生化学 SEIKAGAKU
Journal of Japanese Biochemical Society

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Journal of Japanese Biochemical Society 89(1): 102-105 (2017)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2017.890102

みにれびゅうMini Review

分裂期において染色体を効率よく運ぶための仕組みMechanism for efficient chromosome alignment in mitosis

東北大学加齢医学研究所分子腫瘍学研究分野Department of Molecular Oncology, Institute of Development, Aging and Cancer, Tohoku University ◇ 〒980–8575 宮城県仙台市青葉区星陵町4–1 ◇ Seiryo-machi 4–1, Aoba-ku, Sendai, Miyagi 980–8575, Japan

発行日:2017年2月25日Published: February 25, 2017
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1. はじめに

S期において複製された染色体は分裂期の進行とともに細胞中央部(赤道面)に向かって移動しすべての染色体が赤道面に集合(染色体整列)した後,娘細胞に均等分配される.この染色体分配過程に異常が生じると,種々の遺伝病や疾患,がん化細胞でみられる染色体の数的異常を引き起こす.1880年代初頭,分裂期染色体動態は明視野像によって観察された1).初めて染色体動態が観察されてから100年以上が経過し,染色体動態の模式図は,蛍光タンパク質の発見や顕微鏡技術の進歩によって現在も少しずつ書き換えられている.

本稿では近年明らかにされた分裂期前中期細胞での染色体動態と,染色体の運搬に関わる2種類のキネシン,Kinesin-10/KidとKinesin-7/CENP-Eを紹介し,最近筆者らが明らかにしたこれら2種類のキネシンの染色体動態における協調的制御機構2)について述べる.

2. 染色体を動かすために必要な新しい結合様式

分裂期進行に伴い核膜が崩壊することで,染色体は微小管と接することができるようになる.これまで,微小管の末端が染色体のくびれ部分のセントロメア領域に構築される動原体(キネトコア)と結合(末端結合)することにより微小管が安定化し,その結合した微小管の動態によって染色体が移動するというsearch-and-captureモデルが支持されていた(図1上).しかし,このモデルをもとにキネトコアと微小管の結合をシミュレーションしたところ,すべてのキネトコアが微小管末端と結合するためには実細胞の分裂期より時間がかかることが示され,細胞内にはより効率よく染色体を捕らえ整列させる仕組みが存在する可能性が示唆された3).一方,2005年に田中らは出芽酵母における微小管とキネトコア動態を詳細に観察し,キネトコアは微小管側面に結合(側面結合)し,モータータンパク質によって微小管の側面をスライドするように移動することを発見した4).さらに,2011年には動物細胞における体細胞分裂や減数分裂でも核膜崩壊後のキネトコアが微小管の側面に結合し赤道面へ移動するようすが観察され,これまで染色体動態を担うとされてきた末端結合は,染色体が赤道面に移動した後に形成されることが報告された5, 6)図1下).これらの観察から,これまで一過的な結合として考えられていた側面結合が染色体動態を担う主要な機構であることが明らかにされた.

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図1 分裂期における染色体整列過程の模式図

これまでのモデル(上)と,近年明らかにされた側面結合による染色体の移動モデル(下).

3. 染色体動態に関わる2種類のキネシン

微小管側面を利用した細胞内物質輸送は,自身のATPase活性によって構造を変化させ微小管上を移動するモータータンパク質によってなされる.これらはダイニンとキネシンの2種類に大別される.キネシンには45種類(ヒトの場合)のメンバーが同定されており,総称してキネシンスーパーファミリーと呼ばれている7).動物細胞において分裂期に機能する分裂期キネシンは9種類報告されており,そのうち染色体を直接動かす機能を有するキネシンは2種類,Kinesin-10/KidとKinesin-7/CENP-Eである.

キネシンは自身が持つATPase活性を利用し,分子内のモータードメインに結合したATPを加水分解する.微小管上を移動するキネシンのモータードメインはこの加水分解により,微小管から解離する.加水分解後,ADPが結合したモータードメインは微小管と弱く結合する.多くのキネシンは二量体を形成し,ATPの加水分解とADPからATPへの入れ替わりによって交互に足を上げて歩くように微小管上を移動する.CENP-Eはキネトコアに局在する312 kDaの巨大なタンパク質である.ATPase活性が低くまた,ADPの解離定数も低い.そのため微小管との親和性が高く,ゆっくりとした速度で微小管プラス方向に長距離移動できるキネシンである8).動物細胞においてCENP-Eを抑制すると染色体整列異常がみられ(図2A, CENP-E抑制),CENP-Eはすでに形成された紡錘体微小管をレールにして染色体を赤道面へ運ぶ主要なモーター分子として知られている9)

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図2 染色体整列過程にみられる表現型

(A) CENP-EとKidを発現抑制した分裂期細胞の染色体像.(B)図示した分子を発現抑制した細胞における染色体動態.核膜崩壊からの観察経過時間を各パネルの左上に示した(分:秒).文献2より一部改変.

