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公益社団法人日本生化学会 The Japanese Biochemical Society
Journal of Japanese Biochemical Society 89(2): 282-285 (2017)
doi:10.14952/SEIKAGAKU.2017.890282

みにれびゅうMini Review

ミトコンドリアタンパク質搬入孔,TOM複合体の分子形態と機能Molecular architecture and function of mitochondrial protein entry gate

Monash大学微生物学部Lithgow Lab, Infection and Immunity Program, Biomedicine Discovery Institute and Department of Microbiology, Monash University ◇ Wellington Rd & Blackburn Rd, Clayton VIC 3800, Australia ◇ Wellington Rd & Blackburn Rd, Clayton VIC 3800, Australia

発行日:2017年4月25日Published: April 25, 2017
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1. はじめに

ミトコンドリアは,エネルギー生産の中心的な役割を果たす細胞小器官であり,外膜,膜間部,内膜,マトリクスからなる四つの複雑な構造を持つ.ミトコンドリアを構成する,約1000種類に及ぶタンパク質の約99%は,核ゲノムにコードされており,細胞質(サイトゾル)のリボソームで前駆体タンパク質として合成される.前駆体タンパク質は,ミトコンドリアの各区画に正しく輸送されるための局在化シグナル含んでいる.局在化シグナルは,目的地および複雑な輸送経路を区別できるように膨大な種類が確認されているが,前駆体タンパク質のN末端側にあり切断可能な正に荷電した両親媒性のヘリックスを持つプレ配列と,成熟体分子にシグナルが隠されている内在性シグナルの2種類に大別することができる.一方,タンパク質の外膜透過に関わる分子装置(トランスロケーター)は,現在でも外膜に存在するTOM複合体しか確認されておらず,TOM複合体が唯一のミトコンドリアタンパク質搬入孔であると考えられている.しかし,TOM複合体がどのような精巧な機序により,多種多様なシグナルをもれなく認識し,水溶性タンパク質や膜タンパク質などさまざまな性質のタンパク質を効率よく輸送しているのかについては謎であった.本稿では,我々が最近明らかにしたTOM複合体の分子形態および機能を中心に紹介する.

2. TOM複合体

TOM複合体は,チャネルを構成するβバレル型膜タンパク質のTom40, αヘリックス構造からなる1回膜貫通型膜タンパク質のTom20, Tom22, Tom70, Tom5, Tom6,およびTom7の計七つのサブユニットを持つ複合体である1)図1).Tom20, Tom22, Tom70は細胞質側に大きなドメインを持ち,前駆体タンパク質のシグナルを認識する受容体として機能する.Tom22は膜間部側にもドメインを持ち,こちらも前駆体タンパク質結合部位として機能する2).Tom5, Tom6, Tom7は,small Tomタンパク質と呼ばれ,TOM複合体の調節因子として機能し,Tom5はタンパク質の輸送3),Tom6およびTom7はTOM複合体の安定性に寄与すると考えられている4)

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図1 TOM複合体およびミトコンドリアタンパク質

ミトコンドリアタンパク質は,プレ配列もしくは内在性シグナルを持つ前駆体タンパク質として細胞質で合成される.これらのミトコンドリアへの取り込みに関わるTOM複合体は,Tom40, Tom20, Tom22, Tom70, Tom5, Tom6,およびTom7から構成される.5, 6, 7はそれぞれTom5, Tom6, Tom7を示す.

TOM複合体は,マイルドな界面活性剤であるジギトニンで可溶化すると約440 kDaのコア複合体として観察される.コア複合体はTom40, Tom22, Tom5, Tom6,およびTom7が含まれており,その安定化にはTom22の膜貫通領域が必須である5).Tom22の破壊株は,著しい生育阻害の他にタンパク質輸送にも阻害がみられるため,コア複合体はTOM複合体の機能単位を考える上で重要である.Tom40の生合成は,TOM複合体を通過し,膜間部を経由した後,ミトコンドリア外膜上に存在する別のトランスロケーターであるSAM/TOB複合体の助けを借りて外膜に組み込まれる非常に複雑なアセンブリー経路をたどる6)

3. TOM複合体の構造および分子形態

TOM複合体の構造解析は,プレ配列を認識した状態のTom20の細胞質ドメインのNMR構造や,Tom70の細胞質ドメインのX線結晶構造に加え,クライオ電子顕微鏡を用いた単粒子解析によるコア複合体の構造が報告されている7–9).クライオ電子顕微鏡による単粒子解析では,ジギトニンで可溶化したコア複合体が観察されており,三つの孔を持つものと,二つの孔を持つものが確認されている.しかし,このクライオ電子顕微鏡で観察された構造は,近年報告されているような高分解能なものではなく,サブユニットの位置関係までは明らかにされていない.

