生化学 SEIKAGAKU
Journal of Japanese Biochemical Society

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Journal of Japanese Biochemical Society 88(5): 615-620 (2016)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2016.880615

総説Review

リンパ節の組織微小環境に制御されるT細胞の高速遊走Lymph node microenvironment controls high-speed T cell migration

新潟大学大学院医歯学総合研究科免疫・医動物学分野Department of Immunology, Graduate School of Medical and Dental Sciences, Niigata University ◇ 〒951–8510 新潟市中央区旭町通1–757 ◇ 1–757 Asahimachi-dori, Chuo-ku, Niigata 951–8510, Japan

発行日:2016年10月25日Published: October 25, 2016
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リンパ節は獲得免疫応答を誘導するための拠点となる免疫器官であり,リンパ球をはじめとした各種の免疫細胞が高密度に集積している.特にT細胞は傍皮質領域に集中し,樹状細胞が提示する異物情報を監視する役割を担う.近年,多光子励起レーザー顕微鏡を用いた生体観察により,T細胞が毎分平均10 µm以上の速度で組織内を移動していることが明らかになった.これは末梢組織からリンパ管経由で集められた異物情報を効率よく探索し,免疫応答を効果的に誘導する上で重要であると考えられる.しかし,細胞が密集しダイナミックに動き回る状況下で高速遊走が可能になるメカニズムはこれまで明確にはなっていなかった.最近,その分子基盤に関する解析が進み,細網線維芽細胞や樹状細胞などが産生する複数の因子がT細胞の運動を多面的に制御していることが明らかになった.また,細胞が密集した独特の組織環境も重要な役割を担うと考えられる.本稿では最新の成果を踏まえ,リンパ節内におけるT細胞高速遊走の実態を考察する.

1. はじめに

リンパ管網の要所に配置され,リンパ液のフィルターとして働くリンパ節は,リンパ球を中心とした多数の免疫細胞が集積し,外来異物に対する免疫応答を誘導するための免疫器官である1).体内の各所で異物(抗原)を取り込んだ樹状細胞はリンパ管経由でリンパ節に移動し,さらにTリンパ球(T細胞)が集まる傍皮質領域に進入した後,T細胞に異物情報を伝える(抗原提示)ことで強力な獲得免疫応答が開始される1, 2)図1).したがって,リンパ節は抗原提示細胞とT細胞を限られた領域に集中させ,接触の機会を高める装置として重要な役割を担っているといえる.

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図1 免疫細胞の移動とリンパ節における獲得免疫応答の誘導

体内に侵入した抗原(異物や病原体など)は皮膚などの上皮組織直下に存在する樹状細胞に取り込まれ,リンパ管を介して近傍のリンパ節に運ばれる.樹状細胞はさらに傍皮質領域(T細胞領域)に進み,抗原情報をT細胞へ提示する.一方,血液を循環するT細胞は特殊な血管からリンパ節内に入り,組織間質で高速ランダム遊走を行いながら多数の樹状細胞を探索し,認識可能な抗原を見つけ出すと活性化・増殖し,獲得免疫応答が開始される.

2002年以降,麻酔下マウスの外科的に露出されたリンパ節や還流下の外植リンパ節に対する多光子励起レーザー顕微鏡を用いた生体観察が報告され,組織内のリンパ球が非常に活発に移動していることが明らかになった3,4).特にT細胞は毎分平均10 µm以上の高速でランダムに遊走しており,短時間に多くの樹状細胞と接触することで,抗原探索の効率を上げていると考えられている.通常,ある抗原に反応できるT細胞の頻度はきわめて少なく,それらが抗原を見つけ出し免疫応答を誘導するためには活発な移動による探索が不可欠であると推測される.しかし,細胞が高密度で集積したリンパ節内でこのような高速移動が可能になるメカニズムは必ずしも明確にはなっておらず,周囲の支持細胞の役割や組織微小環境という観点からの検討も,その複雑さと解析の難しさからなかなか進展していなかった.

2. リンパ球の遊走過程

in vitro(試験管内)の観察などから,免疫系細胞が他の組織細胞に比べて高い運動性を有することは以前から知られていた5, 6)図2).さまざまな刺激に応じて極性のある前後に伸びた形態に変化するとともに,アクチンなどの細胞骨格再編と非筋型ミオシンによる収縮・伸長のサイクルを伴う細胞膜動態の亢進,ならびに移動能が大きく増加する7).その回転効率が非血球細胞に比べてきわめて速いことがリンパ球を含む血球系細胞の運動性の高さを反映していると考えられる.また,一般的に血球系細胞の接着性が低いことも移動速度を高める一因であるといえる.

