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公益社団法人日本生化学会 The Japanese Biochemical Society
Journal of Japanese Biochemical Society 88(6): 756-760 (2016)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2016.880756

みにれびゅうMini Review

テロメアクライシス期におけるM期停止を介した細胞死機構Mechanism of mitotic cell death during telomere crisis

京都大学白眉センター/大学院生命科学研究科The Hakubi Center for Advanced Research/Graduate School of Biostudies, Kyoto University ◇ 京都府京都市左京区吉田近衛町 ◇ Yoshida Konoe-cho, Sakyo-ku, Kyoto, Japan

発行日:2016年12月25日Published: December 25, 2016
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1. はじめに

細胞の腫瘍化は,細胞老化という不可逆な細胞周期停止によって抑制されている.細胞老化の一因として重要なのが,染色体末端テロメアの短小化による複製老化である.短小化したテロメアはDNA損傷として認識され,DNA損傷修復反応を引き起こし細胞周期停止が誘導される.この損傷修復経路に欠損を持つ細胞は,複製老化を迂回して増殖を続け,テロメアクライシスと呼ばれる状態に陥る.この時期においてテロメアの短小化はさらに進行し,染色体の異常が蓄積する.これは細胞の腫瘍化を駆動する非常に危険な状態であるが,ほぼすべての細胞は死滅するため,腫瘍化細胞の出現は非常にまれである.よって,テロメアクライシス期の細胞死は,腫瘍抑制経路と考えることができるが,その機構は長年不明であった.近年筆者らは,テロメアの融合によって細胞分裂期停止が引き起こされ,これが引き金となって細胞死が誘導されるという,テロメアクライシス期の細胞死を説明する仮説を提唱した.本稿ではテロメアクライシス,特にその時期の細胞死機構について概説する.

2. テロメア

1)テロメアの構造と機能

テロメアは染色体末端に位置するタンパク質–DNAの複合体であり,脊椎動物ではTTA GGGの繰り返す単純反復配列をとる.線状染色体の両端は,DNA二本鎖切断部位(double-strand break:DSB)と構造が等しいため,そのまま放置するとDNA損傷応答反応(DNA damage response:DDR)を引き起こしてしまう.染色体上でDSBが生じDDRが活性化されると,細胞周期を停止するシグナルカスケード,およびその間に切断部を再び結合するための損傷修復シグナルカスケードが引き起こされる1).切断部位が修復されれば,細胞周期停止シグナルが解除され,細胞周期が再開する.一方,損傷が修復不可能な場合は,細胞周期の永続的な停止やアポトーシスを介した細胞死に至る.しかし同じ反応が染色体末端で進行すると,染色体末端の融合による異常な染色体構造の形成や,不必要な細胞周期停止,細胞死などが引き起こされてしまう.そこでこれらの応答を抑制するために,この反復配列に特異的に結合するタンパク質群シェルタリン(Shelterin)が末端を保護し,不必要なDDRを抑制している(図1A, B).実際に,末端保護に特に重要な機能を持つシェルタリン因子TRF2の働きを阻害すると,テロメア末端がDNA損傷として認識され,保護の解かれたテロメア間で融合が生じることが示されている2)

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図1 テロメア末端の3段階保護仮説

(A)テロメアDNAは二本鎖の反復配列と最末端の3′突出部位からなる.二本鎖,一本鎖に特異的に結合する因子,およびそれらを架橋する六つの因子からなるシェルタリン複合体が結合する.(B)保護状態の模式図.3′オーバーハングが二本鎖部位に潜り込んだTループ構造をとる.正常な細胞での状態で,細胞周期停止・細胞死,および損傷修復がともに抑制されている.(C)半保護状態の模式図.複製老化に伴うテロメアの短小化,および細胞内のTRF2量の減少によって誘導される.細胞周期停止を引き起こすが,損傷修復は抑制する.(D)脱保護状態の模式図.テロメアDNAもしくは細胞内TRF2を喪失した状態で誘導される.細胞周期停止,損傷修復ともに活性化する.