TOM複合体は,前述のとおり多くのサブユニットを持つ膜タンパク質複合体であり,複合体の形成過程も複雑で,さらに不安定であることから従来の構造解析に不向きなタンパク質であった.そこで我々は,これらの問題を回避するため,従来とはまったく異なるアプローチでTOM複合体の構造的な情報を得ることを試みた.具体的には,ホモロジーモデリングによりコア複合体に含まれるサブユニットのTom40分子全体と,Tom22, Tom5, Tom6,およびTom7の膜貫通領域の構造を予測した.その後,in vivo部位特異的光架橋法による詳細な相互作用解析により,Tom40およびTom22のどのアミノ酸が他のサブユニットと近接しているかの位置情報を得た.in vivo部位特異的光架橋法は,光架橋側鎖を持つ非天然アミノ酸であるパラベンゾイルフェニルアラニン(BPA)を,in vivoサプレッサーtRNA法(in vivoサプレッサーtRNA法とは,酵母細胞内でアンバーサプレッサーtRNAと,それに非天然アミノ酸をチャージできるように人為的に改変されたアミノアシルtRNA合成酵素を発現させることにより,アンバーコドンを非天然アミノ酸用の21種類目のアミノ酸のコドンとして遺伝暗号を拡張できる方法である)により目的タンパク質の任意の部位に導入し,紫外線照射による光架橋でタンパク質間相互作用を解析する方法である10).これらの情報をもとに,膜内での各サブユニットの幾何学的位置関係を再構築した(図2).再構築されたコア複合体は1分子のTom22が2分子のTom40と,同じく1分子のTom40が2分子のTom22と相互作用する.そして,Tom40とTom22がヘテロ六量体を形成し三角形の形態をとることがわかった11).なお,この形態は先に報告されているクライオ電子顕微鏡による単粒子解析で得られた三つの孔を持つものによく一致した.また,二価性架橋剤を用いると,Tom40どうしが直接架橋されており,この架橋された状態の複合体にはTom22が含まれていなかったことから,二つ孔の状態を捉えていることが示唆される.

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図2 TOM複合体の分子形態

構造モデリングおよび相互作用解析によって再構成された,TOM複合体のコア複合体の分子形態.

4. TOM複合体における前駆体タンパク質認識

TOM複合体は,細胞質側でTom20とTom22がプレ配列を認識し,Tom70が内在性のシグナルを持つ前駆体タンパク質を認識すると考えられてきた.しかし,プロテオミクス解析の結果から,プレ配列を持つ前駆体タンパク質にもTom70に依存してミトコンドリアへ取り込まれるものが見つかり,Tom70はこれらのプレ配列部分ではなく,成熟体部分に作用することが明らかにされている12).Tom70の細胞質ドメインはタンパク質–タンパク質間相互作用に多くみられるTPR(Tetratricopeptide repeat)モチーフを持ち8),細胞質でHsp70やHsp90などのシャペロンから前駆体タンパク質を受け取る際,膜上で凝集対形成を防ぐシャペロン機能があることが示されている13).したがって,現在では,Tom70は受容体というよりは,タンパク質がTOM複合体を通過する際に,立体構造がほどけたタンパク質を保護するシャペロンとして機能しているのではないかと考えられている.

Tom20とTom22によるシグナルの認識は,Tom20側については構造生物学的データの蓄積により,Tom20の細胞質ドメインが作る疎水性の溝が,プレ配列が作る両親媒性のヘリックスの疎水面を認識することが明らかにされている7).一方,Tom22については,細胞質ドメインによく保存された負電荷領域があり,それがプレ配列の正電荷面を認識することが予測されていた1).我々は,部位特異的光架橋実験から,Tom22の酸性アミノ酸領域が,Tom20の疎水性の溝の一部に覆いかぶさるように相互作用していることを見いだした.さらに,Tom22の酸性アミノ酸領域は,前駆体タンパク質と直接相互作用していること,プレ配列によりTom22の構造変化が引き起こされ,Tom20の疎水性の溝から離れることを明らかにした10).これらのことは,Tom20とTom22は,互いのプレ配列認識部位を隠しあい,この部分に割り込める正に荷電する両親媒性のヘリックス,すなわちミトコンドリア局在化シグナルのプレ配列のみが結合できるという厳格な認識システムを備えていることを示唆している(図3a).小胞体タンパク質が持つシグナルは疎水性に富んでおり,Tom20のみでは誤認の可能性があるが,Tom22にも同時に認識されなければいけないこの機序では,より厳密に前駆体タンパク質を選別できると考えられる.

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図3 TOM複合体によるプレ配列認識およびタンパク質輸送

(a) Tom20とTom22が共役して行われるプレ配列認識.Tom22の負電荷領域と,Tom20の疎水性領域がプレ配列をはさみ込むように認識する.(b) TOM複合体による基質の外膜透過機序.プレ配列を持つ前駆体タンパク質はTom20およびTom22に認識され,Tom40のチャネル内に存在する黒色で示された負電荷パッチを利用して外膜を透過し,Tom22の膜間部ドメインに到達する.その後,Tom22の膜間部ドメインが相互作用している内膜の膜透過装置Tim50へと前駆体タンパク質を受け渡す.内在性シグナルを持つ前駆体タンパク質は,Tom40のチャネル内に存在する斜線で示された疎水性パッチを利用して外膜透過し,Tom40のN末端ドメインと相互作用しているSmall Timへと受け渡される.