Kidは分裂期染色体腕部および微小管に局在する分子として同定された73 kDaのタンパク質である10).分裂期前中期においてKidは単量体として機能する.ATPase活性が高く,微小管解離速度が速い.そのため,移動速度は速いが,わずかに微小管上を移動したのち速やかに解離する11).アフリカツメガエル卵にKid中和抗体を導入すると,染色体整列異常を示すが,動物細胞の体細胞ではKidを抑制しても染色体整列過程に異常はみられない(図2A, Kid抑制).しかし,単極性の紡錘体を形成させた細胞でKidを抑制すると,染色体が極の近くに位置することが報告されており,Kidは染色体を極から遠ざける機能を担っている可能性が示唆されている12)

このように,Kidの機能は動物種や細胞内環境によって異なり,不明な点が多い.そこで筆者らは染色体動態におけるKidの役割を明らかにしようと他の分裂期キネシンとKidを共発現抑制した.その結果,KidとCENP-Eを共抑制すると赤道面に並べない染色体が増加することがわかった(図2A, Kid/CENP-E抑制).この結果から,Kidがある一定の条件下において染色体の赤道面への移動に寄与する可能性が示唆された.

4. 染色体動態におけるKidとCENP-Eの協調的制御

1)2種類のキネシンの側面結合染色体動態における役割

前述したように,染色体は側面結合状態で赤道面に移動する.そこで筆者らは,側面結合状態の染色体の赤道面への移動をKidが担っているのではないかという仮説をたて,末端結合を担うキネトコア構成分子Ndc80複合体の一員であるHec1を発現抑制し,側面結合状態での染色体動態を生細胞観察した.Hec1抑制細胞の染色体は,末端結合の形成不全によって赤道面に集合できず,紡錘体上に散在する(図2B, Hec1 35 : 00).しかし,核膜崩壊直後は染色体が一過的に紡錘体極から離れるように移動することがわかった(図2B, Hec1 2 : 30~12 : 30).そこで,この一過的な動きがKidやCENP-Eを抑制した際にどのように変化するのかを観察した.まず,Hec1とKidを共抑制すると,一過的な染色体の赤道面への動きが抑制された(図2B, Hec1/Kid 2 : 30~12 : 30).この結果から,Kidが側面結合染色体を赤道面へ運ぶ機能を担っていることが示唆された.

一方,Hec1とCENP-Eを共抑制すると,染色体は過剰に赤道面へ集合し,Hec1単独抑制よりタイトな赤道面を形成することがわかった(図2B, Hec1/CENP-E 2 : 30~12 : 30).この結果から,CENP-Eは側面結合染色体の動きに拮抗するように機能している可能性が示唆された.

2)CENP-Eは紡錘体微小管の安定性によってその機能を変化させる

これまで染色体はCENP-Eによって赤道面に移動すると考えられてきたが,なぜ側面結合染色体の動態に対しCENP-Eは抑制的に働くのか? この問いに対して,我々は分裂期微小管の安定性が関与するのではないかと考えた.分裂期における微小管は末端結合を形成することで安定化する.末端結合を除した場合,微小管は生理的条件下の微小管より安定性が低いことが予想される.そこで,分裂期において微小管脱重合を担う分子MCAKをHec1とともに抑制することで,末端結合を除した分裂期細胞での微小管を安定化した.その結果,側面結合染色体の一過的な赤道面への集合が亢進し,またこの亢進は,MCAKとHec1に加えKidを共抑制した環境(CENP-Eが染色体動態に働いている状態)においてもみられた.これらの結果からCENP-Eが染色体を運ぶ機能は微小管の安定性に依存することが示唆された.最近,CENP-Eは安定な微小管である脱チロシン化微小管上で機能することが報告され13),CENP-Eが微小管の安定性に応じて染色体動態に寄与するという我々の結果は理にかなった結果といえる.

