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公益社団法人日本生化学会 The Japanese Biochemical Society
Journal of Japanese Biochemical Society 89(1): 86-89 (2017)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2017.890086

みにれびゅうMini Review

細胞膜スフィンゴミエリンの代謝制御による新規細胞膜ダイナミズムDynamic modification of sphingomyelin evokes a novel membrane dynamism in the plasma membrane

佐賀大学農学部生命機能科学科Department of Applied Biochemistry and Food Science, Faculty of Agriculture, Saga University ◇ 〒840–8502 佐賀市本庄町1番 ◇ Honjo-machi 1, Saga 840–8502, Japan

発行日:2017年2月25日Published: February 25, 2017
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1. はじめに

スフィンゴミエリン(SM)は,細胞膜に最も多量に存在するスフィンゴ脂質で,近年,コレステロールとともに細胞膜脂質マイクロドメイン(脂質ラフト)の形成に関与することが知られるようになってきた1).一方,細胞においてさまざまな刺激によって細胞膜のSMが加水分解され,セラミド(Cer)が生成されることが報告されており,この現象がCerのセカンドメッセンジャー説の基盤となっている2).近年,OkazakiらによってクローニングされたCerからSMを合成する2種のスフィンゴミエリン合成酵素SMS1, SMS2のうち,SMS2は細胞膜に存在することが明らかになった3).これらのことは細胞膜上でSM⇆Cer間の変換が行われている可能性を示唆している.SM⇆Cerの変換は,細胞膜の大きな物性変化をもたらし,膜のダイナミズムを大きく変化させることが予想される.本稿では,この細胞膜上でのSM合成/代謝が持つ生理的意味を議論したい.

2. 細胞膜に局在するSMS2

スフィンゴ脂質は,スフィンゴイド塩基を持つ脂質の総称で,Thudicumによって命名された.その構造は,スフィンゴイド塩基に脂肪酸が結合したセラミド(Cer)を母骨格とし,これに極性基である糖(鎖)が結合したスフィンゴ糖脂質,ホスホコリンが結合したSM等に分類される4).生物界での分布は,糖脂質が細菌Sphingomonas属から植物,哺乳類,ヒトと単細胞生物から多細胞生物まで広く分布するのに対し,SMは線虫Caenorhabditis elegans,哺乳類等の比較的限られた多細胞生物に分布し,単細胞生物にはみられない.このことは,SMが多細胞生物およびその組織において重要な役割を持っていることを想像させる.SM合成酵素は,ホスファチジルコリンのホスホコリンをCerに転移する酵素で,SMと等量のジアシルグリセロールを副産物として生成する.この酵素にはSMS1とSMS2, SMSrが存在するが,SM合成活性を持つのはSMS1とSMS2のみで,一方SMSrはセラミドホスホエタノールアミン合成活性を持つことが知られている.SMS1とSMS2のダブルノックアウトマウスは胎性致死であったが,我々はその胎仔から線維芽細胞(MEF)を単離することに成功した.このMEFは,SM合成活性とSMを完全に欠損していた.このMEFとリッターメイトから単離した野生型MEFと比較すると,増殖速度の違いは観察されたが,それ以外では大きく目立つ変化はみられなかった.このことは,SMは細胞の生存には必ずしも必要ではないが,組織の形態形成や維持に重要な役割を持っている可能性を示唆している.我々は,SMS1, SMS2のダブルノックアウトマウスから単離したMEFを不死化し,SMS活性をまったく持たない細胞株ZS2細胞を樹立した.このZS2細胞にレトロウイルスベクターを用いてSMS1とSMS2を安定発現させた再構成細胞,ZS2/SMS1細胞およびZS2/SMS2細胞を作製した5).興味深いことにSMS2は,in vitroではSMS1と比較しても強い酵素活性を示したが(図1A),細胞全体のSM量に与える影響は少ない(図1B).このことからもSMS2のノックアウトマウスが目立った表現型を示さない理由が説明できるのかもしれない.これらの細胞に細胞外から細菌由来のSMaseを添加し,細胞表面でCerを生成させ,その後のCerの代謝を観察した.興味深いことに,ゴルジ体に局在するSMS1を発現させた細胞ZS2/SMS1では60分後にもSMへの再変換は起こらないのに対してSMS2を発現させた細胞(ZS2/SMS2)ではSMase処理後60分でSM量は完全に回復していた(図1C).また,ZS2/SMS2細胞に蛍光標識したCerを加えると細胞外で速やかにSMへ変換されることも確認した.これらのことから,我々はSMS2が細胞外領域に酵素活性部位を有し,細胞膜上で生じたCerを速やかにSMへ変換する酵素であることを確認した.一方,SMS2は,ショ糖密度勾配遠心を用いた生化学的な解析で,界面活性剤不溶性の脂質マイクロドメインに分画されることが確認された5).このことからもSMS2はSM合成を介して脂質マイクロドメインの機能調節を行っている可能性が考えられた.