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図2 試験管内の2次元的(平面的)環境下におけるT細胞遊走

T細胞を含む免疫細胞の多くは,ケモカインなど遊走刺激因子のシグナルを受けると細胞骨格再編や前後極性の形成を伴う遊走能の亢進を示す.培養液中などのin vitroにおける遊走では,培養皿の底に沈んだ後に底面に敷き詰められた支持細胞や接着分子に弱く接着し,それを足掛かりとして前進する(文献36より改変).

免疫細胞の移動や体内分布はケモカインにより調節されている部分が大きい8).多様なケモカインによる遊走刺激は受容体を介して多くの分子が関わるシグナル伝達経路を活性化し,極性形成や細胞骨格の再編を亢進させる.リンパ球では特に,Gαi共役型受容体からグアニンヌクレオチド変換因子DOCK2および低分子量Gタンパク質Racの活性化がアクチン動態の促進による細胞前方のラメリポディア形成と運動性の増進,同時に細胞後方において低分子量Gタンパク質Rhoの活性化に続く非筋型ミオシンIIを介した収縮・伸長の過程が連動する7–10).また,前後の極性形成やインテグリンによる接着性の亢進には,別の低分子量Gタンパク質Rap1の活性化が必要であることも明らかになっている11)

ところで,in vitroの平面的な環境下で観察されるリンパ球遊走は,足場となる基質への接着に大きく依存することが知られていた5, 6).特に,支持細胞上を移動する場合,リンパ球の体内分布や活性化においても重要な役割を担うインテグリンLFA-1を介した接着が前進運動に必要であることが示されている7, 11)図2).LFA-1はケモカインを含むさまざまなシグナルによりその構造が迅速に変化し,ICAM-1などのリガンド分子へ結合することで接着性を発揮する.では,実際のリンパ節内におけるリンパ球遊走も同様のメカニズムで起こるのか.多光子励起レーザー顕微鏡を用いた生体観察が始まってまず検討されたのが,これらin vitroで理解されていた現象との比較であった.

3. リンパ節内のT細胞遊走機構

細胞骨格再編など,細胞の運動性自体を直接制御する一部の分子機構に関しては,リンパ節内のT細胞遊走でも重要な役割を果たすことが明らかになっている.たとえば,DOCK2欠損マウスやRac1/Rac2欠損マウスのT細胞を野生型マウスへ移入した場合,リンパ節内の動きは著しく低下する12, 13).一方,ケモカインによる遊走刺激やインテグリンを介した接着は,他の細胞との相互作用が関連する問題であるといえる.当初からリンパ節内のT細胞遊走にケモカインが関わる可能性が想定されていた.ケモカインは一般的によく知られた濃度勾配による方向性のある動き(ケモタキシス)の他,均一濃度においてはランダムな遊走(ケモキネシス)も促進するため,方向性のない組織内の動きを説明しやすい5).実際にGαi共役型のケモカイン受容体シグナルを百日咳毒素により阻害すると,T細胞遊走が有意に(速度にして40~50%ほど)減少した14, 15).また,リンパ節の傍皮質領域では細網線維芽細胞(fibroblastic reticular cell:FRC)と呼ばれる間質細胞がケモカインCCL19およびCCL21を産生しており,その受容体CCR7を発現するT細胞の局在に重要であることがすでに知られていた.そして,CCL19/21欠損(plt変異)マウスのリンパ節内における野生型T細胞の遊走,もしくは野生型リンパ節におけるCCR7欠損T細胞の遊走はいずれも低下(20~35%)することから,部分的ではあるがこれらのケモカインの関与が示された14, 15)

4. インテグリンLFA-1に関する問題

ある状況下ではケモカインがLFA-1による接着性を増強することから7, 11),T細胞遊走におけるLFA-1の関与が想定された.ところが,LFA-1欠損マウス由来T細胞を用いた最初のリンパ節生体観察の報告では,わずかな速度低下(15%以下)は認められたものの,固層化されたケモカインがT細胞の遊走を促進する一方で,インテグリンを介した強い接着は誘導しないというin vitroの結果を踏まえ,リンパ節内のT細胞遊走におけるLFA-1の寄与は予想外に少ないと考えられた16).この報告では,ほとんどのT細胞が停止することなく動き続けていることから,他の細胞への強い接着は誘導されておらず,インテグリンは活性化してないと解釈された.また同時期に,ほぼすべてのインテグリンを欠損した樹状細胞がリンパ節傍皮質へ移動できることが示され17),免疫細胞の組織内遊走にインテグリンは必要ないという認識が広まった.