3)KidとCENP-Eによる効率的な染色体の移動

我々はKidが側面結合染色体の赤道面への移動に寄与していることを見いだした(図3左).またこのとき,CENP-Eはその移動に対してブレーキのように働いていることがわかった.分裂期における微小管は分裂期進行および末端結合形成に伴い安定化することから,核膜崩壊直後の不安定な微小管が多い時期は,Kidが染色体を押し進めており,CENP-Eは染色体を紡錘体上に係留する(図3右上).このときのCENP-Eは足場が非常にもろいため前に進むことはできない.分裂期が進行すると,末端結合の形成に伴い微小管はより安定化する.このような状況下では,CENP-EがKidに加わって染色体の赤道面への移動に寄与する(図3右下).このように染色体は分裂期進行に伴って変化するKidとCENP-Eの協調的な働きによって“効率よく”赤道面へ移動するモデルを我々は提唱した.

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図3 KidとCENP-Eによる効率的な染色体整列モデル

側面結合染色体においてKidは染色体を動かし,CENP-Eは染色体を微小管上に係留する(左).不安定な微小管が多い分裂期前中期初期はKidが染色体の運搬に寄与する(右上).安定的な微小管が増加すると,染色体はKidとCENP-Eによって赤道面へ運ばれる(右下).文献2より一部改変.

5. おわりに

がん細胞では染色体均等分配に機能する分子の発現量が軒並み変動していることが報告されている14).一見するとこれらの発現変動が染色体の不均等分配を介して異数性を持つがんの形成を促進しているように思える.しかし,培養細胞でこれらの分子の発現量を変動させると,大部分の細胞は死に至る.これは,これら分子の異常によって細胞にとって致死的な過度の染色体分配異常が引き起こされた結果と考えられる.実際,染色体分配の異常は抗がん剤の標的として注目されている15)

現在我々は,Kidのような染色体分配過程の一部に機能する分子の異常が細胞生存を許容するわずかな染色体分配異常を生み出し,このわずかな変化からがん化や悪性進展する細胞が生まれるという仮説を考えている.今後,染色体分配過程の一部に機能する分子の解析を進め,それら分子の異常による染色体数異常細胞の蓄積とがん化や悪性進展との関連性について明らかにしていきたい.

謝辞Acknowledgments

本稿は東北大学加齢医学研究所分子腫瘍学研究分野で行った研究をもとに執筆いたしました.同分野メンバーの皆様には研究遂行にあたり多くの助言をいただきました.この場をお借りして御礼申し上げます.

引用文献References

1) Flemming, W. (1882) Zellsubstanz, Kern und Zelltheilung, pp. 1–482, Leipgig, F. C. W. Vogel, German.

2) Iemura, K. & Tanaka, K. (2015) Nat. Commun., 6, 6447.

3) Paul, R., Wollman, R., Silkworth, W.-T., Nardi, I.-K., Cimini, D., & Mogilner, A. (2009) Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 106, 15708–15713.

4) Tanaka, K., Mukae, N., Dewar, H., van Breugel, M., James, E.-K., Prescott, A.-R., Antony, C., & Tanaka, T.-U. (2005) Nature, 434, 987–994.

5) Magidson, V., O’Connell, C.-B., Loncarek, J., Paul, R., Mogilner, A., & Khodjakov, A. (2011) Cell, 146, 555–567.

6) Kitajima, T.-S., Ohsugi, M., & Ellenberg, J. (2011) Cell, 146, 568–581.

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10) Tokai, N., Fujimoto-Nishiyama, A., Toyoshima, Y., Yonemura, S., Tsukita, S., Inoue, J., & Yamamoto, T. (1996) EMBO J., 15, 457–467.

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12) Tokai-Nishizumi, N., Ohsugi, M., Suzuki, E., & Yamamoto, T. (2005) Mol. Biol. Cell, 16, 5455–5463.

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14) Thiru, P., Kern, D.-M., McKinley, K.-M., Monda, J.-K., Rago, F., Su, K.-C., Tsinman, T., Yarar, D., Bell, G.-W., & Cheeseman, I.-M. (2014) Mol. Biol. Cell, 25, 1983–1994.

15) Tanaka, K. & Hirota, T. (2009) Cancer Sci., 100, 1158–1165.

著者紹介Author Profile

家村 顕自(いえむら けんじ)

東北大学加齢医学研究所分子腫瘍学研究分野助教.博士(理学).

略歴

1984年京都府に生る.2009年長浜バイオ大学大学院バイオサイエンス研究科/専攻修士過程修了.12年東京大学大学院理学系研究科生物化学専攻修了.東京大学医科学研究所研究員,東北大学加齢医学研究所研究員を経て2016年より現職.

研究テーマと抱負

分裂期染色体の均等分配機構と疾患との関連性.分裂期において染色体は如何にして動き,均等分配されるのか? その答えを見つけるべく研究に励んでいます.

趣味

ファミリーキャンプ,車.

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