植物Nudix hydrolaseファミリーの機能解析の進展—細胞内GDP-D-マンノースおよびNADH代謝制御の新たな役割—
1 島根大学生物資源科学部生命工学科 ◇ 〒690–8504 島根県松江市西川津町1060
2 近畿大学農学部バイオサイエンス学科 ◇ 〒631–8505 奈良県奈良市中町3327–204
3 中部大学応用生物学部食品栄養科学科 ◇ 〒487–8501 愛知県春日井市松本町1200
© 2016 公益社団法人日本生化学会
Nudix hydrolase(NUDX)はヌクレオシド二リン酸類縁体(nucleoside diphosphate linked some other moiety X:NDP-X)に対して加水分解(ピロホスホヒドロラーゼ)活性を持つタンパク質ファミリーの総称であり,ウイルスからヒトに至る300種以上の生物に,2500を超える遺伝子が存在する1, 2).NUDXの基質には,突然変異の原因となる酸化ヌクレオチドやmRNA 5′-キャップ構造に加え,NAD(P)H, FAD, CoA,およびADP-リボースを含む糖ヌクレオチドなどの多様な生体分子が含まれる1, 2).これらは生体毒性分子だけでなく,シグナル分子,還元力の供与体,代謝中間体や補酵素など,生体にとって重要な分子であるが,本酵素ファミリーの生理機能についてはほとんど推測の域を出ていなかった.しかし近年,植物NUDXの研究を通して,細胞内でのNUDXによる種々の生体分子の分解が単なる代謝制御のみならず,環境ストレス下での細胞死誘導や防御機構の発動など多様な細胞応答と深く関連していることが明らかになってきた1).
そこで本稿では,これまでに植物の中で最も研究が進んでいるシロイヌナズナNUDX(AtNUDX)の生理機能を概説するとともに,筆者らが最近明らかにしたGDP-D-マンノース加水分解活性を有するAtNUDX9によるタンパク質N-グリコシル化の制御を介したアンモニア応答およびNADH加水分解活性を有するAtNUDX6と7によるストレス応答/防御機構の制御について紹介する.
NUDXに関する研究は初期には好熱性細菌や大腸菌などの原核微生物から始まり,その後ヒトを含めた動物に拡がっていった1, 2).その過程で,それら生物種から多様な基質に対して活性を有するNUDXサブファミリーが多数同定されたが,それらの生理機能については酸化ヌクレオチドを基質とする一部のNUDXが突然変異の抑制に機能していることが明らかにされたのみであった.その後,約10年前から植物NUDXに関する研究が急速に進展し,現在では筆者らをはじめとした国内外の研究グループによりシロイヌナズナを含む植物NUDXの分子特性や生理機能に関する知見が蓄積され,微生物や動物では長らく不明であった酸化ヌクレオチド以外の基質に対して活性を有するNUDXサブファミリーの生理機能が明らかになってきている1–4)
.