テロメアのもう一つ重要な機能は,遺伝情報を保護するバッファーの役割である.DNA複製はDNAポリメラーゼの特性上5′から3′の方向にしか伸長しえないため,不連続に複製されるラギング鎖では,DNA末端を完全に複製することができない.この末端複製問題のため,染色体末端はDNA複製のたびに短くなる.この末端短小化によって重要な遺伝情報が失われることを防ぐために,単純な反復配列であるテロメアが染色体末端に位置すると考えられている.生殖細胞やがん細胞,単細胞真核生物など,無限増殖能を持つ細胞は,テロメラーゼと呼ばれる逆転写酵素を発現しており,RNAを鋳型としてテロメア配列を伸長することで,末端複製問題を回避している3)

2)テロメア末端の3段階保護仮説

テロメアの最末端部位は3′末端が突出した3′オーバーハング構造をとる.末端保護の有力な仮説の一つは,3′オーバーハングがシェルタリン因子の働きによって二本鎖テロメア反復配列部位に潜り込むことで末端が物理的に保護されるTループ仮説である.この状態は「保護状態(closed state)」とも呼称され,細胞周期停止,および損傷修復反応がともに抑制された状態である(図1B).テロメア末端は,少なくともあと二つの異なる状態をとりうることが実験的に示唆されている.一つは「脱保護状態(open state)」で,TRF2もしくはテロメア配列をほぼ完全に失った染色体末端の状態である.この状態は,染色体上のDSBと同じく,細胞周期の停止と損傷修復反応を引き起こすため,染色体融合を生じる(図1D).一方,その中間的な状態である「半保護状態(intermediate state)」の存在が近年提唱された4).この状態はTRF2の大部分をRNA干渉によって抑制することで実験的に誘導することが可能で5),細胞周期の停止を引き起こす一方,少量残ったTRF2の働きで損傷修復反応は抑制された状態であると考えられている(図1C).つまり半保護状態のテロメアは,染色体融合を生じることなく細胞周期を停止することが可能である.これらの末端保護状態は,後述するように複製老化やテロメアクライシス期の細胞の挙動を説明する上で重要な役割を果たす.

3. 複製老化とテロメアクライシス

ヒト体細胞の培養を続けると,やがて不可逆的な増殖停止がみられることが60年代にHayflickによって報告された6).ほぼ同時期に,ウイルス由来のがん遺伝子をヒト体細胞に導入すると,細胞の成長が亢進し,細胞死が頻発することが発見され,この状態はクライシスと名づけられた7).その後Shay, Wrightらによって,体細胞がん化の2段階仮説が唱えられた8).この仮説によると,分裂を続けた体細胞は,やがて複製老化(細胞老化の一種)という不可逆的な細胞周期停止をむかえるが,複製老化を抑制された細胞は増殖を続け,クライシスに陥る.クライシス期においてはほとんどの細胞は死滅するが,同時に染色体が不安定化することで変異が蓄積し,ごくまれに無限増殖能を獲得した細胞が生じる.よって,複製老化はがん化を抑制する機能を持つのに対し,クライシス期は細胞死によってがん化を抑制すると同時に染色体不安定化によってがん化を促進するステージであると捉えることができる.この2段階仮説の分子機構には,染色体末端テロメアが密接に関わると考えられており,クライシスはテロメアクライシスとも呼称されている9)

1)複製老化におけるテロメアの機能

長期培養を続けたヒト体細胞では,DNA複製に伴い短小化したテロメアがDDRを活性化する.これによるがん抑制因子p53やRb活性化を介した細胞周期停止が,複製老化の分子機構であることが報告された10).その後,複製老化を引き起こすテロメア末端は半保護状態であるという仮説が提唱された5).もし仮に複製老化の際に二つの脱保護した末端が存在すると,これらの末端は融合される可能性がある.この場合,損傷が修復されたこととなりDDRは不活化される.つまり融合した染色体を持つ細胞の細胞周期が再開されてしまうこととなり,これは後述するように細胞にとって危険な状態である.そこで,染色体融合を生じることなく細胞周期停止を誘導できる半保護状態のテロメアは,比較的安全に複製老化を引き起こすことができると考えられている.

