生化学 SEIKAGAKU
Journal of Japanese Biochemical Society

Online ISSN: 2189-0544 Print ISSN: 0037-1017
公益社団法人日本生化学会 The Japanese Biochemical Society
〒113-0033 東京都文京区本郷5-25-16 石川ビル3階 Ishikawa Building 3F, 5-25-26 Hongo, Bunkyo-ku Tokyo 113-0033, Japan
Journal of Japanese Biochemical Society 88(5): 557-562 (2016)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2016.880557

特集Special Review

B型肝炎ウイルスとAPOBECファミリーHepatitis B virus and APOBEC family

金沢大学医薬保健学総合研究域医学系分子遺伝学Department of Molecular Genetics, Kanazawa University, Graduate School of Medical Science ◇ 〒920–8640 石川県金沢市宝町13番地1 ◇ 13–1 Takara-machi, Kanazawa, Ishikawa 920–8640, Japan

発行日:2016年10月25日Published: October 25, 2016
HTMLPDFEPUB3

APOBEC3がHIV-1の逆転写のいずれかのプロセスに作用し抗ウイルス活性を示すことが報告されて以来,APOBECタンパク質が新しいタイプの抗ウイルス因子として脚光を浴びることとなった.逆転写を必要とするウイルスで忘れがちなウイルスとしてB型肝炎ウイルス(HBV)がある. APOBEC3のHIV-1への抗ウイルス活性が報告されてまもなく,HBVもやはりAPOBECタンパク質の抗ウイルス活性の標的になることが報告された. HIV-1への抗ウイルス作用と類似するところも多々あるが,HBVは肝細胞特異的感染症であり,感染細胞の核にウイルスエピソームDNAを形成するなど,HBVにユニークな点もある.本稿ではAPOBECタンパク質の抗HBV活性および病態形成との関連を概説する.

1. はじめに

APOBECファミリーは,DNAやRNA上のシトシンをウラシルに変換する酵素群である.2000年にはこのファミリーにはAPOBEC1, APOBEC2, AIDが分類されていた.当時,少なくともAPOBEC1がRNA編集酵素であり,AIDが抗体遺伝子の改変現象を司る機能を持つことが知られていた. 2002年ヒトゲノムプロジェクトの進展に伴いヒト22番染色体にAIDと類似した未知の遺伝子配列が七つありクラスターを形成していることが報告されAPOBEC3と命名された.その翌年にAPOBEC3がHIV-1の抗ウイルス活性を示すことが報告され,APOBEC3タンパク質が新しいタイプの抗ウイルス因子として注目されることとなった. B型肝炎ウイルス(hepatitis B virus:HBV)も,HIV-1と同様に逆転写プロセスに依存するウイルスである. APOBEC3のHIV-1への抗ウイルス活性が報告されてまもなく,HBVもやはりAPOBECタンパク質の抗ウイルス活性の標的になることが報告された. APOBECのHBVに対する抗ウイルス作用は,HIV-1への抗ウイルス作用と共通するところもあるが,HBV感染は肝細胞特異的感染をひきおこし,感染細胞の核にウイルスエピソームDNAを形成するなど,HIV-1への抗ウイルス作用とは異なる点もある.本稿ではAPOBECタンパク質の抗HBV活性および病態形成との関連を概説する.

2. B型肝炎ウイルス

B型肝炎ウイルス(HBV)は,血液や体液を介して人から人に感染し,急性肝炎,慢性肝炎,肝硬変,肝細胞がんを起こすことが知られている.日本では約120万人の感染者がいると推定されている. C型肝炎ウイルスとともに日本人の肝臓がんの誘因となるウイルスとして非常に重要な病原体である.