シロイヌナズナには細胞内局在性が異なるNUDX(細胞質:AtNUDX1-11, 25およびAtDCP2,ミトコンドリア:AtNUDX12~18,葉緑体:AtNUDX19~24および27)が合計28種類存在する1).そこで筆者らは,入手可能なNDP-Xに対する活性を網羅的に解析することでそれらAtNUDXの特異的基質を明らかにし,その後遺伝子破壊株や過剰発現株を用いて順次個々のAtNUDXの生理機能解析を進めてきた3, 4).その結果,AtNUDX1は大腸菌MutTなどと同様に,8-oxo-(d)GTPの分解を介してDNAやRNAの突然変異の抑制に機能していることが明らかになった3, 5).さらに,本酵素の機能解析を通して植物オルガネラゲノムへの酸化損傷の蓄積が細胞死誘導の引き金になっていることが示された6).一方,AtNUDX2はADP-リボースを生理的基質とし,多くの細胞応答の制御のためのタンパク質の修飾機構であるポリADPリボシル化(PAR)反応の分解過程から生成するADP-リボースの分解によるヌクレオチドリサイクルに関与し7),AtNUDX7はADP-リボース代謝によるヌクレオチドリサイクルに加えてNADHも同程度の効率で生理的基質とし,その代謝調節によるPAR反応を介したDNA酸化損傷修復機構の制御を介して強光や乾燥条件などに起因する非生物的ストレスに対する応答/防御に寄与していた8).さらにAtNUDX6はAtNUDX7と同様にNADHを生理的基質とし,チオレドキシン(TRX-h5)の発現制御を介したNPR1依存的サリチル酸シグナル伝達経路の制御により,病原菌感染などの生物的ストレスに対する獲得免疫機構に関与していた9).また,葉緑体局在型のAtNUDX23はFAD加水分解活性を有しており,本酵素の機能解析を通して不明な点が多く残されていた植物のフラビン代謝系の一端を明らかにすることができた10).また,AtNUDX11, AtNUDX15および15aは細胞質やミトコンドリアでのCoA誘導体の代謝制御に関与すると考えられた1).さらに,AtNUDX26がグアノシン3,5-四リン酸(ppGpp)の分解を介して,葉緑体遺伝子発現制御へ関与する可能性を示した1).また最近,AtNUDX19がNADPHの加水分解を介して,植物の主要なNADPHリサイクリング(再還元)酵素群の活性化に関与していることが明らかになった11).さらに筆者らは,AtNUDX19が光合成とストレス応答/防御系のバランス制御や植物ホルモンシグナル伝達経路の制御にも機能していることも見いだしている12)
.
これら一連の研究を通して,当該の植物NUDXの機能のみならず,これまであまり注目されていなかった有用生体分子の分解系の存在やそれらによる生合成能の制御の重要性が明確になってきている.
最近筆者らは,28種類のAtNUDXの中から,細胞質型AtNUDX9がGDP-D-マンノースに対して特異的に加水分解活性を有することを明らかにした13).植物においてGDP-D-マンノースは主要な抗酸化物質であるアスコルビン酸(AsA)生合成の代謝中間体であるほか,タンパク質のN-グリコシル化や細胞壁多糖のマンノースドナーとして重要な糖ヌクレオチドである(図1).したがって,それらの経路への炭素分配を決定する上で,細胞内GDP-D-マンノースレベルは厳密に制御する必要がある.GDP-D-マンノースは,ホスホマンノースイソメラーゼ(PMI),ホスホマンノースムターゼ(PMM),GDP-D-マンノースピロホスホリラーゼ(GMP/VTC1)により細胞質で合成される.一方,AtNUDX9はGDP-D-マンノースからGMPとD-マンノース1-リン酸への加水分解反応を触媒する.すなわち,AtNUDX9とGMP/VTC1は競合して細胞内のGDP-D-マンノースとD-マンノース1-リン酸レベルの維持に関与すると考えられた(図1).
AtNUDX9はGMP/VTC1と共役して細胞内GDP-D-マンノースレベルの制御に機能し,タンパク質のN-グリコシル化などの調節に関与する.GPI:グリコシルホスファチジルイノシトール.
そこで,シロイヌナズナ野生株およびAtNUDX9遺伝子破壊株(KO-nudx9)の各器官におけるAtNUDX9の発現やGDP-D-マンノース加水分解活性を比較した結果,どちらも野生株の根で最も高かったことから,GDP-D-マンノース代謝の根での重要性が示唆された.また,AtNUDX9遺伝子破壊株(KO-nudx9)の総GDP-D-マンノース加水分解活性の減少率から,AtNUDX9がシロイヌナズナにおけるGDP-D-マンノース加水分解活性の大部分(約70%)を占めることが明らかになった.これまでにGDP-D-マンノース合成反応を触媒するGMP/VTC1の変異体(vtc1-1)をNH4+を含む培地で培養した場合,タンパク質の重要な修飾過程であるN-グリコシル化が抑制され,その結果として根の伸長阻害が亢進することが報告されている.しかし,同様のNH4+に対する感受性の変化はvtc1-1以外のAsA欠乏変異体では認められないことから,このNH4+感受性には細胞内AsAレベルではなく,GDP-D-マンノースレベルの変化が重要であることが示唆されている14).実際にKO-nudx9株では野生株と比較してNH4+を含む培地での根の伸長阻害の緩和およびN-グリコシル化タンパク質レベルの増加といったvtc1-1とは逆の表現型が認められた13).これらのことから,AtNUDX9は根においてGMP/VTC1と共役して細胞内GDP-D-マンノースレベルの厳密な制御に機能し,NH4+感受性に影響するタンパク質のN-グリコシル化の調節に関与することが示唆された.
