生化学 SEIKAGAKU
Journal of Japanese Biochemical Society

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Journal of Japanese Biochemical Society 88(6): 744-747 (2016)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2016.880744

みにれびゅうMini Review

タンパク質膜挿入・膜透過に関与する多機能性糖脂質MPIaseMPIase, a multi-functional glycolipid involved in protein insertion into and protein translocation across membranes

岩手大学農学部応用生物化学科・寒冷バイオフロンティア研究センターCryobiofrontier Research Center, and Department of Biological Chemistry and Food Science, Faculty of Agriculture, Iwate University ◇ 〒020–8550 岩手県盛岡市上田3–18–8 ◇ 3–18–8 Ueda, Morioka, Iwate 020–8550, Japan

発行日:2016年12月25日Published: December 25, 2016
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1. はじめに

細胞質で合成された分泌タンパク質や膜内在性タンパク質がいかにして生体膜をそれぞれ透過したり組み込まれたりするのかという問題について,多くの生物を材料にさまざまな解析がなされている.その結果,基本的な部分ではすべての生物において同様の機構でタンパク質膜透過・膜挿入が進行すると考えられている.シグナル認識粒子SRPが新生鎖のシグナル配列や膜貫通領域を認識し,リボソーム–新生鎖–SRP複合体がSRP受容体(SR)を介して膜に輸送される.新生鎖はタンパク質膜透過チャネル(Sec61やSecYEG)上で膜透過・膜挿入が進行する.膜タンパク質はその後TRAMやYidC, Oxa1p, Alb3pと相互作用し,成熟体の膜タンパク質となる1–4)図1,「Sec/SRP依存」).「シグナル仮説」の延長線上で考えられるタンパク質膜挿入機構は,すべての生物で保存されていると考えられている.一方,分子量の小さなタンパク質やC末端にのみ膜貫通領域を持つ膜タンパク質は,SRPやSec因子に依存せずに膜挿入する(図1,「Sec/SRP非依存」)ことから,古くから自発的に膜挿入すると考えられてきた.実際,リン脂質のみで形成したリポソームで自発的膜挿入が観察される5).しかし,リポソームでは,マンニトールパーミアーゼMtlAなどのSec/SRP依存経路(図1)に従って膜挿入するタンパク質も,自発的に膜挿入してしまうことが明らかとなった6).このことは,リポソームを用いた従来の解析で明らかとなっていた自発的膜挿入は,細胞内の膜挿入機構を反映していないことを示している.

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図1 大腸菌におけるタンパク質膜挿入・膜透過反応

Sec/SRPに依存する(上段),あるいは依存しない(中段)タンパク質膜挿入を示す.下段は分泌タンパク質の膜透過を示す.「M」は糖脂質MPIaseを示す.

2. 自発的膜挿入のブロックと膜挿入因子の精製

筆者らは,大腸菌の膜構成成分中に,無秩序な自発的膜挿入をブロックする因子が存在すると考えた.すなわち,リポソームではこの因子が欠如しているため,細胞内では起こらない自発的膜挿入が誘発されたという可能性を考えた.膜成分を検索した結果,生理的な濃度でジアシルグリセロール(DAG)をリポソームに加えることにより,自発的膜挿入が完全に抑制されることを見いだした6, 7).さらに,DAGを含むリポソームでは,従来自発的膜挿入すると考えられていた膜タンパク質も膜挿入しなくなった.これらの結果は,自発的膜挿入が抑制されている環境であってもタンパク質膜挿入を駆動する未知の因子が存在することを強く示唆していた.

タンパク質膜挿入活性を指標にこの因子の精製を進めた.大腸菌内膜の粗抽出画分で膜挿入活性が検出された.この画分をプロテイナーゼK(PK)で消化すると活性が消失する6)ことから,当初はタンパク質性の因子であると考えた.しかし,精製が完了すると,本因子がタンパク質ではなく,糖脂質であることが判明した.当時,Sec/SRPに依存しないタンパク質の膜挿入はYidCにより行われると考えられており,YidCは「membrane protein insertase」であると提唱されていた8).しかし,DAGにより自発的膜挿入が完全にブロックされた条件では,YidCだけでは膜挿入活性はまったく検出されず,筆者らが精製した糖脂質が膜挿入反応に必須であった.この因子は糖脂質であったが,タンパク質膜挿入反応を触媒するためMPIase(membrane protein integrase)と命名した9)