2)テロメアクライシスにおける染色体の挙動

ウイルス由来のがん遺伝子(SV40 large Tなど)によってp53,Rbの働きを阻害することで,複製老化を迂回させた細胞では,テロメア短小化がさらに進行し,染色体末端の融合が生じる.このことは末端の状態が半保護状態から脱保護状態へと移行すると考えることでよく説明できる(図2A).ただしテロメアの長さは染色体末間で一定ではないため,すべてのテロメアが同時に脱保護状態になるわけではない.テロメアクライシス期の染色体融合の運命は,breakage–fusion–bridge (BFB)サイクルモデルという広く受け入れられている仮説によって説明されてきた.この仮説は1930年代にMcClintockによって,放射線照射を受けたトウモロコシ細胞の染色体の挙動を説明する仮説として初めて提唱され,近年になってクライシス期の染色体の挙動を説明するモデルとして拡張された9, 11).たとえば姉妹染色分体間が融合(fusion)されると,細胞分裂期後期に姉妹細胞間に架橋(bridge)を形成し,やがて細胞質分裂時に分断(breakage)される.分断された染色体末端はDNA複製を経て再結合され,再び次の細胞分裂後期に架橋を形成する,というサイクルの繰り返しによって染色体の不安定化を説明するモデルである.近年では,融合した染色体が細胞分裂後期に形成する架橋部分が,TREX1という一本鎖DNAを生じるDNA分解酵素によって処理されることで変異が蓄積するというモデルが提唱されている12).一方,テロメアクライシス期の細胞死の分子機構については長い間よくわかっていなかったが,近年,筆者の所属していたグループは,染色体融合を介して生じる細胞分裂期(mitosis:M期)停止によって細胞死を説明するモデルを提唱した13).以下ではこのモデルの提唱に至った研究について概説する.

Journal of Japanese Biochemical Society 88(6): 756-760 (2016)

図2 複製老化とテロメアクライシス

(A)テロメア長とがん化の2段階仮説の概念図.若くて正常な細胞はテロメア長が長く,末端も保護されているが,複製を繰り返した細胞のテロメア長が閾値に達すると半保護状態となり,細胞老化が誘導される.細胞周期の停止経路に欠損のある細胞はさらに複製を繰り返し,テロメアクライシスに陥る.テロメアは脱保護状態となり,ほとんどの細胞は死滅する.ごくまれにテロメラーゼを活性化するなどして生存した細胞は,腫瘍化する.(B)テロメアクライシスにおける細胞死経路のモデル図.テロメアを喪失し脱保護状態となった染色体末端は融合する.細胞周期がDNA複製ののちにM期に進行すると,M期前中期に細胞周期が停止する.M期停止はテロメアのさらなる脱保護を引き起こし,細胞死が誘導される.

4. テロメアクライシスの細胞死経路

1)テロメアクライシス期における細胞分裂期停止

テロメアクライシス期における細胞の挙動を詳細に観察するため,ヒトパピローマウイルス由来のがん遺伝子E6, E7(それぞれp53, Rbの働きを阻害)を発現させたヒト繊維芽細胞(IMR-90 E6E7)を長期培養し,人為的にテロメアクライシスを誘導した.この細胞をライブセルイメージングによって解析したところ,M期停止が頻発していることが明らかとなった.細胞老化直前の細胞では同様の表現型は観察されず,テロメアクライシス期に特異的なものであった.テロメラーゼを強制的に発現させた細胞ではM期停止が抑制されたことから,テロメアの短小化が必要な条件であることが示唆された.上記の3段階保護仮説によれば,複製老化時とテロメアクライシス期の異なる点は,染色体末端融合の有無であり,染色体融合がM期停止に関与することが予想された.この予想と一致して,テロメアクライシス以前の比較的若い細胞においてテロメア融合を人為的に誘導すると,M期停止が引き起こされた.さらに同じ条件下で,テロメア融合に必要なタンパク因子の働きを阻害してテロメア融合を抑制すると,M期停止も抑制されることが確認された.これらの結果からテロメア融合がM期停止を引き起こすと結論した.