ウイルス粒子内には,約3200塩基の部分二本鎖DNA(RC-DNA)からなるゲノムがあり,ヒトの肝細胞に感染するとRC-DNAは核に運ばれ,宿主の遺伝子修復経路により,完全二本鎖の閉環状DNA(cccDNA)を形成する(図1参照).このcccDNAから,ウイルスの複製に必要なRNAが転写される.ウイルス転写産物には,ウイルス表面タンパク質(HBs)をコードするmRNAやHBxタンパク質のmRNA以外に,ウイルスRNAゲノムであるpregenomic(pg)RNAが含まれる.pgRNAはイプシロンと呼ばれるRNA高次構造を二つ持つ.ウイルスの逆転写酵素であるPタンパク質がこのイプシロン構造を認識すると,ウイルスRNP複合体が形成される.このRNP複合体はさらにコアタンパク質で構成される二十面体構造内に取り込まれヌクレオキャプシドが形成される.ヌクレオキャプシド内ではPタンパク質がpgRNAをRC-DNAに変換し,さらにヌクレオキャプシドがウイルス表面タンパク質(HBs)とともに集合すると感染性ウイルスとして肝細胞より放出される.現在,臨床で使用されている抗ウイルス剤は逆転写酵素阻害剤のみであるが,抗ウイルス剤はウイルス逆転写ステップを阻害することによりウイルス産生量を劇的に低下させることができる.しかし原理的には逆転写酵素阻害剤はcccDNAを直接壊すわけではないので,逆転写酵素阻害剤を中止するとcccDNAを起点にウイルス複製が再開し,再発する可能性がある.そのため,逆転写酵素阻害剤だけではHBV感染症の完治は難しい.インターフェロン療法はcccDNAを排除する可能性があるものの,副作用の問題と治療奏効率に問題がある.したがって新たな抗ウイルス作用を持つHBV感染症治療法の開発が切に望まれている.

Journal of Japanese Biochemical Society 88(5): 557-562 (2016)

図1 B型肝炎ウイルス(HBV)の肝細胞内での生活環

HBVはヒトの肝細胞に感染すると,ヌクレオキャプシド内にあるRC-DNAが核に運ばれcccDNAを形成する.cccDNAは複製開始起点を持たないので肝細胞の核の中で自立複製しないが,エピソームDNAとして安定に保持される.cccDNAからはRNAゲノムであるpgRNAおよびHBx, HBsのmRNAが作られる.pgRNAはコアタンパク質とPタンパク質のmRNAを兼ねるといわれている.pgRNAには,イプシロン構造と呼ばれるRNA高次構造を二つ持ち,このイプシロンがパッケージングシグナルとして利用される.Pタンパク質(P)がイプシロン構造を認識しウイルスRNP複合体を形成し,キャプシドタンパク質であるコアタンパク質(core)がウイルスRNP複合体を取り込み,ヌクレオキャプシドを形成する.ヌクレオキャプシド内ではPタンパク質は逆転写活性によりpgRNAをRC-DNAに変換する.この後,成熟したヌクレオキャプシドは,Sタンパク質と集合し感染性ウイルス粒子を形成し,肝細胞から放出される.

3. APOBECの抗HBV活性の主要な研究

APOBEC3GがHIV-1の複製を阻害できることが示された後1),ほどなくTurelliらはAPOBEC3Gをヒト肝細胞株Huh7で強制発現させるとHBVの複製を強力に抑制できることを報告した2).さらに彼らはAPOBEC3GがHBVのキャプシドタンパク質であるコアタンパク質と結合すること,酵素活性部位に変異を持つ変異型APOBEC3Gでもウイルス複製阻害活性を示すことを明らかにした.一方,HIV-1ゲノムDNAで観察されるような高頻度のG-to-Aの突然変異は観察しなかったと報告した.この最初の報告によりAPOBEC3は,レトロウイルスのみならずHBVに対しても抗ウイルス活性を発揮しうることが判明した.次いでRoslerらは,HIV-1ほど高頻度ではないにしても,APOBEC3GがHBVウイルスゲノムにG-to-A(およびC-to-Tの)の高頻度変異を導入できることを示した.3) 2005年には,Suspeneらは,3D-PCRという高頻度変異を高感度に検出するPCR法を用いて高頻度変異解析を行った.その結果彼らはAPOBEC3GはもとよりAPOBEC3G以外のAPOBEC3もHBVウイルスDNAにG-to-A(およびC-to-T)の高頻度変異を導入することを示した4).これ以後,多くの研究グループにより主に培養細胞株を用いた方法論で,APOBEC3のHBVへの作用や分子機序が研究された.