3. 膜挿入因子MPIaseの構造と機能

サントリー生有研・楠本所長(当時)らのグループの協力を得て,MPIaseの構造が決定された(図2).MPIaseは分子量約7000の糖脂質で,3種のN-アセチル化したアミノ糖からなる糖単位が約10回繰り返した糖鎖がピロリン酸を介してDAGに結合する構造をとっている10).ピロリン酸ホスファターゼ消化を行うと,図2矢印部分で切断され,可溶性の糖鎖(PP-MPIase)が得られる.Sec/SRPに依存しない膜タンパク質に関しては,PP-MPIaseのみで高い膜挿入活性が検出されたため,MPIaseの糖鎖部分が膜挿入に重要であることが判明した.一方,アルカリ処理によりO-アセチル基を除去したMPIaseでは膜挿入活性を喪失していた.PP-MPIaseは基質膜タンパク質と直接相互作用し,可溶性の複合体を形成する.この複合体は膜挿入活性を保持していたため,複合体形成は膜挿入反応の一過程であると考えられる.これらの結果は,MPIaseには膜タンパク質に特化した分子シャペロン様の機能があることを示している.ゲルろ過分析では,PP-MPIaseは約八量体に相当する位置に溶出される.このことは,MPIaseが膜上でオリゴマー構造を形成することを強く示唆している.仮に八量体を形成するとすれば,一つのMPIaseオリゴマー中にアセチル基は約200個存在することとなる.MPIaseに多数存在するアセチル基は,膜タンパク質の膜貫通領域との相互作用に重要な役割を果たすと考えられる.PK処理によりMPIaseが失活したのは,基質特異性の低いPKがN-アセチル基を切断したためである可能性が強い.

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図2 MPIaseの構造

R1は炭素鎖長が16あるいは18の脂肪酸,R2は水素あるいはアセチル基を示す.GlcNAcはN-アセチルグルコサミン,ManNAcAは,N-アセチルマンヌロン酸,Fuc4NAcは4-アセトアミドフコースを示す.矢印はピロリン酸ホスファターゼ(PP)消化により加水分解される部位を示す.

MPIaseはリボソームから放出直後の膜タンパク質を膜上で受け取り,可溶性の複合体を形成する.その後,何らかの構造変化を経て,膜内部への入り口が開く.膜内部のより強い疎水性相互作用により膜タンパク質はMPIaseから解離し,膜内部へと挿入し,膜挿入が完了する.膜タンパク質から解離したMPIaseは次のサイクルの膜挿入反応に関わり,タンパク質膜挿入反応が触媒される.脂質部分を欠くPP-MPIaseは,可溶性環境で膜タンパク質を受け取ることができる.そのため,膜上にのみ存在するMPIaseよりも効率よく基質膜タンパク質を受け取ることができ,膜挿入活性はむしろ上昇すると考えられる.これらのことから,MPIaseはSec/SRPに依存しないタンパク質の膜挿入反応を触媒することが明らかとなった.糖脂質でありながら酵素様の作用を示すため,MPIaseはタンパク質膜挿入反応を触媒する「糖脂質酵素(glycolipozyme)」であるという概念を筆者らは提唱している10)

4. MPIaseとSecYEGとの相互作用

多くの膜タンパク質はSec/SRPに依存して膜挿入する(図1上段).MtlA(マンニトールパーミアーゼ)もその一つである.MtlAはリン脂質のみで形成したリポソームに自発的に膜挿入してしまうが,DAG添加により自発的膜挿入がブロックされる6).この条件でSecYEGやYidCを再構成し,SRP·SRを加えてもMtlAの膜挿入は観察されなかった.MtlAの膜挿入は,SecYEGとMPIaseが共存するときのみ観察された.したがって,Sec/SRPに依存する膜挿入反応でもMPIaseは必須であることが判明した6).一方,MtlAの膜挿入はSecYEGあるいはYidCが存在すれば進行するという報告11)もあるが,この実験では自発的膜挿入を適切に排除できているかどうか問題があり,さらなる検証が求められる.

SecYEGは分泌タンパク質の膜透過チャネルを形成する.大腸菌では,ATPase活性を持つモータータンパク質SecAとともに膜透過反応を触媒する(図1,下段).タンパク質膜透過活性はSecYEGとSecAのみから再構成することができるが,SecYEGの比活性は野生株の大腸菌から調製した反転膜小胞に比べると著しく低い.SecYEGを過剰発現した株から調製した反転膜小胞でもSecYEGの比活性は低い12).これらの結果は,SecYEG過剰生産に伴いタンパク質膜透過に関与する因子が不足していることを強く示唆している.MPIaseはSec/SRP依存の膜挿入において必須であるため,MPIaseが不足している可能性を考えた.SecYEGとMPIaseをともに再構成したプロテオリポソームでは,MPIaseの増加に伴い膜透過活性が約10倍にまで促進された12).これらの結果は,MPIaseがタンパク質膜透過反応にも関与していることを示している.筆者らは以前,SecYEGを構成するSecGは,膜透過反応に伴い膜内配向性の反転・回復サイクルを繰り返すことを見いだしている13).この構造変化によりSecAのSecYEG上での構造変化が円滑になり,その結果膜透過反応が促進される.SecYEGのみ再構成したプロテオリポソームでは,SecGの反転・回復サイクルは作動しなかったが,SecYEGとMPIaseをともに再構成したプロテオリポソームではSecGの反転・回復サイクルが作動することが明らかとなった12).MPIaseによる膜透過活性の促進は,MPIaseとSecYEGが相互作用することによりSecGの反転・回復サイクルが作動可能になるため達成されると考えられる.SecYEGはSecEの3番目の膜貫通領域(TM3)を接触面とした二量体構造をとることが明らかとなっている(図3左,back-to-back).一方,SecYEGとMPIaseが相互作用するときはSecGが接触面近傍に位置する構造に変化することが明らかとなった(図3右,side-by-side)12).すなわち,MPIaseがSecYEGと相互作用することによりSecYEGの二量体構造が大幅に変化し,その結果SecGの反転・回復サイクルが作動可能となり膜透過反応が著しく促進されることが明らかとなった12)