5. TOM複合体における膜透過チャネルの実態とその機能

in vitroで基質タンパク質の外膜透過反応を停止し,膜透過中間体を形成させて架橋実験を行うとTom40と架橋されることから,Tom40がTOM複合体のチャネル構成因子であることは示されていた2).しかし,我々が解き明かしたコア複合体の形態からも,チャネルとして考えられる空間はTom40のβバレル構造の内側,もしくは中央に位置するTom40とTom22に囲まれた部分の2種類が想定され,チャネルの実態は謎であった.

架橋実験の結果,Tom40に導入したBPAの側鎖がβバレルの内側に向いている場合,前駆体タンパク質が架橋されたため,チャネルはTom40が作るβバレルの内側であることが明らかになった.さらに,前駆体タンパク質の種類によって変化する架橋産物の量およびTom40のBPA残基の部位の違いから,プレ配列を持つ前駆体タンパク質はβバレルの内側の負電荷部分と接触しながらチャネルを通過し,内在性シグナルを持つ前駆体タンパク質のうち内膜のキャリアータンパク質や,外膜のβバレル型膜タンパク質のように複数回膜貫通領域を持つ疎水性に富むタンパク質は,その反対側に位置する疎水性の高い部分と接触しながら通り抜けることが示された(図3b).Tom40のβバレルの内側は,多様な前駆体タンパク質を扱えるように親水性,疎水性の二つの性質をあわせ持ち,性質の違う前駆体タンパク質をチャネル内で仕分ける能力を持つという高機能なチャネルであると考えられる11)

6. チャネルの出口付近における効率的なタンパク質輸送のための機序

TOM複合体を通過した前駆体タンパク質は,下流のトランスロケーターへと移行し目的地へと輸送される.Tom40のチャネル内の負電荷部分の出口付近にはTom22の膜間部ドメインが近接しており,この部分は架橋実験の結果からプレ配列,および内膜のトランスロケーターであるTIM23複合体の受容体であるTim50と結合する10)図3b).さらに,in vitroの実験では,Tom22–Tim50の相互作用が失われる条件ではプレ配列がTom22からTim50へと移行できないため,この相互作用および位置関係がプレ配列を持つ前駆体タンパク質の効率的な輸送に重要であることが示唆されている14)

内在性シグナルの前駆体タンパク質のうち疎水性に富むものは,膜間部に存在するSmall Timと呼ばれる分子シャペロンの助けを借りて膜間部を移動する7).我々のTom40のモデリング構造では,N末端部分がβバレルの内側を横切り,その末端約60残基がちょうどβバレル内の疎水性部分の出口付近にぶら下がるかたちで膜間部に露出していることが予測された.この部位にBPAを導入した架橋実験では,Small Timのサブユニットの一つであるTim10と架橋され,さらにこのN末端を欠損した変異体は,疎水性に富む内在性シグナルをもつ前駆体タンパク質のミトコンドリアへの取り込み効率が低下した(図3b).これらのことは,Tom40のN末端がSmall TimをTOM複合体の出口付近へリクルートし,基質の効率のいい受け渡しを実現していることを示唆している11)

7. おわりに

我々の研究では,ホモロジーモデリングおよび配列解析による構造予測と,生化学的な方法を用いた詳細な相互作用解析からTOM複合体の分子形態を決定したが,実際にはTOM複合体のサブユニットの膜内配置のみで,細胞質ドメインや,膜間部ドメインの構造,さらにはsmall Tom等の構造情報は不十分な点が多い.現在得られているTOM複合体のクライオ電子顕微鏡単粒子解析の構造は,新型の高感度検出器開発以前のものであり,今後,高分解能の構造が得られることが期待される.

我々のこれまでの研究では,TOMコア複合体におけるタンパク質輸送メカニズムについて中心的に調べてきた.しかし近年,Tom6の細胞周期に応じたリン酸化がコア複合体のダイナミクスに大きく関わることが報告されている15).ミトコンドリアは,細胞周期や栄養状態に呼応して大きく変化するユニークな細胞小器官であるため,TOM複合体がタンパク質の取り込みという観点からこのようなミトコンドリアの変化にどのように関わっているのか,まだまだ興味はつきない.

引用文献References

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著者紹介Author Profile

塩田 拓也(しおた たくや)

ARC Research Fellow. 博士(理学).

略歴

2007年甲南大学理工学部卒業.12年名古屋大学大学院理学研究科生命理学専攻博士後期課程修了.同年よりモナシュ大学微生物学部に留学,東洋紡長期留学助成,日本学術振興会海外特別研究員を経て,現ARC Research Fellow.

研究テーマと抱負

ミトコンドリアおよびバクテリア外膜のタンパク質輸送機序の解明.短期的な成果にとらわれず,落ち着いて研究できる環境で,その環境を提供してくれた人の期待に応えられるようなしっかりとした研究をしたいです.

趣味

サイクリング,オーストラリアスタイルBBQ,ロゲイニング.

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