生化学 SEIKAGAKU
Journal of Japanese Biochemical Society

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公益社団法人日本生化学会 The Japanese Biochemical Society
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Journal of Japanese Biochemical Society 88(6): 683 (2016)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2016.880683

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生化学研究の半世紀

1立命館大学総合科学技術研究機構上席研究員

2京都大学名誉教授

発行日:2016年12月25日Published: December 25, 2016
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私が生化学に初めて接したのは大学3回生(1962年)での鈴木友二先生の生化学講義でした.先生の迫力のある講義には多くの学生が魅了されましたが,私もその一人でした.その後,大学院に進学し,生化学会の重鎮である山科郁男先生に師事し,以来半世紀を超えて,生化学の研究と教育に携ってきました.この間,生化学・分子生物学は,数々の輝かしい研究成果を挙げ,ライフサイエンスやバイオテクノロジーの最先端研究の飛躍的な発展に大きく貢献してきました.私の専門とした糖鎖生物学は,生体内に普遍的に含まれる糖鎖の生物学的役割を解明する学問であり,いささか脇役的存在とみなされていましたが,幸いにして,動物体内に含まれる糖鎖結合タンパク質(動物レクチン)の発見,血清レクチンによる補体活性化作用の発見(先天性生体防御因子),神経系におけるHNK-1糖鎖の役割の発見,血清レクチン特異的な結腸がんマーカー糖鎖の単離と構造決定,樹状細胞レクチンを介するがん細胞による樹状細胞成熟抑制作用の発見,未分化多能性幹細胞認識糖特異的マーカー抗体の開発,糖鎖認識抗体データベース「GlycoEpitope」の作成と公開など,その折々の自分の興味に関して,ささやかながら成果を残すことができたと考えています.これも,大学院生として山科研究室で,その後ポスドクとして,米国NIH, G. Ashwell研究室で,ライフサイエンスの基盤となる論理的かつ定量的実験科学としての生化学の方法論を学ぶ機会を得たおかげと改めて感謝しております.

ところで,この半世紀の間に研究を取りまく社会環境は大きく変化しています.「学問」という言葉はほとんど使われなくなり,もともと異なる概念である科学と技術が融合して「科学技術」と総称され,最近ではイノベーション(「技術革新」と翻訳される)の重要性が各方面で強調されています.短期的目標を重視するイノベーションの推進は,世界的な傾向でありますが,この分野では,企業による積極的な推進を大いに期待したいと思います.わが国の基礎科学技術研究は,公的競争的資金により支えられています.これらの資金は,いずれもピアレビューシステムにより運用されていますので,本会会員には,さまざまな形でこれらの運用に関与する機会があると思われます.その折には,長期的観点から将来を担う優秀な研究者を育成し,新しい科学を継続的に創生できる体制作りをめざして積極的なレビュー活動をお願いしたいと思います.また,最近,アカデミアでは「PI(principal investigator)」という肩書を耳にします.その定義は,1)独立した研究課題と研究スペースを持つこと,2)研究グループの責任者であること,3)大学院生の指導に責任を持つこと,4)論文発表の責任者であること,とされています(総合科学技術会議(平成22年1月27日)).所属組織の職位とは別に,研究者の要件を定めることは,独立した若手研究者の数の増加,研究レベルの向上に役立つものと考えます.わが国は,科学技術創造立国をめざしているといわれています.しかし,現在,この声は,研究の現場にはあまり届いていないように思います.現場の活性化のためには,個人の自由な発想を大切にし,そのアイデアを実際に検証する機会をできるだけ多くの研究者に与えることが重要であると思います.「科学研究費補助金」を飛躍的に増やすと共に,「PI」など制度的改革を進める必要があるのではないでしょうか.近年,健康寿命の延長に伴い,定年で退職した後も研究を継続する研究者が増えています.「PI」制度は,意欲とアイデアの尽きない古手研究者にとっても励みになるものと期待されます.

ご存じのように,日本生化学会は,医学・歯学,理学,農学・工学,薬学,その他の部局を横断する組織であり,学会では,細胞生物,免疫,神経,発生,再生,がん等各種疾病など,異なる専門分野の研究者が一堂に会します.学会の専門化,細分化が進む中で,ライフサイエンスやバイオテクノロジーに関する最新の進歩の全貌を知ることができる本学会の特色が改めて高く評価されていると思います.会員・役員の皆様のご努力に感謝申し上げますとともに一層の健闘を期待します.

顧みて,この半世紀余りの間,日々,期待と反省のなかで,国内外の多くの研究者とともに,研究の 楽しさを分かち合うことができたことを有り難く思いながら私の“はんせいき”(反省記)といたします.

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