方法論上ヌクレオキャプシドHBV DNAが最も確実に単離できるためか,ヌクレオキャプシドDNAへのAPOBECタンパク質の効果をみた研究が2000年半ばごろより多数行われた.それらによると,強制発現下ではAPOBEC3DやAPOBEC2, 4以外のすべてのAPOBECタンパク質が何らかの高頻度変異活性を示し,高頻度変異の頻度やウイルスDNA低下作用の活性が一番強いのはAPOBEC3Gであった.多くの支持を得ているシナリオは,次のようである. HBV感染肝細胞がインターフェロンにて刺激されるとAPOBEC3Gを代表とするAPOBECタンパク質が発現誘導され,ヌクレオキャプシド内に取り込まれる.ヌクレオキャプシド内でPタンパク質が逆転写を行う際,APOBECタンパク質は逆転写のいずれかのステップを阻害することで,逆転写産物量を低下させる(おそらくdeaminase independent pathway).さらに合成された新生ウイルスDNAには,APOBECが脱アミノ化を起こし高頻度変異が導入される(deaminase dependent pathway).この二つの作用の結果,APOBECタンパク質は感染性粒子産生を低下させると考えられている.

4. APOBECタンパク質のcccDNAへの作用

逆転写酵素阻害剤である核酸アナログ使用により,HBV感染のコントロールは一定の成果があがっているといえよう.核酸アナログはHBVの逆転写プロセスを阻害することでウイルス量を激減させるが,そのような状態でも,核に存在するcccDNAは,比較的長く感染肝細胞に維持され,核酸アナログ投薬を中止するとウイルス複製が再開する可能性がある.したがってcccDNAを標的にする抗ウイルス因子の探索はHBVの治療開発の観点からも重要である.

そこで我々はAPOBEC3がcccDNAに作用しうるかを検討した.HBV cccDNA研究の技術上の難しさは,cccDNAを効率よく解析できる培養細胞系が存在しないことである.これまでのcccDNAの多くの知見は,HBVに近縁でありcccDNAの検出が容易なアヒル肝炎ウイルス(DHBV)を用いた研究より明らかとなってきた.そこで我々はDHBV複製の系で,APOBEC3G発現の影響を解析した.その結果HBV研究で予想されたようにAPOBEC3GはDHBVヌクレオキャプシドDNAに高頻度変異を導入し,さらにはヌクレオキャプシドDNA産生量を低下させた.その同一サンプルでcccDNAを検討したところ,cccDNAにはヌクレオキャプシドDNAよりもはるかに高頻度の変異が蓄積していることが判明した.さらにそのようなcccDNAは変異蓄積のため二次感染時に複製能力が低下することが明らかになった5).APOBEC3Gは,ヌクレオキャプシドDNAのみならず,cccDNA(あるいはその前駆体)にも高頻度変異を導入することが示唆された.

我々の研究の翌年にはProtzerらの研究グループが,核に局在しうるAPOBEC3AとAPOBEC3Bに着目した研究を報告している6).その研究によると,APOBEC3AやAPOBEC3Bはインターフェロンαやリンフォトキシンβ受容体刺激でヒト肝細胞に発現誘導される.さらにインターフェロンα処理はcccDNAを含むウイルスDNA量を低下させることができ,その低下のメカニズムにAPOBEC3AやAPOBEC3Bが重要であることを報告している.

この研究は培養細胞レベルの研究とはいえヒト肝細胞初代培養や感染実験系を用いており,さらにインターフェロンαで誘導される内在性APOBEC3が,cccDNAを標的にしてcccDNA量を低下させうることを初めて示した重要な研究であるといえる.

5. APOBECの抗ウイルス活性と塩基除去修復の関係

APOBECタンパク質のデアミナーゼ活性は,DNA上のシトシンをウラシルに変換するが,通常,哺乳類のゲノムDNA上のウラシルは,塩基除去修復系でシトシンに修復される.したがって,塩基除去修復系はAPOBECタンパク質の作用を結果的にキャンセルする可能性がある.この塩基除去修復系は,主にDNA上のウラシルを認識し塩基部分を切断する活性を持つウラシルDNAグリコシラーゼ(uracil DNA glycosylase:UNG)が初動する.UNGが作った塩基のない部分(AP site)は,APエンドヌクレアーゼ(AP endonuclease:APE)により処理され,次いでエキソヌクレアーゼ活性,DNAポリメラーゼ活性,リガーゼ活性などが参加して修復を完結する.

上述のようにAPOBECタンパク質がcccDNAを標的にできるとなると,APOBECタンパク質が作ったウイルスDNA上のウラシルは塩基除去修復系で修復されるのかという疑問がでる.我々はその疑問に答えるべく,APOBEC3GがcccDNAに高頻度変異を導入する実験条件を,塩基除去修復活性がある場合とない場合で比較してみた.UGIは,UNGの阻害活性を持つファージ由来遺伝子産物であるが,UGI阻害活性のあるときとないときで,APOBEC3Gが作るcccDNAの高頻度変異を比較した.その結果ウイルスDNA量は5日間の培養期間では顕著な差を見いだせなかったが,高頻度変異はUNG阻害により顕著に増加することがわかった5).したがって本来,我々のゲノムDNAを守るために進化した塩基除去修復系は,APOBECタンパク質が作ったcccDNA上のウラシルも修復してしまうようである.