しかし,リンパ節におけるLFA-1欠損T細胞の遊走速度はわずかではあるが確実に低下しており,LFA-1は速度上昇に寄与していることは間違いない16).また,さまざまな免疫異常を示すLFA-1欠損マウスのT細胞を用いている点にも不安が残る.LFA-1欠損マウスにおいてT細胞は一見正常に分化し,効率は低下するものの,通常LFA-1を必要とする血中からリンパ節への移行が起こる18).しかし,LFA-1がなくてもリンパ節に入ることができたT細胞は比較的運動性の高いものが濃縮されている可能性があり,その場合LFA-1の寄与を過小評価することになる.さらに,LFA-1が関わる接着は単純なオン/オフによる強力な接着だけでなく,一部の分子がダイナミックに遷移し,全体としては結合性の弱い動的な状態が存在する.活発に移動するリンパ球のLFA-1依存性はまさにこの状況にあるといえる.また,樹状細胞の移動にインテグリンが必要ないとしても,そもそも組織内の樹状細胞の移動速度はT細胞に比べて格段に低く,高速移動に関する議論が成立しない.

5. 空間圧迫効果による接着非依存的な移動

ところで,リンパ節傍皮質はFRCが作る緻密な網目構造に支えられており19–21),T細胞の多くはこのネットワークに沿って移動しているようにみえることが報告された22).FRCはケモカインを産生するとともにICAM-1も高発現することから,当初T細胞はインテグリンを介してFRCに直接接着し,これを足場として移動すると推測された.また,ランダムにみえる移動様式は,細かく分岐したネットワークに沿った確率論的な動きであると解釈された.しかし,インテグリンの関与を事実上否定する報告がなされたことから16),リンパ節内遊走のメカニズムに関する議論の方向性が変わった.そのころ,さまざまな細胞種において,周囲が基質に囲まれた三次元的空間内では接着非依存的に移動する場合があることが知られるようになる5, 6, 23).リンパ球を含む免疫系細胞の移動もin vitroの平面的な状況では基質への接着依存度が高いが,空間的に圧迫されたような人為的な条件下では接着に依存せずに移動できることが示された24, 25).そして,この論理がリンパ節内のT細胞遊走にも適応され,細胞が密集した環境下における接着非依存的な遊走であると考えられるようになった.確かに上下左右が樹脂の壁に囲まれ,前後のみ移動が可能な微小流路を用いた人為的な観察系では,流路径が細胞1個程度の範囲でT細胞の接着非依存的な移動性が増し,空間を広げると逆に低下する25).しかし,同じ圧迫された環境とはいえ,実際のリンパ節内では個々の細胞の周囲も時々刻々と変化する柔軟な細胞に囲まれており,同様の物理的状況下にあるかどうかは疑問である.

6. T細胞遊走におけるLFA-1/ICAM-1の再検証

非常に強い接着は細胞移動を低下または停止させると考えられるが,足場に対する一過性の弱い接着は適度な摩擦力を生み,接着性がない状況に比べて前進する効率はむしろ上がる可能性がある.シグナルにより瞬時に接着性を調節できるLFA-1は,このような過程に最適の分子であるといえる11).我々はリンパ節内のT細胞遊走に関する前述の諸問題を踏まえ,正常リンパ球の機能を組織内で急性阻害することができるリンパ節組織スライス法を用いた観察系を構築した26)図3).振動ミクロトームにより切断したリンパ節組織へT細胞を直接進入させ,同時に抗体や薬剤などを添加し運動を評価する.阻害剤の浸透が早いうえ,マウス個体への細胞移入で問題となる血中からリンパ節への移行過程に関連するバイアスを回避できる.この観察系で抗体によるLFA-1の阻害を試みた結果,T細胞の遊走速度は再現性よく30~40%ほど減弱し,特に10 µm/分以上の高速度画分の減少と直線的な運動の低下を認めた.また,ICAM-1欠損マウス由来のリンパ節における正常T細胞の遊走速度も同様に低下した.したがって,少なくともこの観察系では,LFA-1/ICAM-1を介した接着機構が高速遊走に重要な役割を果たしていることを示唆する.

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図3 多光子励起レーザー顕微鏡を用いたリンパ節組織スライスの観察

マウスのリンパ節を台座に固定した後,アガロースゲルに埋め,振動ミクロトームにより上部を切断し組織間質を露出させる.蛍光標識したT細胞を組織の切断面から進入させると同時に,抗体や薬剤を加えることで特定の分子機能の急性阻害を行い,還流下で多光子励起レーザー顕微鏡による観察を行う.

