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公益社団法人日本生化学会 The Japanese Biochemical Society
Journal of Japanese Biochemical Society 88(6): 791-794 (2016)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2016.880791

みにれびゅうMini Review

フォールディングを改善するシャペロニンのテザリング効果Tethering effect by which improves protein folding in the chaperonin cage

富山県立大学・工学部・生物工学科および生物工学研究センター,JST-ERATO浅野活性分子プロジェクトBiotechnology Research Center and Department of Biotechnology, Toyama Prefectural University, Asano Active Enzyme Molecule Project, ERATO, JST ◇ 〒939–0398 富山県射水市黒河5180 ◇ 5180 Kurokawa, Imizu, Toyama 939–0898, Japan

発行日:2016年12月25日Published: December 25, 2016
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1. はじめに

リボソームで合成されたタンパク質はそのアミノ酸配列を元に立体構造(ネイティブ構造)を形成(フォールディング)して初めてその機能を発揮することができる.AnfinsenはRNaseAが自発的にフォールディングしてネイティブ構造を形成することを実証してノーベル賞を受賞した.しかし実際には自発的にフォールディングできるタンパク質は多くはなく,できたとしても大量の不活性な凝集体が形成してしまうことが多い.

このようにin vitroにおいてフォールディングは困難であるが,細胞内においては問題なく行われているようにみえる.細胞内で効率的なフォールディングを援助しているのが分子シャペロンと呼ばれる一群のタンパク質であり,原核生物から真核生物まで広く保存されている.分子シャペロンの中で代表的なものがATP加水分解のエネルギーを利用してフォールディングを援助するシャペロニン(Hsp60/Hsp10,大腸菌ではGroEL/GroES)とHsp70システム(Hsp70/Hsp40/nucleotide exchange factor)であり,これらはまったく異なる機構でフォールディングを援助している.フォールディングを援助する機構については多くの研究者の注目が集まり,さまざまなモデルが提案されてきた.本稿ではシャペロニンのフォールディング機構について我々の研究結果などを元に提唱している新規の反応モデルを紹介し,最近の研究結果と照らし合わせてこのモデルの妥当性を解説する.

2. 大腸菌シャペロニン

シャペロニンで最も集中的に研究されてきたのは大腸菌シャペロニンである.大腸菌シャペロニンは七量体リングが二つ背中合わせに結合したGroELと,リングのふたとして働く七量体のGroESから構成されている(図1A1, 2).七量体リング内側には疎水性表面が露出し,疎水性残基が露出した変性タンパク質が結合する(図1A).ATPが結合するとGroELはGroESを結合できるようになる.変性タンパク質はGroESにより結合部位を奪われてシャペロニン複合体にできた空洞に閉じ込められる3).空洞内は疎水性残基が少ない環境で,変性タンパク質のフォールディングが可能である(図1B).ATPは半減期8秒ほどで加水分解され,反対側のリングへの変性タンパク質の結合などによりGroESが解離する4)

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図1 大腸菌シャペロニン(GroEL/GroES)のX線結晶構造

(A)シャペロニンのATP加水分解サイクル.GroESをオレンジ,GroESを結合する七量体リングのGroELサブユニットを各色で,下のリングを灰色で示す.変性タンパク質はGroEL七量体リング中央の疎水性表面(赤)に結合する(GroEL, PDB ID:1OEL)1).GroELにATPが結合するとGroESが結合し,変性タンパク質を空洞内に隔離してフォールディングを開始する(GroEL/GroES/ADP, PDB ID:1AON)2).ATPは半減期8秒ほどで加水分解され,反対側のリングへの変性タンパク質の結合などによりGroESが解離する4).(B)GroEL/GroES/ADP複合体の断面図.空洞内部に露出する疎水性残基を緑,変性タンパク質とジスルフィド結合を形成したシステイン変異残基(V203C, V264C, F44C)を赤で示す9).下部のGroELリングの構造はGroES非結合時のGroELとほぼ同一である.

3. これまでのフォールディングモデル

フォールディングの典型的な例を図2Aに示す.自発的なフォールディングが困難なタンパク質の多くは,フォールディング途中で変性タンパク質内の非特異的相互作用によりkinetically-trapped state(KT状態)と呼ばれるエネルギー極小状態に陥り,フォールディングが進まないうちに凝集体を形成するとされている.変性タンパク質どうしが非特異的に相互作用して不溶性の凝集体を形成するとタンパク質が再び可溶性に戻るのは不可能に近い.分子シャペロンの第一の役割は変性タンパク質に結合して凝集体形成を防ぐことであり,これについては異論がない.しかしシャペロニンがフォールディング援助するメカニズムについては長い間論争になっている.代表的なモデルがAnfinsen cage model(図2B5)とconfinement model(図2C6, 7)である.