培養細胞の系で明らかとなったAPOBECの抗ウイルス活性のまとめを表1図2に示す.

表1 APOBECタンパク質の抗HBV活性
HBV生活環におけるAPOBECの標的細胞株の実験から想定されるAPOBECの抗ウイルス活性文献
cccDNAあるいはその形成プロセスA3A, A3B, A3G, AIDがcccDNAに高頻度変異を導入し,抗ウイルス活性を示す.またこれらのAPOBECタンパク質の作るUが塩基除去修復系の標的になる.5, 6)
cccDNAからの転写プロセスA3BがSプロモーターとEnh II活性を抑制.14)
HBV RNAAIDが,HBV RNAレベルをRNAエキソソーム依存的に低下させる.またAID, A1がRNAレベルでのC-to-U変換(RNA編集)を行う.15, 16)
ヌクレオキャプシド形成A3はコアタンパク質と複合体を作るため,キャプシド形成の阻害活性が想定されるが,しかしキャプシド形成は変化しないという報告もある.2, 15, 17)
pgRNAからRC-DNAの変換過程A3Gが逆転写のステップのうちDNA合成を阻害,一方逆転写そのものをブロックしないという報告もある.15, 17)
RC-DNA強制発現されたA1, A3A, B, C, F, G, H, AIDが高頻度変異を導入し,主たる作用点は明らかではないが,結果的にウイルスDNA量を低下させる(A3Cの効果は弱いか,ないと報告されている).2, 3, 15, 18–20)
Journal of Japanese Biochemical Society 88(5): 557-562 (2016)

図2 APOBECタンパク質の抗HBV活性

主に培養細胞の実験系で示されたAPOBECタンパク質のHBVへの作用点が図示されている.強制発現の結果も図示されており,内在性のAPOBECタンパク質や実際の感染病態でもこれらのモデルが当てはまるかは今後検証が必要である.詳細は本文も参照.

6. 高頻度変異とウイルス変異体創出

HBVはDNAウイルスではあるが,変異率が高いウイルスといわれており,慢性感染の過程でさまざまな変異体が検出される.核酸アナログ,特にラミブジンの長期使用時は,薬剤耐性ウイルスが高率に出現することも知られている.またプレコア変異の出現は劇症肝炎との相関,S変異はHBV中和抗体のエスケープ変異体との関連が知られている7).これらの変異体出現は,APOBECの高頻度変異が原因なのではないかという疑問が当然起こってくる.高頻度変異の結果,ウイルス遺伝情報が複製阻害に至る程度に破壊されたウイルスDNAは確かに患者検体でも観察されていて,その現象だけをみれば抗ウイルス作用が起こっているといえよう.しかし,そのような検体であっても同一サンプル中に変異がわずかしか入っていないウイルスDNAを容易に検出することが可能である8).したがってAPOBECの活性が変異体を作る可能性は十分あり,Vartanianらは,この疑問を培養細胞の系で検討している8).プレコア変異は,コアタンパク質遺伝子の開始メチオニンの5′側直上にあるTGGにG-to-A変異が起こることで,TAGあるいはTGAのストップコドンが作られる変異である.この変異によりプレコアタンパク質の読み枠にpremature stop codonが作られる結果,プレコアタンパク質が産生されなくなる.VartanianらはHBVを複製している細胞株にAPOBEC3Gを強制発現させ,プレコア領域を3D-PCRで増幅した.コントロールの慢性肝炎患者のサンプルからはプレコア変異を持つウイルスDNAが容易に検出されたが,APOBEC3Gを強制発現したサンプルからもやはり容易にプレコア変異が検出され,少なくともAPOBEC3Gにはプレコア変異を作る活性があることが示された.