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図1 SMS2は細胞細胞表面で生じたCerをSMへ変換する

SMS1とSMS2のダブルノックアウトマウスから線維芽細胞を単離・不死化しZS2細胞を樹立した.ZS2細胞にSMS1とSMS2を安定発現させた細胞ZS2/SMS1とZS2/SMS2のSMS活性(A)と細胞内SM量(B).ZS2/SMS1およびZS2/SMS2を[14C]コリンで標識し,SMase処理後のSM量の変化をモニターした.ZS2/SMS2では,SMの顕著な回復がみられ,SMS2が細胞膜で生じたCerを速やかにSMへ変換しているようすが観察できる.[This research was originally published in Mitsutake, S., et al., Dynamic modification of sphingomyelin in lipid microdomains controls development of obesity, fatty liver, and type 2 diabetes. J. Biol. Chem. 2011; 286: 28544. © the American Society for Biochemistry and Molecular Biology.]

3. セラミドのtransbilayer movement

これまで,アポトーシスとCerに関して数多くの論文が発表されてきた.その中で,細胞がさまざまな刺激に応答して膜上のSMを加水分解し,Cerが増加する現象が確認されている2).しかしながら細胞膜で生じたCerが細胞膜上で実際にどのような挙動を示すのかに関してはあまりよくわかっていなかった.筆者らは細胞質に存在するCerリン酸化酵素であるセラミドキナーゼ(CERK)の酵素活性を利用して,細胞膜の外側で生じたCerが速やかに細胞膜の内側に移動しリン酸化されることを明らかにした6).つまり,SMからCerへの変換で極性基であるホスホコリンが外れ,脂質二重層間を自由に動くtransbilayer movementが可能になったと考えられた(図2).近年になって人工膜を用いた実験系においても,Cerがかなり早いスピードでtransbilayer movementを起こしていることが確認された.CERKはCa2+応答性の脂質キナーゼで,そのN末端のPHドメインでホスファチジルイノシトール二リン酸(PIP2)に結合している7–9).SMに富む脂質マイクロドメインの細胞質側にはPIP2が多く存在することが知られている.つまりCERKとSMS2は,脂質マイクロドメインの表と裏で,ともにCerを基質として存在することになる(図2).さまざまな刺激によってSMaseが活性化され細胞膜上でCerが増加することが知られ,その状況では,脂質マイクロドメインの崩壊に加えて,Cerのtransbilayer movementによって細胞膜が非常に不安定な状況に陥ると考えられる.CERKは細胞内Ca2+の増加に伴って細胞膜上のCerにリン酸基を付加することでこのtransbilayer movementを止め,SMS2はCerをSMへ変換することで細胞膜を安定化し,脂質マイクロドメインの再構築を行うと考えられる(図2).これらの過程で細胞膜は大きく物性を変化させる.脂質マイクロドメインの消失と再構成は,そこに存在する膜タンパク質の機能やその動態に大きな変化を与えると考えられる.それでは,この脂質マイクロドメインのダイナミクスが実際にどのような生命現象と関わっているのであろうか.