NAD(P)Hなどのピリジンヌクレオチドは生物界に普遍的に存在し,エネルギー代謝を含めた多岐にわたる経路での酸化還元反応に関与しているため,細胞内レドックスバランスに大きな影響を及ぼしている.上述したように,これまでに筆者らは細胞質型AtNUDX6および7の恒常的な過剰発現株や遺伝子破壊株におけるNADH加水分解活性や細胞内NADH量,および種々のストレスに対する応答性を解析した結果,AtNUDX6および7はどちらもNADHに対して加水分解活性を有するが,まったく異なる細胞応答の制御に機能していることを示してきた(図2).また,他の研究グループにより,AtNUDX7は生物的ストレス応答時の過剰なサリチル酸の蓄積の抑制に機能することも報告されている15).しかしながら,このような異なる細胞応答を両酵素がどのように調節しているのか,それらの制御に両酵素共通の基質であるNADHレベルの変化が直接関与しているのかは不明であった.そこで最近筆者らは,AtNUDX6および7の野生型およびNADH加水分解活性を不活性化させた変異型タンパク質のエストロゲン誘導型一過的発現系をシロイヌナズナの両酵素の遺伝子破壊株(KO-nudx6およびKO-nudx7)に導入し,両酵素の一過的な発現およびそれに伴う細胞内NADHレベルの変化が,生物的/非生物的ストレス応答に及ぼす影響について解析を試みた.その結果,PAR反応の活性化はAtNUDX6および7の野生型を一過的発現させた際にのみ認められた.すなわち,PAR反応の制御には細胞内NADHレベルの調節が重要であることが示された(図2).一方,サリチル酸レベルおよびNPR1依存的生物的ストレス応答の変化は両酵素の野生型だけでなく変異型タンパク質を一過的発現させた際にも認められたことから,それらの制御には細胞内NADHレベルの変化は関与しておらず,AtNUDX6および7タンパク質自身の存在,もしくは他の因子との相互作用が重要であることが示唆された16)(図2).
AtNUDX6および7による細胞内NADHレベルの変化はPARの制御,NRGおよびRRGの発現制御を介して種々のストレス応答に関与する.一方,サリチル酸(SA)レベルの調節およびNPR1依存的生物的ストレス応答の制御には,AtNUDX6および7タンパク質自身の存在,もしくは他の因子との相互作用が関与する.
さらに筆者らはKO-nudx6, KO-nudx7株および両遺伝子の二重破壊株(WKO-nudx6/7)のトランスクリプトーム解析により,細胞内NADHレベルと相関して発現量が変化する遺伝子(NADH-responsive gene:NRG)を多数同定した.NRGは既報のグルタチオンおよびペルオキシソーム由来H2O2応答性遺伝子とまったく重複しておらず,葉緑体由来H2O2,一重項酸素,オゾンおよびAsA応答性遺伝子とはわずかに(約12~32%)重複していた.このことから,細胞内NADHレベルの変化は他のレドックスシグナルとは異なる経路を構成し,ストレス応答に関与していると考えられた.また,NRGの中で葉緑体由来H2O2,一重項酸素,オゾンおよびAsA応答性遺伝子すべてに重複していた遺伝子は6個存在しており(redox responsive-gene:RRG),それらは植物細胞内のレドックス応答のコアである可能性が考えられた16).