7. APOBECと肝細胞がん

シークエンシング技術の飛躍的な進歩により,全ゲノム配列を決定する研究が盛んに行われるようになったが,その研究からAPOBEC3の発がんにおける役割が予想以上に大きい可能性が示唆された.2012年Nik-Zainalらは,乳がんでさまざまな遺伝子,特にBRCA1BRCA2遺伝子領域にC-to-TあるいはG-to-A点突然変異の集積が検出され,しかも変異を受けるCの1塩基上流はTである確率が高いことを報告し,そのような変異の集積をKataegis(ギリシャ語で雷雨)と名づけた9).APOBEC3タンパク質は一本鎖DNAを触媒し,かつ標的にするシトシンの1塩基上流はTであると効率よくC-to-T変異できること(TpC dinucleotide preferenceと呼ぶ)が知られていたので,Nik-ZainalらはKataegisの原因酵素はAPOBEC3であると予見した.翌年Kataegisを再認する研究が複数発表され,APOBEC mutation signatureと呼ばれるようになった.それらの研究によると,多種類のヒトのがんゲノムでAPOBEC mutation signatureが観察され,それはAPOBEC(特にAPOBEC3B)の発現レベルと相関することがわかった.またAPOBECタンパク質が作る点突然変異は,これまで想像されていた以上にがんゲノム形成に寄与しており,ある種のがんでは全変異の68%がAPOBEC mutation signatureである例なども報告された10–12)

一方,Xuらは,発がん誘導活性が想定されているHBxとAPOBECとの関連性を報告している13).HBVゲノムの中で,HBxがある領域は,特にRC-DNAでは一本鎖DNAになる確率が高く,APOBECの高頻度変異を受けやすい.HBxの120番目のアミノ酸はトリプトファン(W)でTGGによりコードされるが,ここにG-to-A変異が起こると,ストップコドンが作られ,C末端34アミノ酸を欠損する変異型HBx遺伝子となる(W120X).Xuらは,HBVを複製しているHepG2細胞にAPOBEC3Bを強制発現したところ,高頻度変異がHBxに起こり,W120Xも出現することを観察した.またW120Xを持つHBx変異体をHepG2細胞に強制発現させると,野生型HBxやモックを強制発現させたものより,増殖活性やコロニー形成能が上昇することを明らかにした.慢性HBV感染の肝生検サンプル中のHBV DNAを検討したところ,7例中3例でW120X変異が検出された.さらに肝細胞がん手術検体で,がん部と非がん部のRT-PCRを行ったところAPOBEC3B, APOBEC3F, APOBEC3Gの発現ががん部で高いことを明らかにした.これらの知見より,XuらはAPOBEC3がC末端欠損型HBxを作ることで肝細胞がん発生に寄与する可能性を提示した.

8. おわりに

APOBEC3タンパク質がHBVの抗ウイルス因子として働きうる可能性が2004年に示され,はや10年以上が経つ. APOBEC3がウイルスDNAに高頻度変異を導入することで,HBV感染病態を修飾しうることは,in vitro, in vivo両面でほぼ間違いないこととなった.しかし抗ウイルス因子としてどの程度HBV感染制御に寄与しているのかはいまだ不明である.またウイルス変異体を作りうることはある程度示されてきたが,それらは特定の変異が検出できることを示しただけであり,APOBECが複製能力を保持した変異体を作り,それが肝細胞内で複製し,また病態を変化させるかについては今後の研究が待たれる.これらの実験は,より自然な形でウイルス生活環を長期に観察できる実験系で検討されるべきであるが,現在汎用されている培養細胞の系では容易でない.最近,ヒト肝キメラの動物モデルがヒト肝細胞の研究に応用され始めている.この系を使えば,上記の疑問に答えられるかもしれない.

HBV研究の中で,ウイルス発がんは最も重要なテーマであるが,2012年以降に報告された一連のAPOBEC mutation signatureの発見は,APOBEC研究に大きなインパクトを与えた.しかも乳がんや肺がんなど,ウイルスに依存しないとされるがんでもAPOBEC mutation signatureが検出されており,がん研究におけるAPOBECの重要性を示唆している.現時点ではAPOBEC mutation signatureの発生メカニズムは明らかにされておらず,さらにはAPOBEC mutation signatureが発がんの原因なのか,それとも結果なのかも未解決事項である.

今後APOBECタンパク質の抗ウイルス因子としての役割と発がんにおける役割についてさらなる研究が必要であろう.

引用文献References

1) Harris, R.S. & Liddament, M.T. (2004) Nat. Rev. Immunol., 4, 868–877.

2) Turelli, P., Mangeat, B., Jost, S., Vianin, S., & Trono, D. (2004) Science, 303, 1829.