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図2 Cerのtransbilayer movement

SMの加水分解で生じたCerは,細胞膜の脂質二重層を自由に移動できる.CERKとSMS2はそれぞれ細胞の内側と外側で,Cerに極性基を付加し,この動きを止めることができる.

4. SMS2ノックアウトマウス

SM合成酵素はSMS1とSMS2が存在し,SMS1は,ゴルジ体における細胞のバルクのSM合成に関与し,そのノックアウトマウスは雄性不妊や,その他SM量の低下からくる重篤な表現型を示す10).一方,SMS2ノックアウトマウスにおける各組織のSM減少は1~2割程度にとどまり,通常状態では目立った表現型はみられなかった5).脂質マイクロドメインの機能制御に関わると予想するSMS2の個体レベルでの働きを明らかにするために,我々は,高脂肪食誘導性肥満実験を行い,ストレス下でのSMS2ノックアウトマウスの解析を試みた.その結果,SMS2ノックアウトマウスでは,野生型マウスに比べて,高脂肪食誘導性肥満,耐糖能の低下,脂肪肝のいずれもが有意に抑えられていた.我々は脂肪肝の形成に着目し,肝臓に発現するスカベンジャー受容体CD36/FATとSMS2の機能的相互作用を明らかにした5).CD36/FATは酸化LDLや脂肪酸の取り込みに関与するスカベンジャー受容体で,脂質マイクロドメインに存在する.興味深いことに我々はCD36/FATとSMS2が免疫沈降により共沈することを見いだした3).つまりSMS2はCD36/FATの存在する脂質マイクロドメインの直接的な機能制御分子として働いていると考えられた.図3にCD36/FAT, SMS2, PPARγの機能的相互作用をまとめた.まず,高脂肪食摂取により,血中の酸化LDLが増加し,CD36/FATは受容体としてそれらを細胞内に取り込む.取り込まれた酸化LDL中にはPPARγのリガンドとなる9-HODEや13-HODE等の酸化脂質や各種脂肪酸が存在し,核内受容体であるPPARγを活性化する.PPARγは転写因子として,さまざまな脂質合成/代謝酵素の転写を促すことが知られ,CD36/FATやPPARγ自身の転写を強く促進する.SMS2ノックアウトマウスでは,このPPARγの活性化が強く抑えられていた.その結果,SMS2を欠損したMEFでは,CD36/FATを介した脂肪酸の取り込みが減少することが確認された.つまり,SMS2の欠損はCD36/FATの機能を低下させ,その結果,酸化脂質の取り込みが引き起こすCD36/FATの発現上昇と,脂肪酸の取り込みによる油滴の形成/脂肪肝の形成をブロックした.このCD36/FATによる酸化脂質取り込みとPPARγを介したCD36/FATの発現上昇と,それに続く中性脂質の蓄積といった一連の悪循環は,Evanceらがマクロファージの泡沫化のメカニズムの一つとして明らかにしたものと同じであった11).SMS1はほとんどすべての組織に発現がみられるのに対し,SMS2は肝臓,小腸,大腸,腎臓などで比較的高い発現を示すが,脳,筋肉,脾臓ではほとんど発現しておらず,組織によって発現量が大きく異なる.CD36/FATは心筋における脂肪酸の取り込みに重要な働きを持っているが,SMS2は心筋に発現しておらず,この機能を妨げていないと考えられる.つまりCD36/FATの特定の組織での機能調節因子になっている可能性があり,この点がSMS2とCD36/FATのノックアウトマウスの表現型が異なる原因と考えられる.