2)M期停止とテロメア脱保護

微小管阻害剤などの薬剤で細胞を処理すると,スピンドルチェックポイント(spindle assembly checkpoint:SAC)が活性化され,M期前中期に細胞周期が停止する.M期に長期間停止した細胞は,やがてM期停止中に死に至るか,もしくは次の間期に進行した後に細胞死する.M期停止を誘導した細胞では,DNA損傷のマーカーであるγH2A.Xの局在が増加することが知られていたが,近年このM期停止中のDNA損傷はテロメアに由来することが筆者らにより発見された14).分子機構にはいまだ不明な点が多いが,M期停止中のテロメア末端はリン酸化酵素オーロラB(Aurora B)に依存して保護が解かれる(以降,M期テロメア脱保護と呼ぶ).間期の細胞においてテロメアの保護が解かれDDRが活性化されると,細胞死が誘導される15).よって,M期テロメア脱保護は細胞死を誘引するトリガーになっている可能性がある.

3)M期テロメア脱保護による細胞死

M期テロメア脱保護は,テロメアクライシス期のM期停止時にも生じており,テロメアクライシス期の細胞死の分子機構の一端を担う可能性が示唆された.筆者らは,RNA干渉を用いて人為的にTRF2の発現量を10%以下に減少させることで,M期テロメア脱保護を亢進させることができることを報告していた5).そこで,同様のRNA干渉技術を用いて,TRF2の発現量が恒常的に10%以下に減少しているIMR-90 E6E7細胞(IMR-90 E6E7 shTRF2)を作製した.この細胞のテロメアの一部は半保護状態となっているが,E6とE7によってp53およびRbの機能が抑制されているため,対照群と同様の増殖速度を示した.しかしこの細胞を長期培養し,テロメアクライシス期へと誘導すると,対照群と比較して細胞の生育が阻害され,より早期にすべての細胞集団が死に絶えた.ライブセルイメージングによってテロメアクライシス期を解析した結果,IMR-90 E6E7 shTRF2細胞集団中におけるM期停止に至る細胞の出現頻度は対照群と同程度だが,その後M期停止中に死に至る細胞の割合が有意に増加していることが明らかとなった.さらにテロメアクライシス中のIMR-90 E6E7 shTRF2細胞では,M期テロメア脱保護が亢進していることが確認された.これらの結果は,M期テロメア脱保護が,テロメアクライシス期における細胞死の主要な分子機構であることを支持している(図2B).

5. おわりに

染色体末端の融合が,染色体全体の不安定化の引き金となることは,すでに80年以上前から見いだされていたが,その分子機構には未知の点が多い.本稿で紹介したように,テロメアクライシス期の染色体融合の運命に関しては,BFBサイクル仮説,DNA分解酵素による変異蓄積仮説や,M期停止を介した細胞死仮説など複数の仮説が存在し,それらの違いがどのようにして生じるのかについてはほとんどわかっていない.今後の研究の進展により,テロメアクライシス期の細胞の挙動の詳細が明らかになることで,初期がん化のメカニズムや,腫瘍化しうる細胞の早期検出法への応用が可能な知見などが得られることが期待される.

謝辞Acknowledgments

本稿で紹介した研究は,Jan Karlseder博士(米国ソーク研究所)の指導下で行いました.Karlseder博士をはじめ共同研究者のAnthony J. Cesare博士(現 豪州小児医学研究所)に感謝します.

著者紹介Author Profile

林 眞理(はやし まこと)

京都大学白眉センター/生命科学研究科特定助教.博士(理学).

略歴

2004年大阪大学理学部生物学科卒業.08年同大学院理学研究科修了(升方久夫教授).博士(理学).同大博士研究員を経て09年米国ソーク研究所博士研究員(Jan Karlseder教授).15年より現職.

研究テーマと抱負

染色体の末端が融合した際に,短期的および長期的に細胞にどのような影響があるのかをテーマに研究しています.本研究を通して,がん細胞の進化に染色体がどのように関わるのかを明らかにしたいです.

趣味

ジョギング,音楽鑑賞,日本酒.

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