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図3 MPIaseによるSecYEG二量体の構造変化

SecYEG二量体の細胞質からの眺望を示す.SecEを二量体接触面としたSecYEG二量体(back-to-back構造,左)はMPIaseと相互作用することによりSecGが二量体接触面近傍に位置する二量体(side-by-side構造,右)に変化する.左ではSecEのTM3内の106番目のアミノ酸をシステインに置換した変異体(SecE 106C),右ではSecGのTM2内の60番目のアミノ酸をシステインに置換した変異体(SecG 60C)は,それぞれジスルフィド結合を形成することができる.「plug」は膜透過チャネルの開閉を制御する領域であると考えられている.

筆者らは以前,SecYEとSecAから再構成される膜透過活性を著しく促進する因子としてSecGを同定した14).SecGは,大腸菌内膜を可溶化後,トリクロロ酢酸(TCA)処理した上清画分から同定された.MPIaseは,SecG同様,TCA上清画分に回収される9).当時,SDS-PAGEで約7 kDaに検出される膜透過促進因子の存在は示されたものの,MPIaseの同定には至らなかった.後年,ドイツ留学の機会を得てタンパク質膜挿入の再構成を始め,そこで新因子を精製すると,SecG発見当時には同定できなかった因子MPIaseに異国の地で再会することとなった.奇妙な縁を感じている.

5. 今後の展望

MPIaseの糖鎖構造は大腸菌外膜構成因子ECA(enterobacterial common antigen)に類似している.しかし,ECA生合成遺伝子欠損株においてもMPIaseの発現には影響が認められなかった10).このことはECA生合成遺伝子とは別に未知のMPIase生合成遺伝子が存在することを意味している.in vitro実験系では,上述のとおりMPIaseがタンパク質膜挿入・膜透過反応に関与することは明らかである.しかし,生合成遺伝子が同定されていないため,MPIase枯渇株でタンパク質膜挿入・膜透過に期待どおり影響があるかどうか明らかになっていない.今後はMPIase生合成遺伝子の同定を重点的に進める予定である.

MPIaseはSec/SRPに依存する膜挿入でも依存しない膜挿入でも必須であった.Sec/SRPに依存しない膜挿入反応については,上述のとおり詳細を明らかにすることができた.一方,Sec/SRP依存の膜挿入については,不明な点が多く残されている.MPIaseと相互作用したSecYEGは大きく構造が変化する12)ため,SecYEGがMPIaseと相互作用してside-by-side構造をとるとき膜挿入活性が発現するのか,Sec/SRPに依存しない膜挿入と同様に膜タンパク質新生鎖–リボソーム複合体がSecYEG上に輸送された後MPIaseの作用で膜挿入が進行するのか,区別する必要があると考えている.

近年,タンパク質膜挿入反応に関与するYidCの結晶構造が報告されている15).YidCには膜内部分に親水的な空洞が存在し,この空洞中の正電荷と膜タンパク質のペリプラズム側の負電荷との静電的相互作用が膜挿入に重要であるというモデルが提唱されている.一方,無秩序な自発的膜挿入が十分にブロックされている条件では,YidCのみでは膜挿入活性はまったく観察されない.そのため,膜挿入反応前期にはMPIaseが作用し,その後YidCに膜タンパク質が受け渡されて膜挿入が完了するという可能性が考えられる.このことは,MPIaseとYidCの間に機能的な相互作用が存在することを示唆している.YidCはSecYEGとも相互作用し,Sec/SRP依存の膜挿入途中,新生鎖と容易に化学架橋させることができる.このとき,MPIase機能とどのような関係があるのかについても興味が持たれる.

謝辞Acknowledgments

MPIase研究に参画していただいた諸先生方,研究員,学生の皆さんに感謝いたします.特に,MPIase構造を決定していただいたサントリー生命科学財団・生物有機科学研究所の楠本正一先生,島本啓子先生,前田将秀博士に深く感謝いたします.また,SecG研究当時から長きにわたってご指導いただいた盛岡大学・徳田元先生に深く感謝いたします.

引用文献References

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著者紹介Author Profile

西山 賢一(にしやま けんいち)

岩手大学農学部教授.博士(農学).

略歴

1989年東京大学工学部卒,94年同大学院農学系研究科修了,93年~学振特別研究員,96年~東京大学分子細胞生物学研究所助手,助教授,准教授,2002~04年EMBO Long-Term Fellow(フライブルク大),10年より現職.

研究テーマと抱負

タンパク質膜挿入機構の解明.ジャック・モノー先生が仰られるように,大腸菌を用いてすべての生物に適用できるような普遍的な概念を導きたいと考えている.

ウェブサイト

http://news7a1.atm.iwate-u.ac.jp/~sec/

趣味

ジャズ.

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