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図3 SMS2は脂質ラフト上のCD36/FATの機能制御分子となっている

[This research was originally published in Mitsutake, S., et al., Dynamic modification of sphingomyelin in lipid microdomains controls development of obesity, fatty liver, and type 2 diabetes. J. Biol. Chem. 2011; 286: 28544. © the American Society for Biochemistry and Molecular Biology.]

5. CERKノックアウトマウス

上述のように,SMからCerへの変換は,脂質マイクロドメインの崩壊をもたらすのみならず,細胞膜を非常に不安定な状態にすると考えられる.このCerのtransbilayer movementを止める酵素にSMS2ともう一つ,CERKが存在する.このCERKを欠損したマウスがどのような表現型を示すか,SMS2との対比は大変興味深い.しかしながら,CERKノックアウトマウスも目立った表現型を示さなかったので,SMS2のときと同様に高脂肪食による負荷試験を行った.その結果興味深いことに,CERKノックアウトマウスでも高脂肪食誘導性耐糖能異常が強く回避されていた12).このマウスの脂肪組織では,マクロファージの数が激減していた.泡沫化したマクロファージが脂肪細胞を取り囲むcrown like structureも激減しており,脂肪組織での炎症が大幅に抑えられていた.このメカニズムの一つとして,我々は,ノックアウトマウスの骨髄から調製したマクロファージのMCP-1に対する化学遊走能が落ちていることを見いだした.脂肪組織から分泌されたMCP-1は単球/マクロファージ上に発現する受容体CCR2に結合し,脂肪組織にマクロファージをリクルートすることが知られているが,ノックアウトマウス由来マクロファージでは,MCP-1/CCR2経路を介したErkのリン酸化が有意に低下していた.このことはCERKが脂質マイクロドメインに発現するCCR2の機能制御分子になっていることを示唆している12)

6. まとめ

細胞膜上でのSMからCer, CerからSMへの変換は細胞膜ダイナミクスを大きく変化させ膜タンパク質の機能制御に大きく関わると予想される.しかし,膜脂質の変化が細胞膜上の受容体の活性に与える影響を分子レベルで正確に議論するためには,細胞膜の物理化学的な解析技術の進歩を待たなければならないだろう.現在我々は,SMS2とCERKがCer⇄SM間の変換が引き起こす細胞膜ダイナミズムの制御因子として機能していると考えている.また,これらの破綻が,細胞の生死には直接関与しないものの,細胞膜上の受容体の活性制御に働いており,個体レベルではともに代謝性疾患と深い関わりを持つことを明らかにした13).まだまだ断片的な情報であるが,高等動物が獲得した細胞膜機能制御の一端がみえているように感じられる.

近年の質量分析技術と遺伝子改変技術の進歩は,脂質の質的変化が,個体レベルでさまざまな影響を引き起こすことを明らかにしつつある.動物細胞の細胞膜はなぜ,このように多様な脂質で構成されているのだろうか.細胞膜は,細胞の内側と外側を隔てる単なるコンパートメントではないことは確かなようである.

謝辞Acknowledgments

これらの研究は前任の北海道大学大学院大学院先端生命科学研究院で行われました.五十嵐靖之教授と研究室のメンバーの方々,共同研究先の先生方に深謝いたします.

引用文献References

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著者紹介Author Profile

光武 進(みつたけ すすむ)

佐賀大学農学部准教授.博士(農学).

略歴

1973年大分県に生る.96年九州大学農学部卒業,2001年同大学大学院修了,協和発酵工業(株)東京研究所勤務を経て,02年北海道大学薬学部助教,08年同大学先端生命科学研究院特任准教授,13年から現職.

研究テーマと抱負

細胞膜機能を中心としたスフィンゴ脂質生物学・脂質生化学,一方でこれらの食品科学への応用も試みている.最近は,趣味と研究を融合させた「美味しさと健康を結びつける研究」を目指している.

ウェブサイト

http://anzen.ag.saga-u.ac.jp/

趣味

釣り,ジョギング,登山,ワインを主体とした軽度な飲酒.

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