3) Rosler, C., Kock, J., Malim, M.H., Blum, H.E., & von Weizsacker, F. (2004) Science, 305, 1403, author reply, 1403.

4) Suspene, R., Guetard, D., Henry, M., Sommer, P., Wain-Hobson, S., & Vartanian, J.P. (2005) Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 102, 8321–8326.

5) Kitamura, K., Wang, Z., Chowdhury, S., Simadu, M., Koura, M., & Muramatsu, M. (2013) PLoS Pathog., 9, e1003361.

6) Lucifora, J., Xia, Y., Reisinger, F., Zhang, K., Stadler, D., Cheng, X., Sprinzl, M.F., Koppensteiner, H., Makowska, Z., Volz, T., Remouchamps, C., Chou, W.M., Thasler, W.E., Huser, N., Durantel, D., Liang, T.J., Munk, C., Heim, M.H., Browning, J.L., Dejardin, E., Dandri, M., Schindler, M., Heikenwalder, M., & Protzer, U. (2014) Science, 343, 1221–1228.

7) Echevarria, J.M. & Avellon, A. (2006) J. Med. Virol., 78(Suppl. 1), S36–S42.

8) Vartanian, J.P., Henry, M., Marchio, A., Suspene, R., Aynaud, M.M., Guetard, D., Cervantes-Gonzalez, M., Battiston, C., Mazzaferro, V., Pineau, P., Dejean, A., & Wain-Hobson, S. (2010) PLoS Pathog., 6, e1000928.

9) Nik-Zainal, S., Alexandrov, L.B., Wedge, D.C., Van Loo, P., Greenman, C.D., Raine, K., Jones, D., Hinton, J., Marshall, J., Stebbings, L.A., Menzies, A., Martin, S., Leung, K., Chen, L., Leroy, C., Ramakrishna, M., Rance, R., Lau, K.W., Mudie, L.J., Varela, I., McBride, D.J., Bignell, G.R., Cooke, S.L., Shlien, A., Gamble, J., Whitmore, I., Maddison, M., Tarpey, P.S., Davies, H.R., Papaemmanuil, E., Stephens, P.J., McLaren, S., Butler, A.P., Teague, J.W., Jonsson, G., Garber, J.E., Silver, D., Miron, P., Fatima, A., Boyault, S., Langerod, A., Tutt, A., Martens, J.W., Aparicio, S.A., Borg, A., Salomon, A.V., Thomas, G., Borresen-Dale, A.L., Richardson, A.L., Neuberger, M.S., Futreal, P.A., Campbell, P.J., Stratton, M.R., & Breast Cancer Working Group of the International Cancer Genome Consortium (2012) Cell, 149, 979–993.

10) Roberts, S.A., Lawrence, M.S., Klimczak, L.J., Grimm, S.A., Fargo, D., Stojanov, P., Kiezun, A., Kryukov, G.V., Carter, S.L., Saksena, G., Harris, S., Shah, R.R., Resnick, M.A., Getz, G., & Gordenin, D.A. (2013) Nat. Genet., 45, 970–976.

11) Alexandrov, L.B., Nik-Zainal, S., Wedge, D.C., Aparicio, S.A., Behjati, S., Biankin, A.V., Bignell, G.R., Bolli, N., Borg, A., Borresen-Dale, A.L., Boyault, S., Burkhardt, B., Butler, A.P., Caldas, C., Davies, H.R., Desmedt, C., Eils, R., Eyfjord, J.E., Foekens, J.A., Greaves, M., Hosoda, F., Hutter, B., Ilicic, T., Imbeaud, S., Imielinski, M., Jager, N., Jones, D.T., Jones, D., Knappskog, S., Kool, M., Lakhani, S.R., Lopez-Otin, C., Martin, S., Munshi, N.C., Nakamura, H., Northcott, P.A., Pajic, M., Papaemmanuil, E., Paradiso, A., Pearson, J.V., Puente, X.S., Raine, K., Ramakrishna, M., Richardson, A.L., Richter, J., Rosenstiel, P., Schlesner, M., Schumacher, T.N., Span, P.N., Teague, J.W., Totoki, Y., Tutt, A.N., Valdes-Mas, R., van Buuren, M.M., van’t Veer, L., Vincent-Salomon, A., Waddell, N., Yates, L.R., Zucman-Rossi, J., Futreal, P.A., McDermott, U., Lichter, P., Meyerson, M., Grimmond, S.M., Siebert, R., Campo, E., Shibata, T., Pfister, S.M., Campbell, P.J., & Stratton, M.R. (2013) Nature, 500, 415–421.