組織スライスを用いた観察に問題がないわけではない.まず,組織を切断するため,さまざまな物理的・生理的変化が生ずる可能性は否めない.しかし,少なくとも外植リンパ節やマウス個体を用いた一般的な方法で検証可能な部分では,同様の結果を得ている.一方,阻害剤を同時に添加する場合,注目する細胞以外にもすべての組織細胞に作用するため,それら全体の運動に対する効果,すなわち「押し合いへし合い」による周囲からの圧力などの阻害も含んだ影響をみていることになる.実際,組織内である細胞の自発的な前進運動をほぼ停止させても,少しずつ動き,見かけ上の速度がゼロになることはない.速度で評価する移動度の1/4程度は,このような受動的な効果あるいは振動による「底上げ」である可能性もある.しかし裏を返せば,こうした影響を含めて阻害した分子の働きであるといえる.いずれにしても,実験系の違いにより得られる結果とその解釈が異なってくることはありうるため簡単には結論できないが,我々はT細胞の高速遊走にLFA-1/ICAM-1を介した接着機構が十分に寄与していると考えている.

7. 樹状細胞のICAM-1によるLFA-1依存的遊走の支持

傍皮質のFRCはICAM-1を高発現することから,あらためてT細胞がこの細胞を足場にしていることが想定された.しかし,同じ領域に多数存在する樹状細胞もさらに高いICAM-1発現を示すことがわかった26).そこで,どちらの細胞のICAM-1が重要であるかを検証するため,野生型およびICAM-1欠損マウスを用いた骨髄キメラを作製した26).これらのキメラでは血球系細胞もしくは非血球系細胞がそれぞれICAM-1を欠損する状況となる.その結果,正常マウスにICAM-1欠損骨髄を移植した場合にT細胞遊走が著減し,その逆ではまったく変化がなかった.すなわち,血球系細胞のICAM-1発現が重要で,FRCを含む非血球系細胞のICAM-1は必要ないことを示唆する.さらに,ICAM-1を欠損する組織環境下において樹状細胞のみがICAM-1を発現する状況を作るとT細胞は正常に遊走した.したがって,樹状細胞上のICAM-1がLFA-1依存的なT細胞遊走を支持していると考えられる.樹状細胞の表面積はFRCに比べて大きく,さらにFRC表面の相当部分が樹状細胞に覆われているため,傍皮質内を遊走するT細胞の多くは樹状細胞に接触しているとみられる.また,樹状細胞はCCL21を産生しないが,糖鎖を介して細胞表面にCCL21を結合することができる.つまり,樹状細胞に接触したT細胞はケモカインからのシグナルを受け,LFA-1を介して樹状細胞のICAM-1を軽くつかみながら前進するという一連の過程を想定できる(図4).

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図4 リンパ節内の3次元的環境下におけるT細胞遊走

リンパ節傍皮質領域では,FRCが産生するケモカインやLPAなどの複数の遊走刺激因子がT細胞の遊走を亢進させる.インテグリンLFA-1は樹状細胞上のICAM-1に一過性に結合することにより,遊走速度の引き上げに寄与している.一方で,多数の細胞が3次元的に密集し圧迫された環境下では,細胞の変形や他の要因により接着非依存的に前進することが可能である.この複雑な組織微小環境内で,T細胞はダイナミックに運動様式を切り替えながら効率よく移動していると考えられる(文献36より改変).

8. ケモカイン,LFA-1/ICAM-1非依存的な遊走機構

FRCが産生するケモカインや樹状細胞のICAM-1によるLFA-1依存的な接着の関与は明確となったが,これらを阻害してもT細胞はかなりの移動能を保っている.非自発的運動を差し引いたとしても,残りの運動性が何に起因するのかは依然として不明であった.我々は,FRCが産生する何らかの未同定分子が関与する可能性を想定し,マイクロアレイ解析を行ったところ,FRCにAutotaxin(ATX)が高発現していることを見いだした27).ATXはリゾホスファチジン酸(lysophosphatidic acid:LPA)を産生する分泌型酵素で,LPAを介してさまざまな細胞の運動を促進することが知られていた.そこで,ATX阻害剤やLPA受容体阻害剤を用いてリンパ節内のT細胞遊走に対する影響を評価すると,それぞれ20%程度の速度低下を認めた.また,これらの阻害剤は百日咳毒素処理やLFA-1阻害によるT細胞遊走の速度低下をさらに増強したことから,ATX/LPAはGαiやLFA-1非依存的な運動に関与することが示唆された.リンパ節内遊走におけるLPAの働きは他のグループからも報告され,T細胞が発現する複数の受容体の中でもLPA2が必要であることが示されている28–30)