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図2 フォールディングの反応モデル

タンパク質を青色の曲線,αヘリックスを黄色,βシートをマゼンタ,GroESおよびGroEL七量体リングを灰色の曲線で示す.(A)自発的フォールディングが困難なタンパク質のフォールディング.kinetically-trapped state(KT状態)に陥った変性タンパク質(D)は容易に凝集体を形成する.一部がフォールディングしてネイティブ状態(N)になる.(B)Anfinsen cage model. 空洞内のフォールディングは自発的フォールディングと大きく変わらないとしている.(C)confinement model. 変性タンパク質は空洞による空間制限(赤矢印)を受けネイティブ相互作用が形成しやすくなるとしている.(D)tethering model. 変性タンパク質内の非特異的相互作用は空洞との相互作用(赤点線)やサブユニット界面との結合によってほどかれて部分構造を形成できるようになる(tethered intermediate).この状態はフレキシブルで結合部位はダイナミックに変わる.この状態からフォールディング反応(上)もしくはescape反応(下)が起こる.escapeした変性タンパク質は自発的フォールディングするか,野生型GroELの場合は別のGroELに結合して再びフォールディングされる.不活性なtrapGroELを加えるとescapeした変性タンパク質に結合して自発的フォールディングを阻害し,空洞内フォールディングのみを観察できる.(E)フォールディングのエネルギー図.典型的な自発的フォールディングではKT状態を形成し,遷移状態(‡)を経てフォールディングする(黒).空洞内フォールディングでは不安定なtethered intermediateを形成して遷移状態エネルギーが低くなるのでフォールディングが速くなる.tetheringが強すぎる場合tethered intermediateのエネルギーが低くなってフォールディングが遅くなる(赤).

Anfinsen cage modelは結晶構造から想定されており,シャペロニンは凝集体形成を阻害するだけで積極的にフォールディングを変化しないとしている.しかしシャペロニン空洞内のフォールディング速度が自発的フォールディングよりも速いタンパク質については説明が困難である5)

Confinement modelでは空洞が変性タンパク質の取りうる空間を制限することでネイティブタンパク質内の相互作用(ネイティブ相互作用)が促進されるとしている.TangらはGroEL C末端にペプチドを付加してシャペロニン空洞の容積を減少させるとフォールディング速度が上昇することを元にこのモデルを提案したが7),Farrらはこれらの結果を追試できないことを報告している8).Chakrabortyらはタンパク質にジスルフィドを人工的に導入して安定化させるとシャペロニンでフォールディングが加速されなくなる結果から,シャペロニン空洞はジスルフィド結合と同様の空間制限をする報告した6).しかし空間制限ではジスルフィド結合と異なりネイティブ結合だけを選択的に安定化させることは不可能であり,この解釈には疑問がある.

4. 変性タンパク質とシャペロニン空洞の相互作用

研究結果が蓄積した現在ではシャペロニンでフォールディング速度が変わらないタンパク質もあれば加速されるタンパク質,減速されるタンパク質があることがわかっている.しかし上記モデルは三つのフォールディングパターンのうちいずれかを例外とせざるをえない.我々はすべてのフォールディングパターンを矛盾なく説明できるモデルの構築を目指し,端緒として自発的フォールディングが可能なタンパク質を用いて,自発的フォールディングとシャペロニンによる空洞内フォールディングを厳密に比較することから始めた.しかしGroELはATPを加水分解しフォールディング反応を繰り返し行うため,空洞内フォールディング反応を厳密に測定することができない.そこで一度だけ空洞内フォールディング反応を行うSR398変異体(シャペロニンの片方のリングのみで,GroESを一度結合すると解離しない)を用いて研究を行った.その結果,思いがけないことに,一度空洞内に隔離した変性タンパク質が空洞外にescapeする現象を発見した(図2D9).変性タンパク質を結合する不活性なGroEL変異体(trapGroEL)を反応中に加えると空洞内フォールディングだけを観察することが可能になった(図2D).これまで研究されたタンパク質の多くはescape後の自発的フォールディングも含めて空洞内フォールディングとしていたことが明らかとなった9, 10).変性タンパク質は空洞の側面に開いた小さな穴を通ってescapeすると考えられるが,これまで誰も空洞からタンパク質が出られるとは想定していなかった(図1B).

これらの結果から,空洞内の変性タンパク質は本質的にescapeが可能な状態であり,シャペロニンは変性タンパク質と相互作用して空洞内に留めていると予想された(図2D, tethered intermediate).SR398変異体にさらにさまざまなシステイン変異を導入した変異体(SR398システイン変異体)を網羅的に作製し,変性タンパク質のシステインとジスルフィド結合を形成させたところ,変性タンパク質は空洞内部だけでなく,シャペロニンのサブユニット界面と相互作用することが明らかとなった9)図1B).変性タンパク質は疎水性のサブユニット界面にはさまれてescapeが阻害されていると考えられた.サブユニット界面への変性タンパク質の結合は真核生物シャペロニンCCTにおいても報告された11).サブユニット界面だけでなく空洞内にも露出した疎水性残基が点在しており,これらの残基も変性タンパク質と相互作用していると予想される(図1B).