12) Burns, M.B., Temiz, N.A., & Harris, R.S. (2013) Nat. Genet., 45, 977–983.

13) Xu, R., Zhang, X., Zhang, W., Fang, Y., Zheng, S., & Yu, X.F. (2007) Hepatology, 46, 1810–1820.

14) Zhang, W., Zhang, X., Tian, C., Wang, T., Sarkis, P.T., Fang, Y., Zheng, S., Yu, X.F., & Xu, R. (2008) Cell. Microbiol., 10, 112–121.

15) Rosler, C., Kock, J., Kann, M., Malim, M.H., Blum, H.E., Baumert, T.F., & von Weizsacker, F. (2005) Hepatology, 42, 301–309.

16) Liang, G., Liu, G., Kitamura, K., Wang, Z., Chowdhury, S., Monjurul, A.M., Wakae, K., Koura, M., Shimadu, M., Kinoshita, K., & Muramatsu, M. (2015) PLoS Pathog., 11, e1004780.

17) Nguyen, D.H., Gummuluru, S., & Hu, J. (2007) J. Virol., 81, 4465–4472.

18) Bonvin, M., Achermann, F., Greeve, I., Stroka, D., Keogh, A., Inderbitzin, D., Candinas, D., Sommer, P., Wain-Hobson, S., Vartanian, J.P., & Greeve, J. (2006) Hepatology, 43, 1364–1374.

19) Noguchi, C., Hiraga, N., Mori, N., Tsuge, M., Imamura, M., Takahashi, S., Fujimoto, Y., Ochi, H., Abe, H., Maekawa, T., Yatsuji, H., Shirakawa, K., Takaori-Kondo, A., & Chayama, K. (2007) J. Gen. Virol., 88, 432–440.

20) Kock, J. & Blum, H.E. (2008) J. Gen. Virol., 89, 1184–1191.

著者紹介Author Profile

村松 正道(むらまつ まさみち)

金沢大学医薬保健研究域医学系教授.博士(医学).

略歴

1993年秋田大学医学部卒業後小児科初期研修をする.95年に京都大学医学研究科大学院(本庶佑教授)に入学.2007年まで本庶佑研究室でクラススイッチ組換え現象の分子機序の解明に取り組む.07年より現職.

研究テーマと抱負

AIDの単離に成功して以来APOBEC研究にはまりました.APOBECは遺伝情報を積極的に換えることで防御を強化し,細胞寄生体に攻撃を仕掛ける機構とも取れます.進化や癌を織り込む事でこの研究テーマはさらに魅力的になると思います.

ウェブサイト

http://molgenet.w3.kanazawa-u.ac.jp

趣味

家庭菜園.

喜多村 晃一(きたむら こういち)

金沢大学医薬保健研究域医学系助教.博士(薬学).

略歴

1976年神奈川県に生まれる.99年麻布大学獣医学部卒業.2004年大阪大学大学院薬学研究科で博士号取得.同年から京都大学再生医科学研究所での博士研究員を経て,07年より現職.

研究テーマと抱負

APOBECタンパク質ファミリーの機能解析.DNA/RNAに作用し遺伝情報を書き換えるこの酵素群の,細胞機能・病気・進化における役割を明らかにしたいと考えています.

ウェブサイト

http://molgenet.w3.kanazawa-u.ac.jp

趣味

映画鑑賞.

若江 亨祥(わかえ こうしょう)

金沢大学大学院医薬保健学総合研究科分子遺伝学助教.医学博士.

略歴

2006年京都大学医学部医学科卒業.京都大学医学部付属病院及び関連病院での初期臨床研修を経て08年京都大学大学院医学研究科・免疫細胞生物学大学院生.09年学術振興会特別研究員(DC1).12年より現職.

研究テーマと抱負

HPV感染病態をAPOBECの役割という切り口から研究しております.抗ウイルス効果と発癌という二面性を楽しみつつ,真実に迫れればと思います.

ウェブサイト

http://molgenet.w3.kanazawa-u.ac.jp/home.html

趣味

テニス,マラソン,将棋

This page was created on 2016-08-19T16:33:35.631+09:00
This page was last modified on 2016-10-14T12:00:11.857+09:00


このサイトは(株)国際文献社によって運用されています。