植物が多数のNUDX相同遺伝子を保有している事実から,移動の自由を持たない植物が生存戦略として,進化の過程でNUDXを独自に発達させることで種々の生体分子の分解経路を巧みに利用してきたと考えられる.実際に,AtNUDXの研究を通して本酵素ファミリーの多様な生理機能が明らかになり,長らく不明であった他の生物種のNUDXの機能解析にも重要な知見を与えてきた.しかし,いまだ基質や生理機能が未同定のAtNUDXが多数存在する.さらに上述のようにNUDXの加水分解酵素としてだけではなく,他のタンパク質との相互作用などを介した新たな機能も示唆されている.今後NUDX自身の機能だけでなく,相互作用因子の探索やその機能解析を進めることで,NUDXを介した未知なる代謝経路や生存戦略の理解の進展につながることが期待される.
本稿で紹介した研究は,丸田隆典准教授(現島根大学),田茂井政宏准教授(近畿大学),田部記章博士(近畿大学),石川和也博士(現Shanghai Center for Plant Stress Biology),田中裕之博士(現宇都宮大学),福崎英一朗教授(大阪大学),原田和生講師(大阪大学)との共同研究によるものです.共同研究者の方々ならびに本研究にご協力くださった方々に心より御礼申し上げます.
1) Yoshimura, K. & Shigeoka, S. (2015) Biosci. Biotechnol. Biochem., 79, 354–366.
2) McLennan, A.G. (2006) Cell. Mol. Life Sci., 63, 123–143.
3) Ogawa, T., Ueda, Y., Yoshimura, K., & Shigeoka, S. (2005) J. Biol. Chem., 280, 25277–25283.
4) Ogawa, T., Yoshimura, K., Miyake, H., Ishikawa, K., Itoh, D., Tanabe, N., & Shigeoka, S. (2008) Plant Physiol., 148, 1412–1424.
5) Yoshimura, K., Ogawa, T., Ueda, Y., & Shigeoka, S. (2007) Plant Cell Physiol., 48, 1438–1449.
6) Yoshimura, K., Ogawa, T., Tsujimura, M., Ishikawa, K., & Shigeoka, S. (2014) Plant Cell Physiol., 55, 1534–1543.
7) Ogawa, T., Ishikawa, K., Harada, K., Fukusaki, E., Yoshimura, K., & Shigeoka, S. (2009) Plant J., 57, 289–301.
8) Ishikawa, K., Ogawa, T., Hirosue, E., Nakayama, Y., Harada, K., Fukusaki, E., Yoshimura, K., & Shigeoka, S. (2009) Plant Physiol., 151, 741–754.
9) Ishikawa, K., Yoshimura, K., Harada, K., Fukusaki, E., Ogawa, T., Tamoi, M., & Shigeoka, S. (2010) Plant Physiol., 152, 2000–2012.
10) Maruta, T., Yoshimoto, T., Ito, D., Ogawa, T., Tamoi, M., Yoshimura, K., & Shigeoka, S. (2012) Plant Cell Physiol., 53, 1106–1116.
11) Corpas, F.J., Aguayo-Trinidad, S., Ogawa, T., Yoshimura, K., & Shigeoka, S. (2016) J. Plant Physiol., 192, 81–89.
12) Maruta, T., Ogawa, T., Tsujimura, M., Ikemoto, K., Yoshida, T., Takahashi, H., Yoshimura, K., Shigeoka, S. Sci. Rep., In press.
13) Tanaka, H., Maruta, T., Ogawa, T., Tanabe, N., Tamoi, M., Yoshimura, K., & Shigeoka, S. (2015) J. Exp. Bot., 66, 5797–5808.
14) Barth, C., Gouzd, Z.A., Steele, H.P., & Imperio, R.M. (2010) J. Exp. Bot., 61, 379–394.
15) Ge, X., Li, G.J., Wang, S.B., Zhu, H., Zhu, T., Wang, X., & Xia, Y. (2007) Plant Physiol., 145, 204–215.
16) Ogawa, T., Muramoto, K., Takada, R., Nakagawa, S., Shigeoka, S., & Yoshimura, K. (2016) Plant Cell Physiol., 57, 1295–1308.
This page was created on 2016-10-20T17:06:44.009+09:00
This page was last modified on 2016-12-16T14:49:41.895+09:00
このサイトは(株)国際文献社によって運用されています。