士課程修了.宮城県高校教諭を経て98年北里大学水産学部助手.2008年より現職.

研究テーマと抱負

「魚類皮膚の生体防御機構」,特に分泌細胞について.棍棒細胞,嚢状細胞など魚類に特有な分泌細胞の応答のしくみを明らかにしたい.その他「胎生魚の妊娠と免疫」など多方面に作戦展開中.兵站が追いつかなくなりつつあり.

趣味

筋トレ,映画鑑賞,格闘技観戦,落語鑑賞,読書.

筒井 繁行(つつい しげゆき)

北里大学海洋生命科学部講師.博士(農学).

略歴

1973年岩手県に生まれる.98年東京大学農学部卒業後,2004年東京大学大学院農学生命科学科博士課程修了.05年北里大学水産学部(のちに海洋生命科学部に名称変更)助手に就任.07年より現職.

研究テーマと抱負

魚類皮膚粘液中の生体防御因子,特にレクチンや抗菌ペプチドに関する研究を行っている.今後も新奇分子の発見を目指し,魚類の粘液のように粘り強く研究を進めて行きたい.

趣味

プロ野球観戦(特にパ・リーグ),韓国語学習,カレーとラーメンの食べ歩き,もつ焼き屋散策.

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