LPA受容体シグナルは低分子量Gタンパク質Rhoを活性化することが知られており31, 32),実際にT細胞においてもLPAはGTP結合型Rhoを増加させた27).ケモカインCCL21もRhoを活性化するが,興味深いことに,CCL21とLPAの同時刺激はさらにRho活性化を増強する協調効果が認められた.一方,C3毒素処理によるRho阻害はリンパ節内のT細胞遊走を大きく低下させるため,Rhoの活性化がこの過程に重要であることは明白である.特にRhoの阻害は運動中のT細胞体後方の収縮を抑え,組織内における細胞の前進を低下させた.また,Rhoシグナルは非筋型ミオシンIIによる細胞収縮に関わるが10),非筋型ミオシンの阻害も組織内遊走を抑制するとともに,LFA-1阻害による遊走低下をさらに減弱させた.したがって,Rho-非筋型ミオシンII経路はLFA-1非依存的な運動の相当部分を担い,ATX/LPAシグナルがこれに寄与していると考えられる(図4).

9. 組織微小環境内における微視的な細胞動態

非筋型ミオシンの働きは圧迫空間内における接着非依存的な細胞移動にも重要な役割を果たす17, 25).細胞体をうねらせ,大きく絞り込むことにより狭い隙間をすり抜けて進むのに有利な運動様式であるが,このような動きは細胞が密集しながら動き回り,複雑に入り組んだリンパ節内の特殊な環境においてリンパ球が障害物を避けながら効率よく進むためにも重要であると想像される33).その場合においても,基質に対する一過性の弱い接着は効果的な推進力を得る上で有効であると考えられる.一般的に,細胞後方の収縮は接着を外すために必要と考えられてきたが34, 35),接着性の低い生体内のT細胞でどの程度機能しているかは不明である.一方で,平面基質上で活発に移動するT細胞は下部全体が基質に接触しているわけではなく,非筋型ミオシンが関わる細胞膜のダイナミクス(うねり)により,あたかも「歩く」ように飛び飛びに接地する25, 36).したがって,非筋型ミオシンの働きは周囲基質への過度な接着を抑え,すばやく前進させるために必要である可能性が高い.このような細胞の微小部位でLFA-1による一過性のリガンド結合が適度な摩擦力を生み,高速遊走に結びついている可能性も十分にある.

一方,樹状細胞やFRCの細胞表面もダイナミックに変動する不規則な形態であり,特に樹状細胞は多数の細い樹状突起を活発に伸縮させることから,決して平面的で安定した足場とはいえない.また,ケモカインやLPA, ICAM-1の局所的な分布も一様ではないと考えられる.LFA-1を介してICAM-1に接触できるところは飛び飛びにしか存在せず,それ以外の部位では細胞体の変形や膜動態,空間限定(圧迫)効果により推進力を得ていると考えられる.一つの細胞の中でも限られた部分の機能が刻々と移り変わることが複雑な微小環境内を移動するために必要なのかもしれない.

10. おわりに

リンパ節内のT細胞高速遊走はFRCや樹状細胞が作り出す特異な組織微小環境と複数の遊走刺激,およびT細胞の独特な運動様式が協調して機能することにより成立していると考えられる(図437).また,T細胞は接着依存的および非依存的な運動をダイナミックに切り替えながら,細胞が高度に密集した環境下を効率よく移動していると推測される.しかし,その微視的な過程と分子基盤の詳細を議論するにはまだ材料が不足しているのが現状であり,今後さらに高解像度の観察手法により各分子の働きをより詳しく調べていく必要がある.いずれにしても,このようにきわめて動的で複雑な組織システムが高次免疫機能を支えていることは間違いない.

謝辞Acknowledgments

本研究は,関西医科大学附属生命医学研究所分子遺伝学部門で行われたものであり,多大なご支援をいただいた木梨達雄先生ならびに研究室のメンバーに心より感謝いたします.

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著者紹介Author Profile

片貝 智哉(かたかい ともや)

新潟大学大学院医歯学総合研究科免疫・医動物学分野教授.博士(理学)(新潟大学).

略歴

1971年群馬県生まれ.99年新潟大学大学院自然科学研究科博士課程修了.2000年京都大学遺伝子実験施設助手,07年関西医科大学附属生命医学研究所講師などを経て,14年より現職.

研究テーマと抱負

細胞間相互作用と組織微小環境をキーワードとして,リンパ節を含む二次リンパ器官の組織構造と機能,ストローマ細胞,免疫細胞動態を中心に研究を進めており,精緻でダイナミックな免疫系の理解を目指す.

ウェブサイト

http://www.med.niigata-u.ac.jp/zoo/welcome.html

趣味

読書,自転車,砂丘.

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