しかし空洞との相互作用がフォールディングを阻害してしまう可能性がある.そこで我々は,極端な例として変性タンパク質を空洞にジスルフィド結合で固定したままでもフォールディングできるかどうかを検証した12).この実験では分子表面に一つだけシステインを持つ変異体タンパク質を用いた.タンパク質を空洞内部のシステイン(R231C)とジスルフィド結合してもネイティブに近い状態までフォールディングしたが,サブユニット界面付近に位置するシステイン(V264C)とジスルフィド結合するとフォールディングできなかった.サブユニット界面に結合するとフォールディングが阻害されるが一時的でフォールディング速度に影響しないと考えられた.

5. tethering modelの妥当性

以上の結果を基に,我々は空洞と変性タンパク質の相互作用(tetheringと表現)がシャペロニンのフォールディング援助機構の本質としたtethering modelを提唱している(図2D9, 10, 12).Tetheringによって,①変性タンパク質の空洞外へのescapeを防ぐ,②変性タンパク質内で形成した非特異的相互作用をほどいてKT状態の形成を阻害する,③相互作用していない箇所について部分的なフォールディングを可能にする,と考えている.

これまでのモデルとは異なりtethering modelは空洞内フォールディングで加速されるタンパク質,変化しないタンパク質,遅くなるタンパク質のいずれについても説明が可能である.自発的フォールディングが容易でKT状態を作らないタンパク質の場合,変性状態において空洞との相互作用よりもネイティブ構造を形成する相互作用が強いためにフォールディング速度は大きく変化しない.ネイティブ相互作用が弱い場合には空洞との相互作用が邪魔となり空洞内フォールディング速度は遅くなる.自発的フォールディングが困難でKT状態を通ってフォールディングするタンパク質ではtetheringによりKT状態が解消され空洞内フォールディングは加速される(図2E).

最近,in vivoでシャペロニンを必要とするタンパク質として知られるDapAについてHDX–MS法(水素–重水素交換質量分析)で解析が行われ,ペプチドレベルでの構造形成過程が測定された13).自発的フォールディングではαヘリックスとβシートがほぼ同じタイミングでゆっくり形成するのが観察されている.一方,シャペロニンによるフォールディングではαヘリックスの形成が初期に起こり,続いてβシートの形成が起こる.tetheringにより変性タンパク質がほどかれ局所的なαヘリックス形成が可能になり,フォールディングが加速されたと考えられる.

変性タンパク質と空洞の相互作用を考慮したシミュレーション実験によると,モデルペプチドでは仮想空洞との疎水性相互作用によってフォールディングが促進されると報告されている14).また空洞とタンパク質を粗視化モデルでシミュレーションした結果によれば,空洞との相互作用を無視すると空洞内フォールディング速度は実験値を逸脱して異常に加速されるが,相互作用を考慮すると妥当な値になる15).これらの結果も我々のモデルを支持している.

6. おわりに

これまでところtethering modelは妥当なモデルだといえる.tethering modelに沿って他のモデルを解釈すると,Anfinsen cage modelは自発的フォールディングが容易なタンパク質のフォールディングにのみ当てはまる.confinement modelが想定した空間制限はtetheringの機会を増やし,変性タンパク質をほどくのに働いている可能性がある.

シャペロニンのフォールディング援助機構については我々のモデルで解決したようにみえる.しかしtetheringが局所的なフォールディングに与える影響や,他のタンパク質についても空洞がフォールディング経路をどのように変化しているかを明らかにする必要があるだろう.シャペロニン研究で用いられた研究手法は他の分子シャペロンにも応用されており,さまざまな分子シャペロンのユニークなフォールディング援助機構が解明されつつある.しかし研究のトレンドの移り変わりがますます早くなっている現在において,地道にメカニズムを探求する研究を続けていくのは難しいのかもしれない.

謝辞Acknowledgments

大学院生時代から助教まで長い間指導していただいた吉田賢右教授,研究と家庭の両面で支援してくれた妻,優子,これまで在籍した学生,技術員の皆さんに感謝致します.

引用文献References

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15) Sirur, A. & Best, R.B. (2013) Biophys. J., 104, 1098–1106.

著者紹介Author Profile

元島 史尋(もとじま ふみひろ)

富山県立大学生物工学部および生物工学研究センター博士研究員.博士(理学).

略歴

1971年北海道に生る.94年東京工業大学生物工学科卒業.2000年同大学院生命理工学研究科バイオサイエンス専攻修了.03年同大学資源化学研究所助手.10年京都産業大学総合生命科学科助教,15年より現職.

研究テーマと抱負

分子シャペロンの機能を解明し,応用に展開する.

ウェブサイト

http://www.pu-toyama.ac.jp/BR/asano/homepage.html

趣味

テニス,